111 キーキの思い
決勝進出が決まり、俺たちは教会でプチ祝賀会をしていた。
「決勝進出なんて夢みたいだよ! これもアルトちゃんのおかげだね!」
「ラーラさん!? ちょ!? 酒くさ!! 教会内は禁酒じゃなかったのかよ!?」
「らいじょうぶよ、前祝いなんらから!!」
『そうだ! 騒げアルトよ!!』
「こっちも臭え!!」
「ミーシャ! 飲み過ぎだよぉ」
『クックゥ……』
おいおい……子供達が寝たからってハメ外しすぎしゃないか?
まぁ、浮かれるのもわかるよ。今まで貧乏教会の孤児だった子供達が、四年に一度の大イベントの決勝にまで残ったんだ、嬉しくないわけがない。
普通はこんな感じに浮かれるのが当たり前だよな。
だからこそ、あの人の態度が気になるんだよなぁ……。
俺は部屋の隅に座っている人に声をかけた。
「キーキさん……今日ずっと浮かない顔してるけど大丈夫?」
「え? あぁ……ごめんなさい。顔に出てたのね、なんでもないのよ」
そう言って俺にニコリと微笑んでくれたけど、この顔は明らかに作り笑い……。
こんな時は放って置けないんだよなぁ。
「よいしょっと」
「アルトちゃん?」
隣の席に座って片手でキーキさんの手を握り、ジッと見つめてみた。
「何かあるんでしょ? 小娘の俺でよかったら話くらい聞くよ」
「……あはは、アルトちゃんにはかなわないなぁ」
困ったような顔で笑うキーキさんは、少しずつ胸の内を話してくれた。
アルトちゃんの提案から始まった事だけど、まさか本当に決勝まで行けるとは思ってなかった。
魔道具も凄かったけど、子供達の毎日の練習の成果が出ていて内心は凄く嬉しいし、誇らしく思っている。
それでも優勝できるか不安で、伝統のピアノがこの教会から無くなってしまうかと思うと先代達に申し訳ない。
そもそも、自分の借金で音楽祭に参加することになってしまったのに、自分は歌うのが怖くて指揮棒を振るだけ……申し訳ないし、不甲斐ないと……。
「だから、みんなにお世話になりっぱなしで私……なんにも……」
そう言うとキーキさんはこぼれ落ちそうな涙をぐっと堪えて、肩を震わせていた。
やっぱりか……キーキさんは1人で考え込んでしまうタイプだから心配してたんだ。
俺はキーキさんの話を最後まで聞いた後、握っていた片方の手を両手で包むように握った。
「キーキさん……ありがとう」
「え?」
お礼を言われるとは思っていなかったのか、キーキさんが少しびっくりした顔で顔を上げた。
「俺なんかにちゃんと話してくれたでしょ?」
「あっ……いや、そうね」
「キーキさんが辛いのはよくわかるよ……俺も同じ立場ならきっと嬉しいけど悔しくて歯がゆいだろうし、こんな場にはいられないよ」
「……うん」
俺はキーキさんが落ち着くまで、ゆっくりと言葉を選びながら話を続けていった。
しばらく話をして落ち着いた頃、キーキさんに一言訂正を入れた。
「キーキさんは一つ間違ってる」
「え?」
「確かに子供達の最初のきっかけは借金返済の為だと思ってたけど、後から聞いた理由は全然違うんだ」
キーキさんは俺の話を真剣に聞き、こっちに耳を傾けている。
「みんなね……キーキさんが歌ってくれる曲が大好きなんだって」
「え?」
「お腹空いてるし、貧乏だし、辛い事も多いけど、キーキさんの歌があるから頑張れるんだって。
だからキーキさんが大事にしてるピアノだけは絶対に渡さないんだ! ってみんな頑張ってるんだよ」
「あの子達……」
キーキさんは口を手で覆って、目にはさっきと違う涙が溢れていた。
「みんなキーキさんが大好きなんだね」
「うん……ありがとう、アルトちゃん」
キーキさんはそう言うと、何か吹っ切れたように優しく微笑んでくれた。
これなら大丈夫だろう……俺もキーキさんの歌声は大好きだから決勝が楽しみ……。
「あー!! アルトひゃんがキーキはん泣かしてうー!!」
「「え?」」
突然の横槍に2人で声のする方を見ると顔を真っ赤にしたソプラが、指差しながらフラフラと近づいて来ていた。
「手まれ握って何ひてるのアルトひゃん!!」
「いや! これは違っ!? ってソプラ酔っぱらってる!?」
あわててキーキさんの手を離し、ソプラに駆け寄って支えると、ふわりと酒の匂いがする……。
「アルトひゃんあんなにみちゅめ合って……ちゅーするつもりだったんれしょ!?」
「違うよ!? なんでそうなるの!?」
頰を膨らませたソプラが俺の肩を掴み力を込めていく……。
あっこれ結構痛いやつ、ちょっソプラさん!? 痛いから!! 結構痛いからぁぁぁあああ!?
ミシミシと俺の肩が悲鳴を上げていく。
怒ってる!? ソプラさん激おこなんで!?
そんなソプラの行動に戸惑っていたら。
「ちゅーしたいならねー……」
「ソッ……ソプラさん!?」
万力のように力が込められていた手が解放されると同時に、その腕が首裏へとスルリと回されソプラと密接する。
目はトロンとして、高揚した頰が赤く火照り、プルンとした唇をツンと突き出しながら可愛らしさ満点の顔が近づいてくる!
「はうう!?」
俺は緊張してしまい直立不動のまま目を閉じるしかなかった!
えええ!? 嘘? こんな形でソプラと!!
俺の息くさくないかな? この場合抱きしめた方がいいのか? そもそも酔っているソプラからのキスはアリなのか!? そもそも事故みたいなものかもしれないしファーストキスとしてノーカン扱いなのか? 目閉じちゃったけど本当はめっちゃ見たい! でも、それってマナー違反かな? ソプラの事考えるともっと雰囲気あり所でしたかった気もするけどいいのかな?
走馬灯のように脳内で自問自答を行いながら、俺は全神経を唇に集中させ、その瞬間を待った。
そして、次の瞬間!!
ぽてん。
「ふえ?」
俺を抱きしめるようにソプラの顔が肩に乗っかっていた。
「あ、あれ? ソプラ?」
見ると、肩の上ではソプラのスー……スー……と言う寝息が耳元をくすぐってくる。
どうやら直前で意識が飛んだようだ……。
くっ、残念……。
でも、酔った勢いのキスなんてダメだろうし、これでよかったんだろう……。
しかし、この込み上げた気持ちはどうしてくれればいいのやら。
俺はため息を吐いて気持ちを落ち着けた後、キーキさんに頼んでいっしょにソプラをベットに運ぼうとしていたら。
「アルト! あんたも飲みなさい! 美味いわよ!」
「アルトちゃんも飲もーよー!」
『ぬはははは!たまには酒も良いものだ!』
『グッグフゥー』
ソプラをこの状態にした元凶供がへべれけでやってきた。
「お前ら! いい加減にしろぉお!!!!」
後ろで見ていたキーキさん
「あらあら、ソプラちゃん酔ってるかしら?」
「うふふ、アルトちゃん取られたかと思って妬いちゃったのかな?」
「え?あれ?うそ?……ドキドキ」
「しないのかーい!!」
1人ツッコミしていたキーキさんでした笑。
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