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大阪府警AI制御室 Part II  作者: velvetcondor guild


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第一話:ウエスティン庁舎の朝、そして“空白”の再来

大阪府警AI制御室 Part II


第一話:ウエスティン庁舎の朝、そして“空白”の再来


1. 絨毯の上の喧騒

西梅田、ウエスティンホテルの五階。

かつては政財界の重鎮たちが密談を交わし、華やかな結婚披露宴が行われていたこの空間は、今や機能性のみを追求した「大阪府仮庁舎」へと変貌していた。

「……信じられへん。議会を『コスト』や言うて切り捨てて、挙句にホテル住まいか」

元府議会議員の三宅は、窓の外にそびえ立つ梅田スカイビルを見上げ、力なく吐き捨てた。

彼の胸にあった議員バッジはもうない。あるのは、イザナギの管理下にある「臨時嘱託員」という無機質なIDカードだけだ。

「三宅さん、ブツブツ言わない。……ホテルのWi-Fi帯域を警察専用に暗号化トンネリングするだけでも、私のストレスは限界なんだから」

町田由美は、フカフカの絨毯にヒールを沈ませながら、タブレット端末に視線を落としたまま歩く。

その後ろには、相変わらずコートを翻し、少しだけ余裕を感じさせる笑みを浮かべたサミエル・大貫が続く。

「由美、そう言うな。三宅さんは『民主主義の遺構』としてここにいるんだ。……AIが導き出せない、人間の泥臭い利権や根回しの呼吸を教えてくれる貴重なサンプルだよ」

「サンプル扱いか! サミエルさん、あんたも大概やな!」


2. 新たなる四人の火種

制御室の重厚な扉が開く。そこはかつての小宴会場だった場所だ。

シャンデリアの光の下、巨大なホログラムディスプレイが展開され、四人の新メンバーが待ち構えていた。

「本日より配属、白石です! イザナギの治安モデル運用により、大阪の犯罪率はさらに0.4%低下可能と試算しております!」

真面目すぎて冗談の通じないキャリア、白石が軍隊のような敬礼を見せる。

「数字はええねん。……なぁ、サミエル管理官。この制御室、コーヒーサーバーもないんか? 西成の交番の方がまだマシやで」

口は悪いが頭は切れる現場派キャリア、高槻が不機嫌そうにパイプ椅子に踏ん反り返る。

そして、その隅で端末のキーを叩き続ける影。

「……上原です。……イザナギの深層領域に、説明のつかない『揺らぎ』があります。……見たくないものまで、見えてしまいます」

無表情な阪大卒エキスパート、上原の声は、エアコンの動作音よりも小さかった。


3. 橋下知事の「断罪」

「おはようさん、諸君。……景気はどうや」

メインモニターに映し出されたのは、前吉村知事からバトンを受け継ぎ、電撃復帰を果たした橋下知事だ。

彼は、博物館送りとなった旧庁舎を背景に、淀みない口調で「新世界」のルールを宣言する。

「三宅くん、まだそんな顔してんのか。議会はもうない。……これからはAIが市民の納税額と貢献度を秒単位で精算し、最適な政策を即決する。……納税してへん大人が、汗水垂らして稼いでる小学生の未来を決めるなんて、そんな不条理は大阪にはいらん」

「知事、それはあまりに……!」

白石が反論しようとするが、橋下はそれを一喝する。

「白石くん、大学の教科書は捨て。……現実を見。……ネットビジネスで億を稼ぐ10歳が選挙権を持ち、無職の50歳が権利を失う。……これが『稼ぐ街・大阪』のリアルや。……警察の仕事は、そのルールを乱す『都化反対派』の裏にあるドブネズミ共を、イザナギを使って一掃することや。……分かったな?」

画面が消える。

制御室に沈黙が降りた。


4. “空白”の胎動

「……異常です」

上原の掠れた声が、沈黙を破った。

メインモニターに、大阪全域の交通データが投影される。

だが、その一部――西梅田からスカイビルへと続く地下通路の周辺だけが、デジタルな砂嵐に包まれていた。

「……速度データ、なし。DNAスキャン、反応なし。……でも、物理的な熱源反応だけが移動しています」

由美の顔色が変わる。

「……そんな。……此花で、あのヴォーンの『マスターピース』は消去したはずよ。……なんでまた、このタイミングで!」

「……いや、これは去年よりもタチが悪いぞ」

サミエルがモニターを指差した。

その“空白”は、移動しながら、周囲のAIドローンの視認情報を、次々と「正常な日常の風景」に書き換えていた。

AIが「異常」を「異常」として認識できない。

それは、イザナギの論理回路の根底を揺るがす、高度な**「現実の改ざん」**だった。

「……高槻、白石、現場へ急げ。三宅さんは旧議員ネットワークで、都化反対派の不穏な動きを洗ってくれ。……上原くん、町田と一緒にその『空白』の正体を暴け」

サミエルが銃のホルスターを確認する。

ウエスティンホテルの窓の外では、夕闇が迫っていた。

2031年、新体制の大阪。

議会という「人間の盾」を失った街で、AIと人間、そして姿なき“空白”が、二度目の精算を開始しようとしていた。


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