四話
翌朝、私は清々しい気分で目覚めた。
だが一階に降りると母がひどい状態になっていた。顔色は悪くグッタリしている。どうやら飲み過ぎて二日酔いらしい。そりゃあそうなるよねと思う。傍らには青龍も酒瓶を抱えて寝転がっていた。そういった光景をよそに父と兄はテキパキと自分用の朝食とお弁当の用意をしているのだ。まだ時刻は午前五時半。私はそっと合掌して台所を後にしたのだった。
さて、この日は母が体調不良(二日酔い)なので家でお留守番だ。母と青龍の看病付きだが。仕方ないので母と青龍用の食事とお水、酔い止めのお薬を準備する。お食事はレトルトのおかゆを丼に入れて電子レンジで温めた。ちなみに梅干し入りのおかゆだ。お水はミネラルウォーターをコップに入れただけだが。酔い止めの錠剤も箱ごとお盆に乗せて酒盛りしていた和室に向かう。
「……母さん。青龍様。おかゆとお水、お薬を持ってきたよ!」
「……あ。国子。お食事、持ってきてくれたの」
「うん。レトルトのおかゆだけど」
頷いて答えると母はよっこいしょと上体を起こした。それでも辛そうだ。私はおかゆが入った丼とスプーンを手渡した。青龍も私が来たことに気づいたのか起き上がっている。
「青龍様。梅干し入りですけど。おかゆは食べられそうですか?」
「……梅干しか。我は苦手だが。腹は減っているからいただこう」
「わかりました。ではどうぞ」
母と同じように渡すと青龍はちびちびと食べ始めた。だが表情は酸っぱいのか眉をしかめている。私は本当に苦手なんだなと思ったのだった。
その後、おかゆを食べ終えると母と青龍に酔い止めのお薬を飲んでもらい、後片付けをした。酒盛りの片付けは父と兄が大まかにはやってくれたようだ。おかげで三十分くらいで済んだが。食べた後の丼やスプーン、マグカップも洗った。時計を見るともう午前九時だった。母には今日くらいはゆっくり休んでもらうとしてだ。青龍も二日酔いらしいから妖し退治はできない。どうしたものかと考え込んでしまう。
(……仕方ない。兄さんが帰ってきたら妖し退治を一緒にやってくれないか。頼んでみよう)
そう決めてよしっと気合を入れる。お昼はどうしようか。母と青龍に食べたいものはないか聞きに行く。
「……ねえ。母さん。青龍様。お昼ごはんはどうしますか?」
声をかけると母が気がついて答える。
「ああ。お昼ねえ。気分が良くなってきたから。冷やしうどんを食べたいわ。青龍様は卵抜きでいい?」
「……そうだな。うどんは初めて食べるが。作ってもらえると有り難い」
「わかった。母さんは卵入りで青龍様は卵抜きね。じゃあ待ってて」
頷いて台所に行く。大鍋に水を入れてガス台に持っていった。火をつけて冷蔵庫からうどんを出す。袋を破って大鍋に投入する。茹でてから火を止めた。ざるをボウルにセットして菜箸で茹で上がったうどんを入れる。一人分を目分量でしてから流し台に行き、流水で冷やす。それを二回繰り返して水気も切る。それを台に置いて丼を再び二つ用意した。うどんを一人分ずつ入れて冷蔵庫から卵と刻みネギ、生姜入りのチューブを出した。母さん用の方に卵と刻みネギ、生姜を少量入れた。青龍用の方には刻みネギと生姜だけを入れる。そうしてからお盆に乗せてお水と酔い止めのお薬も一緒に持っていく。念のためだ。和室に入ると声をかけた。
「お昼には早いけど。冷やしうどんを作ったよ!」
そう言うと母は嬉しそうに笑う。起き上がった。私はまず母にうどんと卵などが盛り付けてある丼を渡す。次に青龍にも卵抜きのを手渡した。
「……ありがとう。助かったわ。茹でるの大変だったんじゃない?」
「うん。でも母さん、まだ疲れているでしょ。今日は夕食も私が作るよ」
「悪いわねえ。まあ、父さんと正邑が帰ってきたら手伝ってもらいなさい」
「……ははっ。そうするよ。正兄は意外と料理できるしね」
「そりゃあ。私が小さい頃から叩き込んだからねえ」
意外な事を聞いた。まさか、兄が母に料理を叩き込まれていたとは。ちょっと驚いて目を見開いた。
「あら。意外そうな顔ねえ。正邑が一人暮らしでも困らないようにって思ってね。それで教えたのよ」
「へえ。そうだったんだ。兄さんはだから家事をこなす事ができるんだね」
「ふふっ。私もねえ。父さんが家の事をできないから。息子や娘には同じ思いをさせまいと決めたの。それで正邑にも国子にも教えたんだけどね」
私は幼い頃から母が一際厳しかったのを思い出した。母の説明でやっと本当の事がわかった。兄と私が困らないように考えてのことだったのだ。青龍も感心したのか何度も頷いている。
「……うん。吹子は生まれ変わってもきちんとしておるなあ。夫君が羨ましい」
「あら。青龍様も褒めてくれるんですね」
「褒めるくらいはするぞ。我もそこまで人でなしではない」
私と母はおかしくなって笑った。青龍は意外と人生?経験は豊富らしい。そりゃあそうか。元々、神様だからな。そう思いながら二人に昔の事を聞いたのだった。