新しき顕現者⑭
「シロマ、本当にご苦労だったわ。貴女のお陰で瀕死の状態だった『クロス』の隊員達が一人も欠けることなく王都に戻ることが出来た。まさに、奇跡の白魔術師ね」
流転の國に帰還した後、マヤリィはシロマにそう言った。
「勿体ないお言葉にございます、ご主人様。されど、貴女様がいらっしゃらなければ私もダイヤモンドロックも無事では済みませんでした。皆が『完全回復』出来たのは貴女様のお力あってのことにございます…!」
シロマは跪き、頭を下げる。
「こちらへ来なさい、シロマ」
「はっ」
言われた通り、マヤリィの傍まで来るシロマ。
「あの時、私は貴女の白魔術を肌で感じて、前よりも強くなったと思った。…努力を続けている証拠ね」
そう言ってマヤリィはシロマを抱きしめる。
「シロマ、貴女はこの世界で一番の白魔術師よ」
「ご主人様…!」
シロマは思わず涙を流す。
そんな彼女にマヤリィはなおも優しく語りかける。
「私は貴女の主人であることを誇りに思うわ。…シロマ・ウィーグラーに命じる。これからもずっと私についてきて頂戴」
「はい…!私は決して貴女様から離れるようなことは致しません…!どこまでも貴女様についてゆくことをお約束致します…!」
マヤリィの優しい腕に抱かれたまま、シロマが言う。
(どうしましょう…私、今、ご主人様に…!)
まさかご主人様に抱きしめられるとは思わなかった。美しいマヤリィの腕の中でシロマは頬を染める。
(誰よりも気高く美しく優しい御方。…私のご主人様がこの御方でよかった…!)
そんな思いを噛みしめていると、
「シロマ。前から考えていたのだけれど、いつも私の為に尽くしてくれている貴女に何かご褒美をと思っているの。だから、欲しい物があったら言ってご覧なさい。…今は清貧という言葉は封印するのよ?」
マヤリィが微笑みながら問いかける。
「欲しい物…にございますか…?」
「物でなくても構わないわよ。貴女が望むことなら、何でも叶えてあげたい」
《…ねぇ、ルーリ。シロマ、絶対困ってるけど、大丈夫かな?》
《そんなこと言ったって、今更『透明化』を解いて姿を現すわけにもいかないだろう》
《うん…そうだよね…》
現在、ここ玉座の間にはマヤリィとシロマの二人だけ…ではなく、『透明化』して待機しているジェイとルーリがいた。因みに、二人は念話で会話中。
《それにしても、『透明化』の命令を受けたのは私だけのはずなんだが。なんでお前まで消えてるんだよ?》
《いや、なんとなく…》
先ほど、流転の城に帰還したのは二人だけだった。ご主人様の隣で嬉しそうにしているシロマを見て、ジェイは咄嗟に『透明化』してしまったのである。
当然、マヤリィはそのことに気付いているが、今はシロマと話したいので放置している。
「畏れながら、ご主人様…」
シロマが意を決して声を出す。
「ほんのひととき、貴女様を独り占めさせて頂けないでしょうか…?」
《《えっ!?》》
驚くジェイとルーリ。
「す、少しだけで良いのです…貴女様のお顔を拝見していたくて…」
真っ赤になって言葉を繋ぐシロマに、マヤリィは言う。
「分かったわ、シロマ。…では、こうしましょう。休みの日に二人きりで会議室で過ごすというのはどうかしら?」
「会議室にございますか…?」
「ええ。第2…ではなくて、第1会議室でティータイムというのはいかが?」
マヤリィ様、今一瞬シロマを襲おうとしましたね?
