アイテールマタ
ありとある物事には始まりと終わりがある。
俺と奴の戦いはいつの間にか始まり、深刻化し、そして終わった。
残ったものはなんだったろう。
答えはない。
後悔もない。
ただ、えもいわれぬ痛みだけがそこにある。
ともかく帰ろう。みんなの元へ……。
◇
……疲れた。
壁に寄り掛かって座る……。
鳥たちが舞っていたが、それらはふわりと消えた。
『終わったね。さすがというべきかな』
ゼラテア、か……。
お前はいったい……。
「……お前がしたことにどんな意味がある? 大量の血が流れるだけではないのか……?」
『あるべきバランスのため』
「……バランス?」
『我々は三竦みの関係にあるからだよ。その均衡が崩れたからこそ、ハイ・ロードを含む彼らは個体数を減らし続けている』
「三竦み……?」
『分類上はあなたたちも我々に含まれる。調子に乗りすぎた罰というわけだ』
「どういうことだ、詳しく説明しろ」
『私を可愛がってくれたら少しずつ教えてあげよう』
「またそれか……」
『この旅で、あなたを慕う女にどれだけ出会った?』
……なに?
「……それがどうした?」
『恐ろしいことが始まるよ』ゼラテアは嗤う『恐ろしい戦いが始まる』
なんだと……?
『しかし、それはあなたの戦いではない。私たちは黙ってそれを静観しよう』
「……何が起こるというんだ?」
『輪廻は巡る。愛憎もつもる。自分でいうのも何だけど、私はかなり可愛らしい方だと思うよ』
まさか……。
『対人間への情念が薄いからね。あなたとあの方がいれば充分なんだ』
……こいつはこいつで変な女だな。
しかし、まさか、あいつがやってきて……。
『さて、そろそろ体への負担も大きいでしょう。その状態を解除した方がいいじゃないかな』
……ああ、そうだな……。
『任意での解除機能を追加しておいてあげたよ』
なに……? ……と、活性が終わっていく気がする。
以前でいうところの、門が閉まっていくってやつだ……。
……そして、どっと力が……抜けていく……。
ああ……疲れた……。
「疲弊しているようだね」
「ああ……」
……あっ? 目の前に少女? しかし、この姿は……!
「見覚えは、ないかな」ゼラテアは微笑む「私はジニー」
ジニー……?
「……いや、ゼラテアだろ?」
「ジニーだよ」
……確かに面影はあるものの、姿はかなり変わっている。
薄紫と黒を基調としたドレスのような衣服を身にまとい、しかし各所に銃器を装備している……。肌も白く、瞳は黄色く、毛髪もまた薄い紫色だ。
そして見覚えはない……。強いていえばユニグルに似ているような雰囲気だが、両者に繋がりはないだろう。
「ジニー……ねぇ」
「そう、ジニー」
視線が交差する……と、スミス1がやってきた。
「ご無事ですか?」
「まあ、なんとか……」
スミス1はヴァッジスカルを見やり、
「こうなることは予測できていました。しかし、手を下したのがあなただったとは」
「……奴を育てたことの責任は、あんたにもあるんだぞ」
「だとするなら、素晴らしい。さあ、お休みになられてはどうですか?」
何が素晴らしい? 何も、よくなんかない……。
突っかかってやりたいところだが、さすがに限界だ……。俺はゼラテア……ジニーに肩を借りて格納庫の中心部へ、すると床が降りていく……。
周囲は残骸だらけだ。まったく意に介していなかったが、机や椅子は元老との戦いで吹っ飛んでしまっている。
そしてまた、元老院の中枢へと戻った。そこにはレオニスが、身なりは相変わらずボロボロ、体の各所に貼り薬のようなものを貼り付けている。
「……レキサルは?」
「治療中だ。命に別条はない」
そして彼は眉をひそめる。
「……誰だそれは?」
「……ゼラテアだ。いまはジニーと名乗っている」
「ゼラテアだと……? なるほど……君が話していた人物は彼女だったのか。カムドのあれだな、やはり裏があったか」
さすがというべきか、理解が早いな。
「……ワルドは?」
「クルセリアが連れていった。行き先は分からん」
「そうか……」
「怒らんのか?」
「まあ、傷付けたりはしないだろうしな。ワルドも死を選んだりしない」
「……うむ。後は彼ら自身で決着を付けることなのかもしれん」レオニスはうなる「まったく、困った娘だ……」
「……彼女の父親役を?」
「息子や娘は沢山いる」レオニスは肩をすくめる「誰ひとり、血は繋がっていないがな」
「……他の聖騎士団は?」
