八話
私が退院して三日が経った。
両親や兄、青龍は無事に我が家に戻って来た事を喜んでくれた。親友の美映も喜んでくれてお祝いにと新しいブレスレットをプレゼントをしてくれたのだ。今回はラピスラズリが使われているらしい。お礼にと母特製のロールケーキをあげておいた。意外とうちの母はお菓子作りが趣味だったりする。美映は「美味しい!」と言って嬉しそうにしていたのだった。
次の日、私は懐刀を使って素振りをしていた。横には母と兄がいる。
「……ねえ。国子、病み上がりに近いのに。トレーニングなんかして大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。それに早めにトレーニングを再開しないと。いざという時に困るでしょ」
「まあ。それはそうだけど」
母はそう言うとため息をついた。兄もちょっと困り顔だ。
「……まあまあ。母さん、国子は一回言ったら聞かないだろ。好きなようにさせてやれよ」
「正村は昔から国子に甘すぎるのよ。父さん程ではないけども」
「甘いのは本当だがな。けど、国子がいないと退治にいちいち手間が掛かって大変だっただろ。本人がやる気になってくれているんだ。良いじゃないか、それで」
兄が言うと母は「仕方ないわね」と苦笑いした。けど私の方を見ると真面目な表情になる。
「国子。正村はああ言っているけど。あんたはまだ退院したてなんだから。無茶はしないでよ」
「……わかった。肝に銘じておくよ」
「頼んだわよ」
頷いてから素振りを再開する。それは夕方まで続いた。
一週間後にやっと妖退治に復帰できた。約三週間ちょっとのブランクがあるのだ。母と兄の二人には「先頭に立って戦うのは禁止」と厳重注意をされた。父からもだ。そして何故か青龍と美映もいる。母が頼んだらしいが。
「……我が仕えし青龍神よ。我らを守り給え」
「……わかった。我が戦うから国子は美映殿と一緒にそこにいろ」
「えっ?せ、青龍様?!」
青龍は青く長い髪をたなびかせて妖に駆け寄る。その動きに迷いはない。懐から小さな袋を出すとそこから粉を妖にぶちまけた。今回の相手は化け狸だ。三体もいる。
「……ふふっ。我ら四神特製のタバコの粉だ。存分に味わうがいい」
『……ゲホッ。ゴホッ!』
二体の化け狸に命中していて苦しそうに咳き込んでいるようだ。
『……コ、コレハ。ワタシタチガニガテナタバコ?!』
「そうだ。お前達は昔からこれが苦手だろう。正村、紘子殿。今だ!」
「サポートありがとよ!食らえ。破邪の矢だ!」
兄が咳き込んでいる化け狸の一体に弓を引く。びいんと音がして矢が放たれた。それは見事に命中する。すうと白い霧のようになって化け狸は消滅した。
「正村、青龍様。まだ二体が残っているわよ!」
「わかった。我が一体の相手をするから正村はさっきと同じようにしてくれ!」
「おう。任せとけ!」
母が言うと兄と青龍が答えた。ジャランジャランと神楽鈴が鳴らされる。私も美映を守るために結界を維持しようと意識を集中させた。再び、矢が放たれて二体目にも命中する。青龍も懐から出した小太刀で化け狸の眉間に一撃を与えた。二体目はさっきと同じように消滅する。三体目と青龍の戦いはまだ続くようだ。
『……クッ。リュウメ!』
化け狸は前足を振り上げた。鋭い爪で引っ掻こうとするつもりのようだ。それを見越したのか青龍は後ろに飛び退った。ザクッと狸の爪が地面に食い込んだ。その一瞬を青龍は見逃さなかった。
「……よし。今だな」
彼のぽつりと呟く声が聞こえた。化け狸の喉元に小太刀を投げつけたのだ。見事にそれは突き刺さる。化け狸は断末魔の悲鳴をあげた。
『……ギャアーー!』
化け狸はドサッと地面に倒れ伏す。すうとそれも消滅した。ふうと青龍が息をついて前髪をかき上げる。……意外とやるわね。
「……へえ。青龍様。なかなかやるじゃねえか」
「正村や紘子殿、国子のおかげだ。もちろん、美映殿もな」
「ああ。美映ちゃん、お疲れさん」
「……はい。正村さん達が無事で良かったです」
「危ない目にあわせて悪かったよ。けど補助魔法ていうのかな。あれをかけてくれて助かった。ありがとうな」
兄はそう言うと美映に近づいた。軽く肩を叩く。労いの意味でしたらしい。そのまま、美映と二人で行ってしまう。母や青龍と三人でそれを見送った。
夜になり私は夕食をとった。美映も一緒だ。青龍は疲れたのか神棚の中に戻っている。両親と兄も談笑しながら夕食をとっていた。
「……美映。今日はうちに泊まってくの?」
「うん。そのつもりだよ。まだ国子が心配だし」
「今日の退治ではありがとう。戦いやすくてびっくりしたよ」
そう言ってからサラダをつつく。キュウリをお箸で取って口に運ぶ。ポリポリと音を立てながらも飲み込んだ。美映もコンソメスープを飲む。
「……うん。紘子さんの作ったスープは美味しいね。あたしの母さんにも見習ってほしいよ」
「ははっ。そうかな。母さんに直接言ってあげて。きっと喜ぶから」
「そうするよ。後で言ってみる」
美映は頷いて主菜のトンカツを口に運んだ。こうして私は夕食に舌鼓を打つのだった。




