071 会議する魔術師②
「……なに?」
ギロリと、ロマティンの目つきが釣り上がった。肉食獣もかくやといった形相に、しかしそこは同じSランクとしての矜持か、臆することなく続きを発した。
「少なくとも、帝国かセレノガ神道国の援軍を待つべきだ。僕たち全員で戦ったとしても、魔王には辿り着けない」
「そこまで配下は強いのか?」
レオの質問に、カサールは真剣な表情で頷いた。
「ああ、強い。一つの個体がSランク以上……つまり僕たちと一緒だ。それが八十八体もいて、まず数で負けている。だからといって、数だけを揃えてもしょうがない。魔物に備えての警護や生存者の捜索も続けなきゃいけない。
戦えるのは、僕たちだけしかいないんだ」
「なるほど。……じゃあ、例えば配下と戦わずに魔王を引っ張り出せたとして、俺たち全員と魔王でやり合ったら……勝率はどれくらいなんですか?」
ふむ、とあごに手をやったカサールは、数秒考え込んで、
「五分か、もっと低いかな。配下の邪魔がなく、かつ僕たち全員が負傷することなく万全の状態で戦って、それくらい。それほどまでに魔王は強いと思う」
「……わかるんですか?」
「正確には、そういう計算なんだ」
「計算?」
頷いて、カサールは自分の頭を指さした。
「ここに、第六位魔王が誕生したと思われる六百年前から今日に至るまでの被害報告や証言が入ってる。プラスして、偵察にいってくれた仲間達の精細な報告とを計算し、割り出したんだ」
「は、はあ……? 難しそうですね……」
「参考程度にと考えてくれよ。そのひとが感じた強さっていうのも計算に入れてるから誤差もある。だから実際に会敵して、物足りないこともあるかもしれない」
「でも今回ばかりは、弱かったなんてことはないと思うよ」
両手を組んだフレデリカが付け足した。
「カサールの計算に誤差はあるけれど、それはほんのわずか。だけど……今回、観測したのはニコラだ。ほぼ間違いないと思う」
「そういうことに関しては、ニコラの感覚は特に鋭いからね〜。カサールのいう通り、突撃したら高い確率で負けると思うわあ」
「下手したら全滅する恐れもある。そうなれば、下位ランクの子達も危ない」
この場にいる者たちが現状、最強の戦力だ。
もし全滅することになれば、その勢いでまた攻めてくるかもしれない。
冒険者が全滅すれば、メラクは実質壊滅。メンカリナン王国全土に大打撃を喰らうことになる。
「それで――わたくしたちは一体、何をどうすればいいのですか?」
痺れを切らしたかのように、少女の静謐な声が投げかけられた。
色素の薄い白磁の頬に手のひらを乗っけて、白銀の髪の少女はめんどくさそうに声を上げた。
「真っ向勝負でダメなら、闇討ちしかありませんのでは? カサールさん、一刻を争うのでしょう? 外野の声に流されずに進めてくださいます?」
「は……はい。その通りです」
ロマティンの視線には立ち向かえたものの、彼女の視線からは逃げたカサール。
エヴァが、耳打ちしてきた。
「あのゴスロリは?」
「シャロ・キャリー・フィン・ローゼンバイト……俺もお目にかかるのは初めてだ。なんでも、Sランクの依頼を受けて三年間……しばらく行方をくらましていたそうだ」
「へえ……強いの?」
「そりゃあ、Sランクだからな。強いぞ……けど、わからない」
「わからない? 強いんでしょ?」
「誰も見たことがないんだ。彼女が戦っている姿を」
訝しげにゴスロリのSランク冒険者を見遣るエヴァ。
誰も見たことがない。けれど、強いとレオは確信した。
おそらく、強者特有の匂いを感じているのだろうが……エヴァにはてんでわからなかった。
「……?」
ムスッとした視線が、エヴァの瞳と重なる。
茜色のうつくしい瞳。作り物めいたその球体がパチリと瞬いて、興味をなくしたかのように正面へ向き直った。
「――そこで、僕たちはこの作戦をきみたちに提案したい。実は、この作戦に参加するメンバーも既に選ばせてもらった」
メガネを押し上げたカサールが、表情に影を落とし、苦肉の策だと言わんばかりに、演技めいた身振り手振りで説明を始めた。
「先も言った通り、魔王打倒にはここにいるメンバーだけでは不可能だ。各国の精鋭を集めてようやく勝機が見えてくる。しかし、援軍が到着するのはおそらく二日から三日後。それまで待っている間に、聖女に万が一があってはならない」
故の、この作戦である――全員の顔を見渡したカサールは、満を辞して言った。
「――『聖女奪還』……魔王や配下と戦うことなく、聖女のみを救い出す……いわば、潜入ミッションだ」
「潜入……ミッション?」
思わず漏れたレオの言葉に、カサールは大袈裟なくらいに頭を縦にふった。
「敵にバレることなく、戦闘をすることもなく聖女だけを救い出す。それしか方法は、ない」
「そんなこと、できるのかしら?」
不満を込めた瞳でカサールを刺すシャロが、続けて言った。
「もし成功したとして、魔王や配下が捜索に出るはずよ。そちらの方が危ういのでは?」
「聖女を連れて王都に戻ったとしても、ここに残った俺たちが会敵……全滅すれば、またすぐにでも聖女を奪還されますよ。最悪――」
「王国が地図から消える」
聖女を奪い返しに魔王と配下は、廃都から一番近い公国を真っ先に捜索するだろう。
そうなれば、公国に残っている冒険者に被害が及び、カサールの計算通りにいけば全滅。
その勢いのまま王国を攻められ、冒険者という主力を失った王国はなすすべもなく壊滅する――レオたちが想像したのは、そんな最悪のシナリオだった。
「その可能性も十分ある。だからこの作戦は、行う価値がある」
「どういう意味だ?」
ロマティンが表情を険しくさせ、口を開いた。
「帝国やセレノガの援軍が到着する頃合いを見計らって、聖女を奪還してほしい。それまでに潜入、逃走経路の確保等を行い、いつでも聖女を救出できるよう整える。救出後、近くで待機させてあるガウェインに乗り、僕たちと合流。
ここから廃都まで約二日だからね、魔王軍がこちらと会敵するまで多少時間があるはずだから、そこで体勢を整えて――魔王の首を獲る」
「そう簡単にいかないのはわかってる。けど、このまま何もせずに待っているのは、性に合わないよね?」
フレデリカが全員の顔を見渡して、ニヤリと笑みを含ませた。
「冒険者の矜持を魅せつけてやろう。何者にも囚われない、自由たる意志を——」
椅子から立ち上がり、声高らかに言った。
「それでは、この作戦に参加する者の名を呼びますので——みなさん、覚悟を決めてください」
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しばらくの間、更新を停止します。
理由としましては、新作や次話の作成などでインプットがほとんどできていない状況です。
創作者としてこれは由々しき事態ですので、一週間ほどインプットに没頭します。
かのスティーブ・ジョブズも、忙しい中一週間ほど時間を作り、インプットに没頭したそうです。
そういうことなので、
ご愛読いただいている皆様には申し訳ございませんが、もうしばらくお待ちください。




