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109 派手な変態

「いやーまさか、こんな魔道具があるとは思わなかったよ!! アルトちゃん様々だよ!」

「ええ今までの常識が覆る、大発明ですよこれ!」

「すごかったねー!」

「音がどーんってなった!!」

「みんなのびっくりした顔面白かったぁ!!」

『ハハハハハ!! 中々良い音だったぞ童達!!』


 俺たちは教会に戻り、予選通過の歓喜に酔いしれていた。


 キーキさんとラーラさんと教会の子供達は、今日の一次予選とスピーカーの事で興奮して話が盛り上がっているようだ。


「アルト、あんた配達の最中にこんな物作れる人と知り合いになってたのね……国中回ると色々と面白い魔道具作れるやつがいるのね……」


「あんな大きな音が出るなんて思ってなかったからビックリしちゃったよぉ! これ作った人ってどんな人なの!?」


「えーっと……ド、ドワーフとエルフの知り合いにお願いしたら作ってもらったんだ!! 本当、技術の進歩って凄いよねぇ!! あははは!」


 とりあえず俺が思いついたって事は、はぐらかしたけど、実際作ったのは他の人だから間違いじゃないよね?


 スピーカーの調整なんかも入れたら結構ギリギリだったけど、なんとか間に合って良かった。


 スピーカーの箱はノーダのエルフ、シタージャさんに相談したら、腕のいい大工さんを紹介してもらい作ってもらった。


 立派な木造の寺を建立できる技術があったので、頼んだら面白そうだとノリノリで作ってくれた。


 出来上がりを見たら、注文していない塗装や装飾までガッチリ施してあった。


 どう見てもやりすぎだ……これ絶対職人に注文したら高いやつだ、と思っていたらたらタマリさんを救ってくれたお礼も兼ねて、という事だったのでありがたく受け取った。


 あと、配線やマイク・内部部品なんかはフーギンのドワーフ、モンクットさんに相談して紹介を受けたのが、ターニャさんに大食い勝負でぼろ負けしていた、バッケスさんとドリンガさんだった。


 2人ともフーギンでは指折りの金属加工の技術者らしく、マイクとスピーカーの構造などを説明すると、天魔石を使った新しい技術に目をキラキラさせて請け負ってくれた。


 報酬の話をしたら、ターニャさんとの再戦を告げられたので、快く本人の承諾も得ないまま了承した。


 まぁアレは言わなくてもやるだろうから、承諾の意味はないだろうが。


 そんな感じで試行錯誤を繰り返し、予選2日前に完成したマイクとスピーカーは凄まじい威力を発揮!!