「任務を継続中だが、ここへ集める。元老院も立て直しだ。当面の目標は組織の再編成と、あの老いぼれどもの始末だな」
「……あんたの命令を聞くのか?」
「さあな」レオニスは可笑しそうにする「だが、ブラッド・シン計画は誰にとっても初耳だろう。私でさえ先ほど知ったのだからな。ここに証拠もある。ゆえにあの老いぼれどもへの不信は私への信頼に変わるだろう。……いや、変えてみせる」
「……あんたに任せれば、世界はマシになるのか?」
「どうかな。現状、進歩率1850で止められているのだ。しかし、それを推し進めるとなると、この先は魔境となる」
進歩率……。
その言葉を聞いたのは、ユニグルが最初だったか……。
「……そうだ、なぜ外と内であそこまで技術差がある?」
「紛争激化への懸念だな」レオニスは眉をひそめる「進歩率が上がると、外界人は放射線を発見し、次には遅かれ早かれ核分裂反応を発見する。そうなると猛烈な勢いで世界情勢が変化する。最悪、核戦争であっという間に外界が滅びるかもしれん」
「かく……兵器?」
「聞いたことはあるようだな。ものには段階があり、進歩にはかつての魔境時代をいかに迅速に通り過ぎるかが問題となるのだよ。元老たちは安全に支配するために、技術レベルをあえて抑えていたのだ」
「……抑えるって、そんなこと可能なのか?」
「簡単だ。学術論文を黙殺させたり、資金提供を凍結したり、知識人を抹殺したりする。実に反知性的であり、愚かなことだが」
「あんたは違うと」
「無論。だが、しくじった場合、私はどんな独裁者をも超えた世紀の大悪党になるだろう。しかし、上手くいけば外界も優れた技術を手に入れ、やがて中央をも戦略的に攻略できるようになるかもしれん」
「その後、ギマなどの人種はどうなる?」
「……なるようにしかならんな。スミス1はボーダーランド内の情勢にまで手が回らん」
「……そうか」
懸念はあるが、文明の進歩を押し留めている現状を容認することは俺にもできないしな……。
「まあ、明日にも私は死んでいるかもしれん」レオニスは笑う「不信任の刃が文字通り首をはねるのだ」
「そうはさせない」
おっとレキサルがやってきた。身体中、包帯だらけだな……。
「セルフィンの長老、そして知識人をここへ呼ばせてもらった。我々の平和を約束したんだ、異論はないな?」
「無論」レオニスは頷く「あの老いぼれどものせいで、君たちには大変な迷惑をかけた。元老にセルフィンを加えることに異論は一切ない」
「……我々は時代に取り残された素朴な田舎者なのかもしれない」レキサルだ「だが、平穏を望む資格はある」
「あるのではない。自ら勝ち取るのだ」レオニスは口元を上げる「私は権利を勝ち取らんと挑む者を歓迎する。今回は多少の譲歩をするが、もしも、君たちが愚鈍ならばその席を剥奪する。そうならないよう、理知的に話し合い、時には原始的に戦おうではないか」
レオニス……。
知性にせよ、腕力にせよ、この男の基準は力だ。
それが絶対なる正しさを保証するわけではないのかもしれないが、その言葉にはなんというのか、魅力がある……。
とはいえ、重要な点を確認しておかねばならない。
「……それはいいが、スミス1の同意は得たのか?」
「はい」スミス1だ「あの方々は今後はハイ・ロードの庇護へ全力を尽くすことでしょう。ですが、それはリソースの浪費と私は考えます。世界のためにできることを考えれば、レオニス様に仕えることが現状、最良と判断しました」
「どういうことだ? ハイ・ロードの安否より、レオニスと改革を進める方が重要だと?」
「はい、その通りです」
「……ハイ・ロードは、とんでもなくすごい人物なのでは?」
「指導者は有能でなくてはなりません。ですが、あまりに稀有だとしても問題です。稀有な人物を中核としたシステムは、その人物を失うことによって、その機能を著しく低下させます。それならば、そこそこ有能な人物、つまり代替が可能な人物特性を中心に、システムを構築した方が安全だと私は判断しました」
これは……。
ここにきてもまた、優れたシステムは凡夫を好む、に通じる話か……。
「なんだか耳の痛い話だが」レオニスは苦笑いする「まあ、反論はしまい」
「……ところで、ブラッドワーカーたちはどうなった?」
「捕縛、拘留したよ」レオニスだ「ただ、ガークル・イーストはすぐに釈放する。
「えっ、なんで?」
「傭兵だからだ。直接の雇用者はジュライールだが、元を辿れば元老になる。そして業務内容より逸脱した行動は取っていない」
ええ……?
