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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
118/149

魔術と魔法

 Target recognition, Kill kill GO!

                  ◇


 そろそろ時間らしい、排除のための合同部隊が戦艦の内部へと侵入し始める気配だ。さて、その前にだが……ガークルもいるし、活性しておいた方がいいだろうか? 気配断ちに優れたパムの聖戦士がいるかもしれないとなると、突発的な事態に対処する備えをしておく必要もあるかもしれない。電撃が通じないという特性は以前ゼ・フォーに教えてしまったし、各勢力に周知されているのかもしれないしな、ここで変に隠そうとする意味はないか……?

 ……しかし、俺がもし聖戦士の気配を読めるとして、かつ同行する奴らが俺と同様の能力を有していない場合、あるいは頼られるような事態になる可能性があり、これはよくない。クラタムらを連れ帰るために最大限の努力をするならば、あまりパムを敵に回すような挙動はするべきではないだろう。

「レク……コレ」

 見ると、アリャがあのナイフを手渡してきた。それとアサルトのシリンダーもだ。

「これは……ニリャタムの? それに……」

 アリャは頷く。まさか、遠隔でも呼び出せるというのか……。

 なるほど、さすがだな……!

「……ああ、ありがたく借り受けるよ」

「よし、五分後に作戦を開始する」デアトルだ「……そこのお嬢さんはどうするんだ? 非常に危険な状況になると思われるが」

「突撃、最前線!」ルナはまた例のポーズをとる「レポーターとして頑張りますよお!」

 ひとり、明らかに異質な存在だがその同行を止めようとする者はいない。

 よし、では行くか……! まあ、ジニーからもらった電撃爆弾もあるしな、いざというときにはこれで活性するとしよう。

「レクさん、嫌な予感がします」エリだ「お気をつけて……」

「レク、ゼッタイブジデカエッテクル!」

「彼らを頼んだよ」レキサルだ「とはいえ同行する者たちは……とてつもない練度だと察する。私がいうのは変かもしれないが、諦めも重要かもしれない……」

 ……ああ、奴らの気配は肌身で感じるだけでも凄まじいものがある。下手をすればレオニスとかあの辺より上かもしれない……。

 さすがはボーダーランドといったところか、このレベルがゴロゴロいるとは思いたくないが……。

「危なくなったらためらいなく使用してください」ジニーだ「私も駆けつけますので」

「うん? まさか……」

「はい、可能です」

「一応、確認しておくけど、あいつはお前なんだよな……?」

「はあ、たぶん」

 たぶんってなんだよ……。

「ま、楽しんでこいや」ガークルだ「こっちはこっちで面白そうだがな……」

「おいおい、暴れんなよ」

「祭りが始まれば踊ったっていいだろ?」

 ……そう、ここにはあのお偉いさんっぽいのが集まっているからな、そういう事態も想定され得る。

「そろそろ時間だな」ゼ・フォーだ「ご協力感謝する」

「……あんた内心、そんなことまったく思っていないだろう?」

 ゼ・フォーは肩をすくめ、不穏を背に俺は……俺たちは艦内に侵入する……。内部の気配に目立った変化はない。先ほど入ったときはアロダルが歓迎していたせいか罠らしきものはなかったが……今度はどうだろう?

『来たか』クラタムの声だ『歓迎はしない。ここで潰えるんだな』

 薄暗い奥に一瞬の人影、そして光の矢が複数、きたっ! ルナを庇いつつ壁際に寄るが、他の面子は動いていない……! というかバクが普通に手で弾きやがった!

 ……いまのはおそらくゾシアムの矢だぞ……! いくら強いにしても、どうしてそんなことができるっ……?

「なんだこりゃ」バクは眉をひそめる「油断させるつもりか? なめられたもんだな」

 そんなわけがない、おそらく十本近くは放たれていた、下手をすればゾシアムの全力かもしれん……。

 ……こいつはヤバいな、強い強いとは思いつつもちょっと想定外の強さだ。まさかここまでとは……って、またくるぞっ!

「なんだよ、面倒な……うおっ?」

 これまで弾いていたバクだが、ある矢に対してはぎりぎりでかわしたっ? 後続もそれに反応して回避する……!

