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【ネトコン13受賞】代筆令嬢リゼットはくじけない ~あなたの代筆はもうやめにします~【9/1 第1巻発売】  作者: 糸四季


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【デビュタント】

 

 ミモザの香りに包まれて、リゼットは慌てて倒れないようしっかりと王女を受け止める。

 周囲の貴族たちが婚約を祝う言葉をかける機会を失って、ざわめきながらこちらを見ているのがわかった。



「来てくださって安心いたしました! まるで妖精のような素敵なドレスですね!」

「あ、ありがとうございます。王女殿下の本日の装いも、春を祝う女神のような……」

「私のことは良いのです! それよりも、愚兄がまたご迷惑をおかけしました。フェロー先生にドレスを贈りつけたそうですね?」

「ああ……ええと、その」

「報告を受けたときは耳を疑いました。本当に、どこまで人を不愉快にさせれば気が済むのかしら。愚兄のドレスはもちろん捨ててしまって構いませんからね!」



 プリプリと可愛らしく怒る王女に、リゼットが何と答えようか迷っていると、階段のほうがまた騒がしくなる。

 集まってくる貴族たちをいなしながら、王太子がこちらに向かってくるのを見て「うわ」と言いたくなったのは恐らくリゼットだけではないだろう。

 隣のウィリアムの顔も一気に荒んだ顔になっていく。



「良い夜だな、リゼット嬢。アンベール子爵も」

「王太子殿下にご挨拶申し上げます」

「ふむ。私の贈ったドレスは選ばれなかったか。残念だ」



 大げさに肩を落とした王太子の言葉に、周囲の貴族たちが驚いたように顔を見合わせた。

 あちこちから「殿下がドレスを?」「どういう関係だ?」と声が聞こえてくる。アンリがわざと周囲に聞こえるように言っただろうことは、さすがにリゼットにもわかった。

 貴族たちの間で「例の指南役か」「殿方との噂が」とリゼットについて囁き合う声がどんどん大きくなっていく。



「殿下が余計なことをしてくれたおかげで、約束していた私の贈ったドレスも着てもらえませんでしたよ」

「ウィリアム様」



 ウィリアムに肩を抱き寄せられ、リゼットはどきりとしたがおとなしく腕の中に納まる。

 これは王太子に対抗し、ウィリアムもあえて周囲に聞かせているのだ。



「子爵もか。それはお互い残念だったな!」



 にこやかな王太子に、ウィリアムの放つ空気がどんどん冷え切ったものになっていく。「お前が言うな」という彼の心の声が聞こえるようだ。



「ではそのドレスは叔母上が贈ったものか。さすがにセンスが良い。よく似合っているぞ、リゼット嬢。いや、今宵は妖精姫とでも呼ぼうか」

「もう、お兄様! あなたは本当に邪魔ばかりして! お呼びではありませんの、向こうへ行ってくださいませ!」



 もう耐えられないと、王女が兄を叱りつけ、貴族たちの群れを指差した。自分に代わり、彼らの相手をしろと言いたいらしい。



「ひどいな、妹よ。そんなに兄を邪険に扱わなくてもいいだろう」

「邪険にされたくなければ、これ以上フェロー先生を困らせないでください! ほら、あちらで婚約者候補のご令嬢がお待ちですよ!」

「待て待て。リゼット嬢。ファーストダンスは子爵に譲るが、その後なら私と踊ってくれるな?」

「えっ⁉」



 嫌です、と答える前に、王太子アンリは大叔母であるスカーレットに声をかけに行ってしまった。

 スカーレットはやれやれとあきれた顔をしながらも、大甥にカードと万年筆を渡している。それがダンスの申しこみだと気づいたのは、アンリが「では後でな」と機嫌よく去っていったあとだった。



