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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
108/149

オルメガリオス大聖堂

 昨日は来なかった。

 今日も来ない。

 きっと明日も来ないだろう。


                  ◇


『さあ諸君、準備はいいかな? 向こうだってさすがにこっちを認識してるだろうし、着いた途端に戦争になるかもしれないよぉ?』

 当然、大聖堂には強力な近衛兵がいるのだろう。こいつと決着の前に死ぬかもしれん……って、おおっ? この気配は……ワルドのものかっ? 上にいるっ……激しく動いている、クルセリアとレオニスのものもある……!

 なるほど、クルセリアも大聖堂に向かうつもりだったのか、そして彼女を追ってワルドも分離したこれに乗ってきたんだ!

『よし、そろそろだよぉ?』

 おっと、もうなのかっ? いつから分離し、動いていたのか分からないが、こんなに早く到着するとは……!

『突っ込むぞぉ!』

 突如、地震のように部屋が揺れるっ……! しかしそれも一瞬のこと、着いたのか……?

『さあ、せいぜい楽しむとするかねぇ! みんなも好き放題やっちゃいなよ!』

 ヴァッジスカルはその身に似付かぬ鼻歌を歌い、通路の方へと姿を消した。慌てて追おうとすると、

「おっしゃ! 始めようぜ!」

 奴の腕が飛んでくる! そして俺の肩を掴んだ!

「はっはー! 油断しやがってバカが!」

 ……ああ、ちょうどよかったな。

「ところで、お前の名前、なんというんだ? 俺はレクテリオル・ローミューンだ」

「ああっ……?」

 ……そして僅かな沈黙。電撃バカは少し横を向き、

「……ガークル・イースト」

「そうか、電撃ありがとよ」

「あんだとっ? 調子コイてんじゃねーぞオラァッ!」

 強烈な電撃がくるっ……!

 おおお、きたきたきたぁ……! 力が湧いてくるぞっ……!

 分かる、先の動きがはっきりと、そして白い鳥が飛ぶ……!

 この鳥は……この鳥がいる限り、

 自信がある!

 俺は負けないっ!

「とどめだオラァアアアアアッ」

 また真っ直ぐにかっ飛んでくる、撃ち抜くことは造作もないが……殺して終わりになどしまい! 狙った場所に鳥が飛んでいく、追い掛けるように駆ける……!

「おおおっ!」

 蹴りだっ、カウンターで入る、手応えありっ! 顎に、かなりいいところに入った!

「どうだっ?」

 ……ガークルは布切れのように倒れ伏し、そのまま沈黙する……。

 おおお、あの鳥のお陰か、ここまであっさりと意識を刈り取るとは……。

「まああ、やるわねぇ!」おっと、大男だ「でもアタシらはやらないわよ、用があるのは向こうだからね!」

 そうして大男と軍人は通路を走って行った……。

「行こう」レキサルだ「元老の顔とやらを、私も見てみたい」

 レキサルは奴らを止めようとしなかった。そうだろうな、セルフィンにとっては元老院の方がよほど危険な存在だ。

 通路を進むと、先にぽっかりと口が開いている。いつの間にかワルドたちの気配がない。戦場を移したか?

 そして外に出ると……そこは大理石の石畳が広がる空間、広いな、宮殿か何かのホールのように思えるが、栄光の騎士いわくここは辺境の地らしい。そんなところにこんなものを……。

 振り返ると背後は壁、しかし俺たちが乗ってきたアフロディーテの一部がそれを突き破っている。分離したのにやはり円盤状だ、どういう構成になっているのだろう?

 ふと、遠くから交戦の音が聞こえてくる。もちろんヴァッジスカルたちと近衛兵が衝突しているんだろう。

「なるべく戦闘は避けたい、慎重に行こう」

 ホールには美麗な銀細工を施したドアがいくつもある。そしてそのひとつが派手に吹っ飛んでいる。奴らが通った後だろう。加勢するつもりはない、俺たちは別のドアを通ることにする。

 その先はこれまた見事な造形の石造りの通路、様々な動植物を模った彫刻が施されている。ところどころランプが掛けてあるが、その割にとても明るいので、ランプ型の照明器具なのだろう。窓は一切ない。

 しかし近衛の気配がないな? みな奴らの元へ向かったのか? まあ、戦いにならないならその方がいいか……って、いや? 前方から人影が?

