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第九話  襲撃

 



 なんとか土曜日は、無事何事もなく終わった。

 自分の部屋に戻って、シャワーを浴び、食事をし、ひと段落したとこで、今日の蓮との会話を思い出す。


 この前は、敦に助けてもらったけど、今度は自分でなんとかする。

 蓮がやってた感じで、目に力を込めてちょうど目線の先にあったゲームのコントローラーをサイコキネシスで動かしてみようと試みる。

 瞬きもせず、呼吸もせず、ただひたすらに「動け! 動け! 」と念じた。


 3分くらいはがんばっただろうか。

 その努力もむなしく、コントローラーは微動だにしなかった。

 やっぱり無理かぁ。

 いくら、蓮の体の一部を取り込んだとはいえ、やっぱり単なる人間なんだと思う。

 ベッドにゴロンと横になり、両手を上にあげ、照明に手をかざす。


 俺の体にもなんか変化が起きればいいのに。


 今の無力な自分で、本当に対抗できるのか。

 逃げるだけでは、どうにもならないことも出てくるだろう。

 体力もないし、武力もなければ、知力もない。


 あれ? 俺ってなんにもできないんじゃね?

 蓮といた時は、なんでもできそうな気になっていたけど、一人になって冷静になったとたん、急に不安が襲ってきた。

 そんなときだった、LINEの着信音が鳴った。


「大丈夫か? 無事か?」


 敦だった。

 すっかり、忘れていたけど俺なんかよりよっぽど強力な仲間がいたじゃないか!

 敦にもすべて話して、仲間になってくれたら・・・。

 俺は一瞬そう思ったが、すぐさまその考えを打ち消した。

 いや、敦を頼るのはやめよう。

 もう誰も巻き込みたくない。蓮と俺の中でなんとかする!

 きっと、蓮もそういうだろう。


「大丈夫! おかげさまで何事もなく一日が過ぎた。

 蓮ともちゃんと話せたよ。もうすっかり元気になってる。

 ちょっと事情が込み合ってて、何もかも無事に終えたら敦にも話せる日が来るかな。

 心配かけてごめん。おやすみzzz~」


 と返信し、俺は床についた。


 **********************



 翌朝、またLINEの着信音で目が覚めた。


 ん、敦かな?


 また深く眠ってしまい、時計を見ると10時近くになっていた。

 眠い目をこすりながら、枕元に置いてある携帯を手に取る。


「森さん?!!!! 」


 俺は、ベッドから跳ね起きて、もう一度LINEのチャット欄をよく見る。


「森です。杉崎君に連絡先聞いてLINEしちゃいました。

 月曜日が待てなくて;;

 どうしても気になってしまって。

 もし今日お暇だったら、会ってまたお話ししませんか?

 あの公園で11時にいかがでしょうか?

 あ、こんなぶしつけなことしといてなんですが、もし無理だったら

 断ってくれても全然かまいませんので(>_<)

 お返事待ってます。」


 可愛い・・・。マジでかわいい・・・。

 女子からのLINEなんて生まれて初めてだ。

 しかも、憧れの森さん。

 断るわけないじゃん。

 行くに決まってんじゃん。


「おはようございます!!! 森さん!

 もちろん行きます!

 11時中央公園了解です!」


 俺は、急いで返信した。

 既読マークがすぐついて、そのあと「やった~!」という文字とクマっぽいのがぴょこぴょこ万歳してるスタンプが送られてきた。


 やばい・・・可愛い。やっぱりかわいい。


 昨日の蓮との話は、さすがにできなけど、心配かけた分ちゃんとしないとな。

 やべー、何着て行こう。いつも制服だからな~私服だせーって思われたくないな・・・。

 まあ、森さんは優しいからそんなこと思わず、優しく笑ってくれそうだけど。


 ただ、公園で会って話するだけなのに、俺は初デートにでも行く気分で有頂天になっていた。

 悲しい男のサガなのか、狙われている身でありながら、無力でありながら、そういう都合の悪いことをさらっと横に置いておき、おのが欲望に素直にまっすぐに従ってしまう。

 昨日も大丈夫だったし、今日もまあ大丈夫っしょ!

