108 一次予選と秘密兵器
「あっ、やっときた」
「あははは! 頭ボサボサー!!」
「音風のノリ心地はどうだった?」
子供達が散々な格好の俺らを見て爆笑している。
『なかなか面白い余興だったぞ!! フハハハハ!!』
「いや、揉みくちゃで何が何だか……」
「うん、酷い目にあったよ……」
『クゥー……』
ナカフ音楽祭の予選開始とともに発生した音風の暴風によりめちゃくちゃにされた。
子供達の反応を見ると、こいつら知ってやがったな……おのれガキ共……後で覚えてろ。
「ハハハ!! ナカフ音楽祭の通過儀礼みたいなもんだよ! 初めて参加する奴らや物好きは、こぞって巻き込まれるんだ。音楽祭が始まる1発目だから、みんな気合い入れてやるんで嵐みたいな暴風になるんだよ」
「まぁ、何というか……」
「お約束ってやつだよ! あははは!」
豪快に笑うミーシャと、両手を合わせてごめんねと仕草をするキーキさんと、子供達と一緒に爆笑するラーラさん。
「ミーシャも知ってたら教えてくれてもいいのにぃ! 1人だけ逃げるなんてひどいよぉ!」
『クックゥ!!』
珍しくソプラが怒ってミーシャをペシペシ叩いている。でも、その仕草が可愛らしくてたまりません! ビデオがあれば、撮影して鑑賞会を開きたいものだ!
クーちゃんは本気で死にかけたみたいだから、怒涛の勢いで突っつきまくっているけどね。
「私今日修道服なのよ? スカートめくれ上がったら大変じゃなぁい」
ミーシャはそんな攻撃を受けながらも、親指を軽く噛み、身をよじりながら頰を赤らめた。
「もじもじ、しながら言うな!」
その後、俺たちは準備に取り掛かった。
俺がピアノ、キーキさんが指揮者、ミーシャ以外は用意したひな壇に並んで声の調子を整える為に軽く合唱する。
「おお! 見ろピアノだぞ! 珍しい!」
「他の楽器は無さそうだけど、まさかあの子達の合唱で挑戦する気なのか!?」
「あれ程の人数の声を風に乗せるなんて無茶だぞ」
「こりゃ予選敗退だな……」
予選を見学に来た観客が、俺たちの合唱を聴きながら難色を示す反応をこぼしていく。
現に他チームの練習には人だかりができていて、俺たちの周りには殆ど人は集まっていなかった。
「アルトちゃん……本当に大丈夫なんだよね?」
心配するソプラに、俺は笑顔で返した。
「大丈夫! 心配する事ないよ!」
そうこうしているうちに予選の審査員が近づいてきて、審査の準備をやり始めた。
周りの予選参加者も練習をやめて、緊張するピリッとした空気が辺りに張り詰める。
審査方法は10チームが同時に演奏して、それぞれの曲を音風に乗せ審査員に聴いてもらう。
風魔法の技術や曲の完成度など審査基準は沢山あるようだけど、要はどれだけのインパクトを与えられるかが勝負なのだそうだ。
「よし、声の調整はこのくらいでいいだろ。ムートあれ出して!!」
『うむ、やっとこれを使うのだな!早くしろ我も楽しみなのだ!』
ドドッスン!!
ムートの収納から出てきたのは、高さ5m、幅2m四方のどでかい箱が2つ。
それぞれ、後ろから紐が出ていて一方はピアノの前、もう片方はみんなの前にスタンドを立てて設置した。
「なんだあのでかい箱は!? どっから出てきた!?」
「あんなの見た事ないぞ? あれ、楽器なのか!?」
「紐の先についてる丸っこい物はなんだ?」
俺の用意した秘密兵器でにわかにざわつく会場だが、審査員が予選開始の為の風魔法を展開すると同時におさまりをみせる。
『それでは、第57ブロックの審査を始めます……3.2.1……始め!!』
一斉に他のチームの風魔法が審査員達を取り囲み、予選が始まる!
審査員達の周りにはゴウゴウと渦巻く竜巻のような風魔法の中で音がぶつかり合い、荒れ狂う演奏が火花を散らすように激しいサウンドを奏でている!!