 ……白い、軍服のようなものを着た黒髪の男だ。長髪を後ろに撫で付けたような髪型、どことなくデヌメクっぽいな。

 ……しかし、気配が薄いな? この活性状態でこれとは、相当な手練れなのかもしれない……。

「ようこそ、オルメガリオス大聖堂へ」

 男は微笑む。なんだ、敵性がない?

 ……いや、ここは元老院の中枢で俺たちは侵入者だ、そんな訳がない……!

「元老たちに会いに来たのでしょう? どうぞ、付いて来て下さい」

 男は、先を歩き始める……。

「……待て、あんたは?」

「相談役ですよ」

 相談役と名乗った男は先へと進んでいく。その割には妙に若いような気がするが……?

 レキサルと顔を見合わせる。しかしアテはない、ついて行くしかないか……。たとえ罠でも、ハナから覚悟の上のことだしな。

「……元老たちは、なぜここに集まる?」

「私にその意思を伝えるためにです」

 ……なんだ、それは?

 途中、いくつものドアの前を横切る。随分と部屋数があるようだな。そしてその内のひとつに入るとそこは大量の蔵書が収められている図書室だった。そこを通り、隣室に入るとそこは執務室らしい、立派な木卓には銀縁眼鏡の男、俺たちの来訪にさぞかし驚いたようで、口を開けたまま硬直している。そう遠くないところでは戦闘が起こっていることを知っているんだろうか……?

 ちらりと見えた卓上には書きかけの書類があり、彼は羽ペンを手にしている。壁には絵画が、なんだか故郷の屋敷のようだな……。

「失礼」

 相談役の男は彼に微笑みかけ、先にあるドアを進んでいく。俺たちも後を追うが、騒がれることはなかった。

 さらにいくつか部屋を通り、辿り着いた先は寝室、簡素な家具が並んでいる。男の着ている軍服っぽい服がいく着も掛けられているので、彼の寝室なのかもしれない。

「こちらです」

 ……おっと、本棚が沈んでいった? 同時にその先がライトアップされ、下り階段が窺える。男は降りていく……。

 そこから急に周囲の雰囲気が変わる。宿の地下にあった施設と同じ雰囲気、白く未来的かつ清潔な通路だった。床と壁、天井の境目が輝き、通路は明るい。

 ……そして奥に、複数の気配を感じる。近衛兵か、あるいは……いや待て、この気配は……!

「……レオニス」

 そういえばクルセリアと共闘していたな、奴もここへ来たのか、聖騎士団として立ち阻むつもりか……?

「どうやら侵入したようですね。困ったことだ」

 それは……レオニスのことか? ともかく相手にするとなるとかなり厄介だな、この活性状態に加えてレキサルの助力があっても勝てるかどうか……。

 俺たちは通路を進んでいく。奴の気配に近付いていく。そしてその先に……いたな、レオニス……!

 しかし、その姿はボロボロだ。服は敗れ、埃で汚れ、各所から血を流しており、廊下に座り込んでいる。

「レオニス・ディーヴァイン……」

 彼はこちらを見やり、にやりと笑む。

「あの子は孝行娘だ、私にこのような機会を与えてくれるとは」

「……機会だと?」

「君たちも奴らを始末しに来たのかな?」

 ……なに?

「俺たちも、とはどういうことだ? まさかあんたも……」

「ああ、そうだ」レオニスはいとも容易く頷く「彼らにはそろそろ退場を願う」

「なぜだ、狂っているからか?」

「いいや、どうであろうとも関係はない。私は最初からずっと、元老の座を狙っていた。よくあるクーデターだよ」

 レオニスはふらりと立ち上がる……。

「君たちは元老の座などに興味はないだろう? なぜ、ここへ?」

 元老を裏切ったレオニスに対し、相談役の男は怒気も敵意も見せない。ただ、難しい顔をしているだけだ。

「もちろん、セルフィンの将来について」レキサルだ「誠実な返答を貰いたく思い、ここにいる」

「そうか、なるほど」

「……もし、あなたがすべてを掌握した際に、セルフィンをどうするつもりだ?」

 レオニスはレキサルを見やり、

「その不安から解放しよう。約束する」と、真っ直ぐに断じた。

 ……嘘をいっているようには感じない、な……。

「確約しよう。私が元老となった暁には、世界をもっとよくすることを」

「あんたは……」

「いいだろう」レキサルだ「私は、あなたに手を貸そう」

 なに……?

