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カタナガリ  作者: リソタソ
大剣を背負う少女
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剣を守るドラゴン

 赤銅色のうろこを身にまとったドラゴンは、アーニィとトヨが襲いかかってくるのを待ち構えているかのようにじっとしながら唸り声を上げている。

「……あれの先にカタナがあるかもしれんのだな」

 トヨは、ドラゴンの期待にこたえるかのように、背中の大剣エンシェントを抜いた。

「おいおい、あれに敵うわけ……」

「逃げるのか? まぁ、逃げられればの話かもしれんがな。こうやってドラゴンに見つかってしまった以上、背を向ければアイツの爪に骨ごと肉を引き裂かれるのがオチだろう」

 目の前にした強大な相手に、身をすくめるアーニィに、トヨは冷静さを崩さずにを告げた。

「やるしかないってことか」

 アーニィが腰の短剣を抜いた。

「ふっ、案外潔いじゃないか」

「諦めるしかないだろう、この場面……まぁ、二人でやればもしかしたらなんとかなるかもな」

 アーニィにはトヨといれば少なくともアイツの足止めをしてもらっているうちに剣だけでも獲って来れるような算段があった。それゆえに、トヨに眉唾物ではあったが、ドラゴンの居る洞窟を教えたのだった。

「アーニィ、お前は手を出すなよ。私とアイツの戦いに指ひとつ出すことは許さんからな」

 だが、トヨの言った言葉はアーニィのそんな算段を一瞬で蹴散らすものだった。

「お、おい! あんなのに一人で敵うわけないだろ!?」

「これもまた、私に課せられた試練の内だ。使命を成すためにはあの程度のオオトカゲくらい、一人で倒せるくらいにならなければならん」

「ここで死んだら使命も元も子もないだろ?」

「ここで死んだら私がここで死ぬ程度の人間で、使命を成すにはあまりにも弱かったことが分かるだけだ」

 トヨはちっともアーニィの言葉を聞き入れる気はなかった。こうまで話を聞く気がないのであれば、アーニィ自身が勝手にドラゴンの隙をついて剣を取りに向かうか、トヨがアイツを倒してくれることを信じるしかなかった。

「はぁ……じゃあ、よろしく頼むぞ」

 とりあえず、トヨが一人で戦うことはもはや決定事項だった。アーニィには彼女の背中を無責任に押してやることしかできない。

「ああ、任せろ」

 しかし、当のトヨ自身は胸を張って、自信満々にドラゴンを倒すことを引き受けた。もしかしたら本当にトヨがドラゴンを倒してくれるかもしれない。アーニィは彼女の小さくも重い使命を背負い続けた頼りがいのある背中に、かすかだが確かな希望の光を見た。

「では、行くぞっ!!!!」

 気合を込めて、トヨが地面を力強く蹴り飛ばした。トヨが猛スピードでドラゴンの前足へと駆けていく。大剣の重さなど微塵も感じさせない、素早い動きだった。

「ぐるあああああああっ!!!!」

 ドラゴンも自分の命を狙いに来ている小さな狩人に気付いて、狙いを定められた右前足を浮かせて、一歩前進するようにしてトヨの頭上めがけて踏み出した。

「……!!!」

 トヨは自分を覆う影に気付いて、すかさず地面を蹴って、トヨから見て左側の壁の方へと横っ飛びする。

 ごぉん、と洞窟中を揺らす様な轟音と震動を巻き起こし、地面にドラゴンの前足が降りた。固い岩肌の地面に僅かながら亀裂が入る。

「……あれに踏まれたらひとたまりもないな」

 アーニィは呟きながら、トヨを目で追った。トヨは、飛び跳ねたまま、体を捻って自分が迫りつつある壁の方に足を向けていた。そしてそのまま、壁に両足をついて、勢いのままに膝を曲げ、ばねを伸ばすように壁を蹴った。