「ジュライールは元老と懇意なのか?」
「少なくとも建前はな」
「でも、ガークルはここに攻め込んできたじゃないか」
「書類上に不備はない。戦力的に、わざわざ契約内容を変更する必要性を感じなかったのだろう」
それで済ませるのか……?
「なんか、お役所仕事だなぁ……」
「傭兵は契約内容と現場の判断がすべてだからな。その文面や行動規範の解釈には議論が必要なこともあるが、明確な不備がないのなら責任を追及することもできんし、無理にそうしたところで傭兵業界への不信へと繋がるだろう」
そういうもんなのか……。
「なにより、あの巨大兵器が情勢に絡んできたせいでスミス1も先読みができなかったのだ。奴にさしたる責任はないと私は判断する」
同意するようにスミス1が頷く。
ああ、だからあれを入手したクルセリアの暴走を予見できなかった……?
そうなのかもしれないが……って、あれ?
うおっ、この気配は……!
「おいおい、まさか……!」
何しに来たんだ? どんどんこちらに近付いてくる……!
「レオニス……!」
「分かっている。任せておけ」
まじかよ、ある意味、最悪の相手だぞ……!
近い、そして顔を出したのはやはり……!
「はぁい!」
女帝、ルクセブラだ……!
「あらあら、随分とおいたをしたのね。それに顔ぶれが変わったわ」
そして、アンヒソーヴァーも早足で続く……。
「だめですって、かき回しては大変ですって……」
彼は懸命に止めようとするが、ルクセブラは意に介さない……。
前から思ってたけど、彼は苦労人だよね……。
女帝は舐めるように周囲を見回し、
「ねぇ、私も入れてちょうだい?」
「帰れ」
おっとレオニスの厳しい即答……。
でもまあ、そりゃそうだわな。ルクセブラは聞こえないかのように振る舞い、近くにあった椅子に座る。
「帰れ」
レオニスの冷淡な二撃目だ。さすがの女帝もレオニスを見やる。
「ボクちゃんじゃ難しいと思うな? お姉ちゃんに任せて?」
「帰れ」
ルクセブラは蠱惑的な仕草で足を組む……。
「あのね、ブラッド・ヘヴンのことなんだけど、製造工場が吹っ飛んじゃったのね? だから、今度は外界に作りたいんだけど……」
「帰れ、婆さん」
……えっ、いまなんていった?
女帝は凍り付く……。そして表情すら固まったまま、まったく動かない……。
……これは、やばいな……。
まあ、そろそろここにも用事はない。みんなの元へと戻らないとならないしな……。
よし、帰ろう帰ろう……。
「……レキサル、そろそろ行こうか?」
「……ああ」
俺たちはそろそろと部屋を出ようとする……と、そこにガークルが!
「おっ、テメエじゃねーか!」
「いやいや……」
いまはお前に構っている場合じゃない、俺はガークルの肩を掴んで押す押す、
「なっ、なんだよオイ……!」
「いいからいいから……」
その時、背後からものすごい爆音がっ……! 見ると、女帝の足元がすげぇへこんでいる……!
「なんだオイ、修羅場か?」
ああっ、このバッカ、入っていくなって……!
怒声が響くかと思ったが、女帝はにっこりと微笑んでいる……。
「だぁめ。お姉ちゃんのいうことは聞くものなの。お尻ぺんぺんしちゃうぞぉ?」
「ヒステリーはよせ。消えろ婆さん」
うおお……! まったく引かないぞ……!
