六話
久しぶりの更新です。お待たせしました。
私が病院に入院してから一週間は経った。
二十針は縫ったという切り傷もましになってきている。看病は両親と兄が交代でやってくれていた。最初は着替えやお風呂などには困ったが。細々と母が世話を焼いてくれたので助かった。今日は私の高校生の時の同級生で親友でもある美映がお見舞いに来てくれている。
「……国子。あんたも災難だったわねえ」
「うん。妖退治でへまをやっちゃって」
「そう。あんた、お母さんやお兄さんと一緒にやってたっけ」
美映が言うので頷いた。青龍は大丈夫だろうか。ちょっと心配になる。けどそれを美映には言えない。何故か。青龍に美映が一目惚れするといけないからだ。美映は美人だししっかり者ではあるが。青龍みたいな美丈夫にはことさら弱かった。面食いなのだ。
「……うん。けど今日はありがとね。美映が来てくれて嬉しいよ」
「何言ってんの。お見舞いくらいは来て当たり前じゃない」
「まあ。そうなんだけど」
私は一旦、黙った。美映は数少ない妖退治の理解者でもある。青龍の封印を解いてしまった事などを話すべきか。ちょっと考え込んでしまう。
「……どうしたの。国子」
「……美映は私ん家が神様に仕える家系なのは知っているよね?」
「知っているよ。それがどうかしたの?」
「私。祭ってある神棚の封印を解いちゃってね。そしたら中から神様が現れたんだ」
「え。神様が?」
キョトンと美映はする。私はちょっと目を泳がせた。
「……うん。青龍とかいう神様がね」
「……青龍ねえ。女神様だったりするの?」
「ええっと。男の神様だったけど」
男のと言ったら美映は目を見開いた。しばらく沈黙が降りる。私はどう言ったもんかと考え込んだ。
「……で。おじさんかお爺ちゃんでしょ。あんたがいう神様って」
「……うん。おじさんではあるかな」
「へえー。じゃあさ。あんたが退院したら会わせてよ」
意外な事を言われて私は固まる。なんで青龍と美映が会うという展開に?
「だってさあ。あんたが言う神様。絶対におじさんといえどカッコいいと思うの。いわゆるちょい悪おじさんみたいな?」
「……ちょい悪ではないかなあ。カッコ良くはあるけど」
「へえ。カッコいいの。てことは。おじさんというのは嘘でしょ」
ギクリとなった。やっぱりばれたか。仕方ない。私は了承することにした。
「……嘘なのは本当だけど。わかったよ。会ってもらえるように頼んでみる」
「やった。約束だよ」
美映はそう言うと私の肩を軽くぽんと叩く。後で彼女が買ってきてくれたバームクーヘンを一緒に食べた。そうして午後2時半頃に帰っていった。入れ代わりに母と兄が来てくれる。
「……国子。美映ちゃん、帰ったのね」
「うん。青龍様と会いたいと美映が言ってて。もしよかったら聞いてもらえないかな?」
「え。青龍様に?」
「今すぐじゃなくてもいいんだ。私が退院する時くらいまでで構わないんだけど」
「……わかった。今日にでも訊いてみるわ」
「ありがとう。恩にきるよ」
お礼を言うと母は着替えの入った紙袋を棚の上に置いた。兄も必要なものを入れたナイロン袋を掲げてみせる。
「……一応、歯磨き粉と歯ブラシ、シャンプーとかを買ってきといたぞ。後、漫画もな」
「え。正兄が?」
「ああ。漫画は母さんがお前の部屋にあったのを入れてくれたんだ」
「……そうなんだ。ありがとう。母さん、正兄」
「さ。国子。夕食があるし。何か他に足りない物はないの?」
「今の所は大丈夫かも。美映がお菓子を持って来てくれたし。後でチェックをしておくね」
そう言うと母は苦笑する。近づくと頭を撫でられた。
「……国子。とりあえず、棚の中に入れておくから。無理はしないでよ」
「……わかった」
頷くと母は兄からナイロン袋を受け取った。病室にある棚の中に細々とした物を入れていく。私は兄を見た。
「ねえ。正兄」
「どうした。国子」
「……青龍様は元気にしてる?」
「……ああ。元気にはしてるぞ」
「そう。母さんにちょっかいかけてない?」
「ちょっかいはかけてるな。毎回、母さんにやり返しされてるけど」
相変わらずで呆れてしまう。青龍、覚えてろ。後で絶対に締め上げる。そう決めて兄を再び見た。
「正兄。退院したら青龍様は締め上げるわ。んで母さんにちょっかいかけるのをやめろって言うから」
「お、おう。まあ。伝えておくよ」
兄は気まずげにしつつも言う。母はちょっと呆れ気味だ。不意にコンコンと引き戸がノックされる。がらりと開いて看護師さんが入ってきた。
「……伊達さん。お夕食の時間ですよ」
「……はい。ありがとうございます」
自分でお礼を言った。看護師さんが夕食のトレーを持ってきてくれた。ご飯とお味噌汁、白身魚の煮付け、ほうれん草のおひたしとデザートでバナナがある。トレーを乗せる用の机を兄が動かす。看護師さんがそれの上に乗せてくれた。
「じゃあ。ゆっくり召し上がってください」
「はい」
頷くと看護師さんは病室を去っていった。机を兄が動かして私のベッドにまで持ってきた。届く位置まで来るとお箸を取った。
「……いただきます」
そう言って食事を始めた。お味噌汁が美味しい。そう思いながら箸を進めたのだった。