「やはりな……! のせてやがる!」

 のせる……? って何かくるな、攻撃というか、でかい獣……頭から背中にかけてたてがみのような毛がある、熊かあれはっ? というかすっげーデカい! 足音もデカい、普通の熊よりずっと巨大だぞ……!

「ブラッドベアーか」バクは構える「こいつはさっさと本気でやった方がいいかもな」

 そのとき、バクの姿が変化していくっ……! 体表が……一気にモウドクフキヤガエルみたいにいかした黄色いスーツに覆われたぞ……! こいつが件の変身魔術ってやつか、ロイジャー・メックが口笛を鳴らした。

 そしてブラッドベアーがやってくる、バクの前で立ち上がった、そして鉈のような太い爪で殴りつける……が、バクはなんと片手で防御した……瞬間、バクの足元から衝撃波が、しかし奴はその場より動いていない、威力が腕から足へと逃げたのかっ?

「そんな一撃じゃ通じないぜ」

 さらに幾度かの攻撃を防ぐと反撃に腹への一撃を加える、するとベアーはよろめいた、効いたのかっ……? しかしっ、ベアーのタックルをくらい吹っ飛んだ、壁を貫通し、姿が消えるっ……!

「いまのは、のっていたか?」

 デアトルが不意に尋ね、イリオは首をかしげる。のってるってなんだよ……?

 そしてアドトスが構え、ものすごい旋風が巻き起こり……! 変身し始める! こちらは戦闘車両みたいな重装備の灰色の鎧、機械人間っぽいな、体の各所が発光した……瞬間に乱打を見舞っていたっ……! ゴツいわりに俊敏だ、ベアーはダウンするっ!

 ……あの巨体を殴り倒すとは、生身で受けたら即死か。かなり重量がある上にあんな動きをしたからか、床が破壊されている。

 ……でも何か奇妙だな? なるほどアドトスの戦闘力はわかる。重装甲と素早い挙動による一撃が強大なのはわかる。

 しかし、バクの一撃はどうして効いた? 確かに鋭く強力な一撃のようだったが、あの筋肉の塊を怯ませるとは、つまりアドトスのと同等レベルの威力があるということになる。しかし奴の攻撃は重さによるものではなさそうだが……。

「……ルナ、あれはどういうカラクリなんだ?」

「あのスーツがすごい力を発揮しているんだと思いますよぉ」

「あっちはな。だがバク……ギマの方はどうだ、速さはともかく、体重からしてあの熊に通じるとは思えない」

「うーん、でも、レクさんだって電撃効かないじゃないですかぁ。それだって充分おかしいと思いますよぉ」

 ……たしかに。それは俺自身でもそう思う。

「あいてて……」

 おっとバクが大穴から現れる。痛いとはいっているが、スーツはどこも破損している様子はない。

「あんたほどの使い手が吹っ飛ばされるとはね」ロイジャーだ「のっていたのか?」

 バクは肩をすくめほのめかし、アドトスは否定した。

「その割には脆い。ただのミスだろう」

 その、のっていた、とは何だ?

 うーん、まあ答えてはくれんだろうが、一応、聞いてみようかな……。

「……あの、その、のっているってのはなんだい?」

 するとみなきょとんとした顔をし、

「そりゃあ……」バクだ「伝播がのっているのさ。姿や気配は感じ取れないが、パムの聖戦士かもしれない」

 アドトスは鼻を鳴らし「そう断言していいのか?」

「断言はしていない。私見でなんとなくそう思っただけだ」

 ……うん? なにやらピリピリしているな? パムの聖戦士の話は前提ではないのか?

 まあいい、探りを入れる意味でも質問を続けた方がいいらしい。

「……ついでに質問いいかな、そっちの重装備が強いのは一目瞭然だが……あんたはどうしてその薄そうなスーツであの熊と戦えたんだ……?」

 バクは埃を払いつつ、

「なんだ、あんたはなんにも知らないんだな」

「……というと?」

「万物にアイテールが浸透してるなら、その扱いに長けた者の意思が優先されるのは当然のことじゃないか?」

 ……まさか!