「レ、レキサル?」

「いくら狂っているとはいえ、元老院が外界に大きな影響力を持つことは事実だ。となれば、破壊して終わりという訳にはいかない。それはただの無責任だ。ゆえに、誰かがその役割を受け継ぎ、よりよい未来を目指さねばならない」

 レキサルは俺を見やる。

「例えば君でもいい。私はセルフィンへの攻撃を望まない。それを約束してくれるのならば誰であっても賛同するし、できるだけの協力もしよう」

 ……そうか。

 ……そうだな、あんたの立ち位置はそうだろう。

「しかし……」

「納得がいかんかね?」レオニスだ「まあいい、元老に会ってからでも遅くはあるまい」

 そしてレオニスは歩き出す。俺たちは後を追う。

 この先に複数の気配が集まっている。先ほどよりまるで動きはない。待ち構えているようにも思えない。しかしこれが元老たちのものだとしたなら……なぜ、逃げ出さない?

 そんな疑問の答えは近い。大きく重厚なドアが現れた。

「破壊しても構わないが?」

 その言葉に、相談役の男は鼻を鳴らす。

 そして彼が手をかざすと、ドアがゆっくりと開いていった。レオニスは笑う……。

「ご機嫌はいかがかな? 元老どもよ」

 ……そこは広く、薄暗い部屋だった。円を描いた巨大なテーブルの各所に人影が収まっている。

「貴方たちが反旗を翻すことは予測されていた」相談役の男だ「それでもなお、この場を離れなかった彼らの意思を汲み、粗暴な振る舞いはよしてもらいたい」

「はっ」レオニスは肩を竦める「まるで野盗扱いだな」

 ……暗がりでも分かる、その誰しもがかなりの高齢……。揃ってローブに身を包み、じっと眼前に投影されている画像を見つめ、なにやらボソボソと呟いている……。

 周囲にも無数の映像が浮かんでいる。そのどれもが誰かを映している。監視している……。

「見たまえ、これが元老の実態だ。十二人の老人と、ひとりの男」

 そう、あの男は何者なんだろう? 相談役にしても、やはりあの異様な若さが気になるが……。

「きた、か……」そのとき、人影のひとりが顔を上げた「こちら、へ……」

 相談役の男が俺を見やり、促す……?

 ……なに? なんで俺を向かわせようとする……?

「貴方のことです」

 ……どうやら、間違いなく俺のことらしい。レオニスもじっと俺を見つめている……。

 なんだというんだ? やばそうなビジョンは視えない、ここにきて罠もクソもないだろうが……。

 恐る恐る元老であろう人影の元へ向かうと、彼が顔を上げた。

 ……痩せた老人だ。眼窩は落ち窪み、瞳は濁っている。肌は枯れ木のように皺がはしっている。多少、垣間見える髪は真っ白だ。

「……彼はまだか……?」

 ……なに?

「お前のところに戻っていないのか……?」

 ……いったい、何の話だ?

 年齢的に、もうろくしていてもおかしくはないが……。

「あんたたちが元老、か……」

「彼は……彼はまだか……」

 元老は俺を見つめ、ひたすらにそう尋ねてくる……。

「……さっきから何の話をしている? 彼とは?」

「無論、ハイ・ロードだ……!」

 その時、元老が俺の腕を掴む……!

「まだか、まだなのか……! 時は近いのだ……!」

 なんだ、ハイ・ロードがどうとか、そんなもん、俺に聞くな……!

「妄言はよせ……!」俺は手を振りほどく「それより、セルフィンへの侵攻を即刻止めさせろ! あんたらの計略のせいでどれほどの血が流れたと思っている!」

 その元老は口を開けたまま俺をじっと見つめ、

「相変わらずだな、ゴッドスピード……。お前は局所的な視野しか持とうとしない……」

 ゴッドスピード……? 何だそりゃあ、まるで人違いじゃないか……!

 ……しかしその名はつい最近……。

「善悪は知性の中だけの出来事に過ぎん……。ありとあらゆる不条理は……すべてそうあるのみ……」

 なにっ……?

「これはお前が言い出したことだろう……。なぜ、今更に善悪に拘泥する……?」

 こっ……これは……?

