宮薙潤、決着
宮薙潤が俺から離れる。俺もふらつく脚でバランスをとり、剣を右手で持ち、腰を落として重心を安定させる。
「……本当にいいんだな」
「煮え切らないな。俺がいいって言ってるんだ。続き、行くぜ」
剣を宮薙潤に向ける。レイラの持つロッドのように、魔法の威力を増加させるような効果はないが。狙いは安定させやすい。
「──行くぞっ! ……《フレイムショット》っ!」
剣先から出た魔法陣を宮薙潤の周りに放つ。移動方向をなくすように、全体的にだ。
宮薙潤が煙に巻かれる。そして、今度は詠唱をする。
「……──《ウォールプリズン》!」
これはレイラがウィンブル戦で使った魔法だ。俺も魔法熟練度を上げ、なんとか習得した。
気配で宮薙潤が移動していないことは確認済みだ。そして、今は俺の作った壁牢獄の中にいる。しかし、すぐに破壊するだろう。こういうオブジェクト系の魔法は、物理的な破壊が可能だ。しかし、時間稼ぎ、及び視界を防ぐのには十分役に立つ。
俺はポーチに左手を突っ込み、そこからあるものを取り出す。それは──一本の白い剣だ。これは、この二日間で素材を集め、ウェルミンに作ってもらったものだ。あの夜、俺はウェルミンに新しい剣の作製を依頼した。剣の素材は、スカルドラゴンの角である。長さは黒剣とほぼ同じ。
それを思い切り振り、鞘を壁牢獄へと投げ飛ばす。瞬間、土で出来た牢獄は、粉々に斬り砕かれた。しかし、即座に飛んでくる鞘には反応出来ず、右腕で受けているのを視界に捉える。といっても、俺は鞘を飛ばした瞬間に、剣技を発動させた。
「らぁっ!」
「──っ!?」
宮薙潤が剣で弾こうとしたが、逆にその剣が弾き飛ばされ、俺の右手に持った剣が宮薙潤の腹部に刺さる。
「かはっ!?」
息を吐き、剣技"トルネードストライク"の効果で吹き飛ぶ。そのまま俺は二本の剣を持って追撃にかかる。
宮薙潤のガードを右手の剣で弾き、左手の剣で攻撃をする。宮薙潤の攻撃をかわし、両手の剣で攻撃をする。
そうして、俺が両の剣を合計三十回振るった頃には、宮薙潤はかなり攻撃を受けていた。
「秘策とは、それか……」
「そうだ。技量で劣るなら、こっちは手数ってな」
「そうか……なら」
宮薙潤が剣を水平に右に伸ばす。"ルミナスカリバー"の構えだ。しかし、俺はそれにたいこうするべく、左手の剣を水平に伸ばす。剣が黄色に輝くと同時に、右手の剣を振るい、詠唱を始める。
「──《フレイムソード》!」
左の剣で自由の効く属性剣技"ルミナスカリバー"、そして、右手の剣ではこっちも剣技以上に自由に攻撃可能な、装備魔法"フレイムソード"を展開する。俺の右手首には、赤い魔法陣がゆっくりと回転している。
「こいっ……!」
「行くぞ!」
宮薙潤が二十連撃を始める。さっきと同じ、少しずつ移動しながらの攻撃。それを、二本の剣で防ぐ。出来る限り、右手の剣で弾く。宮薙潤は二十、俺は六の連撃を使った。そして、宮薙潤の剣の光が消えた。しかし、俺の剣はまだ、光を纏い、炎で燃え盛っている。
「らああ!」
両の剣で攻撃を仕掛ける。それを、宮薙潤がどこにその力が残っていたのか、ものすごい集中力で弾いた。そして、"ルミナスカリバー"が終わる。残るは、俺の魔力が続く限り終わらない装備魔法、"フレイムソード"のみ。
歪む視界と、ふらつく足取りのまま、最後の一撃を狙うべく、腰を落とす。
「ぜあっ!」
左の白い剣での三連撃で宮薙潤の剣を弾く。そして、
「がっ!?」
右手の燃える剣を腹部に突き刺す。注ぎ込む魔力の量を増加させ、剣の幅を広くする。
「──っ!?」
頭のてっぺんから脚の間にかけて、炎の剣が斬り裂く。
しかし、宮薙潤の右手が動いた。
「らぁっ!」
流す魔力量を抑え元のサイズに戻し、刺したまま剣を捻る。持ち上げられた剣を左の白剣で叩き落とし、地面に向けて水平に刺さった黒剣を横へと振りぬき、回転して頭から右足にかけて振り下ろした。