すごい、まじでレオニスってすごい男なんだな……!
「……レオちゃん? あなたのおむつを替えたのだあれ?」
「知るか。消えろ」
……なんか、空気がバチバチしてきたぁ……!
「レ、レオちゃん?」
「クスリのやり過ぎでもうろくしたか? いまは真面目な話をしているんだ。消えろ」
……まじでやばいぜ、女帝の気配がとんでもないことになっている、またこの一帯を吹っ飛ばすようなことになったら大変だぞ……って、なんだっ?
なんか、女帝の瞳に、どんどん涙が溜まっていく……!
「うっ……ゔゔっ……!」
あれ、泣くの、泣いちゃうの?
そういう流れなの……?
「ゔわぁああああああああんっ!」
突如として泣き出し、猛烈な速さで壁とか突き破って出ていった……!
「あ、なんだかすみません。失礼しますね……」
そうしてアンヒソーヴァーもぶち破った壁から出ていく……。
いやあ……。
なんだったんだ……?
というか、まじでいろいろひでえなあの女帝さんは……。
「余計な茶々が入ったな」レオニスはため息をつく「ともかくだ、ここは私に任せろ。君たちは君たちですべきことがあるはずだ」
「……というと?」
「忘れたのか? クラタム、ゾシアム、そしてデンラの三名だ。彼らはまだシンの意思を所有している。あるいはソルスファーやアロダルも関与してくるかもしれんし、楽観はできん」
そうだ……! そうだった、セルフィンの問題が解決したことを知っているのはまだ俺たちだけだ!
「クルセリアが彼らに手を貸した理由はシンの意思を通じてハイ・ロードの転生期間を知るためだったようだが、彼らは彼らでまた別のことに使用するかもしれん。直ちに説得し、シンの意思を回収してもらいたい」
そうだな、よし、グゥーに通信……!
……ってあれ? 反応がない?
「通信が……できない?」
「繋がらんか? 中継機により、電波は届いているはずだ。戦闘で故障したのやもしれんな」
「ああ、衝撃やマイクロウェーブで壊れたんだね」
ジニーだ、まじかよ……!
「そうか。アドレスは?」
「え?」
「アドレスだ。もしくは周波数など」
「わからない……」
レオニスはうなる……。
「そうか、ではこちらでどうにか君の仲間に連絡をしておく。しかし、信用されるかは分からんし、向こうの状況によっては動けない可能性もある。どのみち君たちが直接向かう必要があるな」
「ああ。それで、クラタムたちはどこにいる?」
「戦艦墓場のどこかに潜んでいると思われるが、我々はこの有様だ、人手を動かす前にまず組織を立て直さねばならん。目下のところ、君らが頼りだ」
レキサルと互いに顔を見やり、頷く。ハナから彼らを連れ戻すつもりだったからな。動くことに異論はない。
「わかった、行くよ」
「悪いが目立つ足は用意できん。小型車両一台で我慢してくれ。ルートはこちらで指示する」
「……うん? 乗ってきたあれで戻れないのか?」
「起動ないし操作方法が未解明だ」
「ギャロップは?」
「ない」
「そもそもここってどこ?」
「ホーリーン領内、モルロー山脈だな」
「ということは時間が……」
「かかるがやむを得ん。食料等、急いで支度をさせる。とはいえ今日は疲れたろう。明日の早朝にでも出発してくれ」
「あ、ああ……!」
仕方ないな、頑張って戻るしかないか……。
しかし、車両かぁ……。ちょっとあれだな、運転してみたい気もするな……。
ともかくも話は明日だ。俺たちはここ大聖堂にて一泊することになる。
そしてスミス1に案内された先は実に優雅な部屋で、品のある調度品が置かれており、ベッドも大きく快適そうな空間だった。
「では、おふたりはここですね」
そうしてスミスは去っていく……って、ふたり?
「ああ、私のことは気にしなくていいよ」ジニー、だ「気にしてくれてもいいけれど」
「いや、お前は……それは具象魔術?」
「そう。アイテールマタ。略してアテマタ」
「はっ、なにっ?」
「オートマタとアイテールマタは違うよ。生まれた時期が違う。シンの降臨前のがオートマタ、その後にアイテールマタが作られ始めたんだ」
「アテマタって具象魔術なの?」
「多くは根幹部分のみ、だね。ボディはオートマタと変わらないものが多い」
ええ……?
