二十四話
生まれて初めて入った女子の部屋は薄暗かった。
ピンク色のカーテンがまるで世界を拒絶したように締め切っていたのだ。
白いテーブルに天ヶ原さんと対面する形で俺は座った。
改めて見た天ヶ原さんは普段のお洒落な私服ではなく、無地の白いTシャツに半ズボンで少しやつれており、顔色も悪い。金髪ヘアーもつむじにかけて黒髪が目立ちプリンのようになっている。
「お茶を取ってくるのでちょっと待っててくださいね」
天ヶ原さんはやつれた頬でニッコリ笑う。彼女の笑顔がズキリと心に刺さった。
俺は本当に酷いことをした。こんな俺が彼女のことを好きになっていいのか。解決したはずの疑問が再び浮上してきてグラグラと俺の頭を揺らす。
でも、俺は決めたんだ。ここで戸惑ったりはしない。
気分を紛らわすために彼女の部屋をグルリと見渡す。彼女がいつも寝ているであろうベットに衣装ケース。そして恋愛漫画がぎっしり詰まった本棚。
「ん?」
ここで俺の視線は本棚に止まった。正確には本棚の上だ。そこには写真が幾つか並んでおりその中には俺がルシフェールの格好で自撮りしている写真。これは多分ツイッターであげたやつ。その隣にはこの前デートに行った時に天ヶ原さんが密かに撮っていた俺と彼女とのツーショット。これは天ヶ原さんが俺に送ってきた数々の写真の中にあった一枚だ。
その他にも俺、ルシフェールの写真が飾ってあって本当に彼女がルシフェールのことを大好きなんだなと実感した。
そんな中一枚だけ俺が知らない写真がある。
それは黒髪お下げの眼鏡をかけた少女が恥ずかしげにピースしている写真。
風貌からして中学生だと思う。見た目は可愛いがなんというか、俺が言うのはとっても失礼なのだが地味な女の子だった。
でもその顔は何処かで見たことあるような……。
「お待たせしました。コーラでいいですよね?」
戻ってきた天ヶ原さんが俺の前に熊のキャラクターがプリントされたコップを置いた。
「うん。ありがとう。あ、あのさ、そこの写真の子って誰なの?」
「あ、あの写真ですか……」
俺が尋ねると天ヶ原さんは顔を俯かせてしまった。これは何かまずいことでも言ってしまったか?
とにかく謝ろうとしたときに天ヶ原さんが少し恥ずかしそうにしながら。
「あの写真。中学校の時の私なんです」
「えっ?」
俺は思わず彼女と写真の子を見比べる。ううん確かに面影はあるが見た目も正反対だしきっと性格だってまるで違うだろう。
驚きを隠せない俺に天ヶ原さんはえへへと笑ってから俯いた。
「可笑しいですよね。今とは大違い。でも私は本当はあんな女の子だったんですよ。見た目地味だし恥ずかしがり屋であがり性で。そんなんだからお友達もいなくて」
「本当はお友達も欲しかったし。いっぱいお洒落もして可愛くなりたかった。それでもし好きな男の子が出来て、その人と恋人になれたら毎日一緒に学校行ったり、お弁当作ったり、放課後一緒に手を繋いで街を歩いたり。大好きって言って大好きって言われたり。でも私には無理だなって思って諦めてたんです」
天ヶ原さんの目に涙が溜まっていく。俺は何もすることが出来ず、ただ彼女の話を聞くことしか出来なかった。
「そんな時でした。初めてルシフェール様の配信を見たの。最初は何やってるんだろなんて思ってましたけど。ルシフェール様が目をキラキラさせて自分で作ったお話を話して。衣装も全部手作りで、凄いなぁって思ったし。好きなことをあんなに楽しそうに、素敵な顔でやってて格好いいなぁって。だから私も変わろうって思って。自分の好きな自分になろうって思って。髪も染めたしお洋服もいっぱい買いました。今の私がいるのは全部ルシフェール様のお陰なんです」
天ヶ原さんは顔を上げ俺を見る。
そして。
「私に勇気をくれて……元気をくれて……人を好きになる幸せを教えてくれたのは全部……全部小野君なんだよぉ」
涙を堪えきれなくなった天ヶ原さんが大粒の涙を零した。辺りには彼女がすすり泣く音だけが響き渡る。
俺は今すぐ彼女を抱きしめたかった。抱きしめてその悲しみと震えを取り払ってあげたかった。
でもそんなことは出来ない。彼女の弱さにつけこんで惚れさせるなんてそんな卑怯なことは出来ない。
だから俺は。
「天ヶ原さん。俺今日配信やるから。いつもの時間に。だから絶対見て欲しい」




