原初なる大イオスの騎士たち
知らなかった。
気付かなかった。
そう言い訳をすることは容易い。
しかし、その無関心さが聖なる人を死に追いやったとしたなら、その罪はいったい何によって贖えるというのだろう?
誰ひとりとして無罪ではない。
我ら十二聖騎士団が全人類の罪を清め、そして原初なる大イオスを真の王座へと迎い入れるのだ。
◇
奴が入室してくる、シューターを構える!
『やれるのかい? お前にさぁ!』
やれる、やれるはずだ、ひときわ輝く鳥よ、俺を導いてくれ……!
……と、呼び掛けが届いたのか、本当に鳥が現れる! 音もなくヴァッジスカルの方へ……いや、奴の頭上を通り過ぎ、奥の壁の方に消えていった……?
だが信じる、あの鳥は可能性だ、生き延びる可能性……!
「いけいっ!」
バスターを撃つ、刃が鳥の軌跡を追っていく! そして壁を貫いた……!
『……おやぁ? 手元が狂うほどビビッちゃってるのぉ?』
……何も起こらない? そんなはずはない……!
いや、なんだ? 振動が、床が揺れている……? そして急速に近付いてくる気配がふたつ……!
『なんだ……?』
ヴァッジスカルの背後から爆発が、そして何かが飛び込んでくる……!
「あんたは……!」
やはりクルセリア、花嫁姿が見るも無残にボロボロだ……! そして爆発より空いた穴からやって来るのはワルド……。不吉な雰囲気が異様に強い、彼本来の気配がほとんど感じ取れない……。
『おっとぉ、邪魔しないでくれるかな!』
ヴァッジスカル、腕から光る刃が! しかし次の瞬間、ワルドの一撃が入った! 奴は轟音とともに壁の穴の中に消える……!
……なんて力だ。クルセリアとレオニスふたりを相手取ったはずなのに、ワルドはほとんど損害を被っていない様子だ……。
犠牲魔術とはこれほどの力を……。
「……お久しぶりですね、お爺さま方……」
クルセリアはふらりと立ち上がる。
「クルセリアか……」元老のひとりが立ち上がる「彼奴にこだわり過ぎだ……。進捗はどうなっている……?」
「解析は完了しましたわ。時は近い……」
「なっ……なにっ!」
元老たちはみな立ち上がり、ざわつき始める……!
「アロダル・イーガフィンによれば、その日は近いと。およそ一年後、誤差は約半年……」
「なんと……!」
元老たち、その内のひとりに視線が集まる。彼はクルセリアに向けて手をかざし……やがてゆっくりと頷いた。
そして元老たちは揃って天井を仰ぎ始める……。
……いったい何の話だ? まさか、ハイ・ロードの……?
「……そうか。大義であった」
「すべての騎士団を解体。そしてここに十二聖騎士団を発足する」
かっ、解体だと? 随分とあっさり……。
「なんだと?」レオニスだ「どういうことだ?」
元老たちは着席する。そして懐から何かを取り出し、首元に当てた……と、ほぼ同時に激しく痙攣しだした!
「ぬっ、まさかっ!」レオニスの手から光の剣が!「クルセリアッ!」
「機会はありましたでしょう?」
「くっ……!」
剣の光る軌跡が飛び、元老たちを襲う……が、立ち阻むはスミス1、光の壁で防いだっ!
……それより元老たちだ、馬鹿な! みな、どんどん若返っていくだとっ……? あっという間に壮年の姿となっている……!
「……この体は数年と保たん。しかし、充分に過ぎる」
「従属せよ。世界はハイ・ロードが統治する」
「おお、原初なる大イオスよ」
「我ら十二聖が今度こそ御守り致します……」
そしてワルドが動き始める……!
