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外伝 『私が女神になった日』 2

 システィは、攻撃は誰のものによるものなのか終時思案していた。

本当なら隣に人がいたはずなのだが、その攻撃によって亡くなってしまった。


「本当に……誰なの、何なの……っ!」


 不完全燃焼の頭を掻き毟りたくなる衝動に駆られるが、今はそんな事をしていられるほど悠長な考えを持っていない。

 歩いている道が、感じている気配が、すべてが疎ましかった。


 徐々に本来の感覚を取り戻しつつある顔が風を感じる。

 それは、どこに出た証なのか――

下を向いているシスティには、何も分からない。


「っ!」


 何か棘のあるものを踏んだような気がして、システィは声にならないような悲鳴を上げる。

靴は履いている。しかし、それを通り越すような鋭さ。決して自然に存在していいものではない。


「やっぱり、誰かいるのね」


 システィはわざと聞こえる声で周りに言った。

 誰か、というものは人か魔物か。それを考える事は、システィの脳はもう、放棄していた。

考えたくない。とりあえず元凶を絶ってしまいたい。

 早く平和にして、レーナを弔ってやりたい。そして、今未だ現場に放置してある死体が、喰われてしまわない――そんな平和な世界にしたい。


 それは、不自然で、利己的な自己満足の考えだったが、まだ精神的に未熟な少女が生きる理由としては十分すぎるものだった。


 「攻撃、なし……か」


 不自然だ。確かに気配は感じる。理性をなくした魔物なら一瞬で攻撃してくるものなのだが。

誰も攻撃してこない。気配を感じるならばさっきレーナを殺した奴とはまた別個のものだろう。

何故に。人なのか。人ではない理性のある新種の魔物なのか。もしかしたら魔王が近くにいるのか。


 考えがぐるぐると渦を巻いている。

誰かいてくれたら、誰かいてほしい。そんな願望が。

 それが叶う事あれば、システィは諸手を挙げて歓迎するであろう。

しかし、出てこない以上味方ではない敵なのではないか――そんな考えが強まっていた。


「絶対に、おかしい――」


 考えが渦を巻く。

凍結していた頭が、考えが再起動する。

しかし、混乱は収まらず、システィの理性を蝕んでいく。


 警戒しながらも、システィはゆっくりと歩みだす。

もう、自分は同じ失敗をしない。これ以上犠牲は出さない。

それは人であっても――自分であっても。

 そんな自己中心的な決意でしか、システィの原動力にならなかった。否――なれなかったのだ。



 確かにこのあたりでも足跡は残っているが、たくさんありすぎてどこを辿ればいいのか分からなくなっている。

 システィは、一瞬躊躇ったが、とりあえず今迄通って来た道と正反対にある方向――まっすぐに北西の方向に伸びている道へ足を向けた。


 なぜその道にしたのか、システィでも分からないが、こちらの方がいいと呼び掛けてくるものがあった。

 勘はあてにならない、そう言ったものだが、精神的に限界の近いシスティにはそれしか取れる方法がなかった。



 しばらく歩いていると、不意に視界が晴れた。

ああ、さっきまでは森の中を歩いていたんだな、とシスティは今になって気づく。

周りがどんな状況なのか。敵の気配に気を取られすぎて、地形までは気が回っていなかった。


 そうして、重い頭を上げ、周りを見回してみると、魔物が一点に向かって歩いて行っている。

多分正解を選んだのだろう。

システィは、今に限って冴えわたっている勘が、今だけはありがたいと思った。


 魔物に見つからないように、足音を忍ばせてシスティは魔物の集まっている先を目指す。

しばらく歩いていると、そこに現れたのは一人の人だった。


「ああ、こんにちは」

「……あなた、誰ですか」


 中肉中背の男だった。

何故か好意的にシスティに挨拶をしてきた。

 ひょっとしたら、この人は味方ではないのか……そんな願望混じりの考えが脳裏をよぎったが、周りに取りついている魔物の数々を見て、そんな甘い考えが消し飛んだ。


「俺に誰かと聞かれても。分からぬものは答えられん。そして、それを見知らぬ人に尋ねられたら尚更だ。とにかく早く帰るといい。俺は人を殺せる力がある。とにかく、早く帰るのだ……!」


