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048 作戦を練る魔術師

 後日。

 フレデリカと合流したレオ達は、フラン宅に戻ってきていた。




「ルールは五対五、非殺傷であればなんでもありで、どちらかの大将が戦闘不能になれば勝利。場所は初心者御用達の迷宮【ドラゴン・スカー】を貸し切って行うよ。もちろん魔物もいるから、気をつけて。……んー、以上かな? 何か質問ある?」




 あごに手を当てたフレデリカが、その場の全員を見渡す。

 視線に当てられたエヴァが、忌々しげにつぶやいた。




「非殺傷……ね。そうだろうとは思っていたけれど、これはキツいわ」


「キツい? エヴァさんって、なかなか肉食系だよね……」


「私じゃないわよ、レオがキツいのよこのルールだと」


「レオくんが……?」




 エヴァの指摘に、フレデリカが首をかしげた。




「ほぼ間違いなく俺の魔法は使えないといってもいいだろう。俺の炎は、手加減なんてできるほど繊細じゃない」



「火力が強すぎる弊害ね。いやそもそも、殺さないことを想定していないのだから、本来は必要のないものなんだけど」




 エヴァの言うとおり、レオの炎は強すぎる。

 【裏切りの獄炎(インフェルノ・ユダ)】を使わずとも、その威力・火力ともに絶大だ。

 ある程度火力を抑えられるとはいえ、それにも限度がある。




「聖女様のように、埒外な回復魔法を持つ者がそばにいないと安易に使えないんだ。だから今回は、とてもやりにくい」



「なるほど……でも、レオくんには武術もあるよね? 魔法が使えなくとも、そっちでなんとかできるんじゃないのかな?」




 フレデリカの言葉を跳ね除けるように、ヌゥが鋭い声をさした。




「レオの武はまだ二流。一流の相手には通用しない」



「ヴィンセントは間違いなく一流の剣士だ。刹那ぐらいの時間だが、手合わせしてみてよくわかった。他にも、ミリアンさんやローランさんもいると考えれば……」


 

「で、ですけど、武術しかないのではありませんか? 今から新しくなにかを始めるよりかは、今あるものを強化した方がいいと思いますよ?」



「だからこの一週間で、どこまで昇華させられるかが勝負だな。俺の努力量次第だ」


「ん。それに、敵が剣を扱うなら都合もいい。ちょうど、今レオに剣を教えてる」


「ヌゥ。それって、対抗戦に間に合うのかしら?」




 エヴァの言葉に、ヌゥはなんてことでもないように、言った。




「問題ない」


「そう。ならいいわ」



 

 仕上げるまでの時間が僅かとはいえ、ヌゥが問題ないと頷いたのならば、そうなのだろう。

 この中で、レオの才能と器の底を識っているのは、彼女だけなのだ。

 その彼女が肯定したのであれば、エヴァからは何も言うことはない。

 しかし……




「あんた……まだ強くなるの?」




 どんどん引き離されていく感覚。

 手を伸ばしても届かない場所へ、秒速で積み重ねていく彼の姿をみて、エヴァは複雑な表情を浮かべた。





「強くなれるところまで、強くなりたい。現状で満足なんてできない。俺はもっと、両手で抱きしめられる人数を増やしたいんだ」



「……ん? 今のって、さらにハーレムメンバーを増やすっていう伏線か何か?」


「決意とも言う」



「意思表明……? レオくん、まさかミリアンを狙ったりはしてないよね? ローランと付き合ってるんだよ?」



「え、そうだったんですか? それは初耳です、確かに仲良いですよねお二人とも……流石に、兄さんそれはだめですよ?」



「いやいやいや、待て待ってくれ。俺は別にそういうつもりでいったわけじゃないぞ?」


「じゃあどういう意図でいったのよ?」


「それは……」




 一瞬、ためらいはしたが。

 彼女達には、話してもいいんじゃないかと、そう思った。





「——俺には、助けてあげられなかった人がたくさんいるから」


「……それは、あんたがまだ【ノイトラ】だった頃の話?」


「いや、そのさらにずっと昔……俺がまだ、村人だった頃の話だ」


「兄さんの故郷での話、ですか。まだ聞いたことなかったですね」


「あの魔女とやらに出会った時の?」

 

