【悪巧み】
感想本当にありがとうございます! 毎回小躍りしながら読ませていただいております!
あのリゼットが、本当に王女の代筆者になった?
ジェシカは冗談だろうと笑いそうになったが、子爵はなぜか父親面でどこか誇らしげに「三蹟の弟子たちが候補者として集まり競った」とか「その中で王女殿下直々にリゼットが指名された」とか「王太子殿下までリゼットの手紙を褒めていた」などと聞いてもいないのにぺらぺらと語った。
子爵がリゼットの功績を語れば語るほど、怒りが魂の底から湧いてくる。
シャルルも本当に使えない。あれだけ焚きつけてやったのに、まるで役に立っていないではないか。
「あなた、リゼットが外で代筆をすることに反対していたんじゃ?」
「それは……いまも、そうだ。ただ、娘の成長が誇らしいだけで。と、とにかく、これ以上フェロー家の恥をさらすわけにはいかない。お前たちはくれぐれも問題を起こすことのないように。手紙の返事は自分でやるか、他の代筆者を探せ」
子爵はまた問題を起こすようなら離縁を覚悟するようにと言い残し、自室へと去った。
母は悔しそうだったが、それ以上に手紙の返事をどうするかのほうが重要らしく、どうにか代筆者を探さなければと、メイドにこれまで届いた手紙を集めるよう指示を出している。
ムダなことだと、ジェシカは冷めた目でそれを見ていた。
どうせ他の誰を代筆にしたとしても、リゼットの筆跡には遠く及ばないだろう。
リゼットはやはり手元に置いておくべきだ。
そうすれば誰よりも近くで、リゼットの不幸に涙する姿を楽しむことができる。
「あんただけ幸せになんて、させないから……」
*****
リゼットはあれからシャルルに、すぐに謝罪と感謝の手紙をしたためた。
何も言わずに家を出て、その後も報せず心配をかけたことを詫びることからはじめ、これまで気にかけてくれていたことに礼を伝えた。
そしてこれからは自立を目指しスカーレットの元でがんばりたいと、自分の気持ちを偽ることなく文字にした。
しかしその後、シャルルからの返事はない。
もしかしたら読まれていないのかもしれないし、想いが伝わらなかったのかもしれない。
手紙に返事がないのは悲しいが、シャルルもリゼットからの返事がなかった間、この悲しさと寂しさ、それから焦燥感に似たものを感じていたはずだ。
だからくじけず手紙を出し続けよう。
「リゼット。お前に手紙が届いたよ」
スカーレットがリゼットのために用意してくれた部屋を訪れ、そう言った。
先日注文した家具や寝具は驚くほど迅速に届けられ、リゼットの部屋はすっかりリゼットの好むもので隅から隅まで整えられている。
深い緑に赤と配色は重厚だが、刺繍は繊細でさりげなく、華美にならず落ち着いた雰囲気だ。
家具はリゼットの母の形見でもある文机に合わせた木材で揃えられ、どこを見てもうっとりできる夢のような部屋になった。
ちなみに、ウィリアムの瞳の色にそっくりなクッションは、ソファーやベッドへと移動するたびに持ち運んでいるほどのお気に入りである。
『好きなものを選び、好きなものに囲まれて生活する楽しさを知るべきだ』
スカーレットの言葉を、この部屋で紅茶を飲んだり、本を読んだり、眠りにつくとき何度も思い出す。
自分の人生を彩り、豊かにし、活力を得るためにとても大切なことなのだな、と。
「私に、お手紙ですか?」
シャルルからかと思い思わず立ち上がったリゼットだったが、スカーレットの穏やかな表情を見ると違うようだ。
ほっとしたような、むしろ不安が増したような、複雑な気持ちになりながらスカーレットを迎え入れる。
「ありがとうございます、スカーレット様。一体どなたからのお手紙でしょう? もしかして、お父様から代筆を認めるお返事が? あっ! それとも王女様からでしょうか。もしや私がおかしな催促をしたから、こんなに早く書かせてしまったとか……?」
「何ひとりで勝手に青ざめているんだい。どちらでもないよ」
スカーレットの侍女から受け取った手紙は二通。
どちらも確かにリゼット・フェロー宛になっており、その事実にリゼットは感動で震えた。
家を出てスカーレットの邸で暮らすようになり、リゼットの生活は一変した。
外から部屋に鍵をかけられることはなくなり、食事も抜かれるどころかティータイムには美味しいお菓子まで食べさせてもらえる。シーツは色あせボロボロだったのが、いまは毎日ピンと張った美しいものに交換され、新聞まで読ませてもらえたりする。
その中でも一番嬉しいのは、こうして手紙がきちんと届くようになったことだ。
自分からも手紙が送れるようになり、外とのつながりが持てるようになった。
いままでは手紙を出すよう使用人に頼んでも継母に握り潰されていたようだが、これからは送るのも受け取るのも、スカーレットの執事がすべて手配してくれることになったのだ。
自分宛てに届いた手紙を読むことができる。それだけで、リゼットはこの世の春を感じるのだった。
「ボネ伯爵夫人……この前死者の祝日にお会いした方ですね! わぁ、本当にお手紙を書いてくださったんだ……」
スカーレットの友人で、リゼットの母のことも知っていた夫人だ。リゼットの境遇にとても同情し、力になると言ってくれたふくよかで品のある女性を思い出す。
「我が家の自慢のリラがとっても綺麗に咲いたので、スカーレット様とぜひ見にいらっしゃらない? だって……ふふ。ボネ伯爵夫人のお庭にはリラがあるのね。スカーレット様、ボネ夫人からお誘いのお手紙いです!」
「良かったじゃないか。夫人の庭はとても美しいんだ。リゼットもきっと見惚れてしまうだろうね」
「それほど美しいのですね。とっても楽しみです」
お呼ばれなんて初めてのことで、リゼットはわくわくした。
スカーレットはボネ夫人と貴族夫人のお手本のような素晴らしい女性だと褒めた。
リゼットにとって理想の貴族夫人はスカーレットだが、お手本はたくさんあっていいのだと知り、しっかり勉強させてもらおうと意気込む。
「あら? こっちはモンシン男爵……ヘンリー様からのお手紙です!」




