第十四話 共闘
「お前ら、いつからこんなのに狙われてんだ?
こんなのと人間が闘って、勝てるわけねーだろ?
てか、なんで俺に相談しなかったんだよ。」
敦が不満そうな顔で、ぼやいた。
「きょ・・・敦を巻き込みたくなくて・・・。」
俺は、正直な気持ちを口にした。
蓮は、何も言わず困惑した表情で敦を見ていた。
「狙われてる理由もわかんねーのか?」
俺は、蓮と目くばせして、二人してうなずいた。
理由は話せない。
どうやら、敦は蓮の正体に気づいてない様子だ。
俺がもう半分人間でないことも知らないようだ。
はぁと一息ため息をつくと、敦は足元のレプタリアンの遺体に手をかざし、一瞬で燃やし尽くして灰にした。
「他の人間に見つかるとやべーからな。下手に騒ぎになったら、生きにくくなる。」
手慣れた手つきだった。
敦は、今までもいくつもの戦闘を潜り抜けてきたんじゃないかと思った。
あまりにも戦い慣れている。
もし、蓮がベガ種であり、ネフィリムを筆頭とするレプタリアンの標的であることがばれたら・・・。
俺たちは、敦と戦わなくてはいけなくなるのだろうか・・・。
「ひとまず、学校行くか。
アイツらもバカじゃねーから、学校みたいな人の多いとこで襲ってきたりはしねーだろ?
昼休み、ちょっと3人で話ししようぜ。
誰も来ねぇほうがいいから、第2校舎の3階の使ってない教室あんじゃん。
あそこ集合な。」
俺と蓮は、何も言わずただうなずいた。
そのあとは3人とも何も話さず、学校へ向かった。
あんなに楽しく、はしゃいでたさっきまでの時間が嘘のようだった。
学校についたら、急きょ全校集会があるとのことで、到着後すぐに体育館に集合させられた。
全校集会の内容は、森さんが日曜日の夜から行方不明であること。
生徒の中に拉致されそうになった者がいること。これは俺のことだけど。
そういった内容が知らされ、気を付けるようにという注意だった。
気になったは、森さんが行方不明になったのが日曜日の夜ということ。
俺たちとの戦闘は、日曜日の昼の11時過ぎだったから、あのあと一度敵は森さんの姿をして自宅に帰ったのか?
それとも森さん本人が日曜日の夜までいて、そのあと敵に拉致されたか殺されたのか・・・。
日曜の夜に、近所のスーパーに買い物にでかけ、帰り道で行方不明になったという。
考えなければいけないことだらけで、頭がパンクしそうになった。
森さんを探し出さなきゃいけないこと。
敦がネフィリムだったこと。
これから俺と蓮はどうしていくべきか。
新しい能力の発現も能力のコントロールすらままならないのに、次から次へと展開が早すぎて、対応しきれない。
俺の苦しそうな表情を見ていた蓮が、テレパシーで話しかけてきた。
(壮君。森さんのことといい、朝の敦君の一件といい、いろいろと立て続けに起きたけど、一個一個対応していこう。
ひとまず、森さんのことは向こうからやってくるまで、しばらく様子を見るしかないと思う。
目下、俺たちが決めなければいけないのは、敦君への対応をどうするかだ。)
蓮の言うことは最もだった。
(そうだね。今は敦の件に集中する。
あの様子だと、敦は蓮君や俺の正体に気づいてないよね?
演技とは思えないんだけど。
もし、知ってるんだとしたら、こんなに身近にいて襲ってこないはずないよね?
森さんより身近な存在なんだから、襲う機会もたくさんあったはずだし。
そうじゃないってことは、知らないってことだと思うから、
俺たちは、何もわかってない人間ってことで押し通したほうがいいんじゃないかな?)
俺の提案に、蓮は少し困った顔をしていた。
(それができればいいんだけど、どこまで隠しとおせるか・・・。
敵が間断なく攻めてくる中で、常に敦君がそばにいるとは限らないよね?
