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070 会議する魔術師①

「――現状、生き残った公国カルロフの民は九十三名しかいない。七十二名は民間人で、残りが軍関係者だ。とはいっても、そのほとんどが非戦闘員で、魔王と直接対峙し生き残ったのはベティ・カルロフ様しかいないそうだ」



 先遣隊として一足早く公国に到着していた【シャフリーヴァル】所属の男――カサールが、集まった三十名弱の冒険者たちの視線を一身に集めてた。




「とはいえ、まだ他に生き残りがいるかもしれない。一部の者たちには、下位の冒険者を指揮して捜索を頼みたい。それと土系統に腕のある魔術師を集めて、簡素な住宅の設営も頼む。いつまでも天幕暮しは精神にも悪いだろう。……そうだな、前列のきみたちが捜索、そこのきみが魔術師を集めてくれ」


「了解」


「へーい」


「はいさー」




 複数人の冒険者たちが天幕を後にして、仕事に取り掛かる。

 続いて、カサールは現状の重要性を説いてから、複数人の冒険者たちに仕事を割り与えていく。



 しばらくたって、天幕に残ったのは、十名の冒険者だった。

 シャフリーヴァルを除き、レオやエヴァ、ヌゥの他に七人。

 それらの人物は、冒険者ならば一度は耳にしたことのあるSランク冒険者たちだった。




「さて……きみたちが残ったのは偶然じゃない。より重要な案件をこなしてもらうために残ってもらった」


「重要な案件?」




 レオの質問に、カサールが頷くかわりに眼鏡を押し上げた。




「もちろん、主題である聖女奪還さ」


「ということは、ここにいるメンツで殴り込みにいくってわけね」




 サングラスを下にずらして、エヴァはそうそうたる顔ぶれをざっと見渡した。




「……すごい、個性が溢れてる」


「ああ、これで全てのSランク冒険者が揃ったことになる。……というか、どうして俺は残されているんだ?」




 一人だけ――いや、その左右に侍る二人も同じく、Aランクだ。

 レオと同ランクだった者たちは天幕の外に出て仕事を割り当てられている。

 なぜ三人だけ残されたのか? その疑問には、薄桃色の髪(ローズクォーツ)の少女がとうぜんと言わんばかりに答えた。




「レオくんは暫定SSランクだからね。他の仕事を任せるには惜しすぎるよ」




 弾けんばかりに笑顔を咲かせたフレデリカ。三日半ぶりの会話に、レオも表情が緩んだ。

 しかし、そこに異を唱える者がいた。

 白金プラチナの騎士甲冑を装着した、【シャフリーヴァル】最強のSS(ランカー)ヴィンセントだった。




「おいフレデリカ、俺とこいつを同等にするな俺に失礼だろう」


「そんなこといっても、ヴィンセント負けたじゃないか。レオくんに」


「負けてないッ!! 横槍が入らなかったら、完膚なきまでに勝利していたのはこの俺だッ!」


「いや、横槍に助けられたの間違いでしょ……? その点に関してはお礼しなくっちゃね。危うく、【不敗神話】が途切れるところだったんだから」




 フレデリカの言葉責めに、何故かヴィンセントはレオを責めるように睨めつけた。

 なんで俺なんだ……? 困惑しながらも、その他から突き刺さる視線に目を向けた。

 総勢七名のSランク冒険者たちが、レオを見定めるように視線をあてていた。




「とりあえず、その話は置いておきましょう。話を続けても?」


「置いておくな、その点についてもしっかり話し合うべきだ」


「ヴィンセントさん以外、みなさん認めてるので話し合う必要性はありません」


「認め……っ!? なにっ、どういうことだ!? 認めた!? アナスイ、おい、おまえ、俺を倒してSSに成り上がるとかいってなかったか? いいのか、おまえを差し置いてあいつが暫定SSだぞ!?」




 ひどく動揺したヴィンセントは、一番引っ掻きまわしてくれそうな白髪褐色の青年に詰め寄った。が、アナスイは舌打ちを響かせるだけで、それ以上何も言わなかった。




「……話、続けてもいいですか?」


「……ああ」




 とても悲しそうにしながら椅子に着席したヴィンセント。目元にうっすらと光るものがあった。

 



