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072 乗り込む魔術師①

「チッ……どうしててめえも入ってんだよ、あァ?」



 会議終了後、白髪褐色のアナスイがサングラスの位置をズラして睨めつけてくる。

 いつもの絡みなので当然のごとくスルーして、集められた面々を見渡した。



「おいなに無視決め込んでやがんだゴラ、こっち向けよ」


「アナスイ、邪魔。そこはヌゥのポジション」


「……チッ、んだよヌゥ」


「二人とも……喧嘩は……よくない……」


「騒がしい連中だな。本当に隠密なんてできるのか?」



 『聖女奪還セイント・ロブ』と名付けられたこの作戦に選ばれたのは、レオとアナスイの他にヌゥ、ローランと葉巻をふかしたニコラの五人。

 他の冒険者たちは、公国の防衛や捜索活動を担うこととなり、エヴァも同様捜索隊に加わることになっていた。



「うぅ……ほんとだよ、どうしてあんな危険な場所にレオくんひとりで……」


「べつに単騎で殴り込むわけじゃないからね~?」



 しくしくとフレデリカが涙を浮かべて、レオの服の裾を掴む。その背後でミリアンが呆れたように眉根を曲げていた。



「ミリアンはそれでいいの!? ローランが行っちゃうんだよ!?」


「私はローランを信じてるから~。あなたと違って愛もあるしぃ」


「わ、わた、わたしたちだって愛があるよ! 重いよでっかいよっ!」


「魔王倒したら、私たち結婚するの~」


「ここでいう話じゃないよ!? 逆に不謹慎っ!」


「見て、これ~。メラクを出発する前にローランからもらった指輪ぁ」


「レオくぅぅぅんっ! ローランだけはぜったいに死なせないでえっ!!」



 とうとう泣き出してしまったフレデリカに苦笑しながら、レオは振り乱れる桃色の髪に手を伸ばした。

 柔らかく繊細な絹に指をとおして、レオは和やかに笑う。



「フレデリカ様、これが終わったら……俺のパーティに入ってくださいね」


「レオくんそれも死亡フラグにカウントされちゃうよっ!?」


「大丈夫ですよ。俺、死にませんから」


「そういって死んでった冒険者結構いるんだからねっ!?」


「あなただけはぜったいに守ります」


「ぅぅぅ、レオくんが死んじゃう~~~っ!」



 目元に大粒の涙を溜めてぴょんぴょん跳ねるフレデリカ。縁起でもないことを叫んではいるが、かすかに漂っていた緊張感が彼女のおかげで払拭された。



「ったく、緊張感のねえガキだぜ」


「レオ、これが終わったらヌゥが結婚してあげる。子どもの名前はレオとヌゥを掛け合わせてレオヌゥで」


「んなダセエ名前つけんじゃねえよ。一族の面汚しになっちまうだろうが」


「アナスイは黙って」


「……チッ」



 こちらもこちらで兄弟のようなやりとりを繰り広げていた。

 アナスイは相変わらずヌゥには逆らえないようだ。



「レオ、エヴァとアマリリスには会った?」


「ああ。さっき軽く話してきたよ。べつにこれが最後ってわけじゃないからな。作戦を失敗させる気もないし死ぬ気もない。聖女様を奪還して魔王も倒す……それが、俺の勝利条件だ」



 聖女を奪還することも大事だが、かの魔王を冠す存在と戦えることもまた、レオにとっては重大なことだった。

 魔王なのだから、強いに決まっている。

 いまの己でどこまで通用するのか。

 そしてどこまで引き上げてくれるのか。

 


 潜入任務ではあるが、聖女奪還に成功した暁には、第六位魔王と差し合う予定でいた。

 理想的なパターンは時間稼ぎだろう。

 第六位魔王に見つかり、みんなを逃すためにひとり残る。

 そうすれば、第六位魔王と戦う大義名分もできる。



「早く聖女様を助けに行きましょう。きっと辛い思いをしているはずだから」


「……ん」



 内心を着飾る言葉に、間をおいて頷いたヌゥ。

 彼の機敏な変化に気がついた白髪褐色の少女は、かすかに笑みを浮かべて。

 やはりあなたは最高だと、擦り寄るように腰元に抱きついた。



「レオくん……変なこと、考えてないよね?」


「? 何がですか、フレデリカ様」



 そして、変化を感じ取っていたのはヌゥだけでなく、フレデリカもだった。

 不安気に顔を曇らせ、下から見上げてくるフレデリカの瞳は、まだ乾いていなかった。



「……ううん。なんでもない……レオくんは、わたしのこと、悲しませるひとじゃ、ないもんね……?」


「当たり前じゃないですか。俺は、だれも悲しませませんよ」


「そう、だよね。うん、レオくんは強いし……死んだり、しないよね」


「死にませんよ。負けたりもしない。ぜったいにあなたのそばに帰ってきますから……それまで、待っていてください」


「……うん」



 頷いて、ぎこちなくフレデリカは笑ってみせた。



「――そろそろ行くぞ。途中まではミリアンの使役する黒竜ガウェインでいく。準備ができた者から乗ってくれ」



 吸い終わった葉巻を捨て、足で火を消しながらニコラが悪い目つきを一帯に走らせた。

 


「それじゃあ、フレデリカ様。また会いましょう」


「……うんっ! 頑張ってね、レオくん! また後で会おう!」



 涙を手で拭って、フレデリカは元気いっぱいに破顔した。



「ローランも死なないでね! ミリアンと一緒に帰ってきてねえ〜〜〜」


「死ぬ気は……ない」


「ふふ、頼もしいわ〜」



 成体となったガウェインに跳び乗ったレオとローラン。その後を追ってミリアン、ヌゥ、アナスイも乗り、最後にニコラが重たげなアタッシュケースを引っ提げて乗り込む。



 野太い声音を響かせて、黒翼をはためかせたガウェインの巨体が浮く。

 



「それじゃあ、フレデリカ様。またすぐに会いましょう」


「うんっ! みんなも頑張ってきて!」



 

 会話を打ち切るように、ガウェインが上昇していき——あっという間にフレデリカを引き剥がしていった。






「おもしろかった!」



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