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死神機兵の太陽戦争-煉獄のプロミネンス-  作者: 小説書こう


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48話アルテミット・スレイ

最初に動いたのはダリアだった。

プリズラクが霧に溶け込むように姿を消し、次の瞬間、ザンギエフのアイアン・ベアの側面に現れる。大型のナタが高速で振り下ろされた。


『チッ!』


ザンギエフは巨体を回転させ、肩部の複合装甲でそれを受け止める。激しい金属音が響き渡り、闇の中に火花が飛び散った。直後にレフが精密射撃を放つが、プリズラクはすでに霧の奥へと姿を消している。


「霧を利用したヒットアンドアウェイ……! 厄介!」


わたしはニルヴァーナの推進器を噴射し、エアリオンの死角へ回り込もうとした。だが、エアリオンの雨覆羽が一斉に展開する。


「——来る!」


超高圧のエアーカッターが霧を切り裂き、無数に飛来する。まるで空間そのものを切断するかのような刃の嵐。


『散開!』


三機が同時に回避行動を取る。だが、エアーカッターの密度は異常だった。アイアン・ベアの左腕装甲が深く抉られ、レフの機体も背部を掠め取られる。


「この巨体……本気をだせば、本当に一個艦隊を潰せる」


わたしは歯を食いしばり、鞘から刀を抜いた。藍色の刃が霧の中で鈍く光を放つ。

その時、ダリアが再び姿を現した。今度はわたしの真正面だ。


「まだ諦めないの、アイッ!」


「当たり前でしょ!」


二機が激しく激突する。刀とナタが交錯し、火花が鋭く飛び散った。養成機関時代に何百回と交わした刃の感触が、手を通して鮮明に蘇る。だが、今のダリアの一撃は明らかに重い。任務への凄まじい執着が、そのまま刃に乗っている。


「あなたは……変わったわね」


「そっちこそ」


斬り結ぶ刹那、わたしはダリアの動きの端々に、かつての同期の面影を見た。それでも、今は譲れない敵だ。


その時だった。


——ズゥゥゥゥン……!


渓谷の上空が、歪むように歪曲した。

センサーが悲鳴を上げ、計器を一斉にレッドゾーンへと叩き落とす。アルテミシウム反応と温度計が、見たこともない異常値で跳ね上がっていく。


『なんだ、この反応は……!?』


レフの裏返った声が通信に響く。

次の瞬間、濃霧を強引に突き破り、純白の機体が戦場へと舞い降りた。


アルテミス・レイ。


ヘリオスフィアの禍々しい赤黒い光を全身から溢れさせながら、重力を無視したかのように中央へ着地する。その衝撃波で周囲の霧が一瞬で吹き飛び、足元の岩盤が豪快にひび割れた。


「……おじさん」


わたしは思わず呟いていた。

だが、あのアルテミス・レイの挙動に、かつてのリーカスの意志は微塵も感じられない。ただ純粋な破壊の衝動だけが、巨大な機体を支配していた。


アルテミス・レイが最初にターゲットとしたのは、最も膨大な質量を持つエアリオンだった。

赤黒いエネルギーの奔流が一直線に放たれる。エアリオンは雨覆羽を展開して防ごうとするが、エアーカッターごと吹き飛ばされ、その巨体が大きくのけぞった。


『くそ……! あの化け物が乱入してきたか!』


ダリアの声に、初めて明らかな焦りが混じる。

プリズラクがエアリオンの前に躍り出ると、ナタを構えてアルテミス・レイへ肉薄した。だが、アルテミス・レイは大剣を一閃させただけでプリズラクのナタを弾き飛ばし、そのまま機体を猛烈な勢いで吹き飛ばす。


「ダリア!!」


わたしの叫びが響く。

プリズラクは岩壁に激しく激突し、装甲の隙間から激しい火花と煙を吹き上げた。駆動系が全滅しているのは一目で分かった。

それでもダリアは機体を起こそうとするが、アルテミス・レイが無慈悲に一歩踏み込んでくる。


「……っ、ここまでか」


ダリアの低く静かな声が、通信越しに届いた。


「シェリル隊長……聞こえますか?」


『ダリア! 大丈夫!?』


エアリオンのコックピットから、シェリルの悲痛な声が返る。


「私はもう動けません。エアリオンを……ヒノモトへ運んで下さい……」


『何を言ってるの! あなたを置いて——』


「行って下さい!!」


ダリアが初めて、感情を爆発させて叫んだ。


「私のことはいい! エアリオンだけは、絶対に失わないで下さい!ヒノモトを……あの国を真っ向から叩けるのは、あれしかないんですから!」


アルテミス・レイが再び赤黒いエネルギーを集束させ始める。不気味な光が渓谷全体を染めていく。

シェリルが一瞬、沈黙した。

そして、絞り出すように応じた。


『……わかった。必ず、戻る』


エアリオンの巨大な推進器が爆発的な出力を叩き出した。雨覆羽を畳み、滝の水流を力任せに巻き上げながら、機体が急速に上昇を開始する。アルテミス・レイが追撃の構えを見せるが、エアリオンは一瞬で霧の上層へと消え去った。


大破したプリズラクのコックピットで、ダリアは静かに目を閉じる。


「……ごめん、アイ」


短い一言を残し、プリズラクの駆動音が完全に途絶えた。


アルテミス・レイは追撃を諦めたように、ゆっくりとこちらへ向き直る。赤黒く濁った視線が、ニルヴァーナをしっかりと捉えていた。


「……来るよ」


わたしは刀を固く構え直した。

レフとザンギエフが、無言のまま両脇へと並び立つ。


深い霧の中、遺された三機と、一機の魔機が静かに対峙する。

そして、アルテミス・レイが、力強く踏み出した。

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