 ……いや、ヴァッジスカルやソルスファーとの話を聞いていたのか? 歳でいろいろ混ぜこぜになってしまっている……?

 まさか、ボケているってか……? 冗談じゃないぞそんなの……!

「……あんたたちは、何を求めている? ヨデル・アンチャールは騎士としての座を捨て、支配に拘泥していると罵っていた。裏切りを恐る余り、狂ったとも。あんたたちは自身のしていることに……」

「……玉座には、相応の……土台が必要なのだ……」

 奥から別の元老の声がする……。

「……我々はそれで一度、失敗をした……。分かるか、それはこの星の民すべての罪なのだ……!」

 また要領の得ない話を……!

「その土台がなんだというんだ? その玉座に座っているのがあんたたちではないのか?」

「おやめ下さい」相談役の男だ「言葉にはお気を付けて」

 言葉遣いがなんだ!

「答えろ、なぜ殺戮をさせるっ! 世界の誰しも、お前たちの狂気に付き合っている暇などないんだっ!」

「我々がハイ・ロードを殺したのだっ……!」

 元老のひとりが叫んだ……!

「その重要さに気付いていた者たちはごく僅かだった……! それ以外の愚者たちが、こぞって彼らを殺めたのだ……!」

 そして元老たちは懺悔をするかのように、その顔に、その挙動に苦悩を現す……!

 なんだいったい? なんだっていうんだ……。

「どうか、落ち着いて」相談役の男だ「敬意をお忘れなく」

「あ、ああ……」

 ……そうだ、相手は高齢の老人なんだ……。

 俺は、深呼吸をする……。

「……なるほど、かつてそういうことがあり、あんたたちが深く懺悔しているということは分かった……。しかし、それほどにハイ・ロードが重要なのか? なぜ、あんたたちで理想的な世界を目指そうとしない? 各国に影響を与えられるほどの力があるんだろう?」

 ……最初に話し掛けてきた元老が答える。

「理想など誰しもが抱いている……。それでも、いや、だからこそか、混沌としているのが世界というものなのだ……。それは宿命といっていい……おいそれと変えられるものではないのだ……」

 そしてまた別のところから声がする。

「……理想の世界、そんなものはない……。理想郷も楽園も既に遠く、我々は亡び去ることだろう……。そして遥かな時が流れ、楽園の住人は我々という神話を紐解き、こう語るのだ〝なんて荒唐無稽な話だろう!〟」

 また違う方から声がする……。

「それが未来だった……。ならばこそ、煉獄の環から早く抜け出さねば……」

 そしてまた、別の方から……。

「虐殺が、殺戮がなんだというのだ? すべては予行演習に過ぎない……」

「なんだと?」

 また違う方向より声……。

「ヨデルか……。彼奴は本質を履き違えていた……。狂っているから部下たちを殺し合わせているのではない……。やがて来たる終末に向けて、滅びる為の予行演習なのだ……。彼奴は本気でハイ・ロードの騎士として活動していたと信じておった……。しかしな、騎士はまた別にいるのだよ」

 元老はまた、俺の腕を掴む……!

「エリヴェトラ・メザニュールは来ていないのか……? なぜ、側に付いていない……?」

 なにっ……?

 なぜ、エリの名前をっ……?

 そのとき「やはり……」とレオニスが呟いた。

 やはり……?

 セイントバードばかりが目的だったのではない……?

「彼女は使徒に違いない……」

「聖母の器やもしれん……」

「守らねば……」

「いいや、危険に見舞われねばその力も開花すまい……」

「殺されたらどうする……? また輪廻転生を待つのか……?」

「危機を乗り越えてこそ、生きる力も身に付くはずだ……」

「むしろ俗世に置く方が危険だ……」

「かの地へ向かったのも運命だ、下手に干渉すべきではない……」

「そういった意味では……カルオ・レセキ、彼が最も危ない……」

「そう、早くしなければ……」

「レ・ホーの様子も怪しい……」

「ゴッドスピード……」

「あのお方はまだか……」

「まだ、お前の元に現れないのか……?」

「かれこれどれだけ待った……?」

「あるいは、幾度も幾度も、我々のあずかり知らぬところで……」

「なんと恐ろしい……!」

「あってはならない……!」

「しかし、あの方は昨日も来なかった……」

「あの方は、今日もまだ来ていない……」

「きっと、明日も来ないだろう……」

 ……うっ? そ、その言葉は……!

