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第十話  開門

 



 俺がトイレに入った後、しばらくして蓮がノックして小さい声で話しかけてきた。


「俺、蓮だよ。ドア開けて。」


 俺は、そっとドアを開ける。蓮がすっと入ってきた。

 中学生とはいえ男二人で入るとトイレは狭いし、何よりトイレという完全プライベート空間に、別の誰かがいるってのに非常に違和感を覚えた。

 そんな俺にお構いなしで、蓮はトイレの横壁に右手を当てて、目をつぶり、集中し始めた。

 すると右手がかざされている処を中心に、水色の光の輪がふわっと現れ、一気に横壁いっぱいに広がった。


 俺があっけにとられていると、蓮はそのままかざした右手をその水色に光る壁の中へすっと入れていった。

 手が壁を通り抜けてる!


「これは、俺らが事前に各所に作ってるゲートなんだ。簡単に言えばワープ装置みたいなもん。

 瞬間移動能力テレポーテーションは持ってないから、これで移動するしかない。」


 そういうと、体の右半分を壁の中に吸い込ませた。

 そして、左手で俺の腕をつかみ、小声で「壮君なら通れる。」と言って壁側へ引き寄せた。

 俺は、信じられなかったが、目をつぶって、思い切って壁へ体を預けた。


 水の中に入るような感覚がした。

 目を開けると七色の光の矢が前方の中心から円を描きながら前から後ろへと飛び去って行く感じだった。

 前方の中心の白い光の点がどんどん近づき、点がどんどん大きくなり目の前が真っ白になったとたんに、現実世界にぽいっと放りだされた。

 俺は、着地に失敗して、コンクリートの床の上に転がり落ちた。


「いってぇぇぇぇ~~~~!」


 蓮は慣れてるのか、タイミングよく着地していた。


「壮君、ごめん。着地の仕方言ってなかった。」


 蓮が舌を出して謝ってきた。


 テヘペロかよ!!と思ったけど、ひとまず敵から逃げることができたようで一安心だった。

 立ち上がり、周りを見回すと、広さは約10畳くらいだろうか。

 コンクリート打ちっぱなしの窓もない部屋だった。

 家具は、2段の簡易ベッドと真ん中にテーブルと椅子が4脚。

 壁際に、机と椅子に、5段の引き出しがついたタンスのようなものがあるだけだった。

 ひどく殺風景な部屋に戸惑いつづ、蓮を見た。


「ここは、俺らのシェルターなんだ。全世界にいくつか用意してある。

 なんかの緊急事態のときに、ゲートを使って避難できるようにしてるんだ。

 かなり地下深くに設置されてるのと、核戦争が起こっても大丈夫な耐久性を誇ってるんだよ。

 シェルターはまだ一度も敵に発見されてないんだ。

 まあゲートを使わないと、出入りすらできないからね。」


 蓮は、テーブルのそばの椅子に腰かけて、俺にも座るように促し、話をつづけた。


「さっきのゲートのことももう少し説明しておくね。

 できれば俺としては、もし壮君が力を使えるようになったら、真っ先にゲートを開ける能力が備わってほしいところなんだな。

 というのもゲートさえ開ければ、ゲートが設置してある場所へならどこへでも瞬時に移動できるからね。

 緊急避難のためには、必須なんだよ。

 ピンチのときは、とにかくその場からいなくなるのが一番だよね。

 ゲートの設置個所は、基本市内のコンビニのトイレを中心に設置してるよ。

 俺の家族中心で、頑張ってあちこちのコンビニめぐって、準備したんだ。

 ゲート設置には、だいたい10分くらいかかるもんだから、事前に作っとかないといけないとこが欠点なんだけどね。

 コンビニなら24時間空いててほぼどこにでもあるし、

 あと、トイレは監視カメラないし、完全個室だし。

 人目に絶対つかないから、ゲートを設置するにはこの上なく便利な場所なんだよ。

 まあ、欠点は入った人がゲート使ってどっか行っちゃうわけだから、いつまでもトイレから出てこないって怪しまれることかな。でも本当に緊急のときしか使わないからね。そうそう怪しまれることってないよ。」