俺たちが迎い撃つことも今後頻繁になってくると思うんだ。
そんなときに、敦君と鉢合わせでもしたら・・・。)
俺は、想像しただけでもちょっと怖くなった。
敦に嘘ついてることがばれた瞬間・・・。
(俺は、これは一つの大きな賭けだけど、敦君に正体を明かそうと思う。
それで、敦君がどんな反応を見せるのか見てみたい。
ネフィリムとして、俺を捕獲しようとするのか。
幼馴染の敦君として、今までと変わらず接してくれるのか。
もし、前者だとしたら、身を切る思いだけど、敦君と戦わざるを得なくなるだろう。
でも、遅かれ早かれそうなってただろうから、それが早まっただけにすぎない。
もし、後者だとしたら、敦君を通してネフィリム含むレプタリアンのことを色々と教えてもらって、なんとかこの今の状況を止める方法がないか一緒に考えて、ネフィリム側と交渉できるならしたいと思ってる。)
蓮の考えはよくわかるけれども、俺は敦と戦うことになるってのがどうしても嫌だった。
なんとしてでも敦を説得したい。
敦が俺たちの敵になるのだけは避けたい。
敦が、俺たちを選ぶのか種としての定めに従うのか。
今はまだ、全然わからない。
でも、敦と過ごしたこの15年間は、無駄ではないと思う。
俺たちの間にある絆も友情も嘘偽りではないと思う。
俺は、蓮の意見に一部賛同した。
(蓮君。蓮君の正体を敦に教えるのは賛同するよ。
でもね、絶対敦と戦うなんて嫌だから。
俺は、なんとしてでも敦を説得する。)
(説得できて、こちらの仲間に引き入れることができればそれが一番だけど・・・。)
蓮はこれ以上何も言わなかった。
午前中の授業は、心ここにあらずで何も頭に入ってこなかった。
あっという間に昼休みの時間になり、敦が話しかけてきた。
「俺、購買部で飯買ってくるわ。先行ってて。」
敦は、あまり様子に変化はなく、あっけらかんとしていた。
俺はちょっと拍子抜けした。
蓮と二人で、移動する。
母親が作ってくれた弁当を持参したが、あまりに緊張していて食事が喉を通る気がしなかった。
地球上にはいないだろうと蓮がいっていた巨人族のレプタリアンのネフィリムに、ベガ種の宿敵に対して、自ら標的であることを明かす蓮の気持ちを考えたら、居ても立っても居られない気持ちになった。
蓮は、何も持たず、適当に探して椅子に座った。
俺は、蓮の真向かいの椅子に座った。
敦の騒がしい足音が聞こえてきた。
ガラッと勢いよくドアが開き、敦が入ってきた。
「お、二人ともいるな。なんだ、その神妙な面持ちは。
蓮はともかく、壮らしくねーぞ。」
三角形になるような形で、敦が俺と蓮の間に座った。
座ったと同時に、買ってきたパンの袋を開け、ガブりとかぶりついた。
「俺が、人間じゃねーってのそんなに嫌か?」
敦が、単刀直入に聞いてきた。
「そうじゃ・・・ないけど。」
蓮が困惑した表情で答える。
「俺な、簡単にいうと宇宙人なんだわ。
まあ人間を調査するように潜入させられたんだけどね。
人間の呼び方でいけば、俺はレプタリアンっていうらしい。
その中でも巨人種だから、ネフィリムって呼ばれるやつになるのかな。
通常、デカすぎて人間サイズに擬態するのって大変なんだけど、
俺はなんでかできるんだわ。特殊能力らしい。
んで、レプタリアンにもいろんな種がいるんだけど、一応俺の種が統率しててね。
宇宙のあちこちの星に調査として、仲間を派遣してるんだわ。
俺は、地球担当。
他のレプタリアンが、人間に余計なことしないように監視したりしてる。
でも、最近は、もうなんかどうでもよくなってきててさ。
俺は俺の好きなように地球で生きたいって思ってて、星に報告もあげてないや。
めんどくせーしな。」
そういって、一つ目のパンを食べ終わり、二つ目のパンの袋を開けた。
「二人にも何にも言わなかったのは、
俺が宇宙人でもなんでも関係ねーんじゃねぇかと思ったからなんだけどね。
物心ついたときから一緒にいるんだから。
俺、孤児ってことで、地球にもぐりこんだのよ。
蓮の両親の紹介で、今の里親に拾ってもらったんだけど。
凄くいい人たちで、一生懸命育ててもらってすげぇ感謝してる。
お前ら二人に会えたこともね。
もう俺ネフィリムだけど、人間でいいやって思えてきて。
俺の種はすげぇ凶暴で、正直素行悪くて、同じ種ながら恥ずかしいんだけど、特に俺の本当の父親が凶悪で、宇宙征服でも狙ってんじゃねーかってくらい、好戦的でな・・・。
いろんな星に喧嘩吹っかけてて。ひでー話だよ。
地球のことも、自分らの食料保管庫ってしか思ってねーし。
俺は、地球で人間として育ったからな。
アイツが地球になんかしようとしてきたら、俺がぶっ倒す。」
敦の目が鋭く光った。
本気でそう思ってるようだ。
そんな敦の様子をじっと見て、意を決したのか蓮がいよいよ切り出してきた。
「敦君・・・。ベガ種のこと、知ってる?」
敦が険しい表情になる。
一瞬、場の空気が固まった。
「蓮、なんでそんなことお前知ってるんだ?」