「ちょっと待て、そもそも具象魔術ってなに?」
「そもそもの話をするなら、魔術とはアイテール構造体に記憶された事象の再現なんだよ。だからこの私も過去に実在した人物ってことだね」
「それを呼び出している?」
「そう。なのでイチから具象化はできない。無敵の体は創造できないんだね」
「他の、炎とかの魔術もかつての事象の再現に過ぎない?」
「うん、そう。そして魔術師が行なったこともまた記憶される。記憶から引き出された情報を使用した行動もまた記憶されるんだね」
はあ、へえ……?
「えっと、じゃあ……? どこからともなく体を寄越される現象はどう説明できる?」
「寄越される?」
「なんか、前世くさい女の体を寄越されたんだ。そのアイテールマタを遠隔操作しているような感じだった」
「それは……単に魔術を使ったんじゃないの?」
「いや、俺にそんな力はない」
「じゃあ、使わされたのかもしれないね」
「なに? どういうこった」
「アイテールは、よく魔術を使う者を好むとされる。修行とは魔術使いますとアイテールにアピールするようなものなんだ。そしてその誓いが実際的ならばより強大な力が手に入る。それが才能というものさ」
「なんだと? じゃあ、なんで俺は頑張っても炎や光とかの魔術が使えないの?」
「それは魔術を使わされる者だからだよ。用途が決まってるから、あまり他の魔術に目移りして欲しくないのかも」
「なにぃ? じゃあ、俺は予知だけしてろってことかよ?」
「そうだね。あと先の話によれば、具象魔術も使えってことなのかもね」
「具象魔術を……」
「使えるのに使わないから無理やり使わせたんじゃないの? なにか怠けるようなことしなかった?」
なんだそりゃあ……?
……って、あれ? 思い当たる節があるような、ないような……。
いや、まさか、刃の具象化をアリャやロッキーに任せたからか? 使わないつもりでいるんじゃねーよって話なのか……?
まじかよ……! 俺って具象魔術が使える人だったのか……?
「あれ、でも、転生者は魔術苦手なんだろ……?」
「ものによるよ。別に使えないわけじゃない。そして転生者の場合、前世との縁がかなり強いからね。それ限定ではあるのかもしれないけど、前世のアテマタを作ることはむしろ得意なのかもしれない」
「なんだ、じゃあレクテリオラとか前世限定って話か……」
「まあ、前世が愛用していた武器や道具とかも具象化できるかもね。私のこれのように」
それならちょっといい話なのかもしれないが……。
「あれ? じゃあ、俺と逆の……そう、万能者とかってやつは何なんだ? アイテール的に用途が決まっていないとか?」
「そう」
「え、だから自分で好きな魔術を詰め込めるって話なの?」
「そうだね。まあ好きにしろってことなんだろう。そのランダム性に価値があるのかもしれない。でも裏を返せばさして重要じゃないんだ。いつ捨てられるか分からない」
「転生者で魔術を詰め込めるケースは?」
「攻撃的な魔術は、強力なものであるほど手に入らないのが普通だよ。多分、力があると激戦の場に惹かれる可能性が高いからだろう。用途があればこそ、さっさと死なれては困るんだ」
「だから予知とか、そういった力に傾くのか……」
「あるいは隠蔽能力、防御能力、治癒能力だね。好戦的ではない才能には恵まれることがある。でももちろん、そういった力があるからといって転生者の系譜とは限らないよ。あくまで転生者が扱える魔術は限られるって話だね」
そうなのか……。デヌメクとか万能者っぽいが、防御に傾いているらしいしな。そういや最近、姿を見ないが……。
ともかく、すべてはアイテールの思し召しってか……。
正直、晴れやかな気はしないな……。
「まあ、アイテールの全貌は私でもまるで把握できていないから、何が真実かは断言できないね。それより休んだらどうだい?」
そうだな、もう疲れたしな……。
ベッドに寝転がると、睡魔がのしかかってきた……。
そして、急速に意識が遠くなっていく……。