 バクの拳をトリガーにして、ブラッドベアーに浸透しているアイテールがダメージを増幅させたのかっ……? つまりアイテールの伝播を利用した攻撃……! そしてそれはきっと防御にも応用可能な技術だろう、バクがベアーの一撃を受け流したのがその証拠だ。

 だが、その理屈だと伝播を利用すれば何が相手でも内部から破壊して一瞬で殺せることにならないか?

「伝播を利用した攻撃……なら、どうして殴る必要がある?」

「もちろん、撃つこともできるさ。殴った方が威力は高いけどな」

「それは呪い殺すことも可能ということか?」

 そう尋ねると、視線はなぜかイリオに向けられる。

「……呪いの定義によるけれど、誰にも知られることなく、念じるだけで誰かを攻撃することは不可能といっていいわね」

「まあ儀式的な要素は重要だな」バクだ「そうとわかる攻撃ほど威力が増すのだから」

「どういう意味だ? あんたにとって殴るという行為は儀式に相当するのか?」

「そうだ」

 そう……なのか? それはまた特異な価値観のように思えるが……?

 それにしても、よく教えてくれたな? 利点なんかないだろうに……。

 だが……周囲、というかアドトスとロイジャーの気配が何やら不穏になってきたな。俺なんかにベラベラ説明するなってところか?

 しかしバクは平然と続ける。

「あんたはヒヨッコのようだから教えてやろう」

「おい」アドトスだ「任務中にアイテール講義か?」

「いいだろ、敵は逃げないし、仮に逃げたならそれはそれで排除は成功だ」

 まさかっ……? バクもパム派なのか? いや、断じれないが、先のお偉いさんの会談でもパムに傾倒した発言はあった。

 それなら変に親切なのも納得がいく、ルナの知人である俺を無下にできないのかもしれない。

 ……そして、この集団はやはり一枚岩ではない。イリオの自己紹介からしてその予感はあったんだ。もっとも危険であろうデアトルの意向は見えないが、アドトスとロイジャーがクラタムら抹殺に積極的なのは間違いない。

「いいか、アイテールを使用した武力全般を魔と呼ぶ。そしてその魔は術と法にわかれる。あんたらフィンが得意なのはもっぱら術の方だろう。それに過去に存在したものを呼び寄せる力があることくらいは知っているか?」

「ああ……」

「だが、俺くらいになると法の領域に入ることができる。つまり、自分で設計、創造できるのさ」

「なんだって……?」

「それを魔の法、魔法と呼ぶ」

 魔法……だって?

「魔法体系の基本もまた、万物に浸透しているアイテールの伝播作用にある。それを操ることで破壊も防御も思うがままなのさ。そしてのせるという話は、そのまま対象に伝播作用をのせて強化するという意味だ」

 やはり……そこは予想通りの話だな。

「ついでに聞きたいが、エクス……」

「さすがにもういいでしょう?」イリオは肩をすくめる「そんなに聞きたいなら終わった後にでも教えてあげるわよ。私はこんな仕事、さっさと終えたいの」

「ま、その意見には同感だ」

 バクは右手を上方に向けた。そして光が収束……巨大な光線がっ……天井を貫いたっ……!

「よし、これで近道……」

『こらっ!』そのときっ、床が、戦艦自体が揺れたっ?『むやみに壊すなわん! ここにあるものはみんな私のものだわんっ!』

 おおっと女神さまのお叱りが出たな……。

 そりゃそうだ、この戦艦を材料にするとかいっていたしな。みなは顔を見合わせる。

「……ええっと、ああいっているようだが、実際問題ここを奪還したとて彼女が所有権を主張したらどうするんだ?」

「そりゃあ諦めるだろ」バクだ「あれと戦争したい奴はいない」

「そういうわけにもいかんだろう」アドトスだ「奪取するまでが任務だ」

「おや、まだそういう決定には至っていないだろう」

「まあまあ」ロイジャーだ「それは排除してから決めよう」

「そうだな」デアトルだ「ともかく目標の確保が先決だ」

「その目標とは」アドトスだ「装置のことか?」

 イリオは俺を見やり、また肩をすくめる。

 排除は一致しているとしても、やはり装置の扱いはそれぞれスタンスが異なるようだ。

 ……それはそうと、なんだかおかしいな。最初に牽制があっただけでまるで動きがない。たくさんの罠が仕掛けられていると思ったが、そういう気配もないし……周囲に潜んでいるであろう獣の気配にも目立った動きはない。

