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世界が赤く染まる日  作者: 夜桜
第二章 闘技大会編
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覚悟

俺はあの少年の目の前まで移動して、彼と向かい合っている。

彼はその氷のように冷たいまなざしをこちらに向け、黒いオーラを放っている。

ここまでの負のオーラを見るのは初めてだ。

俺の中の感覚が危険だと知らせている。


「なぜあの女を助けた。お前、俺と同類の匂いがするぞ」


彼は俺にそう言い放つ。


「俺はただ友人を助けただけだ」

「友人?お前にそんなものが必要なのか?一度すべてを失った者には必要のないものだろう」


彼はやはり俺と同じ……。

俺はそのことに薄々感づいていた。

彼の言うところの同じ匂いというやつか。

俺も一度すべてを失っている。


「日影君!」


その声はこちらに駆け寄ってくる咲先輩のものだった。


「咲先輩、ここは俺に任せて生徒たちを、二見を避難させてやってください」

「大丈夫よ。それは先生と穂香たちがやってくれているわ。それより……」


咲先輩は少年の方に目を向ける。


「なぜあなたがここにいるのかしら。月本才」

「水野か。久しいな」


彼、月本才つきもとさいはつまらないものを見るような目で咲先輩を見て答える。


「俺がここにいる理由、それはただすべてを壊すこと、それだけだ」

「やっぱりあなたは狂ってるわ」


彼と先輩は知り合いらしいというのは分かるが、どんな関係なのだろう。

そんなことを考えていると、俺の考えてることは全てお見通しだと言わんばかりに月本が話してくる。


「日影、とか言ったか。俺と水野は今となっては何の関係もない。しいていえば元クラスメイトだよ」


彼は冷たい口調のままそう言い放つ。


「そうよ、日影君。彼は私たちの代で常にトップにいた男よ。10年に一度の逸材と呼ばれていたわ。それが落ちたものね」

「落ちただと?この俺が?」


彼の放つ気に咲先輩は若干苦しそうな顔をする。


「つまらん話はそろそろ終わりにして、お前たちには死んでもらうとするか」


彼はそう言うと、先ほどまでよりもさらに大きい闇のオーラを放つ。

俺たちはそれになんとか耐えながら、それぞれ能力を発動する。


「強化、瞬歩!」

「ブリザード!」


俺が強化系能力、瞬歩で月本に向かって高速で走り出すと同時に、咲先輩は水系統能力ブリザードで彼を氷漬けにする。

身動きが取れない彼を仕留めるべく俺はさらに


「強化、パワーアーム!」


強化系能力パワーアームを発動し、そのまま月本に殴り掛かる。

これで月本を戦闘不能にできる……はずだった。

しかし、月本は全身から闇の力を放出させて咲先輩の創り出した氷を砕き、さらには俺の強化したこぶしを彼の右手で受け止めた。


嘘……だろ?

俺はそれでも瞬歩を使って彼の右手を振り払いながら再び距離をとる。


月本はさらに闇系能力を放つ。


「シャドウエッジ」


彼は闇系統能力シャドウエッジで咲先輩を狙う。

咲先輩は


「アクアタワー!」


水系統能力アクアタワーで水の壁を作り、彼の攻撃を防ごうとするが、その威力に耐えられず吹き飛ばされる。


「咲先輩!」


俺は吹き飛ばされる咲先輩に気を取られ、彼への注意を外してしまっていた。

当然その隙を見逃すわけもなく、彼はもう一度シャドウエッジを発動し、俺に放つ。

俺はそれをギリギリのところでなんとか躱すが、奴は咲先輩の方に瞬時に移動していた。

そして倒れている咲先輩に向けて手を向ける。


「ダークアロー」


彼は咲先輩にダークアローを放ったが、俺は最大速力で瞬歩を用いて咲先輩の元まで行き、ギリギリで彼女を助けることに成功した。


「今のにも追いつくか。なかなかやるな」


月本は余裕の表情を浮かべているのに対して、こちらはかなり苦しい。

咲先輩は先ほど受けた攻撃でかなりのダメージを負っている。

それでも咲先輩は戦う意思を捨てていない。


「日影君!少しだけ時間を頂戴!」


彼女はそう言うと、水の気をため始める。


「わかりました!」


俺は瞬歩で彼に近づき、さらにパワーアームで強化した右手で彼の腕をつかみ、投げ飛ばす。

彼は特に困った様子もなく体勢を立て直し、こちらに向かってくる。

俺も瞬歩で彼に向っていく。

俺は強化した右手で彼に殴り掛かる。

しかし、彼はバックステップでそれを難なく躱す。


その時、咲先輩がため込んだ気を開放し、能力を発動する。

なんとか時間は稼げたようだ。


「荒れ狂う水流、デリュージュ!」


彼女は水系統上級能力であるデリュージュで大洪水を月本の周りで発生させた。

そして月本はそれに飲み込まれていく。

さすがの彼も無事ではないだろう。

俺たちはゆっくりと彼に向って歩いていく。

しかし、俺はそこで嫌な感覚に襲われた。


「咲先輩!下がって!」

「えっ?」


俺の感覚は正しかったが、遅すぎた。

すでに彼女は月本に首をつかまれ、持ち上げられている。

まずい、このままじゃ彼女は……。

あれを使えば彼女を助けられるかもしれない……だが……。


「どうやらこれまでのようだな」


月本はそう言いながら、咲先輩の首をつかむその手の力を徐々に強くしていき、咲先輩は苦しさに悶え苦しんでいる。


もう悩んでいる場合じゃない。

俺は、彼女を助ける!必ず助けてみせる!

俺は、俺の中に眠る気を開放していき、そして唱えた。


「我が内なる炎よ、我の言葉のもとに具現せよ、イグニッション!」


そうして俺から炎が放たれ、月本を包みこんだ。

彼は思わす咲先輩を手放してその場から逃げる。

俺はその瞬間に咲先輩のもとに移動し、彼女を受け止め抱きかかえた。


「日影君、今のは……」


俺は答えることができず、彼女をゆっくり降ろす。


炎をなんとか振り払った月本は嬉しそうに叫んだ。


「お前、その能力……。そうか、そういうことか!」


彼はは口元を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべている。

ここで、大久保先生達がようやく応援にかけつけ、月本はばつの悪そうな顔をする。


「まあいい。日影!お前とはいずれまた会うだろうさ。シャドウミスト」


彼はシャドウミストを発動させ、その暗い霧の中に姿を消した。

彼が消えると、精神力を使いすぎたせいか、俺の意識は徐々に薄れていき、その場に倒れた。



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