二十二話
俺がやるべきこと。それは天ヶ原さんにあってまず謝ることだ。許してもらえないかもしれないがとにかく謝る。それから関係性が修復してからゆっくり時間をかけて告白でも何でもすればいい。
しかし、しかしだ。頭で何回もシュミレートしても現実で行動を起こすのは難しい。というのも天ヶ原さんが学校に来ないからだ。
くそっ! 皆にあれだけ励まされて勇気を貰ったのはいいが肝心の天ヶ原さんがいないのなら意味がない。
一応彼女の家は知っている。前のデートで送ったからだ。でも急に来られても困るよな。「なんですか突然家まで来て。ストーカーなんですか?」とか言われて終わりだ。ストーカーとか何処の何ヶ原さんだよ。
そんなこんなで一週間が経過して、俺は今日も教室で蹲っていた。
もしこれがラブコメ漫画だったのならそろそろイベントが発生して進展があるころだが、現実はそう甘くはない。あーあ。人生全部三択式で攻略本なんかあったら俺は今頃グットエンディングが見れたのに。
「ねぇ。起きてるんでしょ?」
そんな時どこからか声が聞こえてくる。その声は透き通った氷のように鮮明でそれでいて冷たい。
顔をあげると國生さんがいつも通り綺麗な、それでいて無愛想な顔で俺のことを見ていた。
「何? 俺は今考え事で忙しいんだけど」
俺は彼女にうっとおしいんですけどオーラーを放ちながら睨んだ。
そもそも俺が悩んでいる元凶はこいつの一言から始まったんだ。だから顔なんて見たくなかったんだが。
しかし彼女は俺の考えなどどうでもいいようでその薄ピンク色の唇を開いて。
「白昼堂々えっちな妄想なんて貴方とんでもないスケベのようね」
「うっさいな。視姦するぞ」
冗談まじりしそう言うと彼女は頬を赤くしながらブルりと身体をビクつかせた。
こいつ、顔が不細工だったら絶対ぶん殴ってる。
「そ、そう。私をオカズにね。ふーん。因みにどんなシチュエーションなのかしら? 恋人同士みたくイチャ甘く? それとも性欲に任せて獣のように強引に……」
「発情すんなこのど変態女が」
俺が罵ると彼女は大きくビクつき、甘い声を漏らした。
前言撤回。こいつ今すぐぶん殴ってやる。
俺は出しかけた拳を理性で抑え、落ち着くために一度大きく息を吸って吐いた。
「で、話を戻すけど何か用でもあるの?」
「え? ええ。別に大した用じゃないけれど貴方にこれを渡しにきたのよ」
そう言うと彼女は色々詰まった茶色の紙封筒を俺に差し出してくる。
「何これ?」
受け取ってみるとずっしりと重く、結構な量が入っていることが分かる。
これお前の妄想が詰まった小説とかじゃないよな?
「天ヶ原さんが学校着てないときに溜まったプリントよ。これを貴方に届けてほしいの」
「え?」
俺の口からは疑問符が漏れる。
これで俺は天ヶ原さんの家に行く口実が出来た。しかしこうもあっさりと都合のいいことが俺の人生で起こりうることだろうか。いいや違う。俺の人生はいつだってハードモードなのだ。
「なんで俺が届けなきゃいけないの?」
俺は探りを入れるために質問した。どうせこの女のことだ。何か裏があるに違いない。まぁあっても卑猥なこととかだろうが。
俺の質問の真意を見透かしたからか、彼女は何処か余裕そうな笑みを浮かべる。
「別に深い意味があるわけではないわ。ただ貴方が適任だと思っただけよ」
「そうなの?」
「ええそうよ。私が行っても彼女は喜ばないでしょ?」
まぁ確かに國生さんが行ったところで門前払いくらいそうだけど。
それでも俺が適任かどうかは別の話だ。恐らく彼女は今の俺達の状況を把握しているそんな中で俺を選ぶだろうか。俺としては巡ってきたチャンスだからありがたくやらせていただくけどもっと他に理由があるのではないかと疑ってしまう。
そんなことを考えていると國生さんが俺の顔をジーっと覗き込む。
「……なんだよ」
尋ねると何処がおかしかったのか分からないが彼女は笑った。
「いえ、貴方って本当に顔に出やすいからおかしくってついね。……そうね。他に理由を言うとすれば貴方達には仲良くしてほしいからよ」
「……余計に訳が分からないんですけど」
事あるごとに文句を言ってきた國生さんからは考えられない台詞だったので本気で訳が分からなかった。
「私はきっと貴方達が羨ましかったのよ。お互いに愛し合ってる貴方達がね。……私は皆に好意を持たれても本当に好きになってもらったことがないから」
俺から視線を外して、遠くを眺めながら彼女は言った。その表情は冷酷だったり冷徹だったりとは違う普通の女の子だった。
彼女はきぬぽんとしてネット上で男達から熱狂的な支持を得ている。しかしそれは彼女の容姿や身体目当ての奴ばかりだ。彼女はきっと心から愛してくれる男を捜しているのかもしれない。
「その、ありがとう。俺頑張るよ」
俺が彼女にお礼を言うと國生さんはこちらを向いてから。
「お礼を言われる筋合いはないのだけれど。まぁいいわ。精々頑張ることね。所構わずイチャつかれるのも困るけど」
「うん。……つかあれだね。國生さんって実は良い人?」
俺の質問に國生さんはフっと笑みを零した。
「私は前から悪い人ではない。それだけよ」
そう言ってフワリと艶やかな黒髪を振って俺に背を向ける。ツカツカと自分の席に戻っていく國生さんの後姿は一言で言えば美しかった。