「ねえ、教えて。敦君はベガ種の一件は知ってるのか?」
「・・・・・・少し、聞いたことがある。オヤジが狙ってる能力の一つだかなんだか。ベガ狩りしてるとか・・・。」
「俺は、そのベガ種なんだ。」
蓮が、ついにいった。
敦が目を大きく見開いて、蓮を凝視した。
「マジかよ・・・。」
蓮は右腕を前方にまっすぐ上げ、手の先からどんどんゲル化していくのを敦の目の前で見せた。
敦は、ごくりと食べていたパンを飲み込み、驚いた様子でその光景を見ていた。
「俺らは、敵同士ってことか。」
「そうだね。」
二人が今、どんな感情で話しをしているのか俺には読めなかった。
「俺が、お前がベガ種だからって、これから襲うと思うか?」
「そうであってほしくないって、心の底から願ってるけど。」
敦が、蓮のゲル化した腕をひょいとつかむ。
「変な感触だな~~。昔遊んだスライムみてー。つかみどころねぇわ。」
ひどくお気楽な様子で、敦が戯れている。
そんな敦を無表情で眺める蓮。
俺は、事態がどう転ぶのか冷や冷やしてみていた。
「壮、てめーも知ってたんか。その様子だと。
だから、最近おかしかったんだな。なんつーか色々と読めてきたわ。」
敦の真意がわからない。
どう思っているのか。
敦は、蓮のゲル状の腕をつかんだ状態で、言った。
「なあ、蓮。俺おととい部活で転んで怪我したんだわ。
膝の擦り傷とこのひじの擦り傷ね。まだ傷が膿んで痛いんだわー。
治してくんね?」
「敦!それは・・・!」と俺が敦を制止しようとしたが、蓮が俺の方を見て首を横に振った。
蓮は、膝とひじの傷の箇所に手を当てた。
一瞬で傷が消えて治ってしまった。
「すげぇ・・・。これがベガの力か・・・。あのオヤジが欲しがるわけだ。」
珍しい手品でも見たかのように、敦は膝とひじを何度も見返していた。
「俺は、間違いなくベガだよ。」
もう一度、蓮は念を押すかのように言う。
「うん、そうだな。ベガだな。」
俺は、二人のなんともしれない会話にしびれを切らして、口を開いてしまった。
「俺は、敦と戦いたくない!それは蓮君も一緒!
お願いだから、敦も俺たちと戦うのはやめて・・・!」
敦が呆れたように俺のほうをみて、頭をポンポンと叩いた。
「だーれが、戦うって?
まっさかこの俺が、蓮を襲うとか?
マジありえねーから。
何恐れちゃってくれてんの?
もっと俺のこと信じろよ。
俺は、オヤジのやってることには基本反対だから。
本当はベガ狩りもやめさせたいんだけどな。
俺一人の力じゃ、どうにもならなくてよ。
ずっと仲間が欲しかったんだ。」
俺は、敦の言葉に心から安堵した。
緊張の糸が切れて、へなへなと椅子から落ちて床に座り込んでしまった。
「おいおい。壮、何してんだ。
そんなに、俺って酷い男なのか?
ひでーよ、そりゃーお前のことはさんざんイジってきたけど、ちゃんと大事に思ってきたんだぜ」
俺は、また涙が出そうになるのを必死でこらえた。
でも、我慢できずに、二人の前でポロポロと涙をこぼしてしまった。
「・・・怖かったんだ・・・。
あまりにいろいろ起こりすぎて・・・。
森さんのこととか、敵の襲撃とか、自分の変化とか・・・。
それにさらに、敦まで宇宙人で・・・。
もし、敵に回っちゃったらって考えただけで、辛くて辛くて。
でも、敦は絶対俺たちを裏切ったりしないって一生懸命信じようとした。
怖かった・・・。怖かったんだ・・・。」
「はいはい。もう泣きなさんな。
俺もお前らの仲間に入れてくれよ。結構な戦力になるぜ。
俺は、レプタリアンぶっ倒すのに躊躇しねーから。
あと、オヤジの暴挙を止めるいいきっかけになるかもしれん。
レプタリアンもすべてがすべて、悪いってわけではないのよ。
俺みたいに中立な奴らも多い。
一枚岩ではないから、オヤジ達さえなんとかできれば、イケる気がする。
まあ、そのオヤジが一番の強敵なんだけどな・・・。」
敦が遠い目をして、ため息をついた。
ネフィリムのボスである父親のことを思い出しているようだ。
「まあ、あのバカオヤジの息子として、やるべきことをやるべきよ。
殺してでも奪えっていうあの精神は、俺は大嫌いだ。
俺は、なんとかしたい。
一人じゃ何もできないけど、お前ら二人とベガの同胞たちと俺を含む反オヤジ派が一斉蜂起すれば、道も開けるかもな。」
敦がいつもの感じで、ニカッと笑う。
俺もつられて笑った。
蓮もようやく安心したのか、穏やかな微笑みを浮かべた。
一触即発という状況に思われたが、まさかの共闘路線にもっていけて、本当によかった。
敦が仲間として、加わってくれれば、ネフィリムと他のレプタリアンの状況や情報が手に入る。
そうすれば、こちらの対応の仕方も変えられるはずだ。
俺は、3人の間で隠し事が一切消えたことがうれしくてしかたなかった。
そして、3人で困難に立ち向かえることが頼もしかった。
俺ら3人がいればなんとかなるかもしれない。
俺は、持ってきた弁当をがつがつと食った。
この上なく、美味しかった。




