宮廷魔術局(のうちの一人)も知っている
次々と護衛の人々が私たちを取り囲む。
私は怯えるアリスちゃんを抱きしめた。
お母さま(生みの親の)はやってきた巫女たちに何かを慌ただしく指示している。結界を戻すために動いて貰っているのだろう。
お母さまを庇う位置に立ち、お父さま(生みの親の以下略)がわななく。
「ニンゲンの魔術師、どうやって破った?」
「愛の力です♡」
空気を読まないのか読めないのか、ウインクで返すクリフォードさん。
私はクリフォードさんと頷き合った。私たちの共謀は両親にまだ、バレていないようだ。
そしてクリフォードさんは立ち上がり敵意がないのを示すように両手をあげた。
「二人を迎えに来ました。聖猫族の方々と敵対する気はございません。このまま娘とお友達を連れて帰ってよろしいでしょうか?」
娘。
その言葉に、両親の毛がぶわっと逆立つのを感じた。
先に動いたのはお母さまだ。私を庇うように抱きしめる。腕が震えていた。
「ミルシェットは渡さないわ。ニンゲンなんかにもう二度と……!」
「人間にさらわれた娘と、ようやく会えたのだ。誰が返すか」
お父さまの低い声。真っ白な尻尾がぶわわと広がっている。
私の腕の中でアリスちゃんが頷く。「ちゃんと状況は分かってるわ」の表情だ。
「お二人が、ミルシェットの本当のご両親なのですね」
いいながら、クリフォードさんはあくまで穏やかに一礼した。
「名乗り遅れました。私はクリフォード。カフェ店主としてミルシェットさんと親子として過ごしていました」
「調べはついている。お前はミルシェットを利用していた男だな」
「いやあ利用だなんて。利害の一致というやつですよ」
「……この人間の娘なら返そう。だが記憶を消すのが条件だ」
「それにミルシェットは私たちの娘よ。人間に渡すわけがないでしょう? 人間に攫われたんですから」
大人達が揉める。
そんなことをしている場合ではない。
それに私は、アリスちゃんの前ではしたくない話がある。
両親に確かめたいことが。
「はいはいはい! わたしの話きいてにゃ! 提案があります!」
私は手を上げる。
「クリフォードさん、今回の件に聖猫族が噛んでることはバレちゃってるんですよね?」
「ええ。まだ大事にはしていませんが、既に宮廷魔術局は気付いています」
ウインクしながら言うクリフォードさん。しっかりシトラスさんは知っているようだ。
宮廷魔術局が知っていると言う言葉に両親は身構えた。
シトラスさんだけだとは思わないようだった。
私は続ける。
「じゃあ余計に人間二人はちゃんと帰さないとですにゃ。ここでアリスちゃんが消えて、さらにクリフォードパパまで消えたら……人間の世界に聖猫族が危ないぞーってのが伝わっちゃって、人間に滅ぼされるにゃ。古代コニャルド魔術を破るような魔術師がいるんですから」
私は穴があいた天井を指さす。
ふたりはぐっと押し黙る。
どうやら、なぜその魔術が使えたのかには気付いていないようだ。
「お父さま、お母さま……どうか、まずはアリスちゃんを帰してあげてほしいにゃ。記憶を消しても、絶対問い詰められるにゃ。人間の魔術師は、そのポーションで消したって気付いてしまうにゃ。そしたら……聖猫族があぶないにゃ」
私は半分くらい大げさに言ってみた。
人間はもう、聖猫族のポーション技術について忘れてしまっている。
だからアリスちゃんがポーションで記憶を消されているとシトラスさんやシスターといった私の能力を知る人以外は気付かない。
そこにクリフォードさんの屋根を突き破ってここに現れた術。そんな芸当ができる人が人間社会でも『凪』のクリフォードさんくらいしかいないなんて、お父さまとお母さまはまだ気付いていないようだ。
(うすうす感づいていたけれど……ここの聖猫族の人たちは、外界から離れすぎて人間界の事情に疎くなっている。それでいて人間を恐れているから、過度に強いものだと誤解しがち。なら、私の印象操作に乗るはず!)
シャボン玉の件も、そしてアリスちゃんのハンカチの件も。
(保守的な環境は内側の守りは強固だけど、外敵の進化には対応できない。黒船に開国させられた日本のようになってしまっているんだ)
このままでは、私の故郷の聖猫族もあぶないかもしれない。
わたしは確かめながら、そして愁傷な顔で訴えた。
「お願い。まずはせめて、アリスちゃんだけでもこのままおうちに帰してあげて」
クリフォードさんがアリスちゃんの傍に立ち、私と共に訴える。
「心配ならわたしも人質になりましょう。私はミルシェットさんとここに残って、あなた方の要望を聞きます。あなたがたも外界の嘘偽りのない情報は欲しいでしょう?」
「……本当に、その娘は情報を外に漏らさないだろうな?」
「漏らさないわ。ミルちゃんとミルちゃんパパがここに残るのなら、アリスぜったいもらさない。だって、ふたりがピンチになってほしくないから」
両親は顔を見あわせた。先に折れたのはお父さまだった。
「……その娘を帰す手段は?」
「あなた! 長老会議が……」
「仕方ないだろう。……私も、子供に薬を盛るのは嫌だった」
「そうね。ミルシェットのために他の子供に犠牲になってもらうのは、やはり間違っているわ」
二人は納得した。
(私の為に……?)
ともあれ、アリスちゃんに薬を盛ることをためらう両親で良かったと思う。
「話はまとまりましたね。では」
クリフォードさんは片手を頭上に上げた。
「シトラス、おいでなさい!」
ぶわっと空が七色に輝いたかと思ったら、シトラスさんが舞い降りてくる。
あの転移装置を使ってやってきたのだ。
その美しい情景に、アリスちゃんがわあっと沸くのが見えた。
「アリスさんをご自宅に送って差し上げなさい。くれぐれも、聖猫族の情報については他言無用ですよ」
「勿論です」
シトラスさんは頷いて、アリスちゃんに片手を差し出す。
「怖かったやろ、もう大丈夫やけね」
「は、はい……♡」
手を取ってシトラスさんの杖に乗り、二人は舞い上がる。
そして七色の光の向こうに消えていった。
空が元通りになる。クリフォードさんがにっこりと笑った。
「あの子は私の弟子、口は堅いのでご安心を」
そしてわたしの肩に手を置き、言った。
「さて、アリスさんも帰りましたし。お互い、秘密についてじっくり情報共有しましょう」
屋根に穴が空いた部屋は、クリフォードさんの魔術で修復された。
だが、クリフォードさんと私を猫たちが囲む。
槍を突きつけられる。
私は両親を見た。
「アリスちゃんが戻ったから聞きますにゃ。大竜厄役を起こすのは止められないんですか」




