第4話 ルミスの狂気
私がゆう君に思いを馳せていると、ミアがアゼッタに文句を言い始めたわ。
「どうしてくれるの! ミアがびしょ濡れになったらどうするの!」
猫耳を立てて、両手を腰に当てている。
ーーミア。 怒っているわね。 私は、ミアが怒っていることに安心していた。
彼女は元々、他人に怒ることができなかった。 そんな彼女が他人に怒る姿を目撃して、私は心の中で喜んでいた。
でも、そんなミアにリアクションをしたのは、アゼッタではなかった。
「君は人間なのに、ネコミミがあるナ。 それは、不思議だなァ?」
ルミスだった。 ミアのことを、じーっと見つめている。 彼のその視線が、ミアの頭のてっぺんから足元まで、ゆっくりと這うように動いていくーー
「なんなの? ミアを不潔な目で見て、最悪なの……」
「素晴らしいノ。 立派な魔力器官なノ」
ミアのネコミミをいやらしい目で見つめるルミス。 一方、やだやだと言わんばかりに、自分の体を両腕で抱きしめるミア。
「ねえ、君を調べさせテ!」
ルミスが、前のめりになって、ミアに触れそうな勢いで迫った。
迫られたミアは、すっとスカートに手を伸ばした。 その手の動きを、私は知っている。 あれは、ナイフを取り出す時の動き。
ーーちょっとミア、教室で抜くのはやめなさいよ!
慌てて私が止めようとした、その時。 ずしん、と床が鳴った。
いや、鳴ったというより、揺れた、と言ったほうが正確かもしれないわね。
教室の入り口に、ゴーレムみたいな体躯の男が立っていた。 背が、ドアの枠に届きそうなくらい高い。 肩幅は、ドアの三分の二くらい埋めているわ。
昨日はいなかったけど、これが担任の先生かしら?
ゲバドンは、のしのしと教室の中を歩いて、ルミスの前で止まった。岩のような顔が、ルミスを静かに見下ろしているわね。
「ルミス君、そういうことはやめてください」
声は、見た目に反して、すごく穏やかだった。 叱るというより、諭すような響き。
「だったら、ゲバドン先生でいいや! 頂戴!」
ルミスが、ゲバドンをばんっと叩く。 今度は、ゲバドンに向かって前のめりになった彼。
教室が、しん、と静まり返った。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、アンタ! 今、何て言った?」
「ゲバドン先生でいいって言ったヨ。 先生、すっごく頑丈そうダ。 叩いても壊れなさそうダしナ 知りたイ、調べたイ……」
ミアが、私の後ろで「ブタ野郎、殺す……」と声を上げていた。 怒り心頭ね。
「あの男、不潔の上に、頭もおかしいの……ミア、もう許さないなの……」
ナイフ! ミア、ナイフ仕舞いなさいって!
慌てて、ラムとミリィがミアを抑える。 ミアは拘束された、一安心ね。
一方ゲバドンは、まったく動じていなかったわ。 岩のような顔のまま、小さくため息を吐いて、ルミスの肩にぽんと手を置いた。
「ルミス君。 授業を始めますので、座ってください」
「……ちぇっ」
ルミスは、案外あっさりとぼすんと椅子に座った。 机がぎしっと悲鳴を上げる。
ーーなんなのよ、このクラス。 カオスすぎない?
私は、もう一度、教室全体をぐるりと見回した。 机を叩いて爆笑しているアゼッタ。 ナイフを仕舞うかどうか迷っているミア。 すでに眠そうな目をしているルミス。 壁にはさっきの穴。
ーーあれ? このクラス、やばいわね? いまからでも、クラス替えできないかしら?