「まったくもう……。フェロー先生、迷惑な兄で本当に申し訳ありません」

「お、王女殿下。おやめください。王太子殿下と踊れるなんて、とても栄誉なことですから。お気になさらず」

「フェロー先生は優しすぎますわ。子爵にも、ご迷惑おかけします」



 ウィリアムは不愉快そうに顔をしかめたままだったが、王女に対しては黙って会釈で返していた。

 王族に対し随分な態度だが、ウィリアムは子どもの頃からこうだったらしい。遠戚ゆえに幼い頃から交流はあったが、口数が少なくしかめっ面が通常だったとレオンティーヌが言っていた。

 リゼットに対しても最初はそうだったが、最近のウィリアムがよく話してくれるし親切なので、すっかり忘れていた。



「皆様、ご紹介いたしますね。こちらはリゼット・フェロー子爵令嬢です。先日、私の手習いの指南役に選定いたしました」

「王女殿下⁉」



 突然、レオンティーヌによって周囲の貴族たちに紹介されたリゼットは、あわあわとしかけて、スカーレットが眼光鋭くこちらを見ていることに気づき、ビシリと背筋を伸ばした。

 ここで慌てるのは淑女がすることではない。立派な淑女は、いついかなるときも余裕の笑みを浮かべ、落ち着いて振舞うものである。



「フェロー先生はヘルツデンの王太子殿下への手紙の代筆も担ってくださる才女でいらっしゃいます。本日がデビュタントとなりますので、皆さまどうか私の先生にもたくさんの祝福をお願いいたしますね」

「ご紹介賜りました、リゼット・フェローと申します。皆さまお見知りおきのほど、よろしくお願いいたします」



 何度も練習をしたカーテシーをしたところ、ワッと喝采と拍手に包まれリゼットは飛び上がってしまった。

 あちこちから「おめでとうございます!」「ダンス楽しみにしております」と温かな声をかけられて、予想外のことに驚きながらも目がうるむ。

 ここで泣いてしまうと化粧が台無しなので、グッとこらえた。本番はこれから。最後まで淑女でいなければ。


 王女の婚約を祝う声と、リゼットのデビュタントを祝う声が絶え間なく聞こえる中、レオンティーヌがそっと耳打ちしてきた。



「フェロー先生。お荷物、用意した部屋に運び入れてありますから」

「……ありがとうございます、王女殿下。無理なお願いを聞いてくださって」

「何も無理ではございません。元々用意を決めていた部屋ですから。遠慮なく使ってくださいませ」



 そう言ってウィンクすると、レオンティーヌは王太子の元へと去っていった。

 すぐ傍で聞いていたウィリアムが「何の話しだ?」を身をかがめてたずねてくるので、リゼットは微笑みながら口元に人差し指を当てる。



「秘密です」



 ウィリアムが目を見開いたとき、大広間に宮廷楽団によるワルツの音楽が流れ始めた。

 舞踏会の幕開けである。


 通常、デビュタントを迎える令嬢たちは、社交シーズンはじめの舞踏会で一堂に会し、一斉にダンスを披露する。リゼットはそれが叶わなかったので、急遽開かれたこの舞踏会でデビュタントを迎えるのはリゼットのみとなる。

 そのためダンスホールに出たのは、リゼットとウィリアムのペアだけだった。


 緊張しながらも、おじぎをそろえてウィリアムの手を取る。

 彼の広い肩に手を置くと、身長差があるので姿勢が少しつらいのだが、ウィリアムがしっかりと腰を支えてくれるのでふらつくことなく踊り始められた。


 いち、に、さん、いち、に、さん。頭の中で、練習中に聞いていたスカーレットの三拍子を刻む声が音楽と一緒に流れている。



「いい出だしだ」

「はい!」

「緊張しているか?」

「はい!」



 元気よく返事をすると、そうかと笑われる。余裕がないのがバレてしまったようだ。


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― 新着の感想 ―
ウィリアムらしい〜 私はガッカリしたけどリゼットが喜んでいたからニッコリする〜 新キャラもいいキャラしてるし文房具が素敵すぎて中世ヨーロッパファンタジーでドレス以外のものが素敵なの、とてもいいです …
 筆無精に筆を取らせたことにきっとスカーレットもにやにやしてる(笑)
ウィリアム様、頑張って〜\(^o^)/
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