第二十二話 救出
あれから、何度か摸擬戦闘を繰り返し、お互いの動きやタイミングを体に覚えこませた。
ロイさんも根気強く、俺たちに付き合ってくれた。
訓練は、16時くらいで切り上げて、早めの夕飯を取った。
明日の救出作戦の詳細を詰める。
陽が昇る前に、倉庫前に全員集合。
陽が上ったと同時に、ロイさんが中を捜索し、敵の場所と人数を把握。
ロイさんが、森さんを発見したら、合図を送るので、その合図で、俺たちも潜入する。
ロイさんは、出入り口で待機し、敵の侵入を防ぐ。
森さんを救出次第、脱出して、俺と蓮で森さんを回復させて、家へ帰す。
敦とロイさんは、現場へ待機し、敵の動きを監視する。
夜に、森さんがいないことに気づいた敵が集合したタイミングで一斉攻撃をかける。
こういう段取りとなった。
俺は、作戦を頭に叩き込んだ。
そんなに難しい作戦ではない。
でも、こんなにも手が震えるのはなぜだろうか。
やはり実戦を前に俺は、相当緊張しているらしい。
そんな俺に気づいた敦が、肩に腕を回し、「大丈夫だ。お前ならやれる。そんなに気負うな」と励ましてくれる。
蓮も敦もあまり緊張した様子はなく、いたって冷静だ。
宇宙人というのは、人間とはやはりちょっと作りが違うのか。
二人ともあまり動じない。
ロイさんにいたっては、戦いが始まるというのに、信じられないくらい優雅にリラックスしている。
明日も早いこともあって、俺たちは早めの就寝ということになった。
部屋に戻るとき、蓮と目があった。
「明日は、がんばろう。壮君。」
蓮が、にっこりとほほ笑む。
「うん!!!」
俺は、元気よく返事をした。
昨日の夜中、俺は夢の中で森さんと出会ったが、今日の夢にはでてきてくれなった。
あいかわらず、森さんの警告の意味「×印には気を付けて」が不明なままだった。
翌朝、4時に起床した。
帰り支度をして、別荘を後にした。
ネフィリムはネフィリムのゲートのような移動手段を持っており、ロイさんは別荘にゲートを設置し、敦とともに敦の自宅へと帰っていった。
俺と蓮もゲートを開き、それぞれの家に帰る。
ちなみに俺は、自宅の裏の庭の物置にゲートを用意している。
ほとんど使ってないので、家族に見つかる心配がない。
「蓮君。ロイさん、いい人そうでよかったね。
なんだかすごい大人で、頼もしいわ!」
俺は、ロイさんの懐の深さと優雅な物腰は、なんとなく蓮に似ている気がして、心地よさを感じていた。
「そうだね。なんだか父さんと一緒にいるような感覚になったよ。
さすが、敦の信頼する人なだけあるね。
ロイさんの指示に従って動けば、今日の作戦はきっとうまくいく。
俺は信じてるよ。」
蓮が、強く言い切った。
「じゃ、またあとで! 一緒に倉庫に行こうね!」
俺は、蓮とひとときの別れを告げて、ゲートの中へ入っていった。
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午前6時、俺たち4人は、廃墟となった倉庫の門前に集合していた。
陽が昇りはじめ、朝日が眩しい。
「では、お先に行ってまいります。」
ロイさんが、何も気負うことなく、軽い感じで言い残し、倉庫へ入っていく。
一応合図は、光の信号を送ることになっている。
森さんが見つかったときは、・・・ という3回の点滅。
森さんがいないときは、 ・ ・ という2回の点滅。
潜入OKの合図は、光を5秒ほど点灯させることになっている。
俺たちは、固唾をのんでロイさんからの合図を待つ。
3つ・・・。
頼むから3つ点灯してくれ!!!
俺は、心の底から願った。
森さん、生きてますように。
神様、どうか。森さんをお救いください。
5分ほど経過したときだっただろうか。
窓のほうに、光が見えた。
・ ・ ・
3回の点滅!!!!!
森さんがいる!!
そのあと、5秒間光の点灯が続く。
「行くぞ! 」
敦が先陣を切る。
俺たち二人が後を追う。
出入り口にロイさんが来ていた。
小声で中の様子を伝えてくれた。
「見張りは、二人。
一人は一階のあの奥の部屋で寝ている。もう一人が二階を周回している。
森さんと思われる女の子がいた部屋は二階の一番奥の部屋だよ。
私は、ここで待機して、見張るから。
敦は、一階の敵を殲滅しなさい。
二人が、二階の敵を殲滅あと、森さんを救出。
終わったら、ここに集合だ。
行きなさい。」
敦が、奥の部屋へ凄いスピードで空中移動していった。
ドアを10cmほど開け、中の様子を確認している。
敵は、眠っているらしいのか、すっと敦が入り込んだ。
ものの数秒で、敦がでてきた。
俺たちが二階へあがる前に、音もなく片づけてしまったようだ。
「なんてこたねぇよ。」
敦がけろっとした表情で言う。
ロイさんは、全くこの子はという表情で苦笑していた。
三人で二階へ移動する。
階段を登って、すぐのところで、声が聞こえた。
「・・・だ・・・れ・・・? 助けて・・・。」
森さんだ!!!
声のする部屋を探す。
階段登ってすぐの目の前の部屋だった。
そっとドアを開ける。
森さんが、いた!!!!