 なんて、能天気な根拠のないプラス思考で俺は、急いて出かける準備をした。


 親に見つかるとまたグダグダ言われそうなので、こっそりぬけだした。

 一応、蓮にだけは知らせておこう。


「近所の中央公園で森さんと会ってくる!

 彼女、俺らのことすごい心配しててさ。でも昨日の蓮との話はしないから!」


 LINEで送信して、俺は携帯をポケットにしまい、ダッシュで中央公園に向かった。

 家から歩いて15分くらいのところに、中央公園はある。

 結構広い公園で、公園の真ん中にどでかい滑り台が設置されてて、野球ができるくらいのグランドと遊具が多数設置してある公園部分がある。公園の周りは、片側が山で片側は団地である。

 ただ、最近は世の中物騒なこともあって、公園で遊ぶ子どもはあまりいない。



 日曜だというのに、公園には案の定人っ子一人いなかった。

 この街死んでるんじゃね? と疑いたくなるくらい、誰もいない。

 いくら田舎といはいえ、ここまで人がいないとちょっとぞっとする。


 森さんを待たせてはいけないと思い、ちょっと早めにでたところ、10時40分に公園に到着した。

 公園の奥のベンチを見ると、もうすでに森さんがいた。


 はやっ!まじかよ、もう来てらっしゃる!


 俺は急いで森さんのところへ駆け寄った。


「森さーーーーん!!! お待たせ~~~~!」


 俺に気づいた森さんが、手を振りながらにこっと笑った。

 白いワンピースに、桜色のカーディガンを羽織った森さんは、制服姿も素敵だけど、さらにそれを上回るかわいらしさだった。

 森さんに近づいた瞬間、彼女の方から吹いてきた風に、血生臭さが少し混じっていたが、山の木々と土の匂いが混じったあの独特なにおいだろうと思い、気にも留めなかった。


「ごめんね。突然呼び出したりして。」


 森さんが、申し訳なさそうな顔して話しかけてきた。


「いやいや、全然大丈夫だよ!暇もてあましてたから!」


 そういうと森さんがクスクス笑った。

 ひとまず、二人でベンチに腰掛けて、この前の件についてさっそく話し始めた。


「蓮にさ、森さんが目撃した状態と無傷の今の状態の矛盾についてさ、聞いてみたんだよ。

 でも、蓮もわからないらしくてさ。蓮も確かに血だらけの重症の俺は見たらしいんだ。

 そのあと、救急車やら呼んで、バタバタしてるうちに車から火がでて、店内が火事になりそうだったから、急いで俺を店から外に出したとかいってたけど、煙吸って蓮自身も途中で倒れちゃったらしいんだ。

ただ、通報が早かったからすぐさま二人とも救出されたんだけどね。

蓮自身もいまだ信じられないって感じで、あの重症の俺が気づいたら無傷だったことに。」


 俺は、信じられないほど嘘がスラスラと出た。

 蓮が何かを隠しているというより、わからないってしておいたほうが、誰も悪くなくて済むからいいだろうと判断したのだ。


 森さんは、うつむきざまに黙ってそれを聞いていた。

 長い髪が顔を覆っていて表情は見えなかった。


「嘘が上手いね。寺井君」


「え?! 」


 さっきまでの森さんの声とは明らかに違う声だった。

 低いしゃがれた声だった。


 くるりと俺のほうを彼女が向いたとき、綺麗でかわいいあの顔が中心から八つに割れて、中から赤黒い触手がぬっと現れた。触手は8つに分かれヒトデのほうな形になり、俺を頭から飲み込むような形で襲ってきた。


