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第72話〜勝利の代償〜


「もう一度言おう。我が配下となれ有栖」


「てめぇ…何をふざけた事を」


「お前に用はないと言っただろう?少し黙っていろ」


「そんなわけいくかよ」


突然の限界有栖の勧誘。

どこまでも勝手な真似に俺は我慢の限界を迎え、魔王へと詰め寄る。


挿絵(By みてみん)


その様子を見て、魔王は心底面倒くさそうにため息をついた。


「…スピカ」


魔王が側近の名前を呼ぶ。


「かしこまりました、グラシア様」


スピカはそれだけで状況を察したらしく、俺の前に出てくる。

そして…


「下がれ、愚民」


一瞬のうちに俺の首を掴むとそのまま俺を投げ飛ばす。

それにより俺は有栖と魔王の側から一気に引き離されてしまう。


「ぐはっ…!!」


軽く30メートルは投げとばされ、背中から地面に叩き叩きつけられる。


全身に鞭で打たれたような激痛が走るが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


すぐに立ち上がって、有栖の下に影寄ろうとするのだが…


「させるはずがないでしょう?」


いつの間に俺の目の前に来ていたスピカに蹴り飛ばされ、さらに吹き飛ばされる。


「クソがっ…ワールドアクセ…」


「止めておいた方がいいですよ。武器を出すなら…この場で殺します」


「なっ…!?」


俺がスキルを発動しようとした時、スピカがそう言いながら殺意を向けた。

その瞬間俺の全身が硬直し、体中から汗が噴き出してくる。


「ええ、そのままじっとしておくのが賢明かと」


その場から一歩も動けなくなった俺を見て、スピカがそう告げる。

目の前の侍女から向けられた殺意。それは俺がどう足掻いても彼女に絶対に勝てないことを明確に示していた。


「お前も魔王軍部隊長だって言ってたよな…?」


「ええ、そうですよ。ちなみに私の序列は第2位です」


「そういうことかよ…」


タウロスと戦った時も死を覚悟する瞬間はあった。

だが、目の前の侍女に対しては戦う事すらは出来ない。

その時点でタウロスより格上の相手というのは理解できたが、まさか第2位とは…。


俺はその一言で自分の勝ち目がゼロであることを理解し、その場で両手をあげた。


「降参だ。殺したいなら殺してくれ」


「グラシア様からあなたを殺せという命令は出ていません。それに…貴方などわざわざ殺す価値もありませんわ」


生殺与奪の権を握られた上、殺す価値すらない…か。

俺はこの世界に来て始めて自分の無力さに絶望し、その場で唇を噛みしめるしかできなかった。


――

―――


「さて、邪魔者がいなくなったところで…有栖よ、お前の答えを聞こうか?」


「魔王様の仲間にならないかって?」


「そうだ。悪い話ではなかろう?俺はもうじきこの世界を獲るぞ」


「ふーん、それで?」


「お前には世界の何割かをくれてやってもいい、もちろん他に望むものがあるのならそれを与えよう」


「望むもの…ね」


「ああ、少なくとも今のような弱小国にいるよりも遥かに良い待遇を約束しよう」


「ずいぶん熱心に勧誘してくるのね。そんなに私が欲しいの?」


「無論だ。俺達は同じ魔赫を持つ同士だろう?」


「同士、ね」


「どのみち…魔赫を持つ聖女など、世間に知れれば人の世で生きられるはずもない、ならば早いタイミングでこちらの仲間になっておく方が良かろう」

 

「…それもそうね。じゃあ…本当に私が望むものを与えてくれる?」


「あぁ、何でも望む物をくれてやる」


「なら〜〜」







「はははっ…随分イカれた願いじゃねぇか!!」


「あなたでも叶えられない?」


「舐めるなよ、俺は魔王だ。…良いだろう、その願い聞き入れてやる」


「交渉成立ね」


「ふっ、様子見程度に立ち寄ったつもりだったが、こんなデカい収穫があるとはな」


「それは良かったわね。それで…もう国に戻るの?」


「あぁ、目的は達したからな」


「そっか、なら最後に少し時間をもらえる?」


「ん?あぁ…なるほどな。いいだろう、飼い犬に別れを告げてくるがいい」


「ありがとう」


ーー

ーーー


有栖と魔王が話を始めて数分後…

会話が終わったらしく、有栖がゆっくりとこちらに近づいてくる。


「お待たせ、終わったよ」


「みたいだな」


「私、魔王について行くことにしたよ」


「だろうな…」


「あれ?あんまり驚かないんだね」


「何となく、そうじゃないかと思ってたんだ」


「なるほどね、だから体を張ってまで止めようとしてくれたんだ」


「無駄だったけどな…」


「まぁ魔王と部隊長相手にしたらさすがにね」


「…一つだけ言っておきたい事がある」


「ん、何?別れの挨拶?」


「その身体は有栖の物だ。アイツが戻るまで、好き勝手しても傷付けるなよ?」


「あはは、もちろん傷は付かないようにするよ。でも…彼女の意志はもうこの世にはないんだから、尊重するだけ無駄じゃないかな?」


「…あんまり舐めないほうがいいぜ、もう一人のお前自身をな」


「ご忠告ありがとう、肝に銘じておくわ。それじゃあ…今までありがとう」


有栖はそう言って、俺の手の甲にそっとキスをする。

そして…ゆっくりと俺の元を離れて行った。





魔王との直接対決。

その結果として俺達は部隊長、序列第5位の魔物を倒すという功績を上げた。


そして同時に…




聖女有栖という…

この国の象徴とも言える存在を失うことになった。



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