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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
133/149

半身の誘い

 俺は狩りが下手だった。生来的に向いていなかった。

 それゆえに里で軽んじられ、やがて居場所がなくなることは必然だった。

 ……しかし、あのとき虎穴に入り、土産を手にし戻ってこれたことで俺への風当たりはずいぶんと軽くなっていたとは思う。

 けっきょくはこんなザマになってしまったが……。



 ……案の定というべきか、室内はめちゃくちゃにされている。壁には無数の斬り跡、刺し跡、家具も残骸同然の姿だ。

「そんな……!」皇帝は慌てふためいている「こ、これはどうなのだ、資料は破壊されてしまったのかっ?」

「さてな」コーナーは肩をすくめる「だがまあ、この様子だとかえって無事な可能性もある。プロはコアメモリをピンポイントで破壊するか、いっそ部屋ごと爆破するからな」

 よく分からんが、要所が破壊されていないなら無事かもしれないって話か。コーナーは端末を取り出し、しゃがみこんで操作を始める。

「……まあ、反応があるので生きている可能性はあるな。直接アクセスするには手間がかかるが」

 皇帝はズサッとかがみこんでコーナーに急接近する。

「本当か……!」

「あ、ああ……だが、この端末じゃ処理能力に限界があるし、時間はかかるな」

 処理能力……?

「ええっと、それってどういうこと?」

「壁中に張り巡らされていた回路が分断されて処理能力が大幅に低下してるのさ。つまり、この部屋の壁紙がハードなんだ」

 ……ええっと?

「どういうこと……?」

「お前が読めない言語の本を翻訳してくれる人が瀕死ってことだ。だから俺が代わりにやるわけだが、専門家じゃないから翻訳に手間取るって話だよ」

 おおー……?

「なんか分かった気がする!」

「そいつはよかった」

「で、どんくらいかかんの?」

「ぶっ続けてやったとしても明日までかかるな」

「そんなに」

「文句あるか?」

「いや……大変だなぁって」

「ああ」

「なんでそんなやってくれんの?」

「なに?」

「いや、親切だなぁって。面倒臭そうじゃん」

「……べつに親切心ではない」

「なんとなく?」

「まあ……そうだな」

「そうか、そうだよな」

「……納得できたのか?」

「え、うん」

「そうか……」

 ……と、なんか黒エリがコーナーを覗き込み、

「あんな土産でよかったのか?」

 ……などという質問をするが、コーナーは答えない。

「あんな土産でよかったのか?」

 二回聞くなよ……。心なしかコーナーの指が震えている……。

「い、いいに決まっているだろう? 問題ないよ、なあ?」

 コーナーは答えない……というか? 何か黒エリの雰囲気が違うような……。

「……もしかして、ニプリャ、か?」

「ほう、よく気づいたな」

 やはりか……。ニプリャは目を細める。

「まあ、なんとなく雰囲気がな……」

「しかし、お前はあのときの坊主か、その様子からして案の定というべきかな」

 その言葉に、コーナーはニプリャを見上げる。

「やはり、あんたはあのときの……!」

 やはり面識があるようだな。

「しかし、顔が、頭が半分、吹っ飛んでいたのに……」

 ……そうだろうな、黒エリと融合したのが具体的にいつかは知らないがそう昔でもないだろう。そしてニプリャの頭を吹っ飛ばしたのが俺の前世たるレクテリオラだとするなら……少なくとも俺の年齢くらいの期間はそのままだったということになる。

 コーナーはうなり、

「……当然、あんたは人間ではないな」

 ニプリャは笑み、

「お前を虎穴へと誘導したのは我がしもべたちだ。お前は候補者だったのだ。私の半身たるな」

 なにっ……?

「私はお前が成長し、そして疲弊するのを待っていた。しかし、たまたま条件に合い、しかも好みの体が手に入りそうだったのでな、エリゼローダを選んだわけだ」

「なんだとっ……?」

 ほ、本来はこのコーナーと融合するつもりだったのか……!

 ということはつまり……!