「よくおぼえてるな、エヴァ。その魔女と出会う数日前に、俺の故郷の村が燃えたんだ」


「燃えた?」


「ああ。原因はわからない。ただ俺は、村を走りまわって、逃げようともがいてた」




 ごうと吹き荒ぶ熱風。

 黒空こっくうすらも染め上げんと赤く紅く燃える炎。

 まるで地獄を体現したかのようなその渦中で、レオは一人の少女をみつけた。




「左眼付近を火傷して、ただれた皮膚を抑えながら這っている女の子がいたんだ。その子を担いで、逃げる間近に……もう一人、女の子が泣き叫ぶ声が聞こえてきた。当時の俺は、体力もなければ、度胸もなかった。だから……その女の子の悲鳴を無視して、聞こえないふりをして、俺は逃げ延びた」




 少女を助けるためとはいえ、見捨てたことに変わりはない。

 助けに行こうとする素振りすら見せず、賢いをふりをして。




「だから俺は、助けられる母数を増やしたいんだ。強くなればなるほど、助けられる人も増えてくる。もちろん、みんなのことは第一優先だ。何があろうと俺が必ず守ってみせる。

 だけど、後悔しないように強くなりたい。もう二度とあんな苦渋は舐めたくない。

 せめて、視界に映った全ての人を助けてあげられるように——俺は」



「レオくん……」




 フレデリカが目元に涙を浮かべて、レオを見つめていた。

 残りの三人は、ひそひそと顔を寄せて話し合っている。




「増えますね。間違いなく増えますよ」


()()()()()()()()()()()には注意ね。できればレオに会わせず、遠ざけましょう」


「ん。ヌゥもそれがいいと思う」




 話を終えた三人は互いに頷き合うと、話の輪に加わった。




「レオ……あんた、大変だったのね。そんなことがあったなんて……」


「兄さん。わたしは、兄さんを守れるようになりたいです。守られるだけじゃ、嫌ですよ」


「ヌゥは、レオの手助けをしてあげる。強くなるための、手助け」


「おまえら……全部聞こえてたからな? 白々しいぞ」


「なんか、最低です」




 一斉にレオから視線をそらした三人。

 それを呆れたような目つきで見遣るレオとフレデリカがいた。

 



「ともかく、仲間を集めなくちゃいけないんだ。フレデリカ様が景品である以上、負けるわけにはいかない。舞台に上がれず敗北なんて、ありえないことだ」



「景品って言い方、ちょっとやだなあ?」




 さりげなくレオに擦り寄ったフレデリカ。肩と肩がぶつかって、「あ……」と声を漏らす二人。



 付き合って数日。

 いまだに恋人らしいことをしていない二人が、たったそれだけのことで視線を彷徨わせた。




「いやなにその初々しい反応、めっちゃ腹たつわ」


「あ、いや、違うそんな、別にど、動揺してないぞ?」


「う、う、うん別にうれしくともなんともないよ肩がぶつかったぐらいで!」


「エヴァで童貞捨てたくせに」


「ぬ、ヌゥさん!? そうなんですかどこ情報ですかそれっ!?」


「ふつう気付く。公国を出発する日、二人とも時間ギリギリで、寝癖をつけたまま来た」


「え、でもお二人とも別々に来たはず……ッ、まさか!?」


「そう。あえて時間をずらした。冒険者同士の一夜あるある」



「兄さん……胸が、痛いです……この痛みを引きずって、これからずっと生きていかなくちゃいけないんですか……?」



「え、いや、え、と……」



「と、とりあえず! あと二人仲間を集めなくちゃいけないのよ! まずはそこから考えましょう!」



「エヴァさんはいいですよね……もうやることやって、第一婦人のポストに定まってるんですから……」



「ふ、フラン……? あんた、何をいって……」



「知ってました? わたしだけ、兄さんからハーレム要員宣告されているのに、好きの一言もいってもらえてないんです」



「……あー、レオ」


「はい」


「フレデリカフレデリカいってる場合じゃないわよ?」



「いやいや、待ってよそんなことないもん! わたしだって付き合ったのに何もしてないよチューだってしてないのに、なんか他の女と最後までやってるってすっごい複雑なんですけど!!?」



「ヌゥに関しては、完全に愛人扱い」




 修羅場、到来。

 今となってはもう見慣れた光景となったこれを、鎮めるためにレオは勢いよく発声した。




「よし! これから冒険者ギルドに行こう! そこで仲間を集めるんだ!!」


「――その前にわたしを抱いてよレオくん!!」


「――わたしと兄さんの関係ってどうなってるんですか!?」


「――私のこと幸せにするって約束でしょ!?」


「――ヌゥには第二婦人のポストちょうだい」



 

 破竹の勢いと化した四人がレオへと詰め寄って、黒髪の少年は警鐘をならす本能に従ってその場から逃げ出した。





「おもしろかった!」



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