そしてネモリカへ
4/10に②巻発売です!ご予約よろしくお願いします……!にゃんにゃん
「猫ちゃんのカフェ……って、ミルちゃんのお店のことよね?」
アリスちゃんが私を見て、きらきらした目で言う。
「にゃ、にゃはは……」
急に話題の矛先がこちらに向いて、私は耳をぺたんと伏せる。
「あー! お前、あの店の猫ちゃんか!」
「うっわマジかよ、こんなちっこいのか」
「にゃ、にゃにゃにゃ」
怖いお兄さんたちの視線が一斉に集まって、私はアリスちゃんの後ろに隠れてしまう。
アリスちゃんが庇うように前に立ちながら、後ろ手で私の頭をなでなでしてくれる。
「大丈夫よミルちゃん、この人たちは見た目はちょっと怖いけど、優しいお客様なの」
「見た目だって怖くねえよ俺ら」
「なーっ」
「うふふ、もー」
にっこり笑うアリスちゃんはやっぱり看板娘の風格がある。肝が据わっている。
さすがは『魔女のポーション工房』の主人公――いや、この世界ではただの宿屋の看板娘だけど、やっぱり大物感があるにゃ。
私を見て、モヒカンのお兄さんが頷く。
「猫ちゃんとこの干し肉のサンドイッチ、あり得ないくらい美味えんだよ」
「味の秘密があるなら教えてくれよ、なあ」
「ぎく」
身を乗り出す彼らに、私はおそるおそるアリスちゃんの後ろから顔を出して、笑って指ハートを作ってごまかす。
「にゃはは、ほらえっと、愛情にゃー♡」
「がはは、くらったー」
「ぎゃー」
胸を打たれた振りをしてぐわーっと倒れてくれるお兄さん達。確かに優しい。
上手くごまかせて良かった。
まさか干し肉をふかふかに戻してコンビーフくらいのジューシーさにするのにポーションを使っているなんてバレたらいけない。
「はー……やっぱりうまい飯はいいよなあ」
お兄さん達の一人がテーブルにつっぷし、しみじみとため息をつく。
「ネモリカ帰りたくねえー」
「酒や武器はいいもんが入ってくるんだけどな、飯はなあー」
「仕事つらいー」
「やりたくないー」
屈強な冒険者のお兄さんたちが次々と萎びた野菜みたいにしおれていく光景は、なかなかシュールだ。
アリスちゃんが困ったように私を見て、私も困ったようにアリスちゃんを見る。
「……そうだ! なあ猫ちゃん、あんたらネモリカにも店出してくれよ!」
「そうだ! ネモリカに来てくれよ、そしたら完璧じゃねーか!」
「そ、そんな無茶ですにゃあ」
私がオロオロしていると、ちょうど通りかかったクリフォードさんが足を止めた。
なぜか花を摘んでいたらしく、頭に色とりどりの野花を刺している。
「おや、何やら賑やかですね」
「なにやってるんですかぱぱ」
クリフォードさんがにこにこしながらアリスちゃんの宿の前にしゃがみ込む。
「ミルちゃんパパ、こんにちは」
アリスちゃんがきっちりお辞儀をしてご挨拶ののち、状況を説明した。
ネモリカから来た冒険者さんたちが、ネモリカには美味しいご飯屋さんがないとぼやいていたこと。
それで『ねこねこカフェ』を、ネモリカにも出してほしいと訴えていたこと。
「ふーむ」
クリフォードさんが花をくるくるしながら、顎を撫でる。嫌な予感がする。
「ふむ、二号店……良い響きですね」
「にゃーっ パパっ!!! うちにそんな余裕ないにゃー!」
「えーでも、複数店舗の経営ってロマンというか、なんかよくありません?」
「だめにゃ! うちのメニューはここでしか出せないにゃ!」
人員も足りないし、そもそもこのカフェのメニューは外に出せない!
お兄さん達はぞろぞろと立ち上がった。
「まあまあ、考えといてくれよ!」
「期待してるぜ!」
「猫ちゃん、頼んだからな!」
口々にそう言い残して、冒険者のお兄さんたちはネモリカへ向けて出発してしまった。
「み、みーっ……」
アリスちゃんが「いってらっしゃーい」と手を振って見送る中、私はぐったりとその場にしゃがみこむ。
「にゃー……」
「あはは、ミルちゃん人気者ね」
アリスちゃんが私の頭に、さっき一緒に作った花冠をちょこんと載せてくれる。猫耳の間にうまいこと収まって、ちょっとだけ元気が出た。
「話は聞こえてたぜ、出せばいいじゃねえか」
と、その時。
聞き覚えのある声がして振り向くと、金髪で美貌のシスターがお色気ムンムンのキャットウォークでこちらに近づいてきた。ビッグボスもといシスター・スターゲイザーだ。
シスターはウインクをぱちんとして、女言葉でわざとらしくしなを作って言う。
「うふふ、あたしもミミ太郎のご馳走食べたいわ♡ たまには出店も良くない?」
「ででででも」
「それに気になる情報があるんだぜ、ミミ太郎」
シスターはアリスちゃんの宿の前の段差に腰を下ろしながら、ぐいっと私に顔を寄せてくる。
「最近、あの辺で聖猫族っぽい目撃情報が出ている」
「み!?」
「なあ、気にならねえか? こっちの店はあのボウズに任せりゃいいだろ?」
「わ、ワンオペは大変にゃあ」
「じゃあ行かない?」
「う、うーん……」
クリフォードさんがそこでふむ、と言う。
「行ってもいいんじゃないかと思いますけどね」
「二店舗目とかだめにゃ! そもそもこのお店の経営も」
「おっと裏事情はお口にチャックですよ」
「もごーっ」
クリフォードさんが私の口を手で塞ぐ。アリスちゃんの前で余計なことを言うところだった。
「聖猫族情報は眉唾ものだとしても、あなたにとって悪くないのでは?」
「ででででも、レシピが店の外に出るのはまずいです」
「まずくない、普通のレシピを試行錯誤する良いチャンスですよ」
「にゃ?」
「カフェとは違って、冒険者の皆さんは比較的味にはうるさくないです。今ならどんな食事を出しても喜ばれるでしょう。その間に、レシピの研究をするのはいかがです?」
「確かに……」
ポーションに頼らない美味しいメニューを作れるようになるためだ。
元々捕まりたくないと思っていたのに、ねこねこカフェのメニューがほぼポーション頼りのラインナップになっているのは、結構ゆゆしき問題だと思っていた。
「そうそう。あそこは保存食しかないって連中は言ってたけど、代わりにここより格安で肉の食材が手に入るぜ。酒もあるから、調味料に使える奴もあるんじゃねえか?」
シスターもそんな風に言う。
言われると、だんだん興味が湧いてくるもので。
「でも……だって……うー」
心配する私に、アリスちゃんが手を繋いで微笑みかけた。
「ミルちゃん、いってごらんなさいよ。きっといいことがあるわ!」
「ああああアリスちゃんまでーっ!」
「チャンスが来たらやってみるべきよ、大人がいっぱいついてるんだし、大丈夫よ」
「み、みー……」
流石本来の主人公。チャレンジ精神が旺盛だ。そんなアリスちゃんが好きだけど。
するとアリスちゃんは、ふっと寂しげに眉を下げた。
「でも一緒にいられないのは寂しいわね。待っているわ」
「う……アリスちゃーん!!!」
さみしくても応援してくれる友人のためにも、私はネモリカでチャレンジしよう!
そして成長して、アリスちゃんに成果を発表するのだ!
結局そんなわけで、ダンジョンがあるネモリカに屋台を置くことになったのだ。




