第2話 新しい日常の朝 ーーキャス視点
ここは、バルデン王国。 ミートの屋敷で私が借りた部屋。
そんな私は、朝から最高潮だ。 理由は簡単、昨日もらった制服に身を包んでいるからだ。
「えへへ。 やっぱ似合うわね。 さすが私だわ!」
もらったばかりの制服に腕を通して、姿見の前でくるりと一回転。 スカートの裾がふわっと広がって、なんだかそれだけで気分が浮き立つ。
襟元のリボンを指先で整えて、自分の体を上から下までじっくりと見渡してみる。
うん、可愛い。 可愛すぎるわ。 ついつい、尻尾と羽がブンブンしちゃう!
サキュバスの私がこんな清楚な制服に身を包むなんて、ちょっとした背徳感すらある。 いや、むしろそのギャップがいいんじゃないかしら?
でも、お母様にもらった服も素敵だから、ファッションに困るわね! そんなことを、ひとりで勝手に盛り上がっていた。
私はご機嫌のままドアを開けて廊下に出ると、ミリィが立っていた。
ーーでも、いつもの普段着ね。 どうしてかしら?
「キャスさん。おはようございます」
「……あれ? ミリィ、なんで制服着てないの?」
「ミートが、制服は行事用だって言ったです」
まあ、そうね。 無理して、着る必要はないわよね。 ミリィの制服姿見たかったなーー
「ねえねえミリィ、見て! この制服姿、めちゃくちゃ可愛くない?」
くるっと回ってみせる。スカートがふわり。 パンツを見せるのがポイントよ!
「はい、お似合いです。 ……でも、私にパンツを見せても意味ないです」
ミリィは苦笑いを浮かべながら、なあなあに頷いた。 なんだろう、その曖昧な反応。 もうちょっとこう、テンション上げて褒めてくれてもいいんじゃない? サービスシーンなんだけど?
そんなことを思っていたらーー
「なんか騒がしいと思ったら。 朝からキャスは元気だよね」
ラムがひょっこり顔を出した。 こっちも普段着姿だ。 もったいないわね!
「キャス、おはよ」
「おはよ、ラム!」
「制服、ちゃんと着れてる? スカート丈短いよね?」
ラムが不審な表情を浮かべていた。
私はそんなラムに向けて説明する。
「ふふふ。 ちょっと細工しちゃった!」
「そうなんだ……」
ラム? なんで、そんな表情しているのよ!
そんなとき。 がちゃり、と隣の部屋のドアが開いた。
「おはようなの」
出てきたのはミア。ばっちり制服に身を包んで、髪も綺麗に整えている。
「あら? ミアは制服なんだ。似合ってるわね」
「ミアはちゃんと制服着てきたの。 えらいの……」
ミアの動きがぴたりと止まった。 そして、おもむろに片手を腰に当て、もう片方の手を顎の下に添えて、すっと斜めに首をかしげる。
その瞳はどこか遠く、けれど確かに何かを見据えるようにーー
「…………」
「……ミア? なにしてんの?」
私が恐る恐る尋ねると、ミアは姿勢を崩さないまま、真顔で答えた。
「アピールしてるの」
「……誰に?」
「そこの『貴方』になの」
ミアの視線が、まっすぐにこちらの、いやこちらじゃない、もっと向こう側、何もない空間に向けられている。
「読んでくれてる貴方になの。 今日もミアのこと、ちゃんと見てほしいの」
「…………」
ーー沈黙。
私は思わず両手で頭を抱えた。ミリィは口元に手を当てて「まあ……」と困ったように苦笑いしている。 ラムに至っては「あー……うん、ミアだもんね」と諦めたような顔で頷いていた。
「ねえミア、誰に向かって話してんのよ? 私たちしかいないでしょ?」
「いるの。 ちゃんといるの。 ミアにはわかるの……」
「わかんないってば!」
朝から騒がしい廊下で、私のドキドキの学園生活初日は、なんとも言えない不思議な空気のまま、幕を開けたのだった。