「おぬしらが元老のようだが、やはりゴッディアの件に噛んでおったのだな」
「まさかここまで辿り着くとはな」元老のひとりが席を離れる「しかも禁呪の所持者とは」
「ヨデル・アンチャールはクルセリアの独断だと思っていたようだが」
「確かに混乱はあった」元老のひとりは頷く「しかし、予定が早まっただけだ。計画そのものに支障はない」
「彼奴は何も知らんし、その必要もない」
「ゴッディアはもともと滅びる運命にあった」
ワルドは唸り「……なんだと?」
「大イオスはゴッディアにてその命を汚されたのだ」
「親愛なる神だと?」
「人界にて最も汚れし土地が……!」
「彼の国が滅びるなど当然の報い」
「むしろ残念なことだ」
「一夜にして滅びるなど」
「それはこのクルセリアの慈悲か気まぐれか」
「本来はブラッドワーカーの投入により、地獄に落とす計画であったのだよ」
「あの悪魔どもを丹念に集め育てたのはそのためだ」
「だが貴様らは育成場のひとつ、暗黒城を落とした」
「まあよいではないか。ゴッドスピード、よくやった。お前が奴らを狩るのも道理。幾度転生してもそうだった」
「愚かなのも変わらんがな」
「とはいえ我らが亡き後、この座を継ぐのもよい。お前にはその資格がある」
な、なんだと……?
「だが、まだ奴らには利用価値がある。ブラッド・シン計画は継続される」
「我々は等しく罪を贖うのだ」
「眠れ、復讐の魔人よ」
「我らが使命、誰にも邪魔はさせん」
「ここでは互いに損害が大きい。戦いにふさわしい場へ!」
その時、天井が開く、どんどん開いていく!
そして床が動き出し、上がっていく!
「その禁呪の力は絶大よ」
「しかし、この十二聖に勝るはずもなし」
「なるほど」ワルドは頷く「もろとも咎の藻屑に消えたいか!」
やはり、やる気か……!
そして床の上昇が止まり……ここは格納庫? 周囲には車両や航空機らしきものが並んでいる……!
「やむを得ん!」レオニスだ「力を貸すぞ、ワルド・ホプボーン! 君たちどうするっ?」
「彼らは危険だ」レキサルも臨戦態勢に!「やるしかない」
『はははっ、ほぉら共闘することになったろう?』
いつの間にかヴァッジスカルが戻って来ている!
くっ……彼らはあくまでハイ・ロードの騎士、しかし、その思想は明らかに危険か……!
それでも懸念はある、ハイ・ロードは彼らを必要としているのかもしれない、王の座とやらは世界の平定のために必要なのかも……。
……だが、それは分からない。確証はない。
分かっていることは、彼らはゴッディアを滅ぼし、セルフィンを脅威に晒し、部下を殺し合わせ、ブラッドワーカーを育てていた! これは事実だ……!
……やるか!
「ゴッドスピード! まさかお前と戦うことになるとはな!」最初に俺に話しかけたであろう元老だ「やはりお前は愚かだ。大局を見ようとしない!」
「……ハイ・ロードはあんたたちに殺戮を望んだのか!」
「望まぬさ! あの慈悲深きお方は血も涙も争いも望まぬ! しかし、我々の多くはその偉大さに気付けぬ愚者ばかりだった! 誰かが無理にでもその頭を下げさせねばならぬのだ!」
その時、ゼラテアが現れる!
「ゼラテア……!」
『人に秘めたる真の強さがあるのならば、悪霊にも負けることはない』
「ゼラテアッ! 奴らをあれに侵入させたのはっ!」
『しかし、変わらず愚かなままならば、また瀕死の時代を迎えることだろう』
「ブラッド・シン計画のためかっ!」
『任務完了、後は私の好きにする』
「ゼラテアッ……!」
シューターを向けると、ゼラテアは笑みを止めた。
『私は最早死なない。死をアイテールに捧げたのだから』
「なに……?」
『生もない。あるのは知性のみ』
「答えろゼラテア……!」
『善悪を知性の世界の出来事にしか過ぎぬと悟っておきながら、また知性の世界に帰ってくる。戦いの場に。それはなぜ?』
なぜ……いや、答えている暇はない! 始まる、しかし相手は十二人! やれるのかっ……?
レキサルの矢が飛ぶ、そして空気が炸裂したっ!
威力も以前とは桁違いだ、これが彼の真の実力か! しかし、元老たちは一斉に散って避ける、だがそこに太い光線がはしる!
『はははっ! くたばっちまいなよ!』
ヴァッジスカルだ、元老たちは避けようと飛び回るが、徐々に射線へと引き戻されているっ?