「あんたはエンパシアかっ?」

 コーナーは目を細め、

「なぜ……分かる?」

「このニプリャが半身としてエンパシアを望んでたからだ」

「そうか……」

 ニプリャはみゅふふと笑む。どうでもいいが……パム系は笑い声がなんかかわいいな。

「しかし……融合するつもりだとはいっても、彼が嫌だといったらどうするつもりだったんだ……?」

「しもべたちはそうはならないと踏んでいた。実際、その様子からしてもその予想は間違ってはいなかったらしいな」

 コーナーは、肯定も否定もしない……。

「エンパシアの人生は人一倍、苦しい。狩猟を主に生活するパムならばなおさらにな」

 なるほど……彼がひとりである理由がなんとなく見えてきたな……。狩猟民族として生きることは難しかったのだろう。

「……それであんたは黒エリを……どうするつもりなんだ……?」

「不審げだな。しかし勘違いされては困る。私は何も奪い取る気はないのだから。むしろ逆だよ、与えているのだ。現にエリゼローダには命と力を与えたろう?」

 たしかにそうかもしれないが……と、何だっ? 室内に奇妙な音が鳴り響いた……。

「……呼び鈴だな」コーナーだ「客が来たぞ」

 客だとぉ……? こんな場所でか、そんなもん当然……。

「やれやれ」シフォールが立ち上がる「ひとまず交代で撃退することにしましょうか」

 そして奴は玄関へと向かっていき……鍵を開けると同時にドアを蹴り開けたっ!

「ぬぐぅっ?」

 ドアが栄光の騎士……というかジャールトールに命中したらしい、そして閉まった直後にけたたましい音が幾度も鳴り響き、悲鳴っぽい叫びが聞こえてくる……!

 しかしなんでまたジャールトールは普通に訪ねてきて返り討ちに遭っているんだ? なんか作戦とかないのか……。

 ……ややしてシフォールが戻ってくる。なんか体から少し煙が出ているが……。

「もう少しで首を切断できそうでしたが……マイクロ波をくらいましてね、大した威力ではありませんが、怯んだ隙に逃げられてしまいました」

「さっさと始末しろ」皇帝だ「そんなことでは騎士として再認できんぞ」

 うーん、偉そうだなぁ。シフォールは苦笑いし、肩をすくめる。

「ニプリャ、何かいい案はないか?」

「いや、彼女はまた寝た」おっと黒エリに戻ったのか。姿も黒エリになっている「しかし面倒なことになってきたな」

 うーん、俺からすりゃ、お前の見た目や中身がころころ変わるのも少し厄介なんだけれどな……。

「……黒エリ、ニプリャは信用できるのか?」

「もはやそういった次元にはないんだよ。同じことなんだ」

 なにが、同じなんだ……?

「それはいったい……」

 ……って、また呼び鈴が鳴った……。

「ふざけおって!」サラマンダーだ「焼き尽くしてくれるわ!」

 そしてまたドアが勢いよく開かれ、案の定というかジャールトールの悲鳴……が遠ざかったり近づいてきたり、走り回っている……? たぶん、サラマンダーが追いかけ回しているんだろう。

 ……ややして、サラマンダーが息を切らして戻ってくる。

「申し訳ありません、逃してしまいました……」

「奴は熱にも強いのか?」

「はい。次はあの禁じ手を使おうと思います」

「そうか」皇帝は眉をひそめる「不死身というのも酷なことだな……」

 禁じ手……? 皇帝の反応からしてなんか……かなりえげつない攻撃らしいな……。

「というかおいフェリクス、お前さっきから静かだな?」

 窓辺でぼんやりとしていたフェリクスがこちらを見やる。

「思ったんだけど、僕って今、何をしているんだろう?」

 おいおい……。

「僕はこうしている間にも演劇の技術を磨くべきじゃないだろうか……」

 なんか、なんというか、今この状況でそれぇ? 的なことを言い出し始めやがった。

「この地でも演劇はできる……そう思わないかい?」

 そりゃあスゥーとか女優らしいし、そういう仕事はあると思うけれどな。

「ああ、まあその通りではあるだろうが、仮に受け入れられたとしても……なんというか、種族的に浮くんじゃないか?」

「レクもそう考えるんだね……」フェリクスはうなる「確かに、キワモノとしての価値を超えることは難しいかもしれない」

 そのときまた呼び鈴が……。

「焼き尽くしてやる!」

 と、サラマンダーが立ち上がったところでピッカが制する。

「まてぃ! ちょっとわらわにやらせんかい!」

 そして水玉が浮かび……ドアへと向かっていき、にょきっと一部が伸びてドアノブを掴んだ? そんな芸当もできるのか。

 そしてドアを開けた瞬間……!

「あああああああああっ!」

 うわわ、すっごい勢いでジャールトールが入ってきたがっ、でかい水玉に捕まった!