 まるで投石のような鋭い勢いを持ったトヨが、空振りしたドラゴンの右前足に向かって飛び掛かる。

「はあああああああああっ!!!!」

 そして、勢いを利用した横なぎの大振りで、大剣エンシェントをドラゴンの前足にぶつける。

 ガキン! とまるで金属と金属がぶつかり合うかのような大音が洞窟中に響いた。

「……なにっ!?」

 その一撃は、トヨにとっては他人の剣でさえあっさりとへし折り、人ならば背骨を粉々に砕けるほど普通の大振りとは比べものにならない強大な攻撃のはずだった。その一撃でなら、この洞窟に新しい道に見えるくらいの大穴を開けることだってできるくらいだと自負していた。

「あのドラゴン、びくともしていない」

 アーニィはあんぐりと口を開けた。トヨは、さっきまでの勢いをすべて失い、大剣エンシェントをドラゴンのうろこから外して、地面に着地した。

 うろこには大剣が当てられた部分に横一閃の傷がついただけで、ドラゴンの皮膚にも到達していなかった。

「固すぎる」

 たまらず、トヨが零す。その隙に、ドラゴンが動いた。今度は、つま先の鋭く尖った爪でトヨの体を貫かんとわずかに浮かべて足をスライドさせた蹴り攻撃だ。

 トヨはそれを横っ飛びに避ける。あまりにも大きな一撃一撃に、トヨは体力も筋力もそうとう消耗するようなダイナミックな回避行動を取らなければならない。

 だが、大きな攻撃を繰り出す大きな足は、同時に攻撃を当てやすい的になる。

 トヨは蹴りを避けてすぐに、空を突き刺した足に果敢に飛び掛かり再び剣を振るった。両手で柄を掴んでの立て振り。

 がん! と、トヨの攻撃はまたもその足を覆う鱗に受け止められる。だが、それをトヨは受け止められても、冷静にすぐさま剣を引いた。

 トヨは、自分の攻撃が受け止められることはさっきの攻撃を止められたことで十分に理解していた。一撃一撃で、この足を切り崩すことはできまい。だからこそ、この馬鹿でかい的には当てやすい加減のした攻撃を何度も何度も繰り返すことが重要だと彼女は結論付けていた。

「やああああああああっ!!!!」

 がん、がん、がん、がん、がん、と立ち止まった前足に、大剣エンシェントが何度も何度も弾かれては振るわれ、弾かれては振るわれる。だが、彼女は攻撃を繰り返した。

(並大抵の生物なら、多少の痛み位は感じるはず。これなら体勢を崩すくらい……)

 動かぬ足に攻撃をしながら、うろこに自分の攻撃の傷が刻まれていく様を見ていたトヨ。しかし、彼女は自分の頭上に新たな影が現れているのに気が付いた。

 トヨが頭上を見上げる。するとそこには、長い、長ーい首の先にある、黄色い宝石のような眼を輝かせた頭があった。しかも、上下に何本も並んだ鋭利に尖った白い牙を見せつけるように大口を開いている。

「まずい!」

 外野で見物しているだけのアーニィが声を上げた。首の長さは、ゆうに胴と前足のトヨがちょうど攻撃をしている部分にまで届くくらいの長さだった。トヨめがけて噛みつくつもりだ。そんなアーニィの予想通り、鞭のように首を振るって、トヨにめがけて牙が襲う。

「くっ! ちっとも効いている気がせんな!」

 トヨもそれを察して、後方に飛び退いてドラゴンの顔面が迫りくるのを避けた。ドラゴンの噛みつき攻撃はそのままトヨがいた地面に突き刺さる。

「!?」

 トヨはその光景を見て眼を丸くした。ドラゴンは、そのままその鋭い牙と、万力のような馬鹿力で岩肌の地面をまるで綿を噛みちぎるように抉り取ったのだった。それも、地面に衝突した上あごや下あごからは血を一滴も流さずにだ。ドラゴンは口の中に砕けた大量の石や砂を含みながら首を持ち上げた。

「あいつ、どれだけ頑丈なんだ」

 アーニィはすっかりドラゴンの隙を縫って剣を取りに行くことを忘れて、その異常な光景に見入っていた。

「……ガァアアアアアアア!!!!」

 首を持ち上げたドラゴンが、口に含んだ大量の石を、トヨに向かって吐き出した。岩の大きさはまちまちで、手のひらサイズのものから、人の頭を優に超える大きさの岩と言っても遜色ないようなものまで含まれている。それが、豪雨のようにトヨの頭上に降りしきる。