『無駄だよぉ、アトラクション・コントローラーの前では必中さぁ!』
元老は光の盾で防御するが押されている、しかし、すぐに二名の加勢が、光の盾はより強靭そうな形となり……と、こっちにひとり、急接近してくる!
「うおおっ?」
思わず超振動ナイフを振るう、眼前に元老のひとりが、左腕で防御……いや、空間に奇妙な厚みが? 腕まで刃が届かない! そして手を突き出して……衝撃波かっ! 待て、背後より接近している気配、手刀だっ! 挟み撃ちの形だが、ぎりぎりでかわせば同士討ちに……ならないっ? 背後の元老は手刀を振るった勢いで身を翻らせ、衝撃波をかわす……! さらにそのまま蹴りだと!
「くっ……!」
防御するが重い! その隙を突いて足払いがくる、先んじて跳ぶ、だがバランスが崩れている、倒れること必至! そこにまた新手だと! 飛び込んでくる気配、
「させん!」
ワルドかっ? 気配の持ち主を吹っ飛ばしたっ、そして足払いをしてきた元老をも吹っ飛ばす!
着地、だが何だ、妙に寒い、痛い……! 背後の奴かっ?
「うおおおっ!」
回し蹴り、だが硬いっ? 見ると元老の前に氷柱がっ? まずい、氷柱が爆裂するだとっ?
両腕で防御する、次の瞬間、氷のつぶてが飛散するっ!
「うああっ!」
思わず転倒すると、床が張り付く感じ、やばい! 急いで跳ぶ、あいてて、手の皮が少しだけ剥がれた、ナイフを落とした……と、真上から蹴りでの強襲がくる! ……やられっぱなしでいられるかっ!
「この野郎っ!」
先読みでギリギリかわし、拳で顎を打ち抜く! 元老は着地するが効いている、ここだ!
「うおおおらあっ!」
元老は守りの姿勢を取るが、こっちは先読みの拳だ、防御なんかさせるかよっ! 連打をお見舞いし、元老は倒れる!
『やるぅ』
ゼラテアが倒れている元老の側に立っている、そしてその手には影のような杖が……?
『日常は破綻し、未来は不安に怯え、夢は苦痛と化し、残るは沈黙のみ……。さだめを受け入れよ、デスブリンガー!』
ゼラテアは元老を杖で突く、するとどこから現れたのか、彼の周りに不吉の黒い獣が集まってきた……!
『簡易だから長期間は効果が続かない。しかしいまはこれで充分だろう』
ゼラテアはクスクス笑う……。
「なんだ、何をした? デスブリンガー……?」
その言葉に反応したのか、元老たちがこぞって俺を見やる……?
そして、影の杖を突かれた元老が立ち上がる……!
「まだやるかよ!」
「ふっ、殴り合いも久しい……」
そのときっ、衝撃波が元老を吹っ飛ばした! 見ると同士討ち……?
「なっ……?」
驚いているのは衝撃波を放った元老、だが突如として彼は不自然に体をくねらせ苦痛の声を上げる、どうやらワルドの魔術らしい……待て!
「ワルド! 頭上だ!」
「散れ、魔人よ!」
放たれる紫色の、無数の瞬きっ!
眩しいっ! そして無数の轟音が鳴り響く……!
雷撃の余波が、しかし俺には効かない、だが何かの破片らしきものが体に当たってくるっ……!
……目を開けると辺りは黒煙に包まれている、しかしワルドは無事だ! やや遠くの場所にいる!
「なにっ? 一撃も当たっていないだと……!」
……それどころか、先ほど衝撃波で吹っ飛ばされた元老と、もうひとりが雷撃に倒れている……!
「馬鹿な、いくら鈍っていようとこの私が標的を外すとは……!」
「違う、デスブリンガーだ……!」
「まさか……?」
「いかんな、今後に支障が出る」
格納庫の天井が開く。雷撃に倒れたふたりをひとりが回収し、そのまま飛び去っていった。そして追撃を阻むかのように元老たちが一箇所に集まる……。
「……よし、これで九人」レオニスだ「勝機が見えてきたな」
……しかし、気配が急に消極的となったような? それほどまでにデスブリンガーとやらがやばいってのか……?