ぐったりと床にうつ伏せに倒れていた。
息も絶え絶えに、顔を上げて、俺たちを見た。
「て・・・寺井君・・・三上君・・・。」
急いで森さんのもとに駆け付ける。
敦は、もう一匹の敵を探して奥へと進んでいった。
蓮が、森さんをお姫様抱っこして持ち上げた。
「行こう!」
「森さん、もう少し我慢してね!!
助けるから!」
と俺が森さんに顔を近づけたとき、あの見覚えのある嫌な匂いがした。
「―――― そいつは、レプタリアンだーーーー!!!!」
敦の叫びが遠くから聞こえた。
瞬間、森さんの顔がまた八つに割けて、あの触手のモンスターあらわれた。
蓮が、抱えていた腕を話し、モンスターが床に落ちる。
キエッーーーーキェッと敵がバカにしたような笑いをする。
「この前のようには、やられないよ。
今度こそ、お前らをとらえて、献上するんだ!
さあ、おいで。可愛い坊や達!」
敵が、頭だけでなく、体全体を触手と化した。
うねうねとくねる触手が、狙いを定めようとしている。
落ち着け!!
落ち着くんだ! 自分!
練習通りにやればいい。
俺は、必死で自分に言い聞かせた。
こいつは、森さんをひどい目に合わせた超本人だ。
こいつが!!!
こいつが森さんを!!!!
あんなに怖い目に合わせて・・・。
あんなに辛そうに泣かせて・・・。
俺は、また冷静さを失い、怒りで前が見えなくなっていた。
赤を通り越して、ドス黒い炎が噴き出し、部屋中か黒い炎に包まれた。
炎というより黒い触手のようにも思えた。
「壮君!!! 抑えて!!!
だめだよ! 戻ってきて!!! 」
蓮の叫びが聞こえたが、俺は止めることができなかった。
ようやく探し求めていた敵を前にして、怒りが収まらなかった。
そのとき、敦が駆けつけた。
俺の異様な様子に、驚きながら、俺を後ろから羽交い絞めにし、耳元で言った。
「森さんは、無事だ! 生きてる! 一番奥の部屋に倒れてる!
生きてるんだ! だから暴走するな! 冷静になれ!」
俺の黒い炎は、敵の体全体に回りこみ、ぎりぎりと締め上げていっていた。
敵は全身を黒い炎に覆われ、なすすべもなく、もがいている。
キィエ・・・キッ・・キエッ・・・
敵が、声にならない叫びをあげた。
黒い炎をの中で、敵がぐちゃっ、ぐちゃっと音を立てながら潰れていくのがわかった。
触手や体の一部がちぎれて、はじき飛ぶとすぐに黒い炎を覆い、再生不能にする。
じわじわと敵は、体がつぶされていき、断末魔の悲鳴を上げる。
「そんな・・・馬鹿な・・・。」
俺の怒り炎の中で、そう言い残し、敵は絶命した。
黒い炎が収束していく。
巨大な肉の塊となったそれに、蓮が火をつける。
赤い炎の塊をしばらく眺めているとようやく怒りが収まってきた。
「壮・・・、森さんだよ。」
振り向くと、森さんを抱えた敦が立っていた。
「森さん!!! 森さん!!! 」
俺は森さんに呼びかける。
森さんの返事はない。
「息は一応あるけど、意識がないんだ。
一刻も早く、蓮! 回復を頼む。このままじゃ危ない。」
急いで俺たちは一階へ降り、ロイさんと合流した。
敦は、抱えていた森さんを蓮に引き渡す。
蓮が、森さんを抱きしめて、目を閉じる。
白い光が、森さんの全身を包む。
ふっと、森さんの顔に生気がもどる。
頬にほんのり赤みが差し始めたとき、森さんがゆっくりと目を開けた。
「森さん!!!」
俺は、森さんを覗き込んだ。
森さんは、不思議そうな顔して俺を見る。
「て・・・寺井君・・・?」
きょろきょろと森さんが周りを見回す。
「三上君・・・杉崎君・・・・・・?」
二人のあとに、ロイさんを見てきょとんとする。
「森さん、もしかして、何も覚えてないとか?」
とまどっている森さんに、蓮が心配そうに声をかける。
「うん・・・、私何してたんだろう。
ここは、どこなの? なんでみんないるの?」
俺は、何も思い出さないほうがいいような気がした。
この数十日の監禁生活は、森さんにとって辛い思い出でしかないはずだ。
「森さんスーパーの帰り道、行方不明になってたんだよ。
たまたま、俺たちが見つけてさ、この倉庫に倒れてたんだ。
ここって、俺たちのランニングコースだからさ。
今日も走ってて、途中に森さんが倒れてたからもうびっくりだよ。
ひとまず家に帰ろう。家の人もみんなすごい心配してると思うし。」
俺は、適当な嘘をついた。
森さんは、いまいちよくわかってないのか、終始きょとんとした顔でうなずいていた。
俺と蓮で、森さんを家まで送ることにした。
ロイさんと敦は、このまま待機して敵の様子をうかがう手筈になっている。
「様子を見て、また連絡します。三人ともよくがんばりました。お手柄です。」
ロイさんが、優しく冷静に言ってくれた。
こうして、なんとか森さんは救出できた。
風が吹いて、森さんの方からいつものあのいい匂いが漂ってくる。
俺は、その匂いに、涙が出そうになった。
森さんが生きてる。
もう・・・二度とこんな目に合わせたくない。
本人は何も覚えてないようだけど。
俺は、敵の一網打尽とともに、今度こそ冷静に戦うことを心に誓った。