「……くっ」

 最初は避けようと思っていたトヨだったが、避けるにはあまりにも数が多すぎた。トヨは大剣エンシェントの太い刀身を盾のようにかざして、すっぽりと収まる小さな体を岩の雨から防いだ。

 大量の岩が降り注ぐ雨と大剣エンシェントの刀身とがぶつかる激しい音がする。

「ぐっ、さすがに重いぞ」

 岩の一つ一つの重さが連続して背中で押さえた刀身に加えられるのに、さすがのトヨも堪えた。両足がぴりぴりと痛む。大剣を持ったまま飛び跳ね続けた足に耐え続けさせるのには無理がある。トヨはそう感じて、まだ岩の雨が収まらない間に、大剣の柄に手を添えた。

「な、何をする気だ!?」

 アーニィは、トヨがこの岩の雨の中で盾から身を晒そうとしているのを見て、無茶だと思った。ここは、止められてはいるけれど戦いにはせ参じるべきではないか。アーニィが戦いを決意して短剣と、背負った長剣の柄を掴んだ。

 だが、その決意を実行することはなかった。

 トヨが、大剣の柄を取ると、ぐおん、と空を切りながら剣を頭上で一回転させる。岩の雨の一部をそれで弾きながら、手で持つ位置を長い柄の一番端までずらしていた。

「これで、トドメだ」

 そのまま、片足を後ろに引きながら、刀身を背後に持ってくるように構える。ちょうど、岩の雨が砂の小雨に変わりつつあった。もう、トヨに降り注ぐものは目に入れば痛い程度の小粒の砂だけになっていた。

 チャンスだ。トヨは絶好のチャンスを得ていた。それを逃さぬように、トヨが走り出す。その距離は短く、彼女の大剣の切っ先が届くドラゴンとの胴が三メートルほど離れた位置まで走ると、トヨは足を踏ん張って、大股で自分の重心を固定する。

「喰らえええええええええっ!!!!!」

 トヨが、大剣を大きく振るった。大剣の軌道は、もっとも大回りの半円を描くルート、彼女が繰り出す回転切りよりは勢いはつかないが、もっとも長い距離を回るもっとも勢いのつく攻撃の仕方。さらに、そこに加わるのは彼女の持っている天性の馬鹿力、大剣エンシェントを軽々と振り回す強大な腕力だ。

「あ、あれはっ!?」

 剣が振るわれ、ちょうどトヨと大剣の刀身が水平になったあたりで、アーニィは自分の目を疑うような光景を目にした。剣を振るう遠心力とそれに加わった腕力のせいなのか、理由は一切彼には分からないが、あの刀身全体を覆っていた蠢く錆が、じわりじわりとっ剣のみねの方向へと追いやられていた。そして、錆の無くなったあたりから、純白の、まるで白銀のような白い刃が現れていたのだった。

 剣の切っ先が、まずドラゴンの前足に触れる。そのまま胴、それから逆の前足へ、強大な力がで振るわれた横一閃の攻撃がドラゴンを切り裂く。

 さっきまでとは訳が違う。刃までも錆びに覆われて叩き割ることぐらいしかできなかった大剣ではなく、本物の刃で切り付けられた。

 横一閃の綺麗な線となった傷がドラゴンの体に刻まれていた。

「……」

 少なくともダメージは入っているはず。トヨもアーニィもそう思っていた。だが……。

「ぐるぁああああ」

「な、何っ!?」

 ドラゴンはさっきまでと何一つとして変わらずにトヨを見下ろしていた。苦しむようすも見せてはいない。良く見ると刻まれた傷もさっきまでトヨが付けた傷と同じようにうろこの表面を削っただけに過ぎなかった。

「くっ、繰り返し攻撃をし続けるしかない……かっ!!」

 トヨは再び、前足や胴に対して、剣を振るっては避けてのヒットアンドアウェイ戦法を取るしかなかった。

 アーニィはその様子をじっくりと見ていた。トヨが攻撃する様を、全く動じないドラゴンの様子を。

「……あいつ、さっきの攻撃は良かったのに、あとは全部チャンバラ遊びみたいだ」

 トヨが剣を振るう様はアーニィにとっては、子供たちがチャンバラ遊びをするときに、木の棒やら何やらをでたらめに振るうさまにしか見えなかった。もちろん、あの攻撃を回避するアクロバティックな行動はトヨにだけできるようなものだが、剣の振り方なども一目瞭然、素人のそれだった。