 男は焦りが隠せない。もしかしたら被害者であるのかもしれないが、人を殺せる力がある――というのは見過ごす事はできない。

 システィは、帰れ、と言われても取り敢えず話は聞きだしてやろう、そんな心意義を持って男に臨んだ。


「単刀直入に聞きます。あなたは魔王その人なんですか。人に危害を加える魔物の長――その人なんですか」


 システィは、現時点でも背中に冷や汗をかいていた。

この人は見た目は普通だが、一般人とオーラが違う。だからなのだろうか。

 男は、一息置いて言った。


「俺は魔王なのか分からない。というか魔王でないと言い切る事ができない。あの女に会ってから俺の体はおかしくなった。魔物がなついてくる。何度命の危機を感じたか。でも分からない。魔王は魔物だけに慕われる。勇者からは敵対視される。だけど普通の人は俺に好意的に接してくれた。あの女に会ってからでも。だけど今はもうそんな事はない。体が変わってきている。誰か教えてほしい。隙が欲しい。一般人に戻りたい。戻れないのならいっそ殺してくれたっていいのに――」


 男は一息に言った。

それも、誰も理解できないような早さで。

男はわざと人に理解させないつもりでこうも早口で言ったのか。


 しかし、システィには最後だけははっきりと聞きとる事ができた。

しかし、それを実行するのは今のシスティの精神状態では無理な話だ。

何故そんな事を望むのか、システィは察しているが、実行するの事とはまた別の話だ。

 これが、魔王である、証明できたら躊躇わずに倒しに行けるのだが。


「それを私に言うのも、酷な話だと分からないんですか」

「このままではたくさんの人が俺の手によってなくなってしまう。自分の意識じゃない所で。どうせその後誰かに倒されるんだろう。それだけは絶対に嫌だ。自分の最期が分からなくなる――それが恐怖でしかない。だから、お前のその剣で、魔法で、俺を存分に傷つけるといい。お前は俺を倒したがっているのだろう。俺は知っている。すべてを。お前がここに来ることとなった理由も」


 男は何かに乗っ取られそうになっているのか、苦しそうに喘いでいる。

だからなのだろうか。話す事がいちいち長い。

 システィの理解がなかなか追いつかない。

もう少し、分かりやすく説明してほしい――そう思う。


「……私には、何も分かりません」


 システィは下を向いて首をゆるゆると振った。

もう限界だった。これ以上人を殺したくないと願った。だけど最後にこうなってしまうのか。

魔王を倒すという事は、自分にとってこれほどに酷なのか――


「お前は……自分の相方が誰の手によって殺されたのか知らないだろう」


 それを聞いた時、システィの頬が引きつった。

誰の手によって殺されたのか。もしかしてその前の男に殺されたのか。


 男を観察してみると、武器になるようなものを一つも持っていない。不自然極まりない。

魔法を使うにしても、何か武器がないと隙を与えてしまう事になるので、一瞬で殺されてしまう。

という事は――


 これは、元から何も持っていなかった、というより、どこかで使い、放置したままだと考える方が自然だろう。そして、今の男の口ぶりだ。


「あなたは……自分を殺してほしいからと言って無関係の人を巻き込んだという解釈で合っているのですか」


 システィの言葉は感情が消え、氷のように冷たかった。

それは、自分勝手な願望のために無関係な人を殺した、そんな人間の屑を見るような目で、顔で。


「正確にはお前の相方を、俺が意識している間に――


「絶対に、お前を殺す!私から友達を奪った事は許せない!皆がそれは悪いことだと言っても、私はもう止まらないから!」


 理性が消え、感情だけでシスティは叫んでいた。

本当なら、理性がまだ残っているのならそんな事は絶対にしないはずなのだが――


「ああ、思う存分にやってくれ」


 男の声が、どことなく小さく聞こえた。


 剣の音がただ辺りに鳴り響いた。

男は抵抗しなかった。

そして、理性と、感情を失ったシスティはもう――止まる事を知らなかった。


 男の息が、生命が途絶える。辺りを血で汚した張本人は、ただただ狂った笑みを浮かべているだけだった。


「終わりだ。ついに終わったんだ」


 そう言った時、頬から不意に涙が伝った。






「そんなあなたに、祝福の名を授けましょう」


 耳の奥に声が響いた。

それは、あの日の、あの人の声で――



ごめんなさい!あと一話だけ続きます!

ただここからは重苦しくないので大丈夫です。



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