 その点に関して、まあ一応、奴らよりの発言でもしておくか。

「それにしても、先の牽制? 以降、何もないようだな……」

「まあ、覚悟を決めたんでしょう」

 そしてイリオは俺を掴む。

「……なっ、なんだ?」

「なにって、近道するのよ、あなたたち登るのに苦労しそうだから」

「ああ、まあ……」

「だから……ねっ!」

 うおおおっ……! たやすく持ち上げられて、天井の穴から穴へと突入ぅうううううっ……って眼前に壁っ!

「ぐわっ……!」

 ……気づくと床に倒れている、隣には大穴……。

「だいじょうぶー?」

 下方から声がする……。

「あ、ああ……!」

 いってぇ……下からここまでぶん投げて……って、ここ何階だよ? もちろん変身しての力だろうが、どんだけ……と、なんかルナも飛んできた!

「うぇーあ!」

 抱きとめる、というかルナが腹の上に落ちる……! 思いのほか重たい一撃だ……!

「大丈夫ですかぁー?」

「あ、ああ……」

 そして他の奴らはたやすく登ってくる……。わかっていることだが、どんな身体能力だこいつら……。イリオは俺を見下ろし、

「あら、勢いありすぎた?」

「いいや……助かった」

「よし、目標のある場所はすぐそこだ」デアトルは歩を進める「近道をしたとはいえ罠がまるでないようだな。小手先は無駄とわかっているらしい」

 そう、この先に……クラタムらの気配が確かにある。

 崩れかかった通路には各部屋への入り口が点々と続いている。比較的内部だからか、草花の姿はない。ただ、無機質な廃墟があるだけだ。

 通路の先には分厚い金属製のドアがある。とはいえ中央に大穴が空き、ひしゃげて倒れているが……。

 そんな様のドアをいくつか通った先は……広々とした空間だ。例の装置なのか、中心部に光の柱が見える。

 そして……その側にクラタムたちがいる。ゾシアムはもちろん、デンラ少年やアロダルまで……。馬鹿な、隠れていればいいものを、死ぬつもりか……?

「覚悟はできているということか」

 デアトルはゆっくりと遠目に、彼らの周囲を歩く。

「装置を背にしていれば攻撃されないとでも」

 アドトスが重厚な音を立てながらデアトルと逆方向に歩きだす。

「お前たちに覚悟はあるのか?」バクもゆっくりと近づいていく「利用され捨てられるこの状況で、誰も憎まずに死に切れると?」

「私に助けを求めるのは間違っているわ」イリオは壁に寄りかかった「一応、確認ね」

「他はどうか知らないが、俺は抹殺命令を受けている」ロイジャーは手を後ろに回して笑む「Get down on your knees and beg for mercy if you want to survive, Rat bastard!」

 デンラ少年と視線が合う。その瞳には明らかに怯えの色が浮かんでいる……どころか、足も小刻みに震えている。

 ばかだな、危険がこれほど迫ってようやく事態の重さに気づいたのか……。

 ……しかし酷だろう、彼に戦士としての責務とやらを背負わせるのは。アロダル含め、どうにかして助けたいが……。

 それぞれが彼らに接近していく。奴らはゆっくりと、そして大胆に近づいていく。

 ……恐ろしい距離になりつつある。どうしたクラタム、なぜ動かない? 罠なのか、それとも……。

 ともあれ、俺も行かなくては……。ゆっくりと歩み寄れば、眼前にはクラタムがいる。彼はまっすぐに、俺を見つめる……。

「……お前は、ここで死ぬつもりなのか? もしそうなら、デンラ君とアロダルだけでも逃す手伝いをしろ」

「彼らもまた戦士だ。ここで、戦う」

「怯えた子供と家に帰りたがってる者がか? 誰しもお前のように死に急いでいるわけではない」

「……お前に、理解などできまい」

「いいや、わかっていないのはお前だ。だから、こうするしかない」

 電撃爆弾を取り出し起動させた瞬間、激しい衝撃がっ……! クラタムではない、彼は動いていない、他の奴らでもない、パムかっ……? 吹っ飛ばされたまま、起爆してしまうっ……! 激しい電撃が周囲にほとばしり、活性化するがっ……!

