表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ネトコン13受賞】代筆令嬢リゼットはくじけない ~あなたの代筆はもうやめにします~【9/1 第1巻発売】  作者: 糸四季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/128

【頼みの綱】


 それほど時を置かず、ジーンがロビーに現れ駆け寄ってきてくれた。



「ジーンさん……!」

「どうされたのです。顔色が真っ青ではありませんか」

「ジーンさん、私、どうしたら……。あ、頭が、真っ白になってしまって。ジーンさんならなんとかしてくださるんじゃないかと、それで、それで……」



 言葉が上手く出てこない。焦れば焦るほど舌はもつれ混乱した。

 ぐるぐるぐるぐると、まとまらない思考が頭の中を回り続ける。



「どうか落ち着いてください、リゼット様。部屋を用意しますから、少し休まれたほうが」

「いいえ! それよりも私……」



 はくはくと口を動かすリゼットに、ジーンは痛ましいものを見るような目をして、ゆっくりと首を横に振った。



「本当に申し訳ないのですが、まだ商談中なのです。終わり次第すぐにリゼット様のところに戻ってきますから」

「あ……ご、ごめんなさい。私、自分のことで頭がいっぱいで……」



 いきなり訪ねてきて、先客との商談を中断させるなど何をやっているのか。

 さらに青ざめたとき、奥からカツリと靴音が響いた。



「リゼット・フェロー?」

「え……ララ様!?」



 声をかけてきたのは、王女宮で出会った三蹟の弟子のひとり。

 ラビヨンの弟子、ララ・モニクだった。

 まさかこんなところで再会することになるとは、とお互い驚いて見つめ合う。



「あなたもこの店を利用していたのね……って、やだ。どうしたの。いまにも倒れそうな顔をしてるじゃない。お医者様を呼んだほうが良いんじゃないかしら」

「いえ、私は……」



 そこでリゼットはハタと気づく。

 もしかして、ジーンの商談相手はララだったのではないか。

 妖精の力を宿すララだ。ワロキエ商会の常連なのだろう。自分はジーンとララの邪魔をしてしまったのだ。



「あの、申し訳ありません。私のことはお気になさらず、商談を進めてきてください」

「はぁ? ……そんなに震えながら言われてもね」



 あきれながらも心配するようなララの言葉に、リゼットは情けなくて泣きたい気持ちになる。

 黙りこんだリゼットに、ララは小さくため息をついた。



「何だか訳ありみたいだし、私はもうお暇するわ」

「モニク様、よろしいのですか?」

「別に急いでないもの。出直すわ。ハロウズの弟子……いいえ、リゼット。これはひとつ貸しだからね」



 つんと額を突かれて、リゼットは慌てて顔を上げる。

 意外なことに、ララは笑っていた。いつも彼女が浮かべている自信に満ち溢れた笑みだが、いまはどこか優しげに見える。



「え、でも……」

「選定でのあなたの手紙、悔しいけど素敵だった。今度私に手紙を出しなさい。この私が待っているというのに、あなたなかなか送ってこないんだもの。私の師も、あなたのことを話したらぜひ手紙を読ませてもらいたいとおっしゃったのよ」

「師……ってまさか、ラビヨン様がですか?」

「そうよ。わかる? これってすごいことなんだから」



 ララが胸を張って言い、リゼットはこくこくと頷いた。

 確かにとんでもなくすごいことだ。あの三蹟のひとり、『断絶の剣士』と謳われるラビヨンが、リゼットの手紙に興味を持ってくれたというのだから。



「も、申し訳ありません! 実はルーク様から手紙が来て、同志と手紙のやり取りをするときは、年長者からまず送るものだと書かれていたので。私から先に送ってしまうと失礼になるのではないかと……」

「……あの男。舐めてるわ」



 なぜかララは顔から表情が一気に抜け落ち、カヴェニャークの弟子に呪いの手紙を送るなどと何やら物騒なことをぶつぶつと口にした。

 まずいことを言ってしまったかもしれない。リゼットは心の中でルークに謝った。



「コホン。とにかく、早く私に手紙を送ること。そしたら今日のことはチャラにしてあげるわ」

「ララ様……ありがとうございます」



 ララはひらりと手を振ると、ジーンに「また来ます」とだけ言って店を出ていった。


 さっぱりとした気持ちの良い人だ。

 リゼットは心からそう思って言ったのだが、それを聞いたジーンに「さっぱりした方は呪いの手紙は送らないかと」と言われてしまうのだった。



 ***



 応接室に案内され、リゼットはそこでようやく折られてしまった万年筆をジーンに見せた。

 改めて見ると、真ん中から力任せに折られたその姿に心が痛む。

 どうしてジェシカの手に万年筆が渡ってしまったとき、もっと早く取り戻そうとしなかったのか。後悔ばかりが胸に押し寄せた。



「これはひどい……」



 欠片をひとつひとつつまみ、光に当てて確認するジーンの顔は真剣だ。

 モノクルの奥で厳しい目をした彼は、すべて確認し終えると固い顔のまま黙ってしまう。


 握った手の中で、じわりと汗が浮かぶ。

 ジーンに直すことが出来なければ、他に誰が直せるというのか。



「ジーン様。どうにか、直すことは出来ないでしょうか? 大切な……母の形見なのです。きっと妖精さんもこのペンを気に入ってくれているはずで。だから、だから……!」

「リゼット様……」



 リゼットの必死な訴えに、ジーンは一度口を引き結んだあと「残念ながら」と本当に悲しそうに首を振った。


 もう直らないのか。

 ジーンならもしかしたら、と期待した心が急速に凍りついていく。

 いや、頭のどこかではわかっていたはずだ。こんな無惨な姿になってしまえば、もう元通りにはならないだろうと。

 リゼットはただ、それを受け入れられなかったのだ。受け入れられず、商会まで来てジーンにすがり、結果迷惑をかけてしまっただけだった。



「そう、ですか……申し訳――」

「確かに妖精は長く大切にされているものを好みますが、だからと言って物そのものに力を与えるわけではございません。あくまでも妖精が力を貸すのはそれを使う人間。ですからリゼット様はそこまで不安に思われる心配はないのです。どうか落ち着かれてください」



 震える手を握られて、リゼットはキュッと唇をかむ。



「大切にしていた万年筆が折れても、妖精は変わらずあなたのそばにいるでしょう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
強引系男子もシチュエーションやヒロインとのバランスによっては悪くないと思うんだけど、いかんせん今のリゼットの立場が弱すぎるしどこでも狙われてるし可哀想な感じになりやすいんですよねー。
あっ、改稿しっかり読みました! めっちゃ応援できる感じになってます…! ありがとうございました!!
改稿後、拝読しました。 とても乙女心に優しくなっていて、ときめきました。ウィリアムの紳士度が上がったし、恋愛経験のなさゆえの戸惑いが伝わってきてとてもよかったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