 俺は、あまりの出来事に固まって動けなかった。

 触手の一つ一つには何百もの鋭い歯がついていた。

 その歯が目前に迫ったとき、何かが飛んできて触手の一本がちぎれとんだ。


「壮君、逃げて!!!!」


 いくつもの石が宙に浮いた状態の中、その中心に蓮がいた。


「二人同時とは、ちょうどいいな。」

 しゃがれた声で、言い放ったと同時に、ちぎれた触手がニュルンと再生した。


 俺は、その隙にひとまずベンチから離れ、四つん這いの状態で蓮のほうへなんとか逃げ出した。


 蓮は、攻撃をせずに敵をじっと睨みつけている。

 総攻撃をしかけるかどうか迷っているようにみえた。


「蓮・・・、あれは森さんなの?それとも森さんに擬態したレプタリアン? 」


 俺は、震える声で訊いた。


「わからない・・・。擬態なのか寄生なのか。それとも彼女そのものがレプタリアンだったのか。

 だから、むやみに攻撃ができないんだ。もし、レプタリアンが寄生してるだけだったら、体は森さんだから傷つけたら森さんが死んでしまう可能性もある。」


 蓮は、相手の正体がつかめず、いら立っているようだった。


「触手だけ狙ってもすぐ再生するし・・・。息の根を止めるためには本体攻撃しかないけど・・・。クソっ! 」


 俺は、もしかしたら目の前にいるのは、森さんで敵に体を乗っ取られてる可能性があることを知ったうえで、わけもわからず攻撃して、森さんが死んでしまうことだけはなんとしても避けたいと思った。


 キェーキェーケーケッケッケッ!!!!


 笑い声なのか叫び声なのかわからない声を出しながら、首から下は森さんのままで、頭が触手のモンスターは蓮に触手を向けてきた。

 蓮は石を飛ばして、何本かの触手は吹っ飛ばしたが、攻撃が間に合わず、触手の一本が蓮の左肩を突き刺した。

 鮮血が飛び散ると思い、目を背けそうになったが、蓮は間一髪左肩部分をゲル化して逆に触手をとらえた。

 ぐいっと左肩を後ろに引くと、触手が引っ張られ相手がよろめいた。

 その瞬間、右手を触手の根元の方に向けてかざすと、一気に敵の頭から炎が噴きだした。

 敵は声にならない叫びをあげて、地面に倒れ、のたうち回っていた。

 左肩に刺さった触手を引き抜き、それをかなぐり捨てて、蓮は叫んだ。


「いったん、引く!花山小学校前のコンビニまで走るんだ!! 」


 花山小は、公園のすぐ近くの小学校で走れば3~4分でつく。

 蓮の後を追って、俺も全力で走り出した。

 後ろを一瞬だけ振り返るとまだ敵は炎の中でもがいていた。


 森さん・・・ごめん!!!!



 俺は、あれがレプタリアンの擬態であることを強く願った。

 森さん自身が、レプタリアンなわけがない。

 そんなわけあるか!

 きっと擬態されてるか、寄生されてるんだ。

 可哀想な森さん。俺たちの最初の犠牲者になったんだ・・・。


 俺は、唇をかみしめて涙をこらえて、走り続けた。

 走って、走って・・・。

 逃げることしかできない自分が情けなく、腹ただしかった。

 でも、今はこうするしかない。


 花山小が見えてきた。

 一直線にコンビニへ入る。


 急に全力疾走したものだから、息があがり、まともに声も出すことができなかった。

 蓮は、日ごろからよくランニングしているせいか息一つ乱れていない。

 もしかして、いつもこういうことを想定して体力をつけるために、走りこんでいるのかもしれない。


 蓮はコンビニの入口入ってすぐ右奥をちらっと見て、俺のほうを振り返り、小さな声で言った。


「コンビニのトイレに入って待っててくれ。俺もあとから入る。」


「??? 」


 俺は、その意図がつかめずにいたが、ひとまず恐る恐る右奥へ進んでいった。

 トイレのような閉鎖空間に隠れるのは良し悪しがあるだろうにと思った。

 隠れるにはいいけど、もし見つかったら逃げ場がない。

 でも、ここでうだうだ悩んでも仕方ない。


 さりげなく雑誌コーナーに立った蓮が俺のほうを見てうなずいた。

 俺はそれを見て、意を決して、トイレに入ることにした。





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