「よろしいのですか…?私などの為に第1会議室を…?」
「当然よ。これは貴女へのご褒美なのだから。…それと、せっかくだから会議室に来る前には………」
「えっ…私が………でございますか?」
シロマは戸惑いつつ、嬉しそうに頷く。
「畏まりました、ご主人様。感謝致します…!」
「楽しみにしているわよ、シロマ。…でも、これでは私が貴女を独り占めするみたいね。ふふっ」
《姫…何をさせようとしているんだ…?》
ジェイは色々と心配になる。シロマ、大丈夫かな…。
《そういうことか…。やっと私の出番が来たようだな》
隣では、一人で納得しているルーリ。
《えっ?今の会話聞こえたの?二人はなんて言ってたの?なんで君の出番なの?ねぇっ!》
しかし、ルーリはそれ以上何も言わなかった。
シロマが退出すると、マヤリィは何もない空間に向かって呼びかける。
「ルーリ、もう魔術を解いていいわよ」
「はっ」
ルーリは『透明化』を解き、姿を現すと、
「此度の一件、お疲れ様でございました。マヤリィ様が直接出向かれることになるとは予想外でしたが、ご無事で何よりにございます」
マヤリィの前に跪き、頭を下げる。
「ここで貴女に待機していてもらってよかったわ、ルーリ。長時間の『透明化』、ご苦労だったわね」
「とんでもないことにございます、マヤリィ様」
マヤリィは満足そうに頷くと、再び何もない空間に向かって呼びかける。
「…それと、空気を読むのが上手なそこの貴方。そろそろ姿を現しなさい」
「はっ。…僕が立っている場所までピンポイントで分かるんですね、姫」
そう言ってジェイが現れる。
「当たり前でしょう。そこに貴方の魔力を感じるから。…あと、気配消えてないし」
「つまり、僕の『透明化』は甘かったというわけですね?」
「まぁ、そういうことになるわね」
マヤリィはそう言って微笑むと、
「ジェイ、貴方もこの後は自由時間にしなさい。マンスを迎える役目、連絡係、留守番、ご苦労だったわ」
「はっ。有り難きお言葉にございます」
跪いて頭を下げるジェイ。
こういう時だけはちゃんと側近をやる。
ていうか、ルーリは「玉座の間で待機」だったのに、ジェイの役割は「留守番」なんですね。
そして、玉座の間にはマヤリィとルーリが残った。
「さっきの話、貴女も聞いていたでしょうけれど、お願いしてもいいわね?」
マヤリィは唐突に訊ねる。
ルーリはここぞとばかりに笑顔で答える。
「はっ。勿論にございます。シロマを衣装部屋に連れて行き、マヤリィ様とデートするのに相応しい可愛らしい格好をさせれば良いのですね?」
先ほど話していた、シロマと第1会議室に行く話である。
「ええ。…いつもの格好でも構わないのだけれど、たまには違うファッションのシロマも見てみたいのよ」
マヤリィ様、完全にブーメランですが。
「畏まりました。全て私にお任せ下さいませ」
せっかくだから着飾っていらっしゃいという主の言葉を聞いてシロマも嬉しそうにしていたし、ルーリは「自分の出番」が今から楽しみである。シロマ、どんな服が似合うかな。
「可愛すぎて第2会議室に行きたくなったらどうしようかしら」
「その時は私も呼んで下さいませんか、マヤリィ様」
主も主なら側近も側近である。
シロマさん、ご褒美どころか貞操の危機ですよ。
しかし、当のシロマはそんな会話を知る由もない。
「マヤリィ様と二人きりでティータイムなんて…夢みたい……」
普段は決して口にしない主の御名。これは独り言。
自分の部屋に戻ったシロマは、先ほどのマヤリィの言葉を思い出し、嬉しそうにそう呟くのだった。
流転の國には、主のことを名前で呼ぶ者とそうでない者がいます。
シロマはご主人様の御名を神聖視している為に口にすることはなかったのですが、実は「マヤリィ様」と呼んでみたいのかもしれません。
補足。
『透明化』魔術を持続させるには莫大な魔力が必要になります。
それを事も無げにこなしてしまうルーリさんの魔力量もチート級。
そんな彼女の次なる任務はシロマ専属のファッションコーディネーターです。




