第1話:無職とスライムと「レジ係」
「……また、不採用か」
薄暗いアパートの1DK。蓮はノートPCの前で深いため息を吐いた。
派遣エンジニアとして働いていた会社が倒産して半年。貯金は底をつきかけ、今日の夕飯は88円のうどん玉のみだ。
だが、世界は3年前から一変していた。「ダンジョン」の出現。モンスターが落とす「魔石」や素材は、次世代資源として高額で取引されている。
「まともな装備は数十万。怪我をしたら自己責任……普通なら絶対やらない」
そう呟きながら、蓮はスマホに表示された自身のステータス画面を覗き込んだ。
【黒木 蓮】
レベル: 1
固有スキル:【レシート発行】
機能: 対象に触れた際、その詳細情報を感熱紙として発行・排出する。
戦闘力ゼロ。バフ、デバフ、一切なし。
「戦場に買い物に来た無能」「ただのレジ係」と蔑まれ、パーティーにも入れてもらえなかった。
だが、蓮は押し入れの奥から防災セットに入っていた1,980円のホームセンター製バールを取り出した。武器を買う金すらない今の自分にとって、これが唯一用意できる気休めだ。
「……行くか、高島平のF級ダンジョン」
◆
「高島平第3ダンジョン(F級)」。
湿った洞窟を進むと、初心者がスルーする最弱モンスター、『ブルー・スライム』が蠢いていた。
本来なら核を叩き割って「汚れた魔石(100円)」にする。誰も見向きもしない“雑魚”だ。
だが、蓮がそのスライムにそっと触れ、スキルを発動させると——
『ジジジジッ……コトン』
蓮の手元から、白い感熱紙が吐き出された。
【お買上げ明細】
対象: ブルー・スライム
内訳:
魔力含有水分:98%
未純化粘液:1.8%
超高純度魔石核:0.2%(純度99.9%)
参考市場価格(最高値): 45,000円
最適な売却先: メディカル・コア社 資材調達部
「……やっぱりな」
蓮は口元を歪めた。
他の探索者は「殴り倒すこと」しか考えていない。だから素材の価値を破壊し、ギルドに買い叩かれているのだ。
蓮はバールを使わない。あらかじめ百均のスポイトと自作のろ過液を用意していた。
スライムの体内にろ過液を注ぎ込むと、スライムは苦しむことなく溶け、中心から『透き通った宝石』が転がり出た。
【超高純度・純度99.9%スライム魔石】を取得。
所要時間、わずか30秒。
「これを1日20個集めれば、日給90万円。クソみたいな倒産会社の給料、一瞬で超えたぞ」
◆
その日の夜。
蓮はアパートで、今日の「収穫」である30個の魔石と、スキルで出された「レシート」の山を確認していた。
収穫: 超高純度魔石×30個(想定売上:135万円)
「勝った……!」
ガッツポーズをする蓮。だが、一瞬でその顔が引き締まる。
「待て。これをそのままギルドで換金したらどうなる?」
脳内で確定申告のシミュレーションが始まる。探索者の収入は「雑所得」か「事業所得」。最高税率は住民税と合わせて約55%まで跳ね上がる。
「冗談じゃない! 俺が稼いだ金を、半分以上国に持っていかれてたまるか!」
蓮の目がギラリと光った。
レシートに書かれた「メディカル・コア社」と直販契約を結び、中間マージンを回避。
明日一番で「個人事業主の開業届」を税務署に提出する。
自宅のアパートを事務所化し、光熱費・防具代・PC代を全て「経費」として落とす。
「必要なのは戦闘スキルじゃない。知識と節税、そしてこの【レシート】だ」
最悪で最高のビジネスが、今ここにはじまった。




