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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小話
146/146

酒飲む二人。


「こいつの弱音は酔わせれば出てくるんですね」

 最終的につぶすまで飲ませて、今までたまりにたまった愚痴を吐き出させたバートラムがぐったりと寝入ってしまったオーランドを背負い歩きながら隣にいたカトーに話しかけていた。

「まーな。もともと強いんだが、最近はまた忙しいしガキどもの相手で大変みたいだしなあ」

「えー、俺、噛ませ犬になったほうがいいすか?」

「いや、いらねえよ。手加減なしに伸して、戦争中のこいつのやらかしを講義形式に伝授しているからな」

「うっわ。それ、積極的に引かせて面倒事遠ざけてる感じですよね?」

「ああ。まあ、ガキにはそれぐらいがちょうどいいだろう。この子がここまで早く昇進出来たことから、貴族連中が特権が聞く場所だと勘違いしてきてガキどもにボンボンが多いんだ」

「あのクズども……」

「俺もいくつか片づけたんだが、足りなかったらしい」

「……恐ろしいなあ」

「そりゃこっちのセリフよ? おっさん、あんたさんがここまでうまく匂い消して生きているなんて思いもしなかった」

「そりゃ、血みどろになりましたし」

「右腕はズタボロで?」

「ええ。馬車にひかれてね」

「ああ、本当にその時か。そのあと、療養して動けるようになった直後に軍学校に?」

「いえ、基本は太子時代に押さえていたので、父親のコネを使って直に軍に編入して、士官学校に」

「……それでこれか」

「ええ。連中には二年ででやったって言っていますが、無理でしょ」

「その手じゃ無理だな」

「ええ。軍に編入してから少しうまいことやって俺の親衛隊作ってうまく使いました」

「……」

 敵に回したら恐ろしいなんてこのことを言うよ。とつぶやいたカトーがふと視線を上げて通りの一つの家に白衣を着てたたずむ女性がいることに気付いた。

「あれ、噂の彼女?」

 首を傾げたカトーにバートラムは目を見開いてちらりと自分の背中で眠りこけているオーランドをそこに叩き捨ててやりたい衝動をやり過ごす。

「カレンちゃん?」

「あ、やっぱりオーランドつぶれてた」

「わかったの?」

「いや、夕方ぐらいにジャックが来て、貴方と飲みに行って、最近いろいろため込んでて酒に当たるだろうから泊めさせてやってくれって言われたの」

 もう、真っ赤になって。

 と呆れながら顔色と手のぬくもりを確かめて困ったようにため息をついたカレンにバートラムはそう悪く無い感じじゃないじゃないかと笑うのだった。

「バートラムさん?」

「いや。上がってもいいかな? こいつに寝床は用意してくれてる?」

「ええ。二階の部屋を用意しておいたの。運んでくれる?」

「ああ。分かった」

 ちらりと目を向けてもカトーはいなかった。バートラムはずり落ちるオーランドを背負いなおして、診療所兼家の中に入り二階へ上がらせてもらって用意された部屋にオーランドを寝かせる。

「見事につぶれているわねえ……」

「まあ、面白かったよ。つぶれる直前の理性崩壊したこいつ」

「見たくないような見たいような……」

「ははは、確かにな」

 やっとこの子が人間臭く感じられた。とつぶやいたバートラムがオーランドを見おろすのにカレンはちらりと眠りこんでいるオーランドの寝顔を見てそっと目を伏せた。

「私には話してくれないんですね……」

 ポツリとしたつぶやきに、バートラムはおや、という目をしてポンと肩に手を置いた。

「それは君に甘えていいのかまだわかってないからじゃないかな?」

「……」

「君とこいつは久しぶりに意気投合したんだろ?」

「……ええ」

「嫌っていることはない。やっと一緒に仕事ができると喜んでいたんだからな、こいつ」

「本当?」

「ああ。本当さ。初めのころはまだ距離がわからないからカッコつけたくなるのさ。今に君が知るオーランドが出てくるぞ」

「……」

 眠ったままのオーランドを見つめながらカレンが小さくうなずくのを見てバートラムはその頭をわしわしと撫でていた。

「君だってまだオーランドに何処まで甘えていいのかわからないだろう?」

 はっとしたようにバートラムを見上げるカレンにバートラムは笑いかける。

「そういうことさ。二人でゆっくりと歩み寄るものだ。……俺も最初のころはそうだった」

「……貴方も近しい人と長く?」

「ああ。弟たちと長くわかれていてね。非常事態だったから会いに行ってずるずると今まで付き合うまで至っているが、最初のころはどこまでお節介していいかわからなくてなあ。で、弟たちのほうも俺にどこまで近づけばいいのかわからなくてぎこちなかった」

「でも、今は?」

「遠慮のえの字もないぐらいにこき使われているよ」

 笑うバートラムにカレンはどこか気が抜けたようにほうとため息をついていた。

「そんな風になれるかな?」

「……君とオーランド次第だな。ゆっくり近づいて、昔のこいつと今のこいつとすり合わせをやって行けばいい。そのあと答えを出せばいい。……これから戦争の予定なんてないからたくさん時間がある」

「うん」

 不安そうなカレンにバートラムは顔をしかめて今度オーランドを叱っておこうと心の手帳に筆を舐めて書いておいた。

「明日明後日の執務については俺が代行しておく。ゆっくりさせてやってくれ。うちの弟が散々こき使ったからな。疲れているだろう」

「……うちの弟……? こき……。セザールさん?」

「……」

 その問いには答えず笑みだけを返したバートラムは背を向けて部屋を出ていこうとした。

「ロラン殿下の兄? まさか貴方は……っ」

「叫ぶのだけはよしてくれや。機密だからよろしくー」

 じゃ、お邪魔しました。とわざと軽い調子で玄関を出て、通りを歩くとどこかに消えたカトーが悪いやつだなと小突きに来た。

「まあ、どうせオーランドの嫁だ。知っておいたほうがいい」

「ロラン殿下に怒られるぞー」

「今更だ。遅かれ早かれ気づくんだから今行って釘差しといたほうがまだいい」

 肩をすくめて見せたバートラムは、すっかり酔いが覚めちまったなとけろりとした顔でカトーを見た。

「仕方ねえな。付いてきな」

 カトーがそう言うのにバートラムはパッと顔を輝かせた。

「さすが、おっさん!」

「ったく、お前、俺がどつけないの知ってやってるな?」

「何のことかなー?」

 ととぼけたやり取りをしながら、かつての主従は町の片隅にある酒場へと消えていくのだった。

そういえば飲みに行かせてなかった←

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