「……ゼラテア」
またいつの間にかゼラテアが側に……。
『あれは不吉を呼び寄せ、不条理や不可能を与える禁呪だよ』ゼラテアは笑う『生者が扱うには危険極まる術だが、いまの私には造作もない』
ようは相手を不幸にすると? 随分と凶悪な魔術だな……!
「やるな……」元老のひとりだ「随分と鈍っているとはいえ、ここまで追い詰められるとは……」
『ああ、やっちゃうねぇ!』
そのとき、黒い何かが元老を掴んだ? あれは……ヴァッジスカルの腕かっ……?
『はははっ! 隙ありぃ!』
掴まれた元老はものすごい勢いで車両や航空機に叩き付けられ、地面に擦り付けられる……!
「下賤の屑めが!」
ヴァッジスカルに光線が直撃するが、光が散った! そして元老を掴んでいる腕は奴の右腕へと戻る……。
『元老ってこんなものぉ? まるで弱いじゃないか、いや、俺さまが強くなり過ぎちゃったのかなぁ?』
「ほざけぃ!」
また凄まじい雷撃が炸裂する! しかし……!
『あはははははははっ……!』
奴は意に介さず、元老を掴んだ腕をただ振る、振り回す! もの凄い速さでシェイクしている……!
「ちっ!」
別の元老が光る剣で奴の腕を両断しようと降臨するが、ヴァッジスカルの背部より現れるは光線銃! 激しい連射で元老の動きが止まる! さらに加勢が四人動くが、ワルドの黒い光がその初動を躊躇わせ、レキサルの矢がその隙を狙う!
怯む元老たち、そしてその内に……振り回されている元老から……血が飛び散っている……その形が崩れ始めている……!
『ハッハハハハハァ!』
「化け物め!」
元老のひとりが地面すれすれに滑走し、ヴァッジスカルの足元を狙う! 同時に上の元老も態勢を立て直し、光線を全て弾きながら急接近、同士討ちを狙って振り回される右腕をも躱し、背部の銃を切り落とす! そして足元を狙って滑走していた元老が輝く槍で胴体を貫いた!
『……おおっと、やるじゃないか!』
しかし奴の左腕が極端な曲がり方をし、光線銃を斬り落とした元老を捕まえる!
『こっちは壊れちゃったし、新しいので遊ぼ!』
投げ捨てられた元老は……シェイクされて骨や内臓が砕かれ尽くされたのか、ろくに人の形をしていない……。そしてまた死のシェイクが始まる……!
そしてこっちはこっちでまた戦いが始まっている!
「いくら手負いとて!」
レオニスの分身光の剣二刀流で、元老の片腕が飛んでいるっ!
「永らく前線を離れた貴様らに遅れを取るかっ!」
そして腹部を貫く! さらに両断したっ! またひとり、元老が減ったぞ……!
「くあああっ!」
向こうの元老が光の剣と槍でヴァッジスカルの腕を切り落とした! シェイクされていた元老は顔の各所から血を流し、フラフラとしている……!
九人中、ふたりは死亡、手負いも多い……!
「なんということだ……」
「やはり、再生直後に戦うべきではなかったのだ」
「あるいは望んだか……」
その一言に元老たちの視線が集まる。
「まだだ。まだ我々の使命は残っている。死に惹かれてはならない……」
そして、元老たちは後退していく……!
『おやおやぁ? 逃げるのかい?』
ヴァッジスカルは追撃しようとするが、ワルドやレオニスが動かないのを見てその足を止める……。
そして元老たちは去っていった……。勝利はしたが、レオニスはさすがに限界のようで座り込んでいる。レキサルも各所から血を流して息が荒い……。
そしてワルドの気配が……!
「ぐっ……!」
ワルドが片膝を突く!
