表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタナガリ  作者: リソタソ
大剣を背負う少女
3/104

大剣「エンシェント」

アーニィとトヨを取り囲んでいる男たちは、抜き身の剣を片手に、じりじりと二人の方に迫っていた。

「おいおい、いい感じの剣もってんじゃねーか、アイツら?」

「しかも眼鏡の方なんて、何本も剣もってやがる。これは久しぶりに俺達だけのおこづかいも手に入るかもなぁ」

 アーニィとトヨを見ながら、口々に声を洩らす男達。アーニィは彼らの持つ剣を眺めながら眉を顰める。

「あいつらの持っている剣。あんな服装の連中が買えるような安物じゃないぞ……」

「こんな時でも剣にしか目が行かんのか。剣バカめ」

「違う、剣マニアだ。それに、剣ばかりしか見てないわけじゃない」

「ほう?」

「アイツら、高価な剣を持っている割には、薄汚れた服で体なんか何日も洗っていないのが丸わかりなくらい黒ずんでやがる。しかも……構え方も素人同然だ。アイツらは間違いなくこの辺で旅人を襲っている山賊たちだ」

 アーニィとトヨはお互いに背を向けたまま、二人だけに聞こえるように小声で話していた。

「おい! そこの小僧二人。剣を置いて行けば命だけは助けてやる」

 山賊の中で口ひげを伸ばした男がエラそうにアーニィ達に命令するような言葉を発した。

「小僧? 私は女だ」

「今そこを訂正する必要あるか!?」

 マイペースなトヨの発言に、アーニィはついつい口を挟まずにはいられない。

「おうおう、こいつは失礼した。あんまりにも胸がぺったんこ過ぎてつい見間違えちまったぜ」

 山賊のひげ男はちっとも悪びれなさそうにニヤつきながら言った。

「胸でしか女と男を区別できないのか……もしや、目が悪いのか? ならなぜ眼鏡を掛けん?」

 山賊の含意も介さないトヨは、ズレた疑問を口にする。

「いやいや、お前は侮辱されたんだよ、皮肉を言われたんだ」

「そうなのか!? う~ん、私にも通じん洒落とは、顔も身なりも髭も悪いが、ユーモアのセンスは壊滅的に悪いらしいな」

 にやにやとしていた山賊のひげ男の表情が、あまりにも悠長すぎるトヨの言葉に、引き攣った表情に変わって行った。

「あんにゃろー……俺達を前にしてあーんなに余裕そうにしやがって! 絶対に生かしてかえさねぇ。お前ら! やるぞ!!!!」

 盗賊たちが雄叫びを上げた。

「おい、アイツら襲ってくるぞ」

「返り討ちにする」

 トヨは危機感もなく当然のことのように言って剣を抜いた。

「これもまた、我が使命を果たす道の上に転がる石ころ。それが障害となって私の前に立ちふさがるのなら切り捨て、我が大志のための贄としよう」

 彼女が抜いた剣を構えると同時に、盗賊たちが一斉に襲いかかってきた。

「くっ」

 数が多い。アーニィは腰に差した短剣に手を掛けながら、ぐるりとまわりを見て、どいつから手を出すべきか判断しようとした。

「アーニィ、伏せろ」

 しかし、逡巡の最中にトヨがアーニィに声を掛けた。

「はぁあああああ!!!!」

 トヨが力強い叫び声を上げた。アーニィは最初なんのつもりかと、トヨの方を振り返ってみると。トヨが剣を横なぎに力いっぱい振るおうとしているところだった。

「……まさか!?」

 アーニィはとっさに倒れ込むようにして身を伏せた。

 ぶおん!!! と爆風でも巻き起こしそうな剣を振るう音とともに、さっきまでアーニィが立っていたところを含めて、エンシェントが振るわれる。トヨが右足を軸にして剣を一回転に振るう、回転切りを放っていた。

「うわっ!?」

 盗賊は全員、ひるんで立ち止まった。襲いかかる勢いが唐突に失われた。

「お前! あぶねーだろ!!」

 アーニィは回転を一周させて元の方向に向き直ったトヨに、寝転びながら顔だけ後ろを振り向かせて怒声を浴びせた。

「アーニィ。お前は手を出すな」

 しかし、トヨは彼の怒りもつゆ知らず、そんな命令を彼に下していた。

「は!?」

「これも私が使命のための大切な礎。自らを少しでも鍛えるチャンスだ。お前のような雑魚に手を貸されては、何にもならんから、絶対に手を出すなよ」

 アーニィはちっとも納得できなかった。トヨはそれだけを言い捨てると、盗賊たちの中に飛び込んで行った。

「お、おい!!」

 呼びかけるがトヨは止まらない。

「はああああああ!!!」

 トヨは一人の盗賊に狙いを定めて、大剣エンシェントを盗賊の横っ腹をめがけて水平に振る。

 あまりにも見え透いた攻撃だと、アーニィは思った。一旦後ろに剣を引いて、勢いを付随させた一振り。それは十分な破壊力を持つとともに、隙もありすぎで、相手からすれば今からどこを攻撃するか口で言われたかのようにはっきりと予測できる大振りな一撃だ。

