宮薙潤の過去
その後、しばらくの間俺たちは談話的なことをしていた。
「それじゃあ、そろそろ王様のところに行こっか」
「分かった。……てか、俺、このままでいくのか?」
別に行けない格好ではない。しかし、簡単に言うと、バスローブ的なものを着せられているだけなのだ。下着すら着けていない。
「大丈夫です。服は洗って直してますので」
ウェルミンが俺の心配を払拭してくれた。
「そっか。ありがとな」
「はい。では、私たちは外に出てますので、着替えたら出てきてくださいね」
「了解」
そして、俺を省く全員が出ていった——と思っていた。
俺が布団から出ようとすると、
「お体、大丈夫ですか?」
「うひゃぁっ!?」
唐突に声がかけられた。声の主は、この部屋に入ってからほとんど喋っていなかった宮薙美奈だ。
「だ、大丈夫だよ……みんなと一緒に出たんじゃないんですか?」
「タメ口でいいですよ。いえ、少し話がしたかっただけです。兄さんのことで」
「宮薙潤のことで?」
「はい。兄さん、全然笑わないでしょ?」
「言われてみれば……」
確かに、俺が宮薙潤と出会ってから、あいつが笑っているところを一度も見ていない気がする。
「でも、今日の兄さん、いつもより楽しそうでした」
「そ、そうなのか……?」
俺にはずっと仏頂面で、何か怒っているのだろうか、と勘繰ってしまうぐらいだったのだが。
「はい、そうなんです。……兄さんが笑わなくなったのは、五歳のときからなんです」
「そりゃまた随分、ちっさい頃の話だな」
「はい。……あの日、兄さんは公園で友達と遊んでいました。そこに、三歳になったばかりの私もいました。私が離れた砂場で遊んでいた時、兄さんと友達が使っていたボールが、道路に出ていってしまったんです。その道路は車どおりは少ないんですが、その時は運悪くトラックが、それもものすごい速度で走ってきたんです」
道路は道のことだろう。トラックについての知識はないが、恐らく大型の魔物か何かか……
「ボールを取りに行った兄さんは、その時轢かれそうになったんです。でも、友達がそれに気付いて兄さんを押し飛ばして……兄さんは、転んだ時の脚の骨折で済みましたが、友達はそのまま亡くなってしまったんです。それ以来、兄さんは俺のせいで友達が死んだのに、笑っていられるか、と言って、全く笑わなくなりました」
そこで話が止まった。恐らく、今ので終わりだろう。確かに、自分のせいで友達が死んでしまったのなら、自分が笑うこと、幸せを感じること、楽しく暮らすことなど、自分自身で統制してしまうだろう。俺だって、もし俺のせいで仲間が死んだのなら、そうなる自信がある。
「……なんでその話を俺に?」
「簡単な話です。兄さんは、あなたに心を少しですが開いています。それを成すことの出来たあなたなら、もしかしたらもう一度兄さんを笑わすことができるんじゃないか……そう思ったんです」
「過剰評価だよ。俺にそんな能力はないし、そもそも俺にできることなんて戦うことくらいで……」
「自分を卑下しないでください。できなくてもいいんです。私は、少しでも兄さんの重荷が減ればと思っているだけなので……」
妹に心配をかけるのは、兄としてはよくあることだろう。俺だって、エミにこれまでどれだけの心配をかけたことか。宮薙美奈は、宮薙潤が五歳のときからずっと心配をかけ続けている。宮薙美奈自身も、それなりに重荷は抱えているだろう。
「……任せろ、とは言えないけど、俺としてもできる限りの手は尽くしてみるよ。それでどれだけの効果があるかは分からない……でも、一つ言えるとすれば、あいつの笑顔を取り戻せるのは、俺じゃない」
「じゃあ、誰なんですか?」
「あんただ、宮薙美奈。あんたがあいつとは一番長い付き合いだ。それに、あんたらが“転生者”なら、この世界であいつと血がつながている存在は、あんただけだ。俺も協力はする。でも、最後にあいつを助けるのは、一番近い存在のあんたじゃないといけないと思うんだ」
「私じゃなきゃ、ダメ……でも、私も今まで、色々とやってきました。それでも、ダメだったんです……どうすれば、いいんですか?」
「あいつが欲しているのは許しだ。その友達がこの世界に来ているならまだしも、いたとしても見つけるのは至難の業だろうな。“転生者”として来たんだったら、既に死んでる可能性もある……だから、あいつを許せるのはもあんたしかいないんだよ」
「……分かり、ました。頑張ってみます」
「ああ……それで、早く出てほしいんだけど」
「あ、は、はい。ごめんなさい、時間をとらせていただいて……」
「いやいいんだけどね、うん」
「で、では、仮王室でお待ちしております」
宮薙美奈が部屋から出ていった。
「……仮王室?」
俺は首をかしげながら、着替えを進めた。
今回はいつもより千文字程度少ないです。
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