二度も脳を斬られたわけだ。これで意識を保てる人間はいるわけがない。いや、一発目で意識残ってるのもおかしいし、そもそも脳は痛みを受けただけで、実際は無傷なのだが。
宮薙潤が後ろに倒れた。呼吸はしているようだし、心配は必要ないだろう。観客席からは、動揺の声が……意識の遠のいている俺には聞こえなかった。
宮薙潤が倒れて一分ほど、俺は姿勢をそのまま、停止していた。そして、意識が薄れ、宮薙潤同様後ろへと倒れた。
♢
しばらく眠っていたらしい。背中には、柔らかい滑らかな何かがある。
「う……くっ……」
上にも何かあるらしく、すごく温かい。目を開くと、白い無機質の天井が視界に捉えられた。体の上にあるものは、どうやら羽毛ぶとんらしい。フカフカだ。そこから予想すると、俺の下側はベッドだろうか。
「あ……レン、起きたの?」
「う……あぁ……」
「よかった……」
ベッドの横に座っていたらしいレイラが話しかけてくる。服装は別れた時と同じままだ。
「俺、どうなった……?」
「終わってすぐに気絶して、今は王城の客室。二時間くらい寝てたよ。どこか、痛いところはない? 一応回復魔法かけておいたけど……」
「ああ。痛いとこはないけど……ちょっとダルいかな。頭もクラクラするし」
「貧血かな。あとは、魔力不足と疲労とか。多分大丈夫だよ。でも、しばらくはクエストは禁止だね」
「そっか……」
その時、部屋の入口がノックされ、「どうぞ」と言うと、四人の人物が入ってきた。最初に入ってきたのは、こっちもレイラと同じく別れた時と同じ装備のミフィア、次はバトルの時から同じままの黒いコートを着た宮薙潤、そして白いローブの宮薙美奈、作業着のウェルミンだ。
「レン様……! 大丈夫……?」
ミフィアがベッドに駆け寄ってきて、気を使ったのかすぐ手前に屈んで聞いてくる。本来なら抱きついたところだろうか。
「大丈夫だ。あと、様は付けなくていいよ。ありがとな、心配してくれて」
苦笑いしながら言うと、ミフィアは安心したようにはにかんだ。
「よう」
「勝負は、どうなったんだ?」
話しかけてきた宮薙潤に聞いてみると、
「お前の勝ちだ。王は納得しかねてたがな。でも、間違いなくあれはお前の勝ちだ。体調がましになったら、王に直接話してこい。何らかの報酬を要求出来るだろ」
「出来るのか?」
「ああ。魔王の侵攻を伝えたうえに、強制参加の決闘で勝ったんだ。それなりに報酬は貰っていいだろ。でも、忘れるなよ」
「何を?」
「城壁の修繕費。迷惑費、素材費、人件費とか考えて、二億ぐらいはするだろうな」
「ま、マジか……」
「レン、大丈夫。私たち十億稼いだから」
「……は?」
今なんて言ったのだろうか。俺には十億稼いだと聞こえたのだが。
「だから、十億稼いだの。さっきの決闘の賭けで」
「あ、ああ、そゆこと……」
そりゃあ、国中の貴族やら王族やらが賭けに参加したもんな。そのくらいあってもおかしくはないだろう。
「私も一億かけたんですから、本当に勝ってくれてよかったですよ」
そこで、ウェルミンが言葉を発した。
「そ、そんなに賭けたのか!?」
「そうですよ。私の店のほぼ全財産を賭けに入れたんですからね。あの時諦められたら、本当にどうしようかと思いましたよ」
「マジか……」
「マジです。あの時立ったのって、私のためですよね?」
「い、いや……単に王に泣きっ面かかせてやろうかと思っただけで……」
「……そこは私のためだと言っておけばいいものを」
「それよりレンさ。あの白い剣どうしたの?」
「あれか。あれはウェルミンに作ってもらったんだよ」
「へぇ。素材は?」
「スカドラの角」
スカルドラゴンと言うのがめんどくさく、適当に略したが、一応伝わったらしい。
「……お店にあったの?」
「採りに行った」
「……ばか」
何故罵倒されたのか分からないが、心配してくれたのが伝わってきたので、良しとしておく。
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