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第十一話  開花

 



 蓮は、心を決めたようで、父親にさっそく連絡を取っているようだ。

 このシェルターは地下深くに設置されているため、連絡手段として電話が使えず、種同志でのテレパシーを使うしかないらしい。

 蓮は、眉間にしわをよせ、目をつぶってテレパシーに集中している。

 しばらくして、ぱっと目を開けた。


「両親が、ここに来るって。」


「ええ?! 」


 蓮のご両親と会うのは、2年ぶりとかだ。

 12才の蓮を残して、アメリカに行ってしまったときは正直驚いた。

 今となっては、宇宙人という大きな秘密を抱えた家族で守りあうべきなのに、家族バラバラってのが不可解で仕方ない。

 まあ、ご両親にはご両親なりの考えがあるのかもしれないが・・・。


 1分も経たないうちに、何もない空間から蓮のご両親がふっと現れた。


「ひさしぶり。そして、ごめんなさい。」


 蓮が、ご両親が現れたと同時に先手必勝がごとく、謝っていた。

 蓮の父親が、しょうがないなという顔をして、蓮の頭をポンポンと叩いた。


「いつ、報告があるか母さんとずっと待ってたよ。」


 蓮の母親は、腕組みをしながらフッとほほ笑んだ。


 蓮のご両親は、どちらも美男美女でいい歳の取り方をしている。

 不老不死なので、本来は老いることがないのだろうけど、それでは人間界ではおかしなことになるので、年相応の姿に擬態しているらしい。


「壮君、このたびはうちの蓮が大変な迷惑をかけてしまったね。

 とんでもないことに巻き込んでしまって本当に申し訳ない。

 取り返しのつかないことをしてしまった蓮を許してくれたそうだね。

 本当に良い友達を持ったと思う。心からお礼を言うよ。ありがとう。

 5歳の時、君を蓮が助けたときにひどく蓮を叱って、力を封じるように言い聞かせてしまったんだが、今はそれをとても後悔もしていてね。大事な友人を守ったことに罪はない。

 君のことを救った息子を褒めてやれなかったことと力をなるべく使わないようにさせたものだから、逆に力の使い方がわからず、持て余してしまっている今の状況を反省しているよ。

 蓮のことも壮君のことも苦しめて、辛い思いをさせてしまった。

 もう隠れて、逃げることだけでなく、戦うことで身を守っていくそんな時期に来ているんだと思うよ。

 これから、蓮と壮君に力の使い方や敵に関する知識、戦闘方法をしっかり伝えるつもりだから。

 壮君、できることなら君を巻き込みたくはなかったのだけど、蓮にとって君はとても大事な地球の友達だから、どうかこの子のそばで一緒に戦ってくれないか。」


 蓮の父の真摯で誠実なお願いに、俺は胸がいっぱいになり、うまく言葉が出ずに、ただ大きくうんうんとうなずくことしかできなかった。

 蓮は、少し泣いているようだった。父がこんな風に自分のことを考えてくれたとは思いもしなかったのだろう。


 蓮の母が、手に持っていた分厚い手帳を蓮に手渡した。


「ここに、私たち二人がこれまで得てきたすべてを記載してあるから。

 あまりにも長い戦いを繰り返してきて、得てきた内容だから一遍に口頭で話して伝えるのは時間的にも無理があるし、一気にあなたたちが飲み込むのも難しいと思うの。

 これからの戦いにきっと役立つ情報があると思うから、ひとまずこれに目を通してみて。

 その中で、どうしてもわからないことがあったら遠慮なくきいてちょうだい。

 すべてわかるまで教えるわ。スパルタだけどね。」


 蓮の母は、ちょっと意地悪そうにニヤっと笑った。


「ありがとう。まずは俺が全部に目を通して、壮に必要に応じて伝えていくようにするよ。

 かなりな情報量だし。でも、これが突破口になりそうな気がする。

 ただ、どうしても急いで知りたいことが二つあるんだ。

 一つは、壮君がどうやったらゲートを開けられるようになるかってことと。

 二つ目は、敵が擬態なのか、寄生なのかの見分け方ともし寄生だったときの本体の救い方。」


 蓮は、今最も俺たちに必要なことを簡潔に質問した。


「ん~~なるほど。

 そうだな。まず一つ目の壮君の件だが・・・。

 蓮の体の一部を取り込むことで、何か異変は起きたかい?

 特殊な能力に目覚めたとか。」


 父親が俺に問うた。俺は、残念そうな顔をして首を横に振った。


「そうか・・・。

 実はね、我々に備わっている能力っていうのはね、非常に感情に影響されやすいと言われている。

 我々の種族が、あまり戦闘能力が高くないのは、もともと感情というものが非常に希薄でね。

 あまり喜怒哀楽というものが、人間や他の種族に比べてないんだよ。

 ただし、この感情が大きく高ぶったとき、同じく能力も比例して高まったり、新しい能力が開花したりするんだ。

 もし、壮君がゲートを開く能力を手にしたい場合は、その前にどんな能力でもいいからまずは一つ能力を開花させる必要があるかもしれない。いったん、能力が発現すれば、そのほかの能力も芋づる式に引き出されると思われる。

 人間は、私たちの種族と違って、感情豊かな生物だし、能力の発現はそこまで難しいことではないと思うから、何か一つのことに集中して、感情を極限状態まで高ぶらせてごらん。」


 感情を極限状態まで高ぶらせる?? 

