新しき顕現者⑬
全てが終わり、王都に戻る時、マヤリィはミノリ、シロマ、クラヴィスの三人に言った。
「皆、聞いて頂戴。此度の一件に私が直接関わったことは黙っていてくれないかしら。貴方達三人が流転の國を代表して任務を完遂したということにしてくれると助かるのだけれど」
確かに、流転の國の主がモンスターの根城を潰して任務を完了させたと聞けば、ヒカル王が黙っていないだろう。もしかしたら、盛大な祝賀パーティとか開いちゃうかもしれない。もしくはパレードとか?
(だって、疲れたし、早く帰りたいし…)
マヤリィ様はそろそろキャパオーバー。
勿論、顔には出さないが。
「ご主人様。畏れながら、申し上げます」
今の主の言葉を聞いて一番最初に声を上げたのは、意外にもシロマだった。
「私は直接モンスターを駆除したわけではございません。それに、桜色の都は白魔術師の国と呼ばれるほど回復魔法の使い手が多いと聞いております。そんな中に白魔術師の一人として国王陛下の御前に参上するのは不安にございます。ご主人様、ご無礼を承知でお願い申し上げます。私の名は報告書の隅にとどめ、このまま流転の國に帰還させて頂けないでしょうか?」
確かに、流転の國の白魔術師が参上したとなれば、桜色の都の者達の興味はシロマに向けられること必至である。最悪の場合、白魔術の講師として引き止められるかもしれない。
「…そうね。シロマを公の場に連れ出すのは私としても本意ではないわ。ヒカル様の専門も白魔術だと言うし、気に入られでもしたら色々と面倒だもの」
マヤリィには、シロマが社交的な場を苦手とするのがなんとなく分かっていた。それは、自分に似たところがあるから。
「では、このまま私はシロマと共に流転の國へ帰還する。…というわけで、後は任せていいかしら?」
「はっ!」
「畏まりました、ご主人様」
そう答えるしかないミノリとクラヴィス。
ちょうどその時、念話が入った。
《こちらシャドーレにございます。マヤリィ様、少しお時間を頂けますでしょうか?お話したいことがございます》
《こちらマヤリィ。いいわよ、話して頂戴》
《ありがとうございます。実は、ツキヨ様のことなのですが…》
先ほど、任務完了の報告を受けたツキヨとシャドーレは桜色の都の無事を喜び合った。
そして、マヤリィの指示を待って、ツキヨをエアネ離宮まで送っていくことになったのだが、
《どうしても一度王宮に足を運びたいと仰せなのですわ。マヤリィ様、いかが致しましょう?》
ツキヨの希望を無下に断ることも出来ず、自分の一存で決めることも出来ず、困ったシャドーレはマヤリィに念話を送ってきたのだった。
ツキヨは王位を退いてから、一度もエアネ離宮を出たことがなかったと聞く。シャドーレと話しているうちに王宮が恋しくなったのだろうか。
《ツキヨ殿を王宮に送った後、しばらく時間をおいてからエアネ離宮まで送り届けるというわけね。…いいわ、ツキヨ殿の希望通りにしましょう。その旨、伝えておいて頂戴》
《はっ。マヤリィ様のお優しいお取り計らいにツキヨ様も喜ばれると思いますわ》
マヤリィは念話を終えると、今の話を二人に説明した。
「急ぐこともないでしょうし、帰る時間はツキヨ殿に決めてもらって、それからエアネ離宮に送り届けるのよ。…これはミノリに任せるわ」
「はっ!畏まりました、ご主人様」
ミノリならば、王宮内でツキヨの相手も出来るだろう。
「あ、あの…それでは、私は……」
残されたクラヴィスが不安そうにマヤリィを見る。
「貴方は直接国王陛下にお会いして、此度の一件についての報告をしなさい。…ミノリ、報告書はすぐに書けるわね?」
「はっ!お任せ下さいませ」
「わ、私が国王陛下に…?」
「ヒカル殿はまだ若いし、とても真面目な方だから心配しなくて大丈夫よ。前の首脳会談では随分と緊張した面持ちだったけれど、貴方となら気が合うかもしれないわ」