 俺の天魔力を注ぐと、それに呼応した音を響かせ、高音から低音まで幅の広いサウンドを展開してくれた。


 正直ここまでの物が完成するとは思っていなかったんだけど、エルフとドワーフの技術は凄いもんだと改めて感心してしまった。


 おかげで観客と審査員の度肝を抜き、一次予選を突破する事が出来た。


「でも、ここからが本当の勝負になるわね……」


「ん?」

「ミーシャどう言う事?」


 祝賀ムードの中、ミーシャの意味ありげな一言に、ソプラと一緒に首を傾げた。


「あんたのその、すぴーかーってのは確かに凄い技術だけど……音風の技術、つまり風魔法の鍛錬の成果を根こそぎぶち壊す魔道具ってことよ」


「根こそぎって……あ」

「もしかして……」


 俺もソプラも、ある事に気付いた。


「気づいたかしら? ナカフ音楽祭(ミュージックフェスタ)に参加するチームは演奏や歌の技術もそうだけど、審査員に音を届ける、音風を操る技術も求められていたわけ。

 それをあんたのすぴーかーは、全て爆音で妨害して無効化してしまった……次に当たるチームはこぞって妨害工作の風魔法なんかで、潰しにかかってくるでしょうね」


「うーむ……そうか、ちょっと悪い事しちゃったかなぁ」

「せっかく頑張ってきた人達を邪魔しちゃったんだね」

『クックゥ……』


 そりゃ四年に一度の大会だもんな、みんな優勝狙って研鑽を積んできたのに妨害されたらたまったもんじゃないよなぁ。


 正直そこまで考えてなかった。風魔法の妨害か……少し対策も考えなきゃなぁ……。


 俺が難しい顔をしていると。


「大丈夫だよ、アルトちゃん! ナカフ音楽祭(ミュージックフェスタ)に参加するチームはそんなにやわじゃないさ!!」


「そうです、露骨な妨害は非難の対象ですけど、すぴーかーは音を増幅させるだけの魔道具。それに負けるような音風なら負けてもしかたありません。そもそも、毎回新しい技術を取り入れながら発展してきた音楽祭(ミュージックフェスタ)なんですから、今更って感じですよ」


「そーだよ! またどかーんってぶっとばせばいいんだよ!!」

「あたちたちがシーちゃんに変わって、最年少優勝記録を更新するんだー!」

「やるぞみんなー!!」

『そうだ!! やるのだー!!』

「「「「「「「「おぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」


「「「お……おおお」」」


 俺たちとは打って変わってナカフ教会のみんなは俄然ヤル気がみなぎってるようだ。うーむ地元の人強い。


 あと、ムート。お前馴染みすぎじゃないか? 子供三人乗っけて部屋の中でアクロバット飛行とか怪我するから本当やめ……。


 ドガァーーン!!


 祝賀ムードの中、教会の扉が派手に音を鳴らしながら開かれた!


「ハーハハハハハ!! 一次予選を通過したくらいで浮かれ気分とは、いいご身分だなぁ!!」


 俺とソプラとミーシャが子供達の前に立ち塞がり、侵入者に対し鋭い眼光を向ける!


 子供達と遊んでいたムートも、俺の頭の上に戻ってきた。


 無駄に派手な男を先頭に、数名の恰幅のいい男どもがゾロゾロ中に入ってきた。


「おやおや? せっかく来たのに、そんな怖い顔しないでおくれよ子猫ちゃん達ィ」


「……はぁ!?」


 いきなり扉を蹴り開いておきながら、何だこの態度は!?


「アニマさん!?」


「キーキさん知り合いなの?」


「私がお金をお借りした張本人です……」


 キーキさんは奥歯を噛み締め、アニマを睨んだ。


「こいつが!?」


 そいつはド派手な赤と黄色のストライプスーツを纏い、頭はリーゼントのように尖らせ、葉巻をプカプカふかせていけ好かない笑みを浮かべている。


 ん? よく見ると後ろの取り巻きの中に、懲りずにピアノを奪いにきて、ミーシャにボコボコにされたチンピラがいる。


 包帯ぐるぐるで、ガタイのいい奴の後ろに隠れてたからわからなかった。


 しかし、この派手な男……金貸しというより、落ちぶれたロックンローラーみたいな格好だな……これでカッコいいとでも思ってんのか?


「出て行ってください!! 期限はまだあるはずです!!」


「なぁに、君達が一次予選を通過したのでお祝いしにきたのさ。クックック……全くの予想外……素晴らしい合唱だったよ」


 アニマはそう言ってパチパチと拍手を送ってきた。


「そうかい、気持ちはありがたく受け取ったからさっさと帰りな!」

「そうです! 帰ってください!」

「そうだかえれー!」

「あほー!」

「ハゲー!!」

「変な格好ー!!」


 一斉に子供達の容赦無い罵倒がアニマ達を襲う。


「ハハハハ……酷い言われようだねぇ? まぁ、警戒するのもわかるが……今日は別の用事さ、借金の取り立てじゃないよ」


 結構平静を装っているけど、青筋浮かべながら口がピクピクしてんぞ? そんなに怒りを抑えてまで何しに来たんだこいつ……?