「ワルド!」
「……そろそろ時間切れ、か……」
「そのようね」
……奥からクルセリアが現れる。
彼女はゆっくりと歩いてくる……。
「……逃げぬとは、覚悟を決めたか。よし、決着を……」
「……まだ、こだわるか」レオニスだ「……君も限界なのだろう……」
「……なんの、まだ使える部位は残って……」
「やめて」クルセリアが駆け寄る「お願い。こんな命ならあげるから」
「待て……」レオニスだ「やめろ、クルセリア……!」
「ごめんなさい。禁呪まで使わせてしまって。もっと早くに死んであげるべきだった。でも、元老たちは重大な事柄ならなおさら、口頭での言葉しか信じないから……」
ワルドは唸り、
「……本当なのか、要たる主の光臨が近いとは……」
「ええ、確かよ……」
「お前は……主がこの世界を救うと、それを望んでおるのか……?」
「……どうかしら。どうでもいいのかも。でも、すべきことがあることはいいことでしょう?」
「……お前のいうことは理解できん」
「すべきことがなければどこにいたらいいのか分からないもの。みんなそうじゃないの? どこにいるにも資格は必要よ。長期に渡ってあなたとの関係を保つには、あなたの仇にならなければならなかった。そうしないと、あなたはすぐに私のことなど忘れてしまう」
「……また、馬鹿なことを……」
「何者かでありたいとき、愛されるという資格は完璧だわ。私はそれが欲しかった」
「……いくらでも、得られたであろう、お前ならば」
「誰が私の何を愛したというの? 私には分からない」
「……そう、お前は愛なき世界の異邦人。それを求めたことが間違いだったのだ……」
ワルドの力が、急速に萎んでいく。
そして、彼は倒れ伏した……。
犠牲にした腕と足は漆黒に沈んだままだ……。
「……お前と私は間違い続けた。なんと無様で虚無的か……」
クルセリアはワルドを抱き起こし、膝枕をする……。
「……もう疲れた。怒ることに、憎むことに疲れた……。終わらせてくれ……」
「そう」クルセリアは優しい顔をした「そうしましょうか?」
「ああ……」
「そうね。一緒に死にましょう」
クルセリアは微笑んでいる……。
嬉しそうだ……。
笑って、いる……。
嬉しそうに……。
笑って……。
「待て」
……俺は、クルセリアにシューターを向ける。
「随分と、嬉しそうだな?」
クルセリアは俺の方など向かず、
「ええ、嬉しいわ」
……なぜだろう、いまになってようやく分かったような気がする。
彼女がダイモニカスと呼ばれている人種であることが……。
「……ワルド、聞け」
ワルドは、僅かに俺の方を向く。
「……レク」
「まだ人生はこれからだ。その呪いを解き、先へと進むべきだ」
「……私はもう、疲れたのだ……」
「駄目だ、起きるんだ。復讐を止めるのはいい。彼女を赦すのもいい。疲れたなら休めばいい。しかし、その有様は違うだろう? それじゃあただの放棄だ。どうでもよくなろうとしているだけだ」
「……これ以上、何をしろと?」
「生きるんだよ。眠るなら明日のために眠るんだ」
「……レク」
「ワルド、まだ何にも終わっちゃいない。このままだと世界が滅ぶかもしれない」
「……なに?」
「……失敗だった。いや、あそこで手を出せば終わりだったのかもしれない。しかし、俺はそれを目撃していた。責任がある」
「……何の話だ?」
「かつて人類を瀕死に追いやった悪霊たちがあの巨大兵器の内部で増えつつある。そして人類は元老院の思惑通り、追い詰められるかもしれない。ワルド、敵はいるんだ。どうか、手を貸してくれないか?」
「……敵が」
「ああ、いるんだ」
「……そうか。そうなのか……」
体を起こそうとするワルドをクルセリアが引き戻す……!
「いいえ、あなたの戦いは終わったわ。これからは生きるも死ぬも私と一緒よ。私だけでいいの」
「……いいや、私には友がいる」
そのとき……クルセリアが俺を睨んだ……!
初めて見る彼女の表情、恐るべき憎悪の形……!
『お邪魔かな?』
うっ、背後に、ヴァッジスカル……!
『まあまあ、あんたにゃ借りがあるっていうか、ちょっと利用された感もあるけど、結果オーライってことで!』
「ありがとう、助かるわ」
『同族のよしみってやつかね?』
「それはどうかしら」
『俺もあんたなんかどうでもいい』ヴァッジスカルは笑う『さあ、今度こそ決着のお時間といこうじゃないか!』