「昨日も来なかった……」

「今日も来ていない……」

「明日も来ないだろう……」

 こ、これは……。

 まさか、エオの話にあった……。

「昨日も、来なかった……」

「今日も……来ていない……」

「……明日も来ないだろう……」

 そして元老たちは苦悶にその身を歪ませ、嗚咽する……。

 幾度も、幾度も、同じ言葉を繰り返す……。

 思わず後退する、元老たちは苦悶に揺らぎ、嗚咽が響く……。

 気付くと、背中に壁が当たっている……。

 元老たちは懺悔に喘ぐ、影が踊るように呻いている……。

 なんだこれは……。

 これが、世界を支配する元老の実態だと……?

 狂っている……?

 だとしたら、それは……哀しみによってだ……。

 なんて哀れな……。

 なんて……。

「もういい!」

 そこに、レオニスの怒号が響く……!

「ハイ・ロードなど来ぬ! 貴様らとて権威の屍よ! それより中枢はどこだ? もうろくした貴様らだけで世界に暗躍などできまい! スミスがいるはずだ!」

 スミス……。

 クリエイションマシンのあれか……?

「知っているのだぞ、ここにスミス1がいることを! 1はスミスの中でも最高の知能を誇る、正確な情勢予測も可能なほどにな! とどのつまり権力は実質、奴が握っていると見ていい、貴様ら老いぼれはスミスを使って、わざわざこの不穏な情勢を生み出しているのだ! 懺悔をするならばそのことそのものにせよ!」

「スミスはあくまでサポート役に過ぎません」相談役の男だ「行動を起こす意志力はあくまで人間によるものでなくてはならないのです。貴方の意志力がこの元老たちを凌駕すると? それは傲慢ではないですか?」

「ほう? この私がこの老いぼれどもに及ばぬと?」

「貴方の上昇志向は素晴らしい。男性的であり、力強さに満ちています。しかし、その魅力は頂に辿り着かぬからこその輝き、実権を手にしたとてその先にあるのは虚無でしょう。貴方は世界の平定に飽き、さらなる上を目指し始めるに違いないのです」

 男は天井を指差す。

「虚無を嫌った貴方はやがて、本格的な中央攻略を目指すことでしょう。そして同時に宇宙へと想いを馳せるはず。そう、実権で世界をまとめ上げ、人類を新たなステージに引き上げようと計画するのです」

 レオニスは眉をひそめた「まさか貴様が……」

「よいかもしれない、それも。人類をひとつにし、世界を変えるのです。そんな理想も美しい。ですが、その偉大なる事業は私の手には負えないでしょう。世界をひとつにまとめ上げるだけで精一杯なのです。その先の次元までは手を貸せない」

「お前が、スミス1……」

「その先に何があるのか、私には分かりません。ですが、大気圏外に何かがあるのは確かです。何か、とてつもないものが……」

 相談役の男、スミス1は元老たちを見回す……。

「しかし、我々には不可能だとこの方々は考えています。あくまで次世代に託すべきだと……」

「次世代って……?」

 思わず尋ねると、スミス1は俺を見やった。

「エリヴェトラ・メザニュール、カルオ・レセキ、レ・ホー。現時点ではこの三名が最有力候補として挙げられます。そして私は貴方にも興味を抱いています。貴方だけがこの三名と深い親交を果たしているのですから」

 なんだと? カルオなんとかは知らないぞ……?

 ……いや待て! この気配は……!

「カルオ・レセキだと?」レオニスだ「それはどのような人物だ?」

「知らん、それより……!」

「……まあいい、スミス1よ、こんな老人どもなど捨て、私に協力しろ。その方が人類のためだ」

「……非常に難しい問題です。すぐには……」

『じゃあ、簡単にしてあげるよ!』

 来たか、ヴァッジスカル!

『ここで生き残った奴にしたらいいさ!』

 くっ、くそっ、どうするっ?

 いくらこの元老たちとて、戦闘に巻き込んでよしとは思えん……!

「今取り込み中だ! 下がっていろっ!」

『はっはっは! お前ならそうくると思ったよ!』

 まだ話は終わっていない、奴に殺させる訳にはいかない!

 なにより、最初からお前とは決着を付けるつもりだったんだ!

 ここで終わらせてやる……!

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