「先ほどエヴァさんが言ったとおり、このメンバーで聖女奪還する――当初はその予定でした。しかし、予想以上に敵は巨大だった」


「巨大? それは今更」




 ヌゥがボソッと呟いたのを、レオだけは聞き逃さなかった。




「第六位魔王だけがやってきたわけじゃなかったのよ~。概算でも、配下を八十八体は連れてきてるわあ」




 カサールの言葉をついで、見てきたかのように報告したのは深窓の令嬢然とした金髪のミリアンだった。

 いつものように幼体のガウェインを頭部に乗せ、テーブルの上に両肘を乗せた彼女はおっとりと表情をくずした。




「お察しの通り、私と数名で偵察してきたわあ。ここからそう遠く離れていない場所――かつてスタンピードで壊滅した国の王都を拠点にしているようねえ」


「スタンピードってなんだ?」


「魔物の異常発生。原因はわからないけど、数百年に一度は起きてる」


「私も聞いたことあるけど、万単位で魔物が押し寄せてくるそうよ。そんなのに襲われたら、どれだけ大きな国だってひとたまりもないでしょうね」


「直近で起きたのは五百年前。英雄アムルタートが第五位魔王を倒した直後」


「……ふぅん? よく知ってるわね、あんた」


「これもヌゥのブランディング」




 二人の説明と捕捉を聞きながら、スタンピードなるものがあることを知った。

 直近だと五百年前。しかもかの勇者が魔王を討伐した直後だという。

 体力的にも精神的にもドン底の中、万単位の魔物が押し寄せてくる――考えたくもない事態だった。




「――それで、聖女の姿は確認できたのか?」




 重低音が天幕に響いた。腹の奥底から噴火したかのような低い声音に、一同の視線が集まった。

 彼は、地べたに胡座をかいて腕を組み、どっしりと構えていた。

 まるで石像のような堅牢さ。

 はちきれんばかりに血管の浮き上がった三頭筋を魅せつけられて、レオは目を輝かせた。




「【百鬼ナキリ】――ロマティン・イプ……! この機会にぜひ、お近づきになりたい……!」




 総じて、冒険者には近接戦闘を好む者が多い。

 剣や槍、戦斧やハルバード等々。なぜなら、敵にするのはほとんどの場合、魔物であることが多いからだ。



 ランクを重ねていくごとに遭遇する魔物の体は強靭にして堅牢。それらを倒すには、拳では脆すぎた。

 故に、武器。

 職人によって鍛えられた武器は、担い手次第でドラゴンにも通用する。



 魔法は武器よりも強力だが、学ぶにはそれなりの時間と金銭の投資が必要だ。

 勉強をしなくてはいけないし、学校にも通わないといけない。そして優秀な師に従事するためには出会いが必要で、サロンやらパーティやらで出費が嵩む。



 そして何より、生まれつき身に宿す魔力の総量によって、左右される道だ。



 それに比べて武器は、手軽に買えるばかりか実戦の中で腕を鍛えられる。

 周囲を見渡せば同じ得物を使っている者が多く、参考資料がそこら中に転がっているから学ぶのに金銭はほとんどかからない。



 そういった面からも冒険者は武器を扱い、近接戦闘を好む者が多いのだが……彼は、ロマティン・イプはそこから真っ向に逆らった。




『――漢なら、拳だろうが……なあ?』




 レオは一度、その姿を見たことがある。

 裏路地、複数の武器を持った蛮人に襲われるも、拳一つで返り討ちに合わせたあの背中(姿)を。



 そこに武と呼べるものはひとつもない。

 ただ、粗野な暴力。しかし拳に宿る想いは熱く、心を震わせられた。



 男の中の男。そんな彼に憧れ、ついて来る者もまた多かった。

 拳一つで瞬く間にSランクへと成り上がった彼は、ギルド屈指でパーティメンバーの多い冒険者()だった。

 



「ちなみに、俺の方が冒険者歴・年齢ともに上だ」


「え……? おっさんじゃん、どっからどう見ても……」


「信じられない」




 エヴァとヌゥが、驚愕に顔を歪めながら耳打ちしてきた。




「聖女の安否はわかりませんわあ。けど、まだ生きている……それだけは確実よ~」


「なぜわかる?」


「そういうのに長けた子がいるの~。シャフリーヴァル(うち)は多種多様だからねえ」


「フン……それで、戦争はいつだ? 俺たちはいつでもいけるぞ」




 その問いには、ミリアンではなくカサールが受け持った。




「それに関してだが……現状、僕たち全員が真っ向から戦って勝てる見込みは——ゼロだ」





「おもしろかった!」



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誤字脱字修正、ありがとうございます! とても助かります!



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