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114 どうしよう

「お前が決勝進出者!? 今度はどんな汚い手を使ったんだ!!」


「失礼なガキだ……俺は汚い手など何も使っちゃいない。実力だけでここまできた、ただそれだけだ」


 アニマは俺の発言に舌打ちをするが、すぐに鼻で笑いやれやれと言った表情を浮かべた。


 むっかつく態度とりやがって!! 一発ぶん殴ってやろうか!? おぉん!?


 しかし俺はこんな事では切れたりしない……なぜなら、見た目は子供頭脳は大人、その名はバハムートの宅配便のアルトちゃんだからだ!!


 安い挑発などには乗らないのだ。


「へっ!! 汚ねぇ金貸し屋がそんなこと言ったって信用なんか……!!」


「アニマの実力は本物よ」


「シアン!?」


 俺の発言に割って入ってきたのは、ゴスロリ娘のシアンだった。


「彼は別名『楽器コレクターアニマ』といわれ、どんな楽器にも精通している生粋の楽器マニアよ。更に彼の手にかかればどんな楽器でも素晴らしい音色を奏でる名器になるほどの腕を持った奏者としても実力がある猛者よ……決勝に進出する力は十分にあるわ」


「シアン様よりお褒めの言葉を頂けるとは、嬉しい限りですね」


「マジかよ……」


 まさかシアンがこいつをかばう発言をするとは思っても見なかった。


 というか、こいつそんな実力があるのか?


「でもあなたは、楽器収集の為の金貸し屋で表舞台には出てこない裏の実力者のはずだったんだけど……どういう音の吹き回しかしら?」


 シアンが腕を組みアニマを睨みつける。


「こちらとしてもひっそりと商売していたかったんですが、少し世の中の事情が変わりましてね……」


「……まぁいいわ。ただ、演奏技術では優勝できないということを教えてあげるわ」


「これはこれは手厳しい……シアン様に認めて頂けるように全力を尽くします」


 2人とも不敵に笑いあったのちに無言でリハーサルの準備に取り掛かり始めた。


 なんだこの2人のピリっとした緊迫感は……。


「……蚊帳の外感、半端ないな」




 * *




 円形ステージの三方向に、それぞれのチームが準備を整え、リハーサルが始まった。


 先に始めたのはピアノを用意するだけの俺たちだった。


 今回はスピーカーは使わずに、いつものように歌ってみた。


 広いドーム状の形状からか、スピーカーを使わずとも声が良く反響して歌声が隅々まで届くように広がっていく。


 子供達も少し緊張していたが次第にいつもの大きく張りのある歌声に戻り、しっかりと歌いあげた。


 声を出して落ち着いたからなのかみんなの顔に自信がみなぎっている。うん、いいね。これならば明日の本番でも大丈夫だろう。


 俺たちのリハーサルが早々に終了した後、2人のリハーサルが始まった。


 そこで、俺は驚愕した。


 正直2人のパフォーマンスは、俺たちの物とは比べ物にならなかったのだ。


 今回はリハーサルなので音風やスピーカーの使用ができない状況下ではあったが、歌唱力、演奏技術、演出が今まで戦ってきた奴らよりも桁違いだ。


 アニマのチームは様々な楽器を用いて合奏を主とするスタイル。


 アニマのギター演奏の技術には敵ながら聞き惚れてしまうほどの技術と熱意が伝わってきたし、他の奏者もそれに負けず劣らずの奏者ばかりで世界最高峰のオーケストラを聴いているような感覚だった。


 それに比べ、シアンはまさにアイドルだった。


 抜群の歌唱力を武器に、見る者を圧倒させる演出と、ステージを端から端まで使い切る仕掛けがとにかく盛りだくさんで、子供達はリハーサルなのに夢中で応援してしまっていた。


 おい!! ムート!! なんでお前まで子供達に混ざって楽しんでやがる!? こっち来い!!


 ぐぅ……やばい。あの2人にしてみれば俺たちの合唱なんて幼稚園の発表会レベルだ。


 レベルの違いを実感したのは俺だけではなく、キーキさんとラーラさんも表情が冴えない。


 あのパフォーマンスを見たらそうなるよね、なんで俺たち決勝まで来れたんだろうって思ってしまうよ。


 軽く弱気になっていたら。


「いやいや、あの箱が無ければここまでとは……クックック、これは決勝が楽しみだ」


 リハーサルを終えたアニマが部下を引き連れ、口元を緩めながらこちらに歩いてきた。


「なんだ!? 嫌味でも言いにきたのかよ!?」


 俺はアニマに斜に構えて臨戦態勢をとると、子供達とはしゃいでいたムートもストンと頭の上に戻ってきた。


「おっと、俺たちが戦うのは明日であり、戦法は音楽だ勘違いされちゃかなわないな。まぁ肉弾戦を好む野蛮なガキにはそれしか無いか」


 アニマが口元に手添えてクックックと笑った。


 いちいちムカつく奴だなこんちくしょう!!


「ふん! どんなに演奏が凄かろうが、俺たちの音玉の前では無意味!! 首洗って待ってろ!! 全て蹴散らしてやるぜ!!」

『そうだ! 蹴散らしてくれるわ!! ガハハハハハ!!』


「ふふふ……せいぜい楽しみにしてますよ」


 アニマはニヤリと笑いながら踵を返して、ステージを降りていった。


 そして、入れ替わるようにシアンと巨乳メイド様のパレットさんがこっちに向かって歩いてきた。


 興奮した子供達はすぐに走って迎えに行ったけど、パレットさんが優しく制止させていた。


 あぁ俺のイラついた心を速攻で浄化してくれるのは、このたわわな果実を鑑賞することでございます。


 いやー本当素晴らしい実り。眼福眼ぷ……あ、いや……ソプラさんごめんなさい、そんな目で見ないでください、申し訳ございません。


「シアン様、明日はよろしくお願い致します」

「実力不足ではございますが、精一杯やらせていただきます」


 キーキさんとラーラさんがシアンに向かって深々とお辞儀をするが、シアンはすぐさま顔を上げさせた。


「決勝まで勝ち上がってきたのだから実力不足ではないわ自信を持ちなさい。ただ、このステージで戦うのだから手抜きはしないわ。お互い全力で戦いましょう」


「「ありがとうございます!!」」


 シアンはニコリと2人に微笑みかけ、キーキさんとラーラさんもとても嬉しそうだった。


 やっぱりシアンはナカフのアイドルなんだなぁ。


「それとあなた!」


「ん?」


 シアンが右腕をビシッと伸ばして、俺を指差してきた。


「さっきのアニマとのやりとり聞いてましたけど、あなた決勝の対戦方法ちゃんとわかってますの?」


「ん? 今までと何か違うのか?」


「呆れたわ本当に知らないなんて……いい? 決勝は今までとは違い1チーム毎の発表形式になるんですのよ。いくらあなたの音玉がすごかろうが、妨害そのものができないから意味はないのよ?」


「へ?」

『ぬ?』


「あれ? アルトちゃんもしかして知らなかった!?」

「凄い堂々としてたから決勝にもなにか秘策があると思ってたんだけど!?」


 キーキさんとラーラさんの表情がスーっと青ざめていく。


「え……いや……その……」

『どういう事だ? アルト?』


「これは完全に無策だったわね……」

「アルトちゃん何も考えてなかったの!?」

『クックゥ……』


「だ……大丈夫だよ! なんとかな……る……はず……」


 決勝だけそんな事ってあるかよ!? やっべぇー!! どうしよう!?

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