「……そこの君」


「あん? 俺?」


 アニマは一息ついて、俺を指差した。


「ピアノをあれ程弾ける奏者はそういない……ましてや新技術の魔道具の扱いも素晴らしいものだった」


「そりゃどうも……けど俺を褒めたって何もねぇよ」


「クックック、そこでだ……実は私も音楽祭(ミュージックフェスタ)に出場していてね、優秀な人材を常に募集しているんだ……君、うちに来ないかい?」


「はあっ!?」


 一体コイツは何を言っているんだ?


「なぁに、タダとは言わない。君もこの教会も、今までの生活より数段上の生活を保障しよう。もう借金で苦しい生活とはおさらばさ!

 君はこんな寂れた教会なんかに置くには過ぎた逸材だ……眠らせておくには惜しい」


「アルトちゃん騙されちゃダメ!! コイツはこうやって甘い誘いで誘惑して、借金を負わせてくるんだ! 何一つ信用できない!!」

「そうです! 今にターカ様より天罰が下るでしょう!」


 ラーラさんとキーキさんが俺をかばうように前に出てくれたが、俺は2人を押しのけて前に出た。


「へぇ、中々いい条件じゃないか」


「いや、ちょ!? アルトちゃん!?」

「ダメですよ!? 私達の話聞いてました!?」


 ラーラさんとキーキさんが慌てて俺が誘いに乗りそうな所を止めに入る。


「ほう、賢明な判断だ。君は中々世渡りが上手いようだね」


 アニマは不敵な笑みを俺に向ける。


「なぁに、あんた程じゃぁないさ……」


 俺もニヤリとアニマに笑い返す。


「クックック……ハーハハハハハ!!」

「アーハハハハハ!!」


 静まり返った教会内に、俺とアニマの高笑いが響き渡った。


「アルトちゃん……どうしたゃったのさ……」

「アルトちゃん……」


 2人が心配そうに見つめる中、互いの笑い声が止んだ後……。



















「だが、断る」


「「「「「「「「!?」」」」」」」」


「そんなくだらない誘いに乗ると思うか!? こんな女児をナンパする暇があるなら、ママのおっぱいでもしゃぶってな変態野郎!!」


 見え見えの誘惑に引っかかってたまるか! そもそも、借金させた張本人からの保証なんて言葉なんか信用できるかボケ!!


「よく言ったわアルト、誘いに乗ってたらターカ様の所に送り届ける所だったわ」

「わたしはアルトちゃんを信じてたよ!」


 ミーシャが肩に手をポンとおき、ソプラは俺の手を両手で握ってニコリと笑ってくれた。


 いやん、ソプラきゃわいい!信じてくれてるのめっちゃ嬉しいよ!


 あと、ミーシャさんサラッと怖い事言わないでください。


「ック! おのれ……下手(したて)に出ていりゃいい気になりやがって!! お前ら!! このクソガキの指へし折って、二度とピアノ弾けないようにしてやれ!!」


 うおぉおおおおおおおおお!!!!!!


 アニマの合図で、雄叫びと共に取り巻き達が一斉に襲いかかってきた!


「ムート!! お帰りを手伝ってやれ!!」


『うむ、フンッ!!』


 ムートが小さな翼をひと仰ぎすると、教会の出口に向かう横向きの竜巻が発生した!!


「うぉ!? 何じゃこりゃ!?」

「前に進めねぇ!」

「やめろ! しがみつくな! パンツ脱げ……ああん」


 男達は次々ときりもみ状に吹き飛ばされていく!


「ぐおぉおお!? なんだこの風圧は!? おのれ! 後悔しても遅いからなぁぁぁあああああ!!」


 最後は一番後方にいたアニマを巻き込み外に勢いよく吹き飛ばされていった。


「ふん!! おととい来やがれ! べらぼうめ!!」


「アルトちゃん、たまに変な喋り方になるよね……」

『クックゥ?』

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― 新着の感想 ―
[一言] 「へっ、くちゅんっ!」 ターニャは食堂で一人、鼻をこする。 遅めの昼食へとようやくありついたばかりだった。 きょとんと周りを見回し首を傾げる。 アルトもムートもいない。ここしばらくは護衛…
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