 どうしたらいいんだろう・・・。何が俺を高ぶらせるんだろう。

 俺が、首をひねっているのを蓮が見かねて、アドバイスをくれる。


「辛いかもしれないけど、森さんのことを考えてあげると何か変化が起きるかも。」


「ああ・・・なるほど。そういえば、さっきアイツらを許さないって強く思ったとき、頭の奥底っていうか心の奥底に、赤い塊が見えたんだ。」


「それって、怒りの感情が目に見える状態で出現して、核となって、それを増幅させていけばもしかしたら何かとんでもないことが起きるかもね。」


 蓮の母親が、さらに付け加えた。


 俺は、何かつかみかけたような気がした。


 蓮の父親が話を続ける。


「あとレプタリアンが、擬態なのか寄生なのかということなんだが、非常に奴らもこのスキルについては能力が上がっていて、ぱっと見では見極めが難しいが、いくつかポイントがあるのは確かだ。

 一つは、体液だ。体を傷つけたとき、赤い血が流れればそれは本体は人間であり、一部寄生ということになる。

 体液が、赤い血以外であれば基本的には、擬態したレプタリアンとみていいだろう。

 ここからが問題なのだが・・・。寄生も擬態もどちらもされたほうの本体に待ち受ける事態は過酷なものだ。

 希望を失わせることを言って申し訳ないが、擬態した場合、本人の人生まで乗っ取ることになるので、だいたいレプタリアンは、コピー元の本体を殺してしまう。

 また、寄生の場合も寄生がどんどん進めば、癒着が進み、一体化が進むため、完全な切り離しが難しく、下手に切り離せば本体が死ぬ可能性がある。寄生の場合は、寄生生物を取り除くとだいたい宿主は死ぬことが多い。

 友人の森さんが、残念ながら生きている可能性は・・・低いかもしれない。」


 俺は、その話を聞いて、目の前がグルグル回り始めた。

 あまりにショックで。

 なんとか森さんを救おうとそれを心の支えにして、戦おうとしていた矢先に、ほぼほぼ希望がないという現実をつきつけられて、絶望と同時に、怒りが沸々と湧いてきた。


 彼女がなにをしたんだ。

 ただ、たまたま俺らとかかわってしまったせいで、利用されて。

 未来ある素敵な女性だったのに。

 俺の憧れの人だったのに。


 俺は、瞬きもせずに一点を見つめていた。

 涙がつーっと頬を伝うと同時に、さっきの赤い塊がゆらゆらと赤い煙を上げながら、次第に大きくなっていくのが見えた。俺は目を見開いていたが、何も見えていなくて、ただその赤い塊を見つめ続けた。

 体温が徐々に上昇しているように思えた。

 俺の体の周りに赤黒い炎のようなものが見え始めた。


「このままでは、マズイ!暴走する!」そんな蓮の父の叫びが遠くのほうで聞こえた気がする。

 俺の周りに、ドーム状の光の壁が出来上がった。

 蓮の両親と蓮が、両腕を前に出して、俺を制御しようとしている。

 俺は、身にまとった赤黒い炎をどうすることもできず、高ぶった怒りの感情をどこにぶつければいいのかわからず、雄たけびをあげながら、泣いた。

 その瞬間、大きな火柱と爆発が起きた。

 3人が作り上げたドームは、何とか持ちこたえていたが、もう一発爆発が起きれば耐えられそうになかった。


 見かねた蓮が、ドームの中にはいってきた。


「蓮、ダメよ!!!今入ったら危険よ!!!回復が追いつかない可能性があるわ!!!」


 どす黒い炎の塊となってしまった俺を、蓮が抱きしめた。


「壮。もういい。もうやめるんだ。

 戻ってこい。いつものお前に戻ってくれ・・・。」


 耳元で壮が、呼びかける。

 その声だけははっきりと俺に聞こえた。


 俺は、怒りを通り越して、悲しみで号泣した。

 大事な人を失う悲しみを初めて知った。


 森さんはどんな最期を迎えたんだろうか。

 どんなに痛かっただろうか。

 どんなに殺されるとき怖かっただろう。

 どんな想いで死んでいったんだろうか。


 全身を包んでいた赤黒い炎が次第に消えていく。

 俺は、ずっと蓮の胸で嗚咽していた。

 蓮は、何も言わずだまって抱きしめてくれた。


 両親は、ドームの守護壁を解き、二人で顔を見合わせて、

 深く大きなため息をついた。


 これが、俺の力の開花の瞬間だったけど、

 こんなに辛く悲しい思いを元に発現する能力なら

 俺はいらない。


 悲しみと怒りが原動力の超破壊力が発現した。







 

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