観客も音風にノッたり、演奏技術を熱心に観察したり、純粋に音楽を楽しんでいるようだ。
まさかこんな終末世界のような暴風吹き荒れる光景が、音楽祭の予選だとは思うまい……。
イイね!ファンタジー感たっぷりで、俺も楽しくなってきたぜ!
俺はニヤリと笑みをこぼして、他とは違うちょっと太めの紐の先を俺がガシリと咥えた……。
指揮のキーキさん見て、目で合図を送っり演奏を始める。
「「「「「あ〜♪」」」」」
俺はいつも教会で歌っている聖歌を柔らかいタッチで奏で、みんなもそれに合わせて声を重ねていく。
「なんだ? あの子達、風魔法使わないのか?」
「おいおい、あれじゃ審査員になんも聞こえないぜ」
「歌ってる曲も教会でいつも歌ってるやつよね、聞き飽きた曲だわ」
観客が口々に呆れた言葉や、ダメ出しをしてくる中、一小節を歌いきり一拍の間が空いた次の瞬間!
「ふん!!」
ジャッ!! ジャッ!! ジャッ!! ジャッン!!
俺は天の魔力を込めると同時に、ピアノを掻き鳴らし、全員で曲のテンポを一気に上げた!!
ドンッ!! と大気を響かせるように振動した音の爆弾が、目の前に集っていた観客や審査員にうねりを上げて襲いかかり、他のチームの風魔法を弾き飛ばした!!
「「「「「「「「んなぁ!?」」」」」」」」
観客と審査員と他のチームの表情が一気に変わった!!
そう、俺が1カ月で作り上げたのはマイクと特大のスピーカー。
なんとなく気づいてたんだけど、俺の天属性って要は電気だよね。
だから、俺がアンプと電気の供給源代わりになればいけるんじゃないか? と思って作ってみたら大成功!!
風魔法での音を運ぶやり方だと、どうしても風特有の雑音が入るし音も一方的だ。
しかし! アルトちゃん印のスピーカーなら雑音もほぼ無くせるし、二台あるので音の広がりと奥行きもでるステレオサウンドだぜ!!
歌っているみんなもビックリしていたけど曲調は更にアップテンポになって、子供達もノリノリで踊りを混ぜながら熱唱する!!
「なんだこの、全身を覆うような合唱は!?」
「耳だけじゃない! 音に奥行きが出ていて、まるであの集団の中で聞いているみたいだわ!!」
「凄い! 肌がビリビリする!! それに曲のアレンジが素晴らしい!!」
「風魔法!? いや違う……なんじゃこれはーーーー!!!?」
それからは俺たちの独壇場だった!
他のチームも負けじと音風を次々とぶち込んでくるが、スピーカーからの音圧には歯が立たず蹴散らしていく!
観客も俺たちの周りに群がり、大歓声を上げボルテージも爆上がりだ!
曲を変えるたびに驚きの声が上がり、審査員も他のチームには目もくれず俺たちに釘付けのようだ。
そしてあっという間に曲の披露時間が終わり、静寂の中で審査員の予選通過チームの発表を待つ。
みんな1カ月頑張って練習した成果を出し切り、手を握り締めて祈りを捧げている。
大丈夫だ、手ごたえは感じた。いけるはずだ……。
でも、この緊張感はドキドキする。
審査員が協議を終え、立ち上がって風魔法を展開する。
『えー発表します。第57ブロック予選通過チームは…………ナカフ・ターカ教会合唱団!!!!』
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
観客の歓声が地鳴りのように鳴り響き、俺たちの一次予選通過を祝福してくれる!
「やったー!!」
「よっしゃああああ!!」
「うわぁあああああん! やったぁー!」
子供達も抱き合ったり、泣き出したり予選通過を全身を使って喜んでる。キーキさんとラーラさんも、笑顔でこちらにサムズアップを見せてくれた。
「やったね! アルトちゃん!」
ソプラが満面の笑みで駆け寄ってきて、手を高く掲げる。
「おう! とりあえず一次予選突破だ!!」
パーン! とハイタッチの音が鳴り響き、俺たちの優勝への第一歩が踏み出された。
ソプラ「っく……いったぁい……」
アルト「うわぁああ!ごめんソプラァ!!」
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