その16,ガリガリキラキラ
本日2度目の投稿になります
どうやら何百年もグランウッド家に仕えているドライアドと、何百年も魔書を守り続けてきたサキュバスは知り合いのようだ。
「サキュバス、年増の夢魔がそんなはしたない格ッ好して、見ているこちらがお恥ずかしいですわ」
「あら、ドライアドこそ、ちょーっと強い魔力に触れただけでアンアンとイヤッらしい声上げて、こちらの方こそお恥ずかしいですわよ」
口調は丁寧だが、腰に手を当て睨み合い、今にもバチバチと飛ぶ火花で火がつきそうだ。焼け野原になる前に一旦収めよう。
「まぁまぁ、それよりちょっとキッチンをお借りしたいんだ。試してみたい料理があってね。みんなで試食会といこうじゃないか」
お互いフンッと顔を背けると並んでズカズカと屋敷に向かって行った。
「あの二人、ああ見えてとっても仲良しなんだよ〜」
そう言いながらシェロちゃんが俺の腕に飛びつく。
「ま、たしかに気が合ってるな」
屋敷に入ると、掃除が行き届いたピカピカの床、真っ白な壁が出迎えた。奥にあるというキッチンに進む。
俺が住んでいた部屋よりも広い。ショック。トイレはきっと俺の部屋くらいの広さがあるんだぜ。
見渡すとかまどが2つ、オーブンもある。
大きな食器棚に調理器具が並べて掛けられた壁。
これまた大きな吊り戸棚を開けると、色々な種類の油や調味料が揃っており、その下の棚には大きさの違う鍋やフライパン、調理器具があった。
調理台の上には長さの違うナイフが何本かケースに立てられ、大きな植物油の入った缶が置いてある。
「これだけ揃ってたらなんでも作れそうだな」
とりあえず、立て掛けてあった木の板を調理台に置く。見たところまな板で間違いない。
これから何が出来るのか、興味津々、といったところだろう。ま、『細工は流々仕上げを御覧じろ』ってね。
もともとキッチンにあったキャベツを千切りにする。居酒屋でのバイト経験が役に立ったぜ。
ボウルに入れ水に晒しておく。
「おろし金はあるかな」
棚を探してみるが、見当たらない。
「チーズ用ので良ければこちらに…」
ドライアドが棚の奥から取り出したのは大きくて四角い4面全てがおろし金になっているものだ。これは使いづらそう。
困った時の皮袋ちゃん、と。皮袋をまさぐる。ごそごそすると、トゲトゲとしたものが指先に当たる。
取り出すと、お馴染みのおろし金が出てきた。スライサーのついた便利なやつ。
「ほえー、ヤキトリ様の袋、本当になんでも出てくるんだねぇ〜」
シェロちゃんが、見たことのない仕様のおろし金を見て、アホ丸出しの顔で目をキラキラさせている。
さて、このカチカチのパン。これをバットの上で粗めにすりおろす。お手製のパン粉だ。
だいぶ硬いな。ガリガリ。ガリガリガリガリ。
その様子を見ている女子3人組。目がキラキラ。キラキラ。
ガリガリ、キラキラ。
おろし続けて10分ほど、ガリガリとパン粉にしたところで疲れたが、まだまだ何も始まってないぞ。
壁に吊り下げられていたにんにくも2欠け取り、小皿にすりおろす。
生姜もあるな。これもすりおろそう。
すりおろす作業もやっと終わり、紙で包まれたフェルニルの肉をまな板の上に取り出す。
「肉を切るナイフはどれでもいいのかな」
とナイフ立てを指差すと、声も発さずにドライアドがウンウンと頷く。
買ったフェルニルの肉は大体広げた手のひら2つ分くらい。鶏肉よりはだいぶ大きい。想像では鶏肉サイズと思っていたんだけど。
まずは1枚を真ん中から半分、また半分。4等分に切り分ける。これだけ切っても鶏胸肉一枚分の大きさだ。厚みのある部分は切り込みを入れて開き、包丁の背で叩く。
もう1枚は一口サイズに切り分ける。結構な量になったが、4人分としてはちょうどいいかもしれない。
大きいボウルに肉、にんにく、生姜、塩、ぶどう酒を入れ揉み込む。
「胡椒は…なさそう、だな」
さっと手を洗い、吊り戸棚の調味料を開けてみるが、やはり胡椒はない。だいたいこういう世界では胡椒は貴重なんだよなあ。
「胡椒は金と同じ値段で取引されていますし、こういう小さな街には流通しないのです。ジンジャーも高価ですわ」
やっぱりね。残念そうな顔でドライアドが言う。綺麗だ。しかし生姜も高価だったんだな、ゴメンゴメン。
フムン、困った時の皮袋ちゃん。再度登場だ。
こういう時に、高価な品物も出てくるのか、という疑問もあるが。
腰の皮袋をまたまさぐる。うむ、円柱の…少し柔らかい容れ物…。出てきたのは某あじ塩コショーとかいうやつ。
賞味期限切れ、これ自宅にあったヤツじゃんね。まあいい。使えないこともないだろ、1年くらいしか過ぎてないし。
見たことのない調味料に、またキラキラする女子3人。
今までこんなに美女に注目されたことがあるだろうか。わたしはありませんでした。神さまありがとう。
あ、すこやかロリータ様ありがとう。
容器の蓋をしっかり押さえて振る。固まっている中身をなんとかしないと。数回思いっきり振るとカタカタいう固形の感触が無くなり、サッサッと粉末に戻るのを感じる。
切った大きめのフェルニル肉には強めに、ボウルの一口大のフェルニル肉には軽く塩コショーを振る。
胡椒のいい香りが鼻を刺激すると、3人は恍惚の顔で肉を眺めていた。
小麦粉、水、卵を1つボウルに割り、フォークで溶き混ぜる。更によく混ぜる。衣だ。
混ぜる。
まぜまぜ。
ジーッと見ていたシェロちゃん達がようやく口を開いたと思ったら、
「ヤキトリ様、あたしもまぜまぜしたい!!」
「お嬢様、次はわたくしも!」
「あら、こういう白濁したとろ〜っとした液体の扱いは、私の役目と決まっていますわ!」
と急に騒ぎ始めた。
「わかったわかった、シェロちゃん、ドライアド、サキュバスの順で、まぜまぜしててくれ」
俺は呆れた顔でボウルをシェロちゃんに渡す。
真剣なちょっとしゃくれ気味の顔でボウルを抱えて混ぜるシェロちゃんと、その様子をクネクネと身体を揺らしながら待つドライアドとサキュバス。
なんだこの絵面は。新しい。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