「くそっ……!」

 次の瞬間、戦慄がはしる! 周囲に複数の気配……! これまで感じられなかったものだ、やはりパムの聖戦士かっ? しかも急速に獣たちの気配が急接近してくる!

 ……そして、背後にゼラテアがいる!

「やあ、また会えたね」

 暢気にしている暇はない、

「奴らは手に負えん、お前のデスブリンガーで同士討ちさせられるかっ?」

「やってみよう」

 そのとき壁をぶち破り、ブレイドジャガーが四頭、現れた! そしてパムのものらしき気配はそれにまたがったっ? しかしデアトルの一撃でジャガーは両断、背中の気配は一瞬先に飛び退いたようだ、そして奴もまた変身している、赤い鎧で全身を包んでいる、そして狙うはゾシアム、だめだっ! 背後にいるアロダルごと真っ二つにされるビジョンがっ……!

「うおおっ!」

 両者の間にアサルトを撃ち込む、デアトルの足が一瞬止まった、ゾシアムが光のナイフを放つが、まるで通じていないっ! だが死のビジョンは回避された、彼らは後退していく、そしてアロダルが何かを懸命に唱えている、四角錐の輝く壁が展開される……が、一枚ではたやすく粉砕されるだろう……!

「アロダル! 死ぬ気で何重にも張れっ!」

 懸命に唱え、壁がどんどん多重に厚くなっていく、しかし時間の問題だ、どうするっ……?

「なんだこの戦闘力はっ?」

 アドトスがジャガー相手に手こずっている、おそらくパムの聖戦士が伝播をジャガーに〝のせて〟強化しているんだろう!

「デスブリンガー!」

 おっとアドトスに入った、これで奴はさらに手こずることだろう……とクラタムの連射が横切る、しかしロイジャーはそれをすべて余裕の表情でかわしている……!

「どうした、その程度か?」

「いまだっ!」

 ……が、デンラ少年の小型の弓から放たれる……なんか丸っこい鏃の矢が……命中したっ? そして呪文を唱え始める!

「集まれ良縁よ、勝者とは幸運に恵まれし者、それは我なり! 我が敵を不潔なる敗北の沼へと引きずり込めっ!」

 そのとき謎の気配が動いた、ロイジャーの足元を払ったのか奴は姿勢を崩す、そこへすかさずクラタムの攻撃がっ……!

 だが、次の瞬間にはロイジャーの姿が変わっている!

「Target recognition, Kill kill GO!」

 全身ではないが、飛行機みたいな形状の装備を身にまとっている! 奴もまた変身へと至っているのか、そして背中より小さな鳥、いや、やはり飛行機なのかっ? それが複数飛び立った!

「Go to hell!」

 まずいっ、クラタムの方へ向けて銃撃し始める! 間に合うか、アサルト!

 飛行機の進行方向に連射する、全機撃墜できた! しかしアサルトが全部当たったってのは異常なラッキーだがっ、あの呪文からしてデンラ少年の能力かっ?

「邪魔立てするかっ!」

 うおっ、アドトスの一撃がくる! ジャガーは倒れたか、先んじて屈む、頭上を光線が通っていった!

「運のいい奴!」

 俺のは運じゃねぇ! 背後から迫りくる、もはやこれまで、戦うしかない! アサルトを連射するが案の定、すべてを弾かれる! 蹴り上げがくるので跳べっ!

 そして転がった先に……イリオだ。

「あら」

「……やあ」

「がんばってね」

「ああっ……!」

 起き上がり走る、アドトス、いつの間にかでかい銃を手にしているっ……? ものすごい威力だ、壁面にでかい穴が空くだろうっ! 転がってかわすと先読み通り穴が空いたっ! そして連射できるだとっ? まずい……が動くな、床が揺れて外れるだろう!

『こらっ!』

 船体が揺れて、アドトスの照準が狂い……バクに当たったっ?

『壊すなといってるわんっ!』

 だがさすがというかマジかよ、バクはあの直撃にも耐えたぞ……!