「こっ、こここっ、殺すぅう……!」

 水玉は奴の胴体を捕らえ、宙に浮かせているので脅威はないっぽいが……脚をバタつかせ、めちゃくちゃに剣を振り回しているし、なんかこわぁ……。

「にょほほ、練習にちょうどいいわい」

 奴はそのまま室外に運ばれていき……ピッカも出ていった。今度はなんか静かだが……ややして頭上……屋上か? まるで地鳴りのような音が聞こえてくる……。

 ……いったい何をしでかしているんだ? 心配だしちょっと見てくるか……。

「む、ゆくのか?」

「ああ、ちょっといろんな意味で心配だしな」

「そうだな、勢いあまって建物ごと破壊する可能性もある。私もゆこう」

 そして部屋を出てはみたものの……屋上ってどこからいけるんだろう? まあ、テキトウに探ってみるしかないか。

「しかし、どうするのだ? あれを倒せない場合、いったんここから離脱できたとしてもいつかは狙われるぞ」

 そう、皇帝らは宿を根城にしているからな、襲撃があった場合、また他の冒険者が巻き添えになる可能性はある。

「そうだな、やるしかないな」

「私がやった方がよいか?」

「やれるのか?」

「彼女に代わればやってくれると思う。彼女はどんな頼みごとでも聞いてくれるらしい。しかし……その場合、彼女から贈り物を受け取らないとならない」

「……なんだそれは?」

「わからない。彼女はいつもいうんだ、私は与えるのみだと。あなたからは何も奪わないと」

「含みがあるな」

「そうなんだ。与えられるものに恐ろしいものがあったら?」

 ニプリャはスフィらしいが、スフィが何なのかは分からないし、彼女の思惑はさらに謎だ。レクテリオラとの再会だけなら話はシンプルなんだが……。

「やめておこう。奴は危険だがそこまでの相手ではない」

 少なくとも今は、な……。

「そうだな……おや? 階段がある」

 本当だ、よし、いってみるか。

「あの子供は手加減を知らん。おそらく好き放題やっているのだろう」

 そうだろうな……と、上った先に屋上へのドアがあるが、なんか水の音がすごいな……。

 ドアを開けるのが怖いが……って、おおおっ? なんか巨大な水の竜巻? みたいなもんが立ち上がっている!

「にょほほほほっ! どうじゃどうじゃああああ!」

 奴の姿は見えないが、間違いなくあの竜巻の中だろう。ピッカは両手を掲げてめちゃくちゃ調子こいている……。

「しっかし、とんでもねぇな!」

「あれ……の子……が……!」激しい水音で声がよく聞こえないな「これ……魔術の……トップクラ……ないか!」

 だがいいたいことは分かる、単純な破壊力ではこれまで見た中でもトップクラスだろう!

 つーか、水しぶきがめちゃくちゃ飛んできて嵐の中にいるみたい!

「なか……戻ろう! ……ひくぞ!」

 なにをひくって? ああ、風邪かな……?

 そんなこと……とは思うが、実際、風邪ひいたら地味にヤバいからな。判断能力などの低下は戦闘時には死に直結しかねない。

 なにより巻き込まれても大変だし、どのみちここにはいられんか、さっさと戻ろう……というか、ドアを閉めてもまだ轟音の中よりピッカのにょほほが聞こえてくるな……。どんだけでかい声で笑っているんだ。黒エリはうなり、

「なるほど驕り高ぶるわけだな。子供にあの力は過ぎたるものだ」

「しかし、あれほどの力だ、それほど長続きするわけもない。対し奴は持久戦が得意らしい。圧倒しているように見えて、実のところは自身を危機に追い込んでいるだけだろう」

「そうだな。そういうところはやはり子供か。目付役が必要だろう。フェリクスにでも任せようか」

 剣を叩きつけてもびくともしない相手に渦潮のような攻撃を加えても大したダメージになるとは思えない。いっそ奴をそこらの水に沈めてはどうだろう……?

 ……いや、水責めくらいのことは奴を捕らえたカタヴァンクラーだってやったことだろう。そもそも溺死するならばとっくに死んでいる。

 ……はてさてどうする。現状はともかく、長期的にはかなりヤバそうな相手だ、ここでどうにかしないと……って、そうだ?

 カタヴァンクラーといえば……そう、蒐集者か? あそこにいたとき、何か知っているような口ぶりだったな……! 何やら欠点があるようなことを……!