 さすがに素人同然の構えをする盗賊と言えど、常日頃から実践と隣り合わせの生活をしているため、それぐらいは予測できる。盗賊は自分の横に剣先を下にして立てるように構え、トヨの一撃を防ぐ準備をした。

(まずい、絶対に防がれる)

 防がれたら、他の盗賊たちが襲いかかってくるはずだ。普通なら攻撃を止めるか、それかフェイントとして活用しようとするだろう。しかし、トヨはそのまままっすぐに剣を振り抜いた。

「はあっ!!!」

「よしきたっ!」

 大剣は振るわれた。盗賊の剣と衝突する金属音が聞こえる。普通はここで弾かれてしまうはずだ。

 だが次の瞬間、パキン! と何かが割れる音がした。

「んなっ!?」

 驚いているのはトヨの攻撃を受け止めた山賊だった。いや、受け止めようとした山賊と言った方が正しいだろう。

「でやあああ!!!!」

 剣は真っ二つに居られていた。トヨはエンシェントを使って防いだはずの剣をそのまま叩き折ったのだった。そして、振るった剣の勢いは止まらずにエンシェントの錆だらけの刀身が山賊の脇腹に突き刺さる。

「ぐはっ!!!」

 錆だらけだったのが良かったのか、盗賊の体は剣とは違い、真っ二つになることはなかった。しかし、まるで箒で叩かれた塵芥のように、大剣エンシェントによって吹き飛ばされて、近くの茂みに放り出されていた。

「ど、どんだけ馬鹿力なんだよあいつ……」

 アーニィはトヨの方を見ながら、身の丈よりも圧倒的に大きい大剣を振るって、攻撃を受け止めたはずの剣も叩き折り、大の大人をも軽く吹き飛ばす、少女には似つきもしない腕力に脱帽していた。

「っていうか、剣を折るな!!! あれだって貴重なもんなんだ! 絶対に盗品で、高くつくような品なんだぞ!」

 声を荒げるアーニィ。彼にとってはそんな馬鹿力よりも、おられた剣の方が気になるようだった。

「くっ、ひるむな、かかれ!!」

 盗賊たちは仲間一人がやられたとはいえ、雄々しい様を崩さないように再度雄叫びを上げて襲いかかる。

 一人がトヨの後方から剣を突き刺そうとした。

 すると、トヨは大剣の切っ先を地面に突き刺し、柄から手を離して大地を思いっきり強く蹴った。

 山賊の突きが空振りする。標的のトヨは、自分の身長の二倍以上は飛び上がっていた。柄も含めてエンシェントは大体彼女の身長の二倍程度だから、突き刺された大剣よりも高く飛んでいる。

「嘘だろ……」

 驚くアーニィ。しかし、この時は驚くのはまだ早いとは微塵も思わなかった。トヨは落ちる時に体を捻ってさっきまで自分が立っていた場所よりも前方に向かって落下するように方向転換する。そして、落下する前に、エンシェントの柄の一番先の石突を握りしめ、落ちる勢いのままに剣を引っこ抜くと、そのまま前方にいる、呆けた顔で飛び上がったトヨを見えていた山賊に大剣を振り下ろした。

 山賊は防ぐことも、避けることもできずにただ、頭上に振り下ろされた剣に脳天を叩き割られて、地面に倒れ、押しつぶされる。それもそのはず、トヨとの距離が三メートルは離れており、普通の剣が届くような距離ではなかった。それが届く異常に長い剣があり、それを使っているのが相手にしている褐色の少女などとはちっとも思えなかった。さらに、こんなにアクロバティックな剣技など想像もしなかったせいでもあるだろう。

「はっ!!!」

 それだけではとどまらず、トヨは限界まで攻撃範囲を伸ばした大剣で、再度回転切りを放った。

 攻撃圏内にいた盗賊たちはみな武器を構えて受け止めようとした。しかし、結果は最初に攻撃を受け止めようとした盗賊と同じだった。

 剣を叩き割られ、圏内には四人いたが、四人まとめて蜘蛛の子を散らすように弾き飛ばされてしまった。

「あああああああ、また剣が……」

 アーニィははいつくばりながら、おられた剣の破片を集めていた。

「くぅ……こいつはデュランダル侯爵の名を冠した大陸で高級とされている剣デュランダル。こんなに手入れもされないでいて、しかも折られてしまうだなんて……」

 アーニィは悲痛な声を洩らし、剣の破片に涙を流していた。

 その間にもトヨはばったばったと残りの山賊を蹴散らしていた。アーニィも剣の破片を拾い集めながら、トヨの方をちらちらと見ていた。

(あまり、ちゃんとした型にはなっていないな)