「うっ! いまのは違う、事故だ!」

 バクはゆっくりと防御姿勢を解き、

「……気にするな、前線じゃ事故はつきものだ」

 だがバクの気配がさらに強大になる! この誤射はデスブリンガーの効果か? アドトスが加害した側になったようだが、ともかく種は蒔いた……! ゼラテアは周囲を見回し、次は誰にしようかと品定めしている……。

『ちょっと聞くわん! この戦艦は希少な素材でできてるわん! 大事にしないなら、ぶっ飛ばすわんよ!』

 シルヴェが怒っている、だがそれもいい、そして衝撃、ブレイドジャガーが天井にめり込んで爆ぜている、やったのはデアトル、案の定というかとんでもない一撃だ! そしてアロダルの壁を剥がしにかかるが、なぜか転倒した、足払いでもくらったかっ?

 だが追撃はない、いやゾシアムが攻撃した、しかし……彼の矢が直撃してもまるで効いていない……。

 しかし、なぜパムの聖戦士はもっと直接的な攻撃をしない? やるのはあくまでクラタムらや獣ということなんだろうか?

「オオラァ!」

 えっ、なんだ、いきなり変な巨漢が現れたっ? 両手が機械の巨大な手、展開して発光する!

「全員ぶっ……」

「いい加減にするわんっ!」

 うおおっ、シルヴェエッ? 背後より巨漢の脇腹に拳が突き刺さる、巨体が浮いた、そして猛烈な射撃が天井を破壊! 瓦礫が崩れてくるっ! というかデンラとアロダルが変な格好で飛んでいく、いや、見えない存在に襟を掴まれて引っ張られているんだ、しかもっ、中央にある装置の発光が止まっている、中央部ががらんどうなのは最初からか、それとも……と、なんだ、アリャのナイフが震えているな、ああそうだった、あまりに忙しくて忘れてた!

「ロイジャー、残りの始末は任せる!」

 アドトスが出ていったっ? 少し遅れてデアトルとバクも後に続いていく、やはり装置の重要な部分が持っていかれたらしい!

 よし、よしよし、かなり楽になったな、イリオは……やはり行動を見せない。しかしなんだったんだあの巨漢は?

「あいつら、向こうでまた壊す気だわんね……!」

 シルヴェも奴らを追っていく……。なにやら白いドレスみたいな戦闘服っぽい姿に変わっているな。

 というか、ここまで来るのにミネルウァを降りたのか? まあ、あの巨体じゃ入ることはできないだろうしな。

 ……さて、残るはロイジャー、か。おそらくあの面子の中ではもっともマシだろうが、それでもかなりの強敵には違いない……って、ナイフの震えが激しくなる、思わず床に落とすと、風が……収束する、くるのかっ……!

「……なんだと?」ロイジャーだ「人型……?」

 すごいなアリャ! ナイフを中心にどんどん人型になっていく!

「ニェー!」

 現れたのはやはり、久しぶりに見たな!

「ニリャタム……!」

「ニッ……」そのとき、クラタムが尻餅をついた「うっ、嘘だ、そんな……!」

「オオー! クラタムー!」

 ニリャが近づいていくと彼は明白に狼狽し……なんと、逃げ出していった……! ゾシアムは驚きつつもその後を追う。ロイジャーは一瞬こちらを見やったが、クラタムを追っていく……。

「クラタムー?」

 ニリャタムは首をかしげる。マジかよ、どうしたんだ、あれだけ戦士の誇りとかいっていた奴がいきなり逃亡するなんて、しかもそのきっかけがニリャだとはっ?

 いや、ともかくロイジャーを止めねば!

「ニリャ、言葉はわかるか、出番だ! さっきの奴はクラタムらの命を狙っている、倒さねばならない!」

 ニリャは右から左へと首をかしげる……。

「さっきの奴は、クラタムを狙っているっ! 敵なんだ!」

「テキ! ムチナメス!」

「よし、追うぞ!」

「待ってくださいー」

 いたのかルナ! いやいるわな!

 しかし、本当にどうしたんだクラタム、何をそんなに怯えている? まあいい……ともかく急いで追わなくては!

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