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七話

  私が入院して10日が過ぎた。


  もうだいぶ、傷口は治ってきている。須藤先生からも「抜糸も後2、3日で出来るよ」と言ってもらえた。両親や兄もそれを聞いてホッとしていた。美映は今日もお見舞いに来ている。頻繁に来るのでちょっと心配になった。


「……美映。よくお見舞いしてくれるのは嬉しいけど。お仕事とか大丈夫なの?」


「……あれ。言ってなかったっけ。あたし、大学生だって。今は夏休みでさ」


「そうだったんだ。道理でね」


  頷くと美映はからからと笑う。明るくもある彼女に私もつられてクスッと笑っていた。久しぶりに同い年の子と話ができたから楽しくはある。田舎だと母と父、兄か近所の爺ちゃんや婆ちゃんくらいだし。まあ、のんびりしていてそこが良くはあるのだが。


「美映。青龍様の事だけど」


「うん。どうかした?」


「……私から母さんに訊いてくれるように頼んでおいたんだ。そしたら、OKのお返事がもらえたんだって。青龍様が「時間をくれ」って言ってたんだよ。昨日になってやっと了承してくれたんだよね」


  詳しく言うと美映はへえと言う。それはそうだろうな。私は思いながらも返事を待った。


「……わかった。国子も後4日で退院だものね。楽しみに待ってるよ」


「うん。母さんには伝えておくね」


  頷くと美映はにっと笑った。ちょっと悪戯っ子のような表情だ。


「……どんな方なのか気になってるんだよねー」


「え。美映は怖くないの?」


「怖いわけないじゃん。だって神様なんだから」


  あっけらかんとした口調に脱力する。そうだ、美映は大雑把な性格だった。細かいことは気にしないのだ。


「……美映。あんたは霊感があるからそういう事が言えるけど。普通の人にとっては神様であっても怖いものなんだよ」


「ううむ。わかってはいるよ。でも国子を守ってくれてた方なんだからさ。良い方なんだろうなと思って」


  美映の言葉に驚いた。そういう風に思っていたとは。ちょっと返答に困った。


「……国子?」


「……あ。ごめん。ちょっとぼーっとしてた」


「ならいいんだけど。そうだ」


  美映は不意にそう言うと椅子の横に置いていたカバンをゴソゴソと探る。そしてある物を取り出した。


「……これ。国子にって持ってきたんだけど」


「何。これ?」


  美映が手渡してくれたのは両手のひらに乗るくらいの大きさの紙包みだった。オレンジ色の包装紙に同色系のリボンで綺麗にラッピングしてある。リボンを解いて包装紙を取り払う。薄い赤の箱が出てきた。蓋を開けるとペンダントがあった。


「……え。ペンダント?」


「うん。よくロールプレイングゲームとかであるでしょ。お守りのペンダントって。国子はよくお化けと戦ってるからさ。パワーストーンを探して作ってみたんだ」


「……そうなんだ。ありがとう。美映」


  よく見るとペンダントヘッドには透明な石があしらってある。美映は水晶だと教えてくれた。何でも水晶は霊感を強めてくれるんだとか。有り難い事この上ない。


「……国子。今度からは気をつけてね」


「うん。心配かけてごめん」


  謝ると美映は苦笑いする。私にこう言った。


「お化け退治は凄く大変だものね。あたしも協力できたらいいんだけど」


「美映。ペンダントをくれただけでも凄く有り難いんだよ。無理はしなくていいから」


「国子……」


「……もっと修行を頑張らないといけないね」


「じゃあ。国子の役に立つようにお守りになる物をもっと作るよ。いいかな?」


「構わないよ。本当にありがとう」


  お礼を言うと美映はにっこりと笑った。私はちょっと鼻の奥がつんと痛くなったのだった。


  夜になり母が泊まり込みで看病してくれた。4日後には退院するので大きなボストンバッグを二つ持ってきてくれている。兄が運んできてくれていた。簡易ベッドの上で母は寝ている。私はほうと息をついた。


「……寝れないの?」


「……うん」


  小声で母が訊いてくる。私も小さな声で答えた。母は薄闇の中でも心配そうにしているのが気配でわかる。


「国子。美映ちゃんは良い子よね」


「それは思うよ。今日ね、お守りにってペンダントをくれたんだ」


「あら。そうなの」


「……パワーストーンで水晶を選んでくれたらしくて。協力できたらいいのにって言ってた」


「……そんな事を言ってたの。確かに美映ちゃんが一緒に退治をしてくれたら心強いけど」


  母は驚きながらも言う。美映は運動神経は良い方だ。霊感もあるから鍛えたらそれなりに戦えるかもしれない。けど妖退治の危険さと大変さを知っている身としては巻き込みたくはなかった。


「母さん。私は美映を危険な目にはあわせたくない。ペンダントをくれただけでもめっけ物なのに」


「……そうよね。ごめん。余計な事を言ったわね」


  母はちょっとしょんぼりとしているようだ。声でわかる。私はきつく言い過ぎたかなと思って口を開いた。


「……私も言い過ぎた。ごめん」


「いいのよ。あんたの気持ちもわかるから」


  母はそう言ってゴロンと寝返りを打つ。私の方を向いた。視線が合う。


「……もう寝ましょう。あんたの体調の方が心配だわ」


「……うん。お休みなさい」


「お休み」


  母は言うと瞼を閉じたらしい。すうすうと寝息が聞こえる。私も瞼を閉じたのだった。

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