050 仲間を集める魔術師②
日が落ちて、夜。
夕暮れの間にギルドへ戻り、依頼達成の手続きや納品、解体した魔物の素材を売却など手分けして行い、各人は朝と同じテーブルに集まった。
「どうなのよ、今回の報酬額は?」
「はい。薬草採取で三〇〇〇ディラ、穀物採取で一五〇〇ディラ、ストレート・ボアの討伐報酬四七〇〇ディラに、解体した素材が三〇五〇ディラ。合計が一二二五〇ディラです」
「まあ、駆け出しからすれば全然稼げた方だと思うが……どうだ、エヴァ?」
ぎこちなく首を動かして、エヴァに視線を合わせたレオ。
エヴァの紫色の瞳が、細まった。
「稼げた方でも、あんたわかってる? 来週までに一ヶ月分の宿代・飯代を稼がなくちゃいけないのよ? そっから、次の宿代を稼ぎつつ、一千万ディラ以上稼がなくちゃならないのよ?」
「普通の方法じゃとても間に合わない」
ヌゥも肯定した。
仲間を失ったレオに、横から助け舟がやってきた。
「で、ですが、まあこのメンバーならなんとかなりますよ! ほら、わたしたち、もうEランクに昇格したじゃありませんか!」
フランが、首からぶさらげた白色のタグをつまんで見せた。
「確かに一つひとつの単価は小さいですが、積み上げていけばバカにはできませんよ?」
「フランの言う通りだ。魔物討伐はDランクからだが、逆に考えてほしい。鍛錬の時間がたくさんとれるじゃないか。来週から宿暮らしだけど、その前にパーティ対抗戦もあることだし、ポジティブに考えて――」
レオの言葉を遮るように、エヴァが苛立たし気につぶやいた。
「――元凶のあんたにそこまで言われると、ちょっと腹立つわね」
その隣で、ヌゥが首を振った。
「ヌゥはそう思ってない。レオは頑張ってる」
その隣で、フランもレオを庇おうと身を乗り出した。
「た、確かに全部兄さんの都合で、巻き込まれてるわたしたちが苦労するのはちょっとアレですけど! それでもわたしは、兄さんの役に立てて嬉しいですよ?」
「ヌゥ……フラン……ありがとう……」
庇ってくれた二人から、盗み見るようにしてエヴァをみた。
その視線に気がついたエヴァは、嘆息して、
「とっくの間に割り切ってるからいいわよ。色恋の多い男を好きになった私の落ち度だし? 応援するわよ」
ぶっきらぼうに、頬に手のひらを乗っけながらエヴァは答えた。
「わたしはエヴァさんのように割り切れませんけど、兄さんには大きすぎる恩がありますから。今のところ文句はいいません」
「ヌゥは、ただ好きという気持ちだけでやってる。他の女とは違う」
「あんた、最近マウントとるの上手くなったわね。ちょっとのしてやろうかしら?」
「落ち着いてください、エヴァさん。婦人ポストに入れない女の嫌味に決まってるじゃないですか。相手にしてはいけませんよ」
「……フランがいちばんひどい」
嘆き悲しむそぶりを見せたヌゥ。フランが意地の悪そうな笑みを浮かべ、エヴァはフランの言動に引いていた。
一方、テーブルの下ではヌゥの足がレオのあしへ蛇のように絡みつき、べったりと触れ合っていた。特に抵抗するそぶりも見せず、なされるがままのレオは、テーブルの上で苦笑いを浮かべるだけだった。
側から見てもわかる、この異様な冒険者パーティ。
絶対に関わりたくないと人が離れていく最中——
そのパーティに、近づいていく影がひとつ。
漆黒の長髪をなびかせ、大胆な赤いドレスで着飾った、妖気を振り乱す女性。
とても冒険者には見えず、たとえるのなら高級感あふれる娼婦のような身なり。しかし彼女の背には、不相応なほど血生臭い戦斧が。
「――もしかしてえ、パーティ募集とかしてたりしますぅ?」
大人の色香とは相反して、子供のような声音。
愛撫するようにテーブルをなぞる黒髪の女性が、妖艶に微笑んだ。
彼女――アマリリスは、頬にかかる黒髪をあそばせながら、同じ黒髪の少年をとらえた。
「わたしのこと、雇ってくれませんかぁ? 戦闘力はお墨付きだゾ☆」
ドレスを捲し上げ、ストッキングに嵌められた太ももが露わになる。
食い込むように、太ももに縛り付けられた冒険者タグ。
その色は、Bランクをあらわす赤銅だった。
「アマリリス・スィリ・クレア・フォン・カーディナリス――よろしくお願いいたしまぁす」
*
「えーと……アマリリス、さん?」
「友達は私のことマリィと呼ぶよぉ? だーかーら、たいちょーもマリィって呼んでもいいゾ☆」
立てた人差し指をレオに突きつけて、アマリリスはパチリと片目を弾かせた。
「ま、マリィさん……本当に、俺たちのパーティに入ってくれるのか?」
「やん、たいちょーお胸ばっかり見てるぅ。やらしーなあ?」
「ち、違う! 見てない、見てないぞ!?」
アマリリスにではなく、周囲の三人に弁解するレオ。
その彼の正面で、アマリリスが特筆してデカい胸を持ち上げた。
露出の高い、大胆な赤いドレスからのぞく、男を魅了する魔の谷間。
レオだけでなく、その場にいる全ての男性が、アマリリスの胸に注目した。
「たいちょーは、このおっぱいが好きなの~?」
「い、い――いや、違うぞ? 決してそういう目ではきみのことを見ていない!」
「ふぅん? 私は別にそういう風に見られてもいいんだけどぉ?」
「そ、それはどういう……?」
「まあまあ? ともかく、お話を進めようよたいちょー。私ぃ、雇ってくれるのかなぁ?」
大きくてクリクリとした瞳で迫られるレオ。息が詰まりそうだ。
その瞳にあてられて——気がつくと、レオは頷いていた。
「はい、オッケーです。今日からよろし――っ」
「た、たいちょー!?」
「はーい、ちょっと採用は待ってねー。こいつ、馬鹿だからこういうところあるのよ」
後頭部をどつかれたレオがテーブルに沈む。代わりに、エヴァが不機嫌そうに顔を歪めて、
「採用か否かは、実戦で確かめるわ。Bランクとはいえ、私たちの足を引っ張るようじゃ要らないから」
「それが合理的ですねえ。私もそれが一番いいと思いまぁす。……ところで、その実戦ていうのはこれからですかあ?」
ほっぺに人差し指をあてたアマリリスが、上目遣いでエヴァに問う。
「私は暇なのでえ、いつでもいいですよ?」
「ならこれから行きましょう。裏に訓練所があるのよ。そこでどう?」
「あー、なるほど。あなたが……ふふっ」
柔和に、妖しく微笑んだアマリリスが吐息をはいた。
エヴァの手をとり、優しく包み込む。
気持ち悪さに顔をしかめたエヴァは、ねっとりとした熱い視線にさらされた。
「私ぃ、この世で一番きれいなものを識っているんです。それ以外はどうでもいいとさえ思ってる。だから――」
手を包まれたエヴァが反射的に手を抜こうとするも、逃げられない。
繊細な指先から伝わる力が、エヴァを捕らえて離さない。
紫色の瞳を惑わす、鮮血のような瞳。
続く言葉を耳にした瞬間、エヴァは得体の知れない寒気を味わった。
「――壊しますね。得物を交えるというのなら、そういうことです。なぜならあなたは……あまりにも、醜い」
「おもしろかった!」
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