その15,ドライアド
粉モノが沢山入った麻袋を片手に、肉屋へと移動する。
軽々と持てているのは、重力操作魔法のおかげだ。シェロちゃんが『持ちたい持ちたい!』と騒いでいたが、アホとは言えそれは そういうわけにも行かん。
この軽さならシェロちゃんにも持てるが、まさか俺が手ぶらで女の子に荷物を持たせるなんて、ねえ。かっこ悪い。
肉屋は粉類を購入した食品店の、すぐ近くにあった。
街の入り口付近の店とは違い、生の肉、それも色々な種類の肉が置いてある。
ガラス張りのショーケースの中に並べられた肉はどれもピンク色の綺麗な色をしている。入り口の肉屋は干し肉専門店みたいだったからな。
生肉だが、魔法で作られたであろう氷の板の上に置いてあり、鮮度は良さそうだ。きっとここで売れ残ったものが干し肉行きなんだろう。
店先に立っていた店主はこちらに気づくと、両手を広げ、大きな声で歓迎する。
「いらっしゃい旦那!ウチの肉はどれも新鮮で最高の品質だ!」
いかにも肉屋な雰囲気で、ゴリゴリのマッチョ。
ゴリラと言っても良いですねゴリラ。
「フェルニルの胸肉を2枚もらおう。それと卵があれば3つ」
ガッハッハ、とこれまた大きな声で笑いながら、ショーケースの裏に回り込む。
「旦那なら持ってけと言いたいところだが、ウチも仕入れがあるもんでね、胸肉は2枚で8銅貨、卵は3個で2銅貨でいいか」
そういうと、肉をショーケースから1枚1枚丁寧に取り出すと、慣れた手つきで紙に包み、卵はネットのような袋に入れた。
「お勘定は10銅貨だ。オマケに牛のミルクを1瓶付けとくよ」
日本円にして1,000円くらいか。卵は約200円。貴重なんだな。
しかしとりあえず、目的のものは買えた。あとは調味料か。
肉と卵、ミルクを持っていた麻袋に突っ込む。もちろん、卵は割れないように、そっと一番上に乗せた。
「それじゃ旦那、今後ともご贔屓に!」
なんてデカい声で目立つったらありゃしない。
「さてと、なんだかんだでもうすぐ昼飯時だ。シェロちゃんの家なら調味料もあるだろう?キッチンを貸してくれ」
「え」
俺の突然の申し出に目を白黒させるシェロちゃん。
何か不都合な点でもあるのだろうか?
実はご両親が健在だ、とか…?いや、もう人間なら2~3回死んでるくらいの時間が経ってるしそれはないか。
シェロちゃんの家も直すところがたくさんあるとは言ってたけど、物凄くヤベェ感じだとか??
もじもじと俯きながら、手を後ろに組み、足を交差させながら土に8の字を描くシェロちゃん。
手を後ろで組んでいるせいでおっぱいが強調されている。
「ウチに男の人が来るの、初めてだから…その、恥ずかしくて…」
うーん、辛抱たまらん!!
じゃなくって!
思わず冷静を装い答える俺。
「なんてことはない、壊れているところは直せば良いんだ。大した問題じゃないよ」
何はともあれ、昼だ昼!
☆☆☆
その足取りは軽くて重かった。
二人ともグラビティがかかっているので身体が軽い。
だがシェロちゃんの歩みが時々止まるので、時間だけは掛かったのだ。シェロちゃんの家は街の外れ、やや遠い。
案内のとおりに進むと、やがて大きな石柱の門が見えてきた。高さ2メートルほどの塀が続き、お屋敷を囲っている。
近づくにつれ、門に続く道を挟むように、花畑が広がっていく。
「あのもしもしシェロちゃん?」
立ち止まって目をギュッと瞑ったり、目頭を押さえてみたり、上下左右の眼球運動など試してみたが、眼に映るのはやはりお屋敷だった。
「ふぇーん帰りたくない〜」
再度歩き始めた俺に引っ張られる形で、足を伸ばしブレーキにして踏ん張るシェロちゃん。
すると遠くから、緑の長い髪に緑のワンピースを着た、長身の綺麗な女の人が走り寄ってくる。
「お嬢様~!お嬢様お帰りなさいませ。お帰りにならないから心配してたんですよ?」
俺のほうをチラチラと見ながら、それでいて無視をしている。こういう扱いは慣れっこだけど、綺麗な人にされるのは更にしんどい。
「俺はヤキトリ、と申します。縁あって、そのー、ちょっと家に案内してもらっ」
「こちらヤキトリ様、夜明けの逢瀬を叶えた人ですわ。以後丁重に、私よりも大切になさい」
急に口調や態度を変え、被せてくるシェロちゃん、さん。
それに対し、緑女の人が俺の前で腰を深々と折り、頭を下げる。
「これは大変失礼致しました。
わたくしは代々このグランウッド家に仕えるドライアドでございます。
夜明けの逢瀬のお方とは存じ上げず、失礼を改めてお詫びいたします…」
緑の人、ドライアドは「グランウッド家」と言った。言ったな。街の名前と一緒なんだけど。これは一体。
「ごめん、いまいち内容が飲み込めないんだけど、つまりどういうこと??」
スッとドライアドは立ち上がり、「まずはお荷物をお預かりいたします」と麻袋を受け取る。
と同時に『はぁんッ』と嬌声を上げ、何かにしなだれるように倒れこんだ。
「この魔法…もしや重力魔法では…」
心なしか紅潮した顔でドライアドがこちらを見ている。うん綺麗だね。
何か気配を感じ、後ろを振り返ると、俺の影が波を打ってモコモコと動いている。地面が動いているのではなく、影が動いている。
シュルシュルッと渦を巻いた影が上に伸び、人の形を成形するとそこにサキュバスが現れた。
「あら、久しぶりね、ドライアドちゃん。やっとあの本を開いた人が現れたの」
いつから居たんだよ。流石にびっくりしたわ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