 アーニィは、まるで舞うようにぴょんぴょん跳ねながら、大振りに攻撃を放つトヨの戦い方を見て、山賊たちと大して変わらない、剣士としてはド素人な戦い方だと感じた。

 攻撃の一つ一つは雑なくらいに隙だらけ。その一撃を相手にヒットさせられるのも、あの膨大なリーチと、どれだけ攻撃をしても地面に突き刺しても錆びひとつ飛び散っていない頑丈な大剣エンシェントがあるからだ。そして隙があってもそれを何とかできているのも、相手が強者ではないことや、身軽な彼女の身体能力によるところが大きいだろう。

 もし、彼女の隙を的確につけるような相手だったら、それを見抜けるほどにじっくりと観察されているとしたら……、今のやり方では限界が来る。

 アーニィにはそれが分かった。さらに、注視して周りを見ると、残りの山賊は三人。一人はあの髭男だ。三人はトヨを取り囲んで、一気に襲いかかろうとしている。アーニィは剣の破片を地面に置いて立ち上がった。

「おらあああああ!!!」

「ふんっ!」

 飛び掛かる盗賊たちに、トヨはまた回転切りを放つ。

「もうそれはくらわねーぜ!!!」

 回転切りの餌食になったのは、三人の内一人だけだった。

「……!?」

 一人しか打倒していないことに気付いたトヨはもう一度回転切りを放つが、十分な距離を取って後退した二人の盗賊には届かなかった。

「……くっ」

 回転を止めたトヨの足もとがぐらついた。彼女の目が震えるように左右に揺れている。

「あいつ、目を回して……なんて間抜けな」

 隙を見せたトヨに、二人がかりで山賊たちは飛び掛かった。二本の剣がトヨに向けられる。

「……であっ!」

 トヨはふらつきながらをそれを避けると、髭ではない方の山賊に向かって、振りかぶった大剣を頭上に落とした。

「ぐわっ!」

 それはみごとにヒットする。

「今度こそもらったー!」

 しかし、トヨは背中を髭山賊にとられていた。

「せいやあああああああ!!!!」

 その山賊に対して、一撃が放たれる。それは削れた鞘が付きっぱなしの長剣で放たれた、アーニィの突きだった。トヨは、後ろをわずかばかり首だけ回して見ているだけだった。

「ふぅ……危なかったな、トヨ」

 一撃で伸びた髭山賊を見て、アーニィはトヨに向かって親指を立てながら言った。

「……おい」

 ドヤ顔のアーニィに向けられたトヨの一言は、重く重しい低い声で発せられていた。

「貴様絶対に手を出すなと言っただろう!!!!」

 どすん! とアーニィにトヨの大剣が振り下ろされた。

「うわあああああああ!!!」

 それを、アーニィは間一髪で避ける。地面に、まるで雪山のクレバスのような亀裂が入った。

「お、お前! そこは普通感謝じゃないのか!!!」

「誰が感謝などするものかっ!! 手を出すなと言ったのに、なぜ手を出した!!!」

 トヨはすっかり頭に血を登らせていた。

「だってよ! お前もう少しであの髭にやられそうだったんだぞ!?」

「そんなことはない。私はあいつの攻撃を避けてとどめを刺すつもりだった」

「あんなに目を回してふらふらしてたくせに?」

「なっ!? 目など回しておらん!! まわりすぎて地面が抉れてふらついただけだ!」

「嘘つけ!! そんなに強がってないで、認めたら……」

「強がってなどないわ!! くそっ、折角全員を倒せると思ったのに……」

 トヨは悔しそうに歯ぎしりをした。

「つーかよ。お前は剣を折り過ぎなんだよ! 剣の大切さってもんはお前も知ってるだろう?」

「知らん。私はお前のような剣マニアではないんだ。私はこのエンシェント以外の剣の価値などさっぱり分からんな」

「おいおい、剣は剣士の命。普通そうだろ?」

 アーニィは地面に落ちた剣の破片を見ながら口にした。トヨの足もとに、一つだけ拾っていない剣の破片が転がっていた。

「ふん。そんなもん知らん。私は剣士ではないからな」

 トヨは、その剣を踏みつけて、エンシェントを再び背中に背負い直して言った。





ども作者です。戦闘シーンは難しいとです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