1-1 初仕事を終えて
新米女神として仕事を始めてみました。
初めての仕事は、なんだかんだ言って緊張します。
だからでしょうか。ソフィア先輩に迷惑をたくさんかけてしまいました。
これからはもっと自分の望む仕事ぶりができるように日々成長していきたいです。
そのためには、もっと自分の考えをはっきり持たないといけない、そう感じています――
* * *
初めての仕事を終え、無事少年を異世界に送りだしたエレナは、リナから書くように命じられていた仕事のレポートをしていた。
これは、どうやら仕事ぶりを観察して、クラスを上げるかどうかを判断する材料となるらしい。
どうせ詳しく見てもらえないんだから書かなくてもいいとシスティには言われているが、初日からレポートをさぼるのも考えものだ。
エレナは何を言おうか迷っていた。正直、本心で思っていない事を書きだすのは得意だが、こういうレポートの類となるとエレナは自分の気持ちを書こうとして手間取ってしまう。
ソフィアに手伝ってもらっても良かったのだが、正直自分のレポートまで他の人に手伝ってもらうのは気が引ける。
何とか自分で完成させないと……エレナはそう考えていた。
「やっほー、エレナ。初仕事どうだった?」
「モニターでいきなり何なんですか、システィ先輩」
エレナが悩みながら文字を打っていると、いきなりモニターにシスティの顔が映し出された。
タイミング悪いな……と思いつつも、口に出すとシスティに伝わってしまうのでぐっと堪える。
というか、最近――ここ一週間、システィはエレナに対しての遠慮、というものがまったく感じられない。
確かに気にかけてくれるのは嬉しいが、もうちょっと頻度や時や場合も考えてもらわないと困る――エレナはおせっかいなシスティに頭を抱えていた。
「いやー、ねぇ。エレナってあんまり人と会話するの得意そうなタイプじゃないし……なんか昔の頃の私を見ているようで心配になるのよ」
そう言ってシスティは頭を掻く。
エレナはシスティの過去に興味を惹かれたが、今はレポートを完成させる事が先決だ。
また後で詳しく話してください、そう言おうとしたが――
「後でまた会わない? 今度はエレナのフロアで会いたいのよ。仕事のコツとか教えてあげたいんだけど……」
「お気づかいありがとうございます。でも今はソフィア先輩と一緒に住んでいるのでそういうのはソフィア先輩に聞いたら済む話だと思うんですけど……」
正直、この人を追い出してやりたい衝動に駆られている。
如何せん、システィと居ると仕事が全く捗らないのだ。普段話すのは楽しいからいいとしても、仕事中に話かけられると正直、迷惑だ――そう思った時、そういえば、システィには今自分が何をしているか言ってなかったな、と思いだした。
もしかしたら自分もこの女神界の空気に侵されてきたかもしれない、とエレナは危機感を覚える。
あんな人に将来なってしまうかもしれない――そう考えると、もっとしっかりしないとと言う気持ちに満ち溢れてくる。
「あのね、私から一つ忠告しておくと、あんまりあの人を信頼しないほうがいいよ」
「それただ単に先輩がソフィア先輩が嫌いなだけじゃないですか」
ソフィアとシスティは仲がいいのか仲が悪いのか分からない関係だ。別に、エレナにはあまり関係のない話だし、自分が好きな方に付けばいいだけなので、あの二人の関係にはあまり深く突っ込まない。
そして、エレナはソフィアにかなり信頼を置いている――というよりも、行動が信頼できるものだったので、今はソフィアについている形になっている。
システィに付くのも悪くはない話なのだが、正直システィは信頼される人物――というより、仲のいい友達のポジションに置いておいた方がいい気がしている。信頼を置けるような行動や言動を一切していないからだ。話していて楽しいけれど。
「でーもーでーも!あの人も昔はもっと優しかったんだから!今みたいにしっかりしていなかったんだから!もっとふわふわしていたんだから!」
といって、システィは首をぶんぶんと振ってモニター上でエレナに詰め寄ってくる。
そういうところが先輩らしくないんだよ……とエレナは心の中で毒づくが、それを口に出すとまた面倒くさい事になってしまうのではないか、と、突っかかって行きたい気持ちをぐっと抑える。
自分はもう立派な大人の心を持っている、そう自己暗示をかけると、システィに対する気持ちがすぅっと消えていく。
「でも、今は今ですよね。システィ先輩は話していると楽しいんですけど、あいにく仕事中なので放っておいてください」
「仕事っていってもどうせレポートでしょ? そういうのはもう置いといて話そうよー!」
そういえば、システィには猛反対をくらったんだよな、この制度、とエレナは過去の出来事を回想する。
とはいってもやはり一日目から仕事をおろそかにすつというのは、仕事への向き合い方がなっていないと考えているので、丁重にお断りしておこう――エレナはそう考えた。
「やっぱり一日目なので仕事はちゃんとしておこうと思います。終わったらまたこっちから話しかけるので待っといてください」
「え、ちょっと待って、切らないでー! 私を一人にしないでぇぇぇぇ!」
モニター上でシスティの叫んでいる姿には目もくれず、エレナは即座にモニターの電源を落とした。
ああ、こう言うところがシスティの悪いところなんだよな……そうエレナは思っていた。
なんだかんだ言いつつ、感想レポートも終盤。あと一行ですべての項目が埋まる形となっていた。
あのシスティと話しながらでもエレナはずっとレポート内容をパソコンに入力していたのだ。
話しかけられながらでもしっかり出来る能力を自画自賛してやりたいとエレナは考えた。
そうして、最後の行も書き終わり、エレナは完了ボタンを勢いよく押し、リナに送信した。
今回のレポートはなかなか難しかった。いつもは同じ事の羅列で済む事なのだが、先輩に見られると考えるとどうも緊張してしまう。地球に居た時の感想文などはすらすらと書けたものなのだが。
首を回しながらエレナが周りを見渡すと、珍しい事にソフィアが部屋から姿を消していた。
最近ずっと一緒に居たので奇妙な違和感が芽生える。しかし、ソフィアも女神の一人なのだ。何かしらの仕事が与えられており、それを終えてしまわないといけないのだろう。
エレナはそう考えておく事にした。
「でもそうなると私凄い暇になるな……」
エレナはそう呟く。
「あ、でもシスティに会いに行けば暇じゃなくなるのか……どうしようか」
確かにシスティと遊んでいれば暇ではないだろう。しかし、仕事が突然舞い込んだ時、きっとシスティはエレナの手伝いに来るに違いない。そうなると、面倒くさい事が起こってしまう恐れがあるそれだけはご勘弁だ。
と、エレナが思った瞬間、もう一度エレナの脳に何かが響いた。
「あれ?また仕事か。今日はこれで終わったと思っていたのに」
時刻は夜九時。エレナの一人での仕事が幕を開けた。




