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第五話 裏切りと選択


夜明けが、近い。


空が、わずかに白み始めていた。


「……急がねばな」


小さく呟くのは、

徳川家康


その声に、焦りはない。


だが、時間がないのは確かだった。


「この先を抜ければ、伊賀の領域に入る」


影丸が言う。


「あと少し――」


その時だった。


気配が、揺れる。


「止まれ」


影丸の声。


全員が息を止める。


静寂。


だが――


「……遅かったな」


聞き覚えのある声。


闇の奥から、ゆっくりと姿を現す。


猿飛佐助


「今度は、見逃さねぇ」


その言葉に、空気が凍る。


「……何が望みだ」


影丸が問う。


佐助は、笑う。


「簡単だ」


一歩、前に出る。


「その男を、置いていけ」


視線が、家康へ向く。


「……っ」


家臣たちが息を呑む。


「命だけは助けてやる」


静かな声。


だが、その裏にあるのは“確実な死”。


「……影丸」


お凛が、わずかに声を落とす。


その意味は、分かっている。


この状況で戦えば――


全滅。


「判断しろ」


佐助の声が、静かに響く。


「お前は、任務を優先する男だろ?」


影丸は、動かない。


ただ、立っている。


「……そうだ」


低く、答える。


「任務だ」


その一言に、すべてが詰まっていた。


お凛の指が、わずかに震える。


「なら――」


佐助が口を開いた、その瞬間。


「ならば尚更、捨てられぬ」


影丸の声が、それを遮った。


一瞬、空気が止まる。


「何?」


「この方を生かすことが任務だ」


一歩、前に出る。


「任務を、曲げる気はない」


沈黙。


張り詰めた空気。


そして――


佐助は、ゆっくりと息を吐いた。


「……やっぱりな」


どこか、納得したような声。


「つまんねぇ選択だが――」


次の瞬間。


殺気が、消えた。


「嫌いじゃねぇ」


そう言って、佐助は背を向ける。


「行け」


誰も、動かない。


「今なら、まだ間に合う」


振り向かないまま、言った。


「……何故だ」


お凛が問う。


佐助は、少しだけ笑った。


「さあな」


「ただ――」


一瞬だけ、言葉を切る。


「そいつを生かす価値、見てみたくなった」


それだけだった。


次の瞬間、姿は消える。


完全な静寂。


風が、流れる。


「……進む」


影丸が言う。


誰も、異を唱えない。


そのまま、一行は動き出す。


そして――


山を越えた先。


朝日が、差し込む。


伊賀の地。


「……着いたか」


家康が、小さく息を吐いた。


生き延びた。


それが、すべてだった。


影丸は、何も言わない。


ただ、静かにその場に立つ。


名もなき影として。


歴史に残らぬ者として。


だが――


確かに、この夜を


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