その14,フェルニル
フェルニル。
全ての風の源、だとか、全ての風を打ち消すもの、だとか言われている鳥だ。
その声は朝日とともに夜明けを告げ、その姿は炎のような肉の髭と髪、純白の羽根と鋭い嘴、鉤のような爪をもつという。
空を飛ぶ姿を見たものは呪われるといい、今までに見たことがあると証言したものは居ない。また、首を刎ねても直ぐには死なず、その首を置いて去ってしまうことさえある。
しかしそんな恐れられているフェルニルであったが、捕らえられ、養殖され、今や食卓には欠かせないものとなった。
よくもまあそんな恐ろしい魔物を食べようと思ったもんだ。
ん。
よく考えたらこれニワトリじゃねえか。
俺の世界では品種改良で今のニワトリがあるはずだけど、この世界では魔物としてもともと存在するんだな。
まあいい。昼はフェルニルの肉を茹でて食ってみるか。
路地を出ると、先ほどまでの人だかりは既に散り散りになっていた。
フェルニルの肉を売っている肉屋を探す。キョロキョロとギルドの周りに建つ店を眺める。
高価な材料や食材は、ギルド周りに多い。というのも、食材はギルドに納められ、商店もギルドから食材を仕入れるらしい。仲介屋やんけ、恐ろしいわ。
ここでもまた声を掛けられるが、適当に挨拶で誤魔化して進む。
それにしても色んな種類の食材がある。
肉、魚、野菜、果物にスパイスのようなもの。高価だが麦やトウモロコシの粉もある。
思いついたことがあって、スパイスや粉を売っている店に寄ってみる。
「このトウモロコシの粉はどうやって食べるんだ?」
麻の袋に詰められた粉を指差した俺に、店主は嬉々として奥から出てくる。
「これは大したものじゃないんですが、だいたい水で練って、団子か平べったくして…焼いて食べますな。ごく一般的な家庭で食べてるもんです」
「となりの白っぽい粉は小麦粉かい?」
トウモロコシの粉は黄色だ。白っぽいのは小麦粉だろう。
「こっちは小麦を粉にしたものですが、トウモロコシに比べて味もしないし、焼いたところで固いんで、マァ、庶民の腹の足しにしかならないんですわ」
なるほど、小麦粉は安く手に入るが、あまり食材としては歓迎されてないんだな。
であれば当分は小麦粉で生活できそうではある。しかし、パンは飽きるんだよなあ。
入院した時にパンばっかりで、米を食べさせてくれって泣いて頼んだことがある。
(その前に泣いてパンを食わせてくれと頼んだ俺がいるわけだが)
「シェロちゃんは小麦は嫌いかい?」
後ろにいるシェロちゃんに振り返りながら質問。
この世界では小麦粉が主食だとして、あのカチカチのパンをどう食べるのかも気になるな。
「うーん、パンは好きとか嫌いとか考えたことないなぁ。お店だとトウモロコシのパンも出るところはあるけど…ちょっと食べるのが面倒くさい時もあるけどねー」
「ちなみに、このカチカチのパンは、どうやって食べるんだい?」
店先で山積みになっているカチカチのパンを1つ掴み、指で弾いてみせると乾いた音がする。
「だいたいスープとか獣のミルクで煮てふやかしたり、何もない時は水で柔らかくして絞って食べてたよー」
うーん、スープやミルクはともかく、水か…
そうか、カチカチだからこそできることもあるな。
「じゃあ、これとこれ、あとはパンを」
俺は小麦粉を数袋(袋売りなのだ)、カチカチのパンを数個、スパイスのような粉も数種類。この店では銀貨5枚。約500円で済んだ。小麦粉が安い。
結構な量になったので麻袋1つにまとめて入れてもらう。皮袋にしまおうと思ったが、この量を入れたらまた大騒ぎになるな…。
「ヤキトリ様、この荷物重たそうだね〜」
シェロちゃんが不安そうに見つめてくる。いや、シェロちゃんに持たせようとか思ってないから大丈夫なんだけど。
「そうだ!軽くしちゃえばいいんだよ!」
時折、思いついた時や考え事をしている時に猪木の真似みたいな顔をするのはやめてほしい。可愛い顔なのに。顎を突き出すな。
「グラビティ」
紫の光が麻袋を包む。
ズ…ズズズ…ズンッッッ!
麻袋が地面に沈む。
「ヤベエ!!『重たいんだよなぁ〜』とか考えてたら重くなっちゃったよ!!」
「グラビティ!」
フワフワ…
慌てて魔法をかけ直す。危なくブラジルの皆さんにお届けするところだったぜ。いや、反対側はもちろんブラジルじゃないんだけどさ。
「すごいねー、ヤキトリ様!自由自在だね!!」
何にでも感動してくれる女の子が身近に居るっていいなぁ(泣)シェロちゃんならどんな坂まみれの住宅街だって感動してくれるに違いない。アホだけど。
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