 ……でもなぁ、あいつに助力は乞いたくないなぁ。とはいえ状況が状況だしな……。

 うーん……そうだ、ユニグル経由で聞いてもらおうかな? そうだ、そうしよう。

「……む、どうかしたのか?」

「ああ、あるいは奴の弱点を知ることができるかもしれない。ちょっと通信するよ」

 よし、ユニグルに通信だ……。

『はい、とってもかわいいユニグルちゃんよ』

 ……のっけからなんか言い出した。まあ、見た目はな……。

「……あの、お前ってさ、栄光の騎士って知っているか?」

『ああー……あれね、ええ、いえ、知らないかも』

 どっちなんだよ……。

「いま、そいつに狙われていてな、強くはないがなんか再生力がすごくて倒せないわけなんだよ。それでな、蒐集者のやつが弱点を知っているような口ぶりだったから……ちょっとお前から聞いてくんない?」

『えー、やだ』

「なんでぇ?」

『いまのあの方ってなんか粗暴な感じだし、一緒にいるあの女もなんかイヤ。だから経由して繋げるから、勝手に相談して』

「いや……俺も奴とはあんまり……」

『知らないわよ、直接話した方が早いじゃない!』

 まあ、そりゃあそうなんだけれどな……。

「繋げるわよ!」

 ややして……奴が出る。

『ほう、お前からとはどういう風の吹き回しだ?』

 いまはなんか青い髪の男だったな。

 しかし、なんでまたころころ姿を変えるんだ奴は……?

「いま栄光の騎士とやりあっていてな……奴の弱点が知りたいんだ」

『奴を殺すには生体情報を記録しているコアを破壊しないとならんが、その位置は個体によって様々だし、また高強度のシールドで覆われている。まあ、生半の攻撃では通らんだろうな』

「さらに硬質化できるらしく、防御体制になるとどうしようもない」

『実に強力な装甲だろう? しかし、同様の素材を使用した装備やロボットは驚くほど少ない。なぜなら大きな欠点があるからだ』

「そうだ、そいつが聞きたい」

『ではこうしよう、教えてやるから助けにこい』

「なに?」

『数日前より敵に狙われていてな、相手が相手だし、お前がいた方が面白いかと相談していたところなのさ』

「なんだそりゃあ?」

『あのカウガールだよ』

「カウガール?」

『銃を持った、赤い服の女だ』

 まさかっ……ロッキーか! あいつ、見ないと思ったら……!

 ……いや、その可能性を俺が考えないようにしていただけか……。

「いま、どこにいるっ?」

『ねえ、助けて欲しいの』

 この声は……エジーネ!

『おかしな女に狙われているのよ』

 おかしいだとっ……?

「狂っているのはお前だ……! こんなところにまで追ってきやがって、何を考えている……!」

『それは、私の身を案じての質問?』

「……お前が、何なのかって話だ……!」

『なにかである存在にはなりたくないの。少なくともあなたにとっては』

 なんだそりゃあ……!

『いま、時の雪原にいるの。すぐに来てちょうだい。じゃあまたね』

「なに? おい待て……」

 通信は、そこで切れた……。

「どうしたのだ?」黒エリだ「穏やかではないようだが」

「ロッキーがヤバい……! 助けにいかねば!」

「そうか……私たちが抜けても戦力的には問題ないな」

「お前も行く気か?」

「もちろん」

 しかし……なんとなく、黒エリとあいつを会わせてはいけないような……。

「……どうかな、お前はここに残った方がいいかもしれない」

「なぜだ?」

「……もし、ジャールトールが疲弊しないのならば、数が必要になるからだ」

「はっきりいって論外だな。お前を単身で行かせる理由にはならない」

「同行は……じいさんにでも頼むさ」

「問題は私特有の事情か」

 ……さすがに勘がいい。納得させるのは無理か……。

「わかった……動きながら説明する。だがこの件には蒐集者も噛んでいる、かなり危険かもしれんぞ」

「だったらなおさら私だろう」黒エリはため息をつく「つまらない遠慮などするな」

 ……やむを得んか。やはり黒エリの力は借りたいしな。

「ありがとう、じゃあいくか……!」

 しかし向かうはあのエジーネと蒐集者のところ、また、こちらはジャールトールの秘密を教えてもらう立場だ。

 ……おそらく目的はロッキーの捕縛になるだろう。しかし、エジーネに対するあの憎悪は尋常ではない。そう簡単には止まらんだろうし、一時的に止めたとしても再度、狙い始めるだろう。

 くそっ……穏便な解決策が思いつかない! それどころか、なんだか……圧倒的な脅威の予感が……胸が、ざわついてくる……!

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