 剣士じゃない。彼女が言った一言は、そんな攻撃の動作からもひしひしと感じられた。おそらく、彼女は剣士としての修業も、もしかしたら基本的な訓練でさえも積んでいないのではないかとアーニィは危惧した。

(それでもあの大振りの攻撃の際だけは、剣を振る型がきちんとできていた。すべての攻撃にあの型をうまくあてはめれば一撃一撃に相当な重みが加わるんだけど……それでも、あのドラゴンを倒すことができるのか?)

 アーニィはそこを疑問に思っていた。おかしなくらいあのドラゴンは攻撃一つ一つに動じていない。一切のダメージを負うことが無いみたいだ。

 あの体全体を覆う赤銅色のうろこのせいだろうか。それ以外には考えられない。だからこそ、他の部位を狙う必要がある。柔らかい、攻撃の通りそうな場所を……。

 アーニィはその部分がどこかを考える。それはすぐに見つかった。どれだけうろこに覆われていても、必ず外気に触れる部分で柔らかい場所がある。目だ。

「トヨ!!!! 目だ!!! 目を狙うんだ!!!!!」

 アーニィの声が、洞窟中に反響した。トヨもその声に振り返る。だが、彼女はアーニィを見た瞬間に声を荒げる。

「な……うるさい、バカ!!!!!」

 理不尽な怒りだった。

「な、なんだよ!!! 助言くらいしたっていいだろ!!!!」

「うるさい!!! 手を出すなと言ったろ!!!」

「手は出してないだろ!!!! 出したのは口だ!!!!」

「助言だって手を貸すのとおな……ぐっ!!!」

 アーニィの方によそ見をしていたせいで、トヨはドラゴンの首を振るっての頭突きを喰らう。だが、それは何とか大剣エンシェントでガードしていた。けれど両足だけでは踏ん切りがつかずに、壁際まで吹き飛ばされてしまう。

「トヨ!!!!」

「ぐっ……だが、壁際に来れば……」

 トヨはエンシェントを支えにして、ジャンプする。そのまま体を地面に水平にしながら、壁に両足を付ける。最初に吹き飛ばされたときに、壁を蹴って突撃したのと同じ要領での、攻撃を繰り出そうとしているのだった。

「はあああああああああ!!!!」

 トヨが飛んだ。狙うのは、首をもたげたドラゴンの頭部。

「……うるさいと言っておいて、きっちり目を狙うんじゃないか」

 まっすぐに頭部に向かって行くトヨは剣の先を突き刺すように立てて、ドラゴンの目を狙っている。勢いのままにドラゴンの目を突き刺す寸法だ。

「やあああああっ!!!」

 ドラゴンは避けようともせずに、トヨの攻撃を目に受ける。

「……!?」

 攻撃をした方のトヨが、剣を突きだしたまま目を見開いていた。その目の前の光景を目に焼き付けるかのように。

「……ああああああっ!!!」

 ドラゴンが、頭を動かしてトヨを弾いた。

「トヨ……!?」

 宙に浮き上げられたトヨが、放物線を描いてアーニィの居る方向へと落ちてくる。アーニィは彼女を受け止めようと、着地点に移動するが、移動しながらドラゴンの顔を見て、彼もまた驚愕した。

 突きを真っ向から受けたはずの目は、傷一つ付いていなかった。

「う、嘘だろ、目を突いたんだ。普通は潰れるくら……ぶほっ!!!?」

「はぁ、はぁ……く、なんなんだあいつは」

 落ちてきたトヨは飛ばされながらも空中で体制を器用に変えており、うまく着地できるようにしていた。そのため、ちょうど落下点にいてドラゴンの目に気を取られていたアーニィはトヨを受け止めようとも避けようともできずに、彼女にそのまま踏みつぶされたのだった。

「お前こそ、なんなんだよ……」


ども、作者です。長い戦いの描写。もっと簡単に分り易く、言葉巧みに書けるようになりたいものです。

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