マヤリィは早く帰りたいので、クラヴィスに全て任せることにした。
因みに、前の首脳会談でヒカルが緊張しているように見えたのは、マヤリィの美しさに見とれていたからである。
「国王陛下にご挨拶して、報告書をお渡しして、その後で帰還しなさい。ここから先は貴方が流転の國の使者を務めるのよ、クラヴィス」
無茶振りマヤリィ様。
「はっ!畏まりました、ご主人様…」
クラヴィスは不安だったが、前向きに考えればこれはご主人様のお役に立つ絶好の機会だ。此度の任務では全て『流転のリボルバー』が自動でモンスターを駆除してくれたようなものだが、少しくらいは自分の力でご主人様のお役に立ちたい。魔力も武力も持たない自分に任務を与えてくれたご主人様の御為に働きたい。
「ご主人様。このクラヴィス、流転の國の使者として、必ずやご主人様のお役に立つことをお約束致します…!」
覚悟を決め、力強く宣言する。
マヤリィはそんなに大仕事でもないのにと思いつつ、
「頼りにしているわよ、クラヴィス」
笑顔で彼の言葉に応じるのだった。
そんなわけで、ヒカル王の御前に参上することになったのはクラヴィス一人。
「とりあえず、これを国王陛下にお見せすればいいから」
と、ミノリに持たされた報告書には、今回の任務の詳細が書かれている。
「後はよろしくね、クラヴィス」
「ありがとうございます、ミノリ様」
その後、一人になったクラヴィスが不安げに王宮の中を歩いていると、すぐに国王の側近に見つかり、玉座の間まで案内された。
「陛下、流転の國の英雄殿がお見えです」
「失礼致します。流転の國より参りました、クラヴィスと申します」
そう言ってクラヴィスが現れた途端、ヒカル王は立ち上がって笑顔で彼を迎えた。その場にいる貴族達からは拍手が沸き起こった。
「此度の一件、なんとお礼を言えば良いか…。流転の國の方々のお陰で我が桜色の都は救われました。本当に、ありがとう。貴方達はまさしく我々の『守護者』です」
「勿体ないお言葉にございます、陛下」
クラヴィスはヒカル王を前にして、深く頭を下げると、
「畏れながら、此度の一件についての報告書を持って参りました。お受け取り下さいませ」
ミノリが作成した報告書を手渡す。
ヒカルは笑顔でそれを受け取る。
「クラヴィス殿、貴方の活躍は『クロス』の者達から聞いていますよ。貴方こそ、我が桜色の都の英雄です」
「そ、そのような…!私はただシロ…いえ、我が主の指示に従って任務を遂行しただけで…」
クラヴィスは困惑するが、ヒカルは微笑みながら話を続ける。
「貴方はとても珍しい魔術具を持っていると聞いています。何でも、モンスターを一撃で葬ったとか。…我が国は攻撃魔法に関しては未発達な部分が多いゆえ、貴方のような頼もしい配下をお持ちの流転の國の主様が羨ましいです」
ヒカルは上機嫌で話し続ける。
「一度お会いしましたが、流転の國のマヤリィ様はとてもお美しく聡明な方でいらっしゃいました。もし、あの御方が一国の主様でなかったら、我が国の妃としてお迎えしたかった。…次の首脳会談が待ち遠しいものです」
『魅惑』を発動しなくても人を虜にする女、マヤリィ。
ていうか、マヤリィと結婚するには歳が離れすぎではありませんか?ヒカル様。
…あ、16歳差だった。ごめんなさい、ルーリさん。
「クラヴィス殿、今宵はゆっくりしていって欲しい。そして、貴方のマジックアイテムを見せて下さい」
若き国王はクラヴィスを引き止めて離さなかった。
(私はどうしたら良いのでしょう!?ご主人様〜〜〜!!!)
思いがけず「桜色の都の英雄」として名が広まってしまったクラヴィス。
結局、ヒカルの誘いを断れず、桜色の都の最上級のおもてなしを受けることになったのだった。
ヒカル…17歳
マヤリィ…33歳
ルーリ…49歳
全く狙ってなかった16歳差。
因みに、クラヴィスの年齢は不明です。