 ゲートすげぇ・・・。


 俺は、蓮のいうことが非常にわかった。

 このゲートをまず使いこなせないと俺自身が危ない。

 逃げ道はたくさんあるに越したことはない。


 蓮が思い出したように言った。


「あ、そうそう。ちなみにこのゲートは俺らベガ種しか使用できないから。

 もし敵に見つかったとしても、アイツらゲートを開けることすらできない。

 だからこそ、俺らにとっての命綱でもあるんだよね。

 壮君が、無事ゲートを抜けられるってわかって、本当にほっとしたんだ。

 やっぱり、壮君の体には、俺の一部がちゃんと根付いてるんだって改めて確信した。

 どうやったらゲートを開けられるようになるか俺もちょっと調べてみるよ。」


「うん! 頼むよ! 俺も使えるようになりたい。」


 俺は、少し落ち着いてきたが、ふと蓮のシャツの左肩の大きな穴が目に入り、さきほどの戦闘がフラッシュバックした。

 蓮もそれに気づいたのか、テーブルに左手で頬杖をつき、深いため息をついた。


「森さん・・・、彼女の正体を一刻も早く調べないと・・・。

 何か見分ける方法ないかな・・・。

 擬態か・・・寄生か・・・森さんそのものがレプタリアンなのか・・・。

 わからないことには、下手に手出しできない。

 ほんと困ったな。森さんに限らず、今後も絶対同じようなことが起こり得るだろうからな・・・。

 やっぱりここは親に相談してみるしかないか~。

 何千年も生きてきて、アイツらとも戦い続けてるし、彼らならわかるかも。」


「そうだよ!! 戦闘の大先輩に聞くのが一番だよね!

 それがいい! きっと教えてくれるはずだよ! 」


 俺は、希望の光が見えてうれしかった。

 でも、ちょっと蓮が憂鬱そうな表情を見せた。


「両親今、二人ともNASAにいるのは知ってるよね?

 地球を脱出せざるを得なくなったときに備えて、いろいろと準備してるんだ。

 なんだかんだで、人間としてのNASA職員としての仕事が忙しいらしくてさ、

 最近あんまり話せてなくて。まあゲート使えば、世界中どこからでも集合して会うことはできるんだけど。

 ―― 実は、今回の件まだ親に話してないんだ・・・。

 5歳のとき、壮君が溺れて死にかけたときさ、回復能力使って、自分を筆頭に家族もろとも地球に来てる他の同胞たちまでも危険にさらしたから、あのときすごい怒られてね。二度と力を使うなって。

 でも、また今回使っちゃって、案の定敵に発見されてしまったし。

 まあ、やっちゃったものは仕方ないんだけどね。はぁ・・・気が進まないけど、

 また、10年ぶりに親にがり飛ばされてくるよ。」


 蓮は、参ったという表情で笑った。


「ごめんね。蓮君。俺のせいで・・・。

 まあ、結果論かもしれないけど、俺が蓮君をかばったから、回復能力使わざるを得なくなったんだもんね。

 蓮君ならとっさに念動力で車を止められたり、もしくは怪我しても超回復力で自分で治癒できたはずだもんね・・・。俺が余計なことしたばかりに・・・。」


 俺は、つくづく自分のおせっかいな性格に嫌気がさした。

 大事な友達のこととなると、俺がなんとかしなければっ!!という気持ちでいっぱいになって、後先考えずに行動して、ロクな結果を招かない。


 落ち込む俺を見て、蓮は俺の真正面に座り直し、まっすぐ俺を見た。


「壮君。壮君は悪くない。かばってくれたのは純粋にうれしかった。

 壮君の友達思いの無鉄砲は、昔からよく知ってる。

 もう、あのときああだったら、ああしてたらって考えるのはお互い辞めよう!

 後ろを振り返らず、前に進もう。

 事態を受け入れて、どうやったら打開できるか考えよう。

 そうすることで、森さんだってもしかしたら救えるかもしれない。

 俺は、今日の攻撃で致命傷は与えてないから、きっと復活すると思う。

 まだ、希望は残ってる。」


 蓮の力強い言葉に俺はとても感動した。


 ―――森さんを助けるんだ! なんとしても!


 森さんの笑顔が頭に浮かぶ。


 優しくて、みんなを幸せにする笑顔。

 あんなに優しい人を利用したアイツらが許せない。


 俺の中で、燃えたぎる赤